FOOD

料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)第33回

映画『男ともだち』はもう「ヒーロー映画」と言ってもいいのではないかしら【ミニレシピ付き】

  • 今井 真実

2026.10.30

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Yummy!

今月のミニレシピ

7年も好物を覚えてくれているチョコ

今井真実さん 7年も好物を覚えていてくれるチョコ
ハセオは、神名の大好物のチョコを買ってきます。7年も会っていないのに、好きなものを覚えてくれているハセオにそれはきちゃいますよね。

市販の生チョコに一味唐辛子をかけて。最初はチョコの甘さを感じて、最後にぴりっと刺激が走ります。甘さとひりひりを楽しんで。

いつの時代にも取り沙汰される「男女の間に友情は存在し得るか」問題

先日、友人たちと集まり朝ごはんを食べに行った時のことです。「男女の間に友情は存在し得るか」という話で盛り上がりました。朝からどんな話題よ、と笑っていたのですが、急にマミはどう思う? と聞かれました。私は「そりゃあもちろん性別関係なく友情は存在するでしょう」と即答したのだけど、年上の女ともだちは「ふたりで何度もごはんに行く間柄は、どちらかは恋愛感情に近い好意があるのだと思う」という考えを譲りません。

この議題って、いつの時代にも取り沙汰されます。ちなみにこの日は、韓国人、台湾人、日本人の面々が集まっておしゃべりしていたので、国境を超えても度々取り上げられるようです。

「恋人」というものは、親密で、自分に一番近い存在。なのに、別れてしまったら誰よりも何よりも遠い存在になってしまいます。

何度も出会いと別れを繰り返してきて「恋愛」の方程式には、もううんざり。しかしある日、仲の良い男ともだちを好きだと気づいてしまったら、あなたはどうしますか。彼に向かってまっすぐ進みますか? それとも、いつか壊れてしまうことを恐れて「ともだち」のまま立ち止まりますか。

男ともだちと7年ぶりに再会した主人公・神名の表情はあまりに「恋」!

映画『男ともだち』は京都を舞台に、名前のない関係を紡ぎ続ける男女を描いた物語です。

主人公は松岡茉優さん演じる「神名」。かつては絵本で受賞したりと、画家として将来を期待されていた彼女。しかし、現在は思うように創作に打ち込むことができず、挿絵などのイラストレーターとして活動しています。

『男ともだち』
『男ともだち』11月6日(金)新宿ピカデリー他にて全国ロードショー 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©2026『男ともだち』製作委員会

彼女は、恋人の彰人と同棲していますが、彼との生活には重い空気が流れ彼のことをうまく愛すことができません。さらに、医師の真司とも不倫状態にありますが、心を通わせることもなくその場その場の関係を持ち、乾き切った交際を続けています。

そんな神名に、7年ぶりに連絡をしてきたのが大学時代の男ともだち、成田凌さん演じる「ハセオ」です。彼は現在富山に住み、製薬会社のMRとして働いています。

冬、凍えるような寒さの中、京都で7年ぶりに再会したふたり。久しぶりに会ったというのに、2人のおしゃべりは止まりません。冗談を言い合い、心からリラックスして笑顔に溢れる神名の表情はあまりに「恋」。待ってください、神名! 恋人の彰人にも不倫相手の真司にもそんな笑顔見せないのに〜! かわいすぎる〜!!

これはもうヒーロー映画、と言ってもいいのではないかしら

この映画を見終わったあと、「これはもうヒーロー映画、と言ってもいいのではないかしら」と思ってしまいました。神名の心が揺れ動く時、ハセオは必ず彼女の前に現れるのです。そして、ひょうひょうとした語り口で神名の心をほどいて温めて、また自分の場所へと戻っていく。彼は、神名を所有しようともしないし、ただ「男ともだち」の関係のまま。それはぬるま湯で居心地が良く、いつそのお湯から出れば良いのかわからない。

「彼は私をどうしたいの? なぜいつも現れるの? なぜ私を気にかけるの?」ハセオの優しさは、時に残酷で、切ない。彼は女癖が悪く、いろんな別れを経験してきたのでしょう。神名だってそうです。相手を大切に思っていることと、恋愛関係になることは、時に一致しないのです。そして、ハセオは神名とは恋人にならない、という決意を持っているようにさえ見えます。そして、神名が抱えている空虚さは、決してハセオによって全て埋まるものではありません。

創りたいものが創れない時、思ったように人に評価されない時、誰かに手を差し伸べられたところで、どうにもならないときがあります。神名には自分ととことん向き合う時間が必要でした。

絞り出すように創作活動に没頭しているとき、世話を焼いて欲しいのではなく、ただ見守って放っておいてほしい。そんな神名のアーティストとしての生き方をハセオは理解していたのでしょう。「ともだち」は、神名に干渉をしないのです。



こんなに湿度の高い関係を「ともだち」と言い切っていいの? それはそれでずるくない?

©2026『男ともだち』製作委員会

映画『男ともだち』を観ている間、夢中になったのは「神名」の儚い美しさ。化粧っ気もなく、ぶっきらぼうでボーイッシュなのに、京都の冷たい風に溶けてしまいそうな神名の透明感に目が離せませんでした。身を震わせて泣く神名の姿は、あまりにきれいで、彼女の想いがこぼれ落ちているよう。自分自身への嫌悪や、ハセオの残酷な優しさ、曖昧なままでもそばにいたい宙ぶらりんな気持ち。好きってわかっているのに、この感情は。だけども彼女は絵描きとしての自分の誇りを、誠実に愛しているのです。

私は男女の友情は成立すると思います。だけど、神名とハセオのこんなに湿度の高い関係を「ともだち」と言い切っていいの? それはそれでずるくない? と感じてしまう。だって、彼らはずっと「ともだち」という免罪符を持って、甘くて切ない関係を永遠に失うことがないのだから。

お互いの指と指の間の空気の温度と気配を味わうなんてこと、誰が咎められますか? だってまだ、触れてもいないんだもの。

今井真実さん 

(『料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)』は毎月最終金曜日更新です。次回をお楽しみに!)


Staff Credit

撮影/今井裕治

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今井 真実 Mami Imai

料理家

レシピやエッセイ、SNSでの発信が支持を集め、多岐の媒体にわたりレシピ製作、執筆を行う。身近な食材を使い、新たな組み合わせで作る個性的な料理は「知っているのに知らない味」「何度も作りたくなる」「料理が楽しくなる」と定評を得ている。2023年より「オージービーフマイト」日本代表に選出され、オージービーフのPR大使としても活動している。既刊に、「低温オーブンの肉料理」(グラフィック社)など。

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