料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)第18回
どんなに酸っぱいレモンを手に入れても、甘いレモネードを作ることが出来る。今井真実さんが『THIS IS US/ディス・イズ・アス』から得た気づき【レモネードレシピ付き!】
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今井 真実
2025.07.25
Yummy!
今月のミニレシピ
自分自身で作れる生姜風味のレモネード

材料
- レモン 1個(国産のもの。よく洗っておく)
- 生姜 20g
- グラニュー糖 70g
- はちみつ 70g

レモンと生姜を薄く輪切りにして、耐熱容器に入れてそのほかの材料と馴染ませるように混ぜます。ラップをして600w2分電子レンジで加熱。再度かき混ぜて砂糖がとけたらシロップが出来上がり。シロップとお水を1.5:1の割合で混ぜたらレモネードができます。
息子が産まれ少し楽になり、人生に迷いを持っていた頃。自分と同じ「36歳」というキーワードに惹かれ見てみたら…
君も年老いた時に自分の経験を若者に語るだろう。人生が差し出した酸っぱいレモンをレモネードに変えた経験を。
嫌なことが起こった時、父さんが言ってたこと覚えてる? 落ち込んだりつまずいた時に言ってたこと―。「どんなに酸っぱいレモンでも、レモネードを作ることができる」

初めて『THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これから』(放送当時のシーズン1のタイトル。ディズニープラスのスターで配信中)を見たのは、日曜日の夜にNHKで放送されていたからでした。偶然にも、そのとき私もちょうど36歳。息子が産まれて少し楽になって、これからどんな人生を自分は歩んでいくのだろうと迷いを持ってた頃です。だから、この「36歳」というキーワードに惹かれて録画予約をしていたのです。
ふと気がついて、あっ今日『THIS IS US』の初回放送の日だ、と急いでTVをつけた時には、もう話も終盤。登場人物の設定もわからない状態で見始めました。
上記のレモネードのセリフを産婦人科の医者が言い、そのあと若者たちがさらに話題にして、なんだかレモネードの話ばかりするドラマだなあと呑気な感想で第一話を見終わったのです。
そしてどうしても気になり、もう一度、すぐに最初から見直しました。そして、さっき見たばかりの最後のシーンがまったくちがう景色になったのでした。涙をこらえながら、これはすごいドラマだ……!と心が揺さぶられたのです。
36歳で子どもが生まれた父と、36歳の誕生日を迎えた子どもたち。家族の長い長い歴史の始まり
第一話は、4人の若者たちの誕生日のシーンから始まります。彼らは36歳になりました。 ジャックは臨月の妻レベッカに誕生日のお祝いをしてもらいます。仲睦まじく抱き合う幸せな2人。しかし、その最中に彼女は破水。病院に運ばれ、急遽三つ子のお産が始まってしまいます。
そして場面は変わり、ケヴィン、ランダル、ケイト、彼らも同じく36歳の誕生日を迎えます。

この日、長らく肥満に悩むケイトはこわごわと体重計に乗りますが、バランスを崩して転倒してしまいます。心配して彼女の様子を見に来た兄のケヴィンに、私はどうしてこんなふうになってしまったの、とケイトは悲しみを打ち明けます。もう36歳で、紛れもなく30代後半。キャリアを築き、結婚をして、パパとママのような家庭を持って……子どもの頃はそんな素敵な未来を描いていたのに。そう話すケイトの気持ちが痛いほど伝わってきます。
そしてケイトを慰めるケヴィンもまた、問題を抱えています。彼はシットコムのコメディドラマの主役俳優。誰もが振り返るセレブリティです。しかしその主演ドラマの稚拙な内容にバカバカしいと耐えきれなくなり、虚無感を感じながら演じています。
そしてランダル。彼は妻と子供と、家族を築きキャリアも順調。幸せに暮らしています。しかし彼もまた心に傷を抱えています。彼はもともと生まれたばかりの新生児のときに捨てられた子でした。そして今、彼は養子に引き取られ、ケヴィンとケイトとは戸籍上の兄妹です。ランダルは、36歳の誕生日の日、自分を捨てた実の父親を見つけ出します。そして父親が貧困生活を送る姿にいてもたってもいられず引き取ることを決心するのでした。
そして、生まれたての捨てられたランダルを引き取ったのが、冒頭のジャックとレベッカの夫婦でした。
大きく深い愛に包まれて育った子ども達。だけど大人になった今、問題を抱え、生きづらそうなのはなぜ?
『THIS IS US』は、ジャックとレベッカ夫妻と、その子どもたちであるケヴィン、ランダル、ケイトの家族の長い長い歴史の物語です。
愛し合うジャックとレベッカ夫妻。そして彼らは自分の子ども達にも惜しみなく愛情を与え続けます。
しかし、大人になった子どもたちは今、皆それぞれ問題を抱えていました。大きく深い愛に包まれて育ったはずなのに。幸せだったはずなのに。
家族に何が起こったのでしょうか。温かい物語にひとしずくミステリーの要素が加わりながら、話は展開していきます。










家族を描いた物語って、両親が愛をめいいっぱい注いだら、大体子ども達もいい子に幸せに育って、というパターンが多いように思えます。もしかしたら育児書とかもそうかもしれません。親が一生懸命子供を愛したら、子どももいい子に育ちます。そんなふうに私も刷り込まれてきたように思います。
しかし、『THIS IS US』の子どもたちは生きづらそうに見える。親に一生懸命愛を注がれたとしても、外的要因や何かのきっかけでつまづくことが人間なら誰でもありうるということが描かれています。
子どもは親とは別の人間・人格。私たち親の役割は彼らを見守ること
ここからは私の話になりますが、子どもを初めて産んで育て始めた時、驚いたことがあります。それはちっとも思い通りにことが進まないこと。そんなことは当たり前ですが、元々は私の体の中にいた存在だったからでしょうか。子どもたちが「私の一部」と言う気持ちが最初は抜けなかった。本来産んだ時から別の人間なのに。彼らは個々の人格があり望みがあり、彼らの意思を、私たち親の役割は見守ることなのかなといつしか思うようになりました。

そんな面持ちで、『THIS IS US』を見ているとやはり切なく歯痒く思います。ついつい、親の立場で見てしまうのです。
誰が自分の子どもたちに悲しい目に遭ってほしいのでしょうか。親が最後に出来ることは心を抱きしめるだけ。それでも年頃には悲しみを隠され、どうしようもできないのです。子どもも心配をかけたくないのですよね。

なぜなら親と同じように子ども達も、親のことを愛しているからです。親の無常の愛っていうけれど、私は子どもたちの無常の愛を痛感します。だからこそ、裏切りたくない。彼らの理解者になりたい、と思うのです。
問題が起こっても、時にはユーモアを交え、時には歩み寄り、しっかりと抱き合う親子の物語
しかし、素晴らしい両親である、ジャックとレベッカ夫妻もまた心に傷を持ちトラウマがあります。彼らは苦悩しながらも、いい親であろうと、努力し続けます。しかし、時折ひずみが生まれる。子どもたちの前では、隠そうとしますがそれが露呈してしまうことも。ケヴィン、ランダル、ケイト、36歳の子どもたちが今悩んでいるように、ジャックとレベッカ夫妻も36歳の頃さまざまな問題を抱えていたのです。
彼らの苦悩は、そのままアメリカの社会問題に重なります。度重なる戦争によるPTSD。肥満は国民病と言われ、アルコール依存症の問題も影を落とします。そしてBlack Lives Matter運動に対する家族間の温度差も。ドラマのラストシーズンはコロナ禍の時代に入っていきます。
どこにでもいるような親子の物語でも、一つ一つのエピソードに幸せや悲しみがあり、人生のどの瞬間も、忘れ難い思い出が詰まっています。

しかし人は、どれだけ愛していても、どれだけ愛されても、生きていると必ず困難や問題にぶつかります。それは不可抗力で避けることなどできません。今となっては、「普通」に暮らすということは、どれだけ大変なことなのかと思うばかりです。
そんなとき、あのエピソードを思い出します。どんなに酸っぱいレモンを手に入れても、甘いレモネードに出来る。第一話に何度も出てきたレモネードは人生の象徴だったのです。
問題が起こっても、時にはユーモアを交えて、時には歩み寄りしっかりと抱き合う。そうして歩幅は小さくても乗り越えていく、ジャックとレベッカ夫妻とケヴィン、ランダル、ケイト。
彼らは愛を知っているからこそ、最後の最後まで踏ん張れるのかもしれません。

(『料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)』は毎月最終金曜日更新です。次回をお楽しみに!)
Staff Credit
撮影/今井裕治
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