料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)第26回
伊藤亜和さん著『変な奴やめたい。』を読んで「子どもから大人になる時期」特有の閉塞感を思い出す【ミニレシピ付き】
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今井 真実
2026.03.27
Yummy!
今月のミニレシピ
「おとなのためのイワシ茶漬け」


ご飯にイワシの水煮、刻み海苔、梅干しを乗せ、お湯を注ぎお醤油をちょろり。柚子胡椒やわさびを入れても。海苔と梅干しの代わりに、塩昆布とレモンもあいます。
ハンバーグに寄せる気さえもゼロの「イワシハンバーグ」って…
「恐怖! イワシハンバーグ」を読みながら、くくくと笑い、亜和さん今はイワシ食べられるのかなあとふと思いました。イワシは私の大好物なのです。「イワシ」と聞くだけでもうダメ。すぐに食べたくなっちゃう。読んでいた『変な奴やめたい。』(ポプラ社)を一旦置き、廊下にある大きな段ボールからイワシの水煮缶を取り出しました。(無くなったら困るから箱買いしているのです)それからこのイワシを使ってお茶漬けを作りました。

ずずずっと吸い込むように食べて、一息ついたところで、「あっ」と思い出しました。私自身も「イワシハンバーグ」に騙されたことがあった。あのハンバーグに寄せる気さえもゼロの料理っていったいなんでしょうね。お肉でないハンバーグにがっかりして、もそもそと噛み砕いたあの味が口に広がるようです。なんせイワシ食べたところだし。ハンバーグとさえ言わなければもっと美味しく食べられたんじゃない? これ。
そして、そのあとすぐに更にイヤな記憶が蘇りました。大人になってから私、スーパーで「イワシハンバーグ」を買ったんです。そして今日のごはんなに?と聞かれて「ハンバーグよ」と我が子たちをぬか喜びさせたことを思い出しました。 しかもご丁寧にケチャップソースまで作って! 案の定、子どもたちは「お肉じゃないー!」と大泣きしたっけ。 まったく大人っていうのは本当に身勝手でずるいものですね。
幼児期の愛らしい出来事と、思春期から大人にかけてのじくじくとえぐられるような痛みと
文筆家の伊藤亜和さんの4冊目の書籍『変な奴やめたい。』。本書では、彼女の小さな頃や思春期の記憶が鮮烈に描かれています。
「恐怖! イワシハンバーグ」は幼稚園生にして「本牧の試食ハンター」だった亜和さんが、いつも行くスーパーの催事コーナーで出会った「イワシハンバーグ」と対峙したときのエピソードです。「ハンバーグ」という語感に釣られて試食に飛びついた少女に起こったこととは…!? 人の良さそうな売り場のおじさん。子どもながらに気を遣う亜和さん。そのまま絵本になりそうなほどのコミカルな描写に、幼き亜和さんの涙目が目に浮かびます。かわいそう、なんだけど笑っちゃう!

自分の子どもの頃の記憶、そして娘と息子を育てている今の親としての記憶。
本書を読むとどちらの視点からも、響くものがあります。亜和さんの幼児期の愛らしい出来事に笑ってしまうことと、思春期から大人にかけてのじくじくとえぐられるような痛みと。
空気が読めないやつという烙印。そして「変な奴」と思われること
私が私でいるだけなのに、それ自体が悪いことのように思えていた——
帯にもあるこの一文。最後の章の「服とルール」を読むと、亜和さんの生活の中で彼女に向けられていた無数の視線について考えさせられます。 みてくれがちがうこと、ルールを破ることが「ふつう」の中で、ルールを守ることに対しての視線。それは空気が読めないやつという烙印。そして、「変な奴」と思われること。

「あの写真」では、小学校高学年の時代の話について。思春期の匂い立つような残虐さが目の前に現れます。 亜和さんが憎んだというクラスメイト。そしてなぜ亜和さんがクラスメイトを憎むようになったのか理由はわかりません。 誰も表立っては悪くない、はずなのに。うっすら「いいこちゃんの彼女はめんどうくさい」というクラスの空気。その空気に飲まれたのか、それとも発達が早かったその「女」になる彼女の体のせいなのか。それとも、それとも。
憎もうと思えば憎んでしまう要素はたくさんあります。 その悪意と切なさにいたたまれません。そして憎まれてしまったクラスメイトの親のことを考えてしまいます。そしてそうせざるを得なかった幼かった亜和さんのことも。 なんだかわからないけれど、いやだ。その感情は、痺れるほどにささくれ立った敏感な時期だからなのでしょうか。それとも集団生活であればいつの年齢でも起こり得ることなのでしょうか。





中学生時代の出来事「3人の秘密の遊び」を続け様に読むと、更にやるせなさが募り、子どもから大人になる時特有の閉塞感が思い出されます。 誰かに愚痴ったり、口に出すまでもないけど。 自分だけが「思い出」として残していたものを、他者はなんとも思っていなかった。なんでよ、忘れないでよ、と気軽にも言えない関係性。仲良しだと思っていたのは自分だけだったんだ、という失望。読んでて胸が痛みました。でも、わかる。ああつらいよね。
イワシハンバーグはたっぷりの大根おろしと万能ネギのみじん切り、柚子胡椒で食べると◎
本書では、亜和さんの幼少期の写真が随所にちりばめられています。溢れそうなほどの大きな瞳の幸せそうな赤ちゃん。セネガル人のパパと日本人のママとの1歳のお誕生日の写真に、おじいちゃんとおばあちゃん。弟。そして、ネコのケビンとチョコ。 彼女と家族の暮らしは今までの著書でも色濃く描かれてきましたが、写真をともにエッセイを読み進めると、赤ん坊から大人になっていくという「人生」というものを感じます。
「Neko,Moi,Neko」はwebの連載中と文章の配置が変わっていて、それもとても良かったです。そしてまた泣きました。何回読んでも泣いてしまいます。

テレビに出ている亜和さんを見た視聴者が、掲示板に「しゃべり方が変」と書いたそうです。しかし、人のことを変、と言い切れる人には、また小さな狂気が心に巣食っているのではないでしょうか。
私は亜和さんの「変」を愛しています。だから亜和さんが「変な奴やめたい。」って思ってても、そのままの亜和さんの作品を読み続けたいです。
ところで、亜和さん、イワシハンバーグはまだ恐怖なのかな。たっぷりの大根おろしと万能ネギのみじん切り、柚子胡椒で食べるとなかなかですよ。さいしょからつみれって言ってくれたらいいのにね。
(『料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)』は毎月最終金曜日更新です。次回をお楽しみに!)
Staff Credit
撮影(料理)/今井裕治
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