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小松原美里さんが「ヴィーガンレザーのスケートシューズ」で五輪出場し銅メダル獲得するまで

  • LEE編集部

2023.08.05

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小松原美里さん

引き続き、小松原美里さんのインタビューをお届けします。

取材時に私物の衣装で登場してくれた小松原さん。アイスリンクでの撮影時に着ていた練習着は、母の着物をアップサイクルして作ったオリジナル。屋外での撮影時に着ていたジャケットは「カナダのリサイクルショップで300円だったんです(笑)」と笑顔で話してくれました。

後半では、小松原さんとアイスダンスの出会い、また競技とバイトを両立した高校時代のエピソード、人生観を大きく変えた2019年の出来事について聞きます。それをきっかけに変化したヴィーガンの食生活、昔からあるものを大事に使う精神、競技から人生のパートナーになったティム(小松原尊)さんとの関係についても掘り下げます。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む

フィギュアスケートは今までで一番難しいスポーツで、逆に好きになった

小松原さんは東京都生まれ。警察官の父親のもと、母、9歳上と8歳上の兄2人の5人家族に生まれます。両親ともに文系でしたが、子どもには「好きなことをやってもらいたい」と体育会系に育てます。兄ふたりが野球をやっていたため、小松原さんも野球少女に。現在ヒップホップダンスの講師になった長男、社会人野球リーグに進んだ次男。対照的な兄2人から英才教育を受け、ダンス好きで感受性豊かな小学生に育ちました。9歳からはアイススケートに転向します。

「野球がとにかく暑くて、やっているのも男の子ばかり。音楽が好き、踊ることが好きだったので、母親が先生に“何をやらせても身が入らなくて”と相談したところ、その方がスケートの先輩の元教師だったこともあり“スケートがいいんじゃない?”と教えてくれたのがきっかけです。教室やスクールに参加せず、最初に貸切のリンクに遊びに行ったのですが、全然できなくて(笑)。今までで一番難しいスポーツだと思ったのですが、逆に好きになりました」

小松原美里さん

高校時代はスケートリンクとバイト先を往復する日々。人生の幅が広がった

岡山では、当時7歳年上だった高橋大輔さんがスター的存在で注目を集めていました。高橋さんに憧れながら、小松原さんも国体選手に選ばれるなど順調に結果を残しますが、15歳の時にケガで競技を断念。するとコーチから「このまま終わるのはもったいない。リズム感もあって表現力も豊かだからアイスダンスをやってみては」とアドバイスを受けます。「私がスケートを始めてから、祖父がスケートの国際試合をよく録画してくれて。アイスダンスもよく見ていて、物語性や美しさに魅力を感じていました。おかげでスムーズにアイスダンスの世界に入っていけました」。

中学卒業後はアイスダンスに専念するため母娘で東京へ。岡山の高校に籍を置きながら、新横浜スケートセンターで練習に励みます。

「朝練に行って14時ごろまで滑って、その後は18時か19時ごろまでバイト。バイト先はリンクから歩いて行けるコンビニエンスストアです。その後またリンクに戻って夜練。毎日スケートリンクとバイト先を往復してました。バイト代は、スケートにかかるお金に充てていましたね。その時のバイト仲間とは今でも仲が良いんです。イタリア留学時代を支えてくれ、卵子凍結についても相談しました。この高校時代のおかげで、スケーターだけじゃない人生の幅が広がりました」

小松原美里さん

高校時代のアルバイト先のコンビニエンスストアの前にて。元バイト仲間とは今でも仲良しだそう



夫・ティムさんとは「目標」「パッション」「スケートの相性」がバッチリ合った

高校時代は全日本ジュニア選手権で連覇を果たし、22歳の時にはイタリア選手権で日本人初の銅メダルを獲得。25歳の時、現在の夫であるティム・コレトさんと出会います。

「アイスダンスのパートナーを決めるにはいくつか方法があって。最初のパートナーだった水谷心さんは連盟の方が、2人目の辻馨さんは幼なじみ。3人目のアンドレア・ファッブリさんはアイスダンスのお見合いサイト的な『アイスパートナーサーチ』を通じて連絡をもらったことがきっかけです。彼とパートナーになったことで国際的に名前が知られるようになりました。それがきっかけでティムが私に声をかけてくれて。すでにお互いに顔も名前も分かっている関係でした」

小松原美里さん 小松原尊さん

北京五輪のキャラクター、ビンドゥンドゥンと小松原夫妻の3ショット(写真提供/小松原美里さん)

パートナーとのトライアウト(お試し期間)の間に、3日ほどティムさんの荷物が届かない時間がありました。そこでじっくり会話することができ、互いを深く知ることができました。アイスダンスのパートナーとの相性で大事になってくるのが、“目標”“パッション”“スケートの相性”だと小松原さんは言います。

「ティムとは会話をする中で、目標もパッションもバッチリ合うなあと。あとはスケートの相性だけ。もしスケートが合わなかったらどうしよう……と思っていたら、これもバチーン!と合って。結婚の話も早い段階で出ていて、両親にも会っていました。2人が大好きなユニバーサル・スタジオ・ジャパンのハリー・ポッターのアトラクションでプロポーズ、結婚しました」

人生最大のケガを乗り越え、ヴィーガンレザーのスケートシューズで北京五輪へ

2019年の練習中、転機となる出来事が起こります。練習中に脳震盪、頭部外傷、外傷性頸部症候群に見舞われ、大会欠場することに。

小松原美里さん

「自分の人生で一番大きなケガをしました。この時、自分、パートナー、コーチとスポーツ心理学の先生との意見が全然合わなくて、とても辛かったんです。オリンピックに向けて練習するのが当然だと思っていたのが、ケガで突然できなくなる。当たり前が当たり前じゃなくなってしまいました。それをきっかけに1日1日を大切にすること、積み重ねることで目標に辿り着けるという考えやスケートに対する大義が変わりました」

25歳の時には、子宮にできたポリープの切除手術を行います。それをきっかけに食生活を見直し、動物性の食品を摂り入れないヴィーガンに。小松原さんが今使っているスケートシューズもヴィーガンレザーです。かねてから自分の靴を作ってくれていた企業に相談し、数年越しでヴィーガンレザーのシューズが完成しました。「北京オリンピックもこの靴で出場しました。この靴を履くようになって今年で3年目。普通のスケート靴でも1年でダメになるものも多いですが、今もいいコンディションで私を支えてくれます」

スケートシューズ 小松原美里さん

競技においても人生のパートナーとしても、お互いの意志を尊重する

小松原さんはヴィーガンですが、ティムさんは普通食。競技においても人生のパートナーとしても、相手の意思を尊重します。卵子凍結について相談した時も、最初は「なぜ?」と疑問を持ったそうですが、きちんと気持ちを伝えたことで納得し応援してくれるように。

「最近2人で意識しているのが、ビクティマイズしないようにすること。victimize=被害者意識、被害者として話さないということです。自分たちがなりたいスケーター像が人に与える側であること。滑り方には、性格や生活、正直な気持ちが出るんですよね。何かを伝える時に“○○されたんだけど”ではなく、“こんな気持ちになった”と伝える。伝え方に気をつけてながらミーティングしています」

小松原美里さん

小さな幸せを積み重ね、テンションを上げることを日々大切に

最近小松原さんが好きでよく訪れているのがスリフトショップ(アメリカやカナダにある何でも売っているリサイクルショップ)。思わぬ掘り出し物を見つけるのが楽しいそうです。

「カナダだとスリフトショップがたくさんあって、サイズが大きかったりするとカスタマイズするスリフトフリップ(#thriftflip)も流行っています。大会の開会式に500円で買ったスーツを着て出たんですけど、ファンの人からも“素敵! 高そう!”と言われたのですが、実は500円(笑)。高見えしてラッキー!でした。ちなみに今私が着ているジャケットは300円。パンツは200円、靴も300円です。ジャケットは、元々肩パッドが入っていたのを外したんです。おじいちゃんが着ているような大きめサイズですが、袖口を捲って着ています。アップサイクルが好きで、ファストファッションをなるべく買わないようにしています」

「今、豆乳にハマってるんです」とバッグの中に隠していた、パックの豆乳ドリンク2本嬉しそうに見せてくれる小松原さん。

「日々大切にしていることは、小さな幸せの積み重ね、テンションを上げることです。朝おいしいコーヒーをじっくり味わって飲む、愛着があるものを身につけてワクワクする。小さなことですが、テンションを上げていくのが大事です。気がかりなことを解消していくこともそうですね。卵子凍結もそのひとつ。ケガをしてからは、日頃から“今できることをやる”を心がけています。1日1日を大切に過ごすことが改めて大事だなと思います」

小松原美里さんに聞きました

身体のウェルネスのためにしていること

心・技・体バランスよく鍛える

小松原美里さん

「目標シートを書いて、部屋に貼っています。レベルが上がるにつれ、心・技・体すべてが必要だなと感じていて。体にフォーカスしがちですが、メンタルのバランスによって結果が変わることにアスリートはもちろん、普通の人からも感じます。心って、普通に生活していても波が起きやすいんです。例えば、私ならアイスダンスがあまり認知されていないことから、資金の調達などで資源的な不安がある。意外とそういうところから影響を受ける場合もあるので、競技のみならず、心・技・体バランスよく鍛えることが大事だと思います」

心のウェルネスのためにしていること

カウンセリングを受ける

「スポーツメンタルサイコロジストの先生にカウンセリングを受けています。2019年にケガをしたとき、自分とパートナー、コーチ、それぞれの意見が合わずとても苦労して。メンタルの先生によれば、ケガを経験したことで、日々への感謝の気持ちが生まれ、気持ちが強くなったと言ってくれて。意見は違っていいと気付かされるきっかけにもなりました。その時から毎週、メンタルサイコロジストの先生に話を聞いてもらっています。その時悩んでいなくても、悩んだ時に備える、常に自分を知ることは大事だと思います」

インタビュー前編はこちら!

フィギュアスケーター小松原美里さんが語る「卵子凍結決意の理由」「2日前の採卵手術」

小松原美里さん


撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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