宝仙学園小学校のデジタル化がすごい…!
コロナ禍2年目に突入しました。またいつ、緊急事態宣言が発令されるか、わからない状況にある中、気になるのが学校のICT(Information and Communication Technology)化です。
去年の今ごろは、まさに一斉休校要請のまっ只中。各学校や自治体で、子どもたちの学びを止めないため、全国の先生たちが必死にオンライン化を模索していました。あれから1年経ち、デジタル化が定着した学校もあれば、また通常通りのスタイルに戻っている学校と、二極化が進んでいると言われています。
同時に「GIGAスクール構想」も前倒しとなり、全国の小中学生一人1台情報端末+高速ネットワークを活用した新しい学びが導入され始めています。しかし、なかなか見えてこないのが、これら情報端末を使って、子どもたちの学びはどの様な方向に進んでいくのでしょうか。これは先駆的に進めている学校に話を聞くしかない! ということで、2016年から本格的にICT教育を進めている宝仙学園小学校にお話を聞いてみることに。
こちらは東京都中野区にある私立小学校で、ほとんどの児童が中学受験をする進学校。生徒一人1台タブレットを日常的な授業のなかで文房具的に活用し、さらにプログラミングやロボットを使った授業、子どもたちがプロジェクションマッピングを作成して校舎に投影…なんてデジタルアートにも挑戦しています。もちろん、日々の教職員同士の情報連絡や資料共有はもちろん、保護者とのやりとりも出欠連絡に学校からのお便り、個人面談や授業参観までオンライン化され、聞けば聞くほどデジタル化が進んでいます(詳しくはICT専用HP)。そこで理科の専科教員であり、ICT教育研究部主任の吉金佳能先生にお話を伺いました。
「学習者中心の学び」を実現したい!そのためにはICT導入が必要なのです
__ICT専用のサイトを拝見しました。2016年から「全教職でICT導入に向き合っていく」という姿勢に本気度を感じたのですが、導入したきっかけは?
吉金先生:とにかく「学習者中心の学びを実現したい」と考えて、当初からスタートしました。これまでのICT機器というのは電子黒板などが中心で、結局、教師が教えるための教具に過ぎないのです。一方で、タブレットは子どもたが自ら「学ぶため」の道具。これを導入することによって子どもの学習にフォーカスできる=授業スタイルを変えることができると考えたのです。あとは当時から政府のタブレット一人一台構想があったので、そこにも向かって模索し始めました。
__この頃、アクティブラーニングという言葉が飛び交っていた時期ですね。
吉金先生:そうですね。しかし、学習者主体の学びに変えたくても、教える側の価値観やルーティンが凝り固まっている現実もあり…、それを変えるには環境を変えるしかない。ですので、生徒たちがICT機器を使う前提の授業にシフトしていきました。
__全職員で向き合うということは、ご年配の先生たちも?
吉金先生:そうです。本校の教員は50〜60代の教員も多く、当時「ITなんてとんでもない」という先生たちもいました。リテラシーに関して難しい部分もありましたが、そこは「全員で進めたい」思いがあったのでので、どんな状況であっても共助を大事にしています。
__若い先生ばかりなのかと思っていました。逆に、本気になればできるってことですよね!
公立小だけでなく私立小でも、ICT化が加速する学校 と 進まない学校の二極化
__今はコロナ禍だからこそ追い風が吹いていますが当時、反対はありませんでしたか?
吉金先生:私学ですし、管理職が舵をきったのが大きいですよね。「導入する・しない」の議論ではなく、「ICTを使って、どうやって学習者主体の学びを深めるか」という議論に時間を割きました。
__そうなのですね…!現場の先生たちは取り入れたいけれど、トップが動いてくれないとよく耳にします。
吉金先生:そういう学校がほとんどだと思います。しかし、今年度から公立に通う全小中学生は一人1台持つことになりますから、動かざるを得ませんよね。しかし、ここに該当しないのが1.1%の私学小学校*。私学にもICTが進んでいる学校とそうではない学校があります。深く議論しないうちに「導入しない」と判断した学校もあったそうで…、そこは残念です。
(*現状、文科省によると全国に1千校ある私立小中学校のうち8割が文科省に端末整備の補助金を申請していない、という報道もありました。進んでいる学校は制度的な制約が多く、個人購入で学校に持ってくる[BYOD]スタイルをとっているから申請していないところもあれば、ICT化そのものが進んでいない学校も。)
__さまざまな理念があってのことだと思いますが、どう考えてもこれだけ世の中デジタル化を進めているのに、学校現場だけが進まない現状。一保護者としてこの1年でどう動いたかも、学校選びの大きなポイントになっています。
探究的学びにも知識は必要、 eラーニング教材を使って効率よく記憶する
__協力企業が多いようですが、宝仙学園はもともと外部の空気を取り入れる校風なのでしょうか?
吉金先生:地域、企業、保護者、卒業生とつなげて、一緒に「学校のハブ化」を目指しています。そのために何十社とある企業の中から、共同研究パートナーとしてサポートして頂いています。
__なるほど。21世紀型のスキルに必要な探究的な学びを深めようと思っても、基礎学力がないと深まらない…という疑問がいつもつきまとうのですが、基礎学力とのバランスはどのように取られているのでしょうか?
吉金先生:そうですね、おっしゃる通り、探究的な学びには知識や基礎学力は必要不可欠です。そういう意味では本校では、十数社検討してMonoxer(以下モノグサ)というAIを活用したeラーニング教材を使用しています。知識の記憶定着をはかるのですが、書く・読むよりも「解く」ことで効率よく覚えるアプリで、これを家庭学習などで使用しながら、授業では知識と知識を構造化する授業を実体験中心で行っています。理科で言えば実験とか観察など、その実体験を友達と話し発表するなど、アウトプットする中で知識を構造化するイメージです。
それぞれの子どもにあった「記憶」の方法で覚える
__例えば、漢字を覚える、定着させると言うと、私たちの頃からとにかく「書いて覚える」だと思うのですが、これがどう変わるのでしょう?
吉金先生:10回書けば覚えるというのは、教師のカンと経験からですよね。こどもが自分で選んでいるわけではなく、教師から与えられている覚え方です。しかし、このモノグサという選択肢を一つ増やすことによって、解答の形式や問題の難易度も個別最適化されます。手書きで書いて覚える、3択で選んで覚える、自由形式で解いて覚える…など、それぞれ個人の記憶定着度に合わせて変えられるのです。
__そういう選択肢も広がるわけですね!何の迷いもなく書かせていました…(苦笑)。
吉金先生:教師のカンと経験に頼ると、自己肯定感が下がることもあります。書いてこないと怒られるとか、書いても覚えられていないとか(苦笑)。いつの間にか書くことが目的になることもあります。だから、教師のカンと経験に、テクノロジーをプラスすることが大切だと考えています。実際、勉強が苦手な子ほど助かっていますよ。
あとは子どもたち自身が自分の学習状況を把握していないので、そういう意味でもモノグサを使用しています。自分で学習調整する力をつけ、メタ認知という観点でも活用できるのです。
__知識の定着だけでなく、学習状況を把握することにも使えるのですね。家庭でもそう言う観点で取り入れたら良いのですね。
吉金先生:モノグサは個人利用もできますが、これに限らず、eラーニングを試してみるのはいいと思います。特に勉強が苦手なお子さんにはいい。無料で使えるものもたくさんある、試してみるのはいいと思いますよ。学びの選択肢が広がります。
ICTを使った子ども中心の学びの先には…実社会とのつながり!
__これからの学びはどの方向へ進めばよいのでしょうか?
吉金先生:とにかく今はICTを当たり前の道具として使い、学習者中心の学びを実現したいです。学習者中心の学びの先にあるのが、実社会とのつながりですよね。そこにはICTは必須なのでリテラシーも高めて行きたいと思っています。
__現状、そこまでできている学校ってなかなかなさそうですものね…。
吉金先生:日本の探究学習って単発ものが多く、正直、パフォーマンス的要素が多い。本校では、実社会につながる力強い探究をつくりたいのです。
__アクティブラーニングと言いながら、これは探究なのかなって思っちゃうものも多いですよね(苦笑)。
吉金先生:先生が教えちゃっている部分が多いですよね。子どもたちから出る疑問や気づきでもないし、先生自身も枠から飛び出すようなことがないじゃないですか。本校では6年生に卒業研究があり、1ヶ月かけて探究していますが、それでも弱いと思っています。今後は年間を通してやっていきたいのですが、受験を控えていることもあって…。
__ジレンマですね…!ちなみに親御さんへのICT化理解はどのように?
吉金先生:目指すゴールを共有することがすごく大事だと思っているので、「なぜICTを使うのか」「なぜ学習者主体の学びなのか」という説明会や体験会も多く実施しています。企業にも入っていただいているので、データを元に説明するので、非常に好評です。
__親も一緒に学ばなければわからないので、親御さんたちも安心でしょうね。ちなみに先生、今日はご自宅からリモートワークですか?
吉金先生:今日は有休で、子どももまだ小さいので、在宅で仕事をしています。書類も多くはクラウド管理なので、家でも仕事はできます。教員の働き方も少しずつ変わっていけばいいな、と思い、少しずつ試しているところです。
__さすが!やはりこういう新しい風をどんどん吹かせてくれる先生がいると、学校も変わっていきますね。今日は貴重なお話ありがとうございました。
やはり、実践されている学校にお話を聞くのが、具体性もあって非常にわかりやすいですね。学習者中心の探究的な学びにも使え、知識を定着させるためのeラーニング教材にもなり、コミュニケーションツールとしても使え…、今回、改めてお話を伺っても必要としか思えないのですが、あくまで道具。本当に使い方が大事になってくるな、と痛感しました。今後も学校でなかなか導入が始まらなかったり、使われ方に差が生じてしまったり、思うように進まないことも多々あると思いますが、親である私たちもどんどんアンテナを広げて、家庭でも挑戦できる活用術はどんどん使っていきたい、と思いました。
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飯田りえ Rie Iida
ライター
1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。