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東京チェンソーズ代表・檜原村村議会議員の青木亮輔さんが「木育」を通じて伝えたいこと

  • LEE編集部

2023.06.01

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青木亮輔さん

今回のゲストは、東京チェンソーズ代表で檜原村村議会議員の青木亮輔さんです。東京チェンソーズは、(島嶼部をのぞいて)東京都にある唯一の村・西多摩郡檜原村にある林業を営む会社です。青木さんは、2006年に東京チェンソーズを立ち上げました。前半では、青木さんがなぜ東京で林業を始めたか、きっかけや現在の取り組み、力を入れている“木育”について話を聞きます。(この記事は全2回の1回目です)

探検部での経験を通じ「自然に貢献できる仕事」を志す

GWが明けたある平日、東京チェンソーズの事務所がある檜原村で取材が行われました。前日まで降っていた雨が上がり、カラッとした青空が広がります。四駆のピックアップトラックで颯爽と現れた青木さん、東京チェンソーズの社有林を見学するツアーから撮影は始まりました。

青木さんが林業に就こうと思った理由、それは大学時代に所属していた探検部での経験がきっかけでした。

青木亮輔さん

「日本全国の山や川、モンゴルの洞窟やメコン川の源流航行調査をしている時に感じたのが、自然はすぐに壊れるということでした。里山はニュータウンに開発され、チベットの山奥ではダムができる。木が伐採されることで山は雨水を溜め込むことができなくなり、川の氾濫にもつながります。日本の豊かな自然が貴重だと実感し、自然に貢献できる仕事がしたいと思うようになりました。大学は農学部林学科、足袋を履いて造園の勉強をしていた時に“土を踏む仕事っていいな”とも感じて。高齢化が進み後継者がいない林業で、若い自分に何かできることがあるんじゃないかと思いました」

キャンプ場にあえて水も電気も引かない理由

森林ツアーでは、まず東京チェンソーズが行っているプロジェクト『東京美林倶楽部』で植林をしている林を見学。2015年にスタートしたこのプロジェクトは、3本の苗木を植え、30年後にそのうち2本を間伐、好きな製品に加工することができます。残り1本は未来へつなぐ架け橋に、30年かけて美しい森を育む事業です。「これまでに300家族ほどに参加いただきました。3世代で参加される方、祖父母からお子さんにプレゼントされる方など、さまざまですね」

次に見学したのは会員制のキャンプ場『MOKKI NO MORI』(モッキノモリ)。“モッキ”とはフィンランド語で、小屋という意味。東京チェンソーズが所有する森を整備してキャンプ場に活用しています。会員になれば、デッキやキャンプフィールド、エコトイレ、薪などが自由に使えます。

MOKKI NO MORI

「MOKKI NO MORI」内にあるエコトイレ。一切臭いがしません……!

「電気も水も引いていない、ほぼ自然そのままのキャンプ場。トイレは微生物の力で排泄物を分解するコンポストトイレを採用、水は自分たちで運んでこないとありません。なんでも揃う便利なキャンプ場も多いですが、ふだんどれくらい水を使っているか、電気に頼っているかを体感する良い機会だと思ってくれれば」



企業理念は「美しい森林を育み、生かし、届ける」

東京チェンソーズの企業理念は、「東京の木の下で 地球の幸せのために 山のいまを伝え 美しい森林を育み、活かし、届けます」。檜原村の森林空間を活用した、さまざまな事業を行っています。1つ目は間伐をはじめとする山や森の整備、2つ目は伐採した木を運び、加工・販売、3つ目は森林の活用を推進するサービスです。地域に根を張って仕事すること、情報発信をきちんとすることを心がけてきました。

「林業は外から見えにくい業界です。SNSやブログで情報発信したり、メディアで紹介されることで、木に興味を持ったり、若い人が林業を知るきっかけになればと思っています。情報発信を通じて同業者の連携ができることもあり、それにより業務改善や新しい事業の発端になることも。情報発信って、正直お金にならないし、手間と時間がかかります。だけど、今行っている取り組みから生まれた“森林を育み、生かし、届ける”ことで、少しでも森林や林業に興味を持ってくれれば嬉しいです」

東京チェンソーズ本社

東京都全体で森林が占める面積は約4割。そのほとんどが檜原村のある多摩地区にあります。檜原村は古くから炭焼きによって村が栄え、戦中には多くの木が軍事用材として伐採され、その後スギ、ヒノキが植林されました。植樹した木が木材として使える大きさになるまで約30年。高度経済成長に多くの木材が必要になりましたが、植林した木はまだ使えない状態で、ほとんどが輸入材で賄われました。結果、東京の森は守られました。

檜原村を「日本一の木のおもちゃの村」に

檜原森のおもちゃ博物館

“林業”“木のある生活”というと縁遠く感じるかもしれませんが、木のおもちゃ、森遊びといった“木育”は、子育て世代には気になるテーマです。

森林ツアーで訪れた『檜原 森のおもちゃ美術館』は、2021年11月にオープンした木育を目的とした美術館です。廃校になった小学校跡地を活用し、施設内には檜原村で育った木材を使用しています。檜原村を再現したプレイスペースには、きのこや野菜の収穫体験やピザ作り、木のたまごのボールプールなど、木のおもちゃが所狭しと並びます。ワークショップができる木工室も併設され、2階のミュージアムカフェ「さとやま食堂」では、檜原村の特産品でもあるじゃがいもを使った料理をはじめランチやカフェメニューが食べられ、親子で丸1日過ごせます。

美術館を運営するのは、地元の卒業生が中心となって作られた特定非営利活動法人・東京さとやま木香會。館長は、卒業生でもある大谷貴志さんです。ミュージアムショップ「くるちょい」と美術館に隣接したおもちゃ工房の運営を、東京チェンソーズが担当しています。

「『檜原 森のおもちゃ美術館』は、構想段階の2014年から参加し、準備を重ねてきました。それ以外にも、2017年から行っているワークショップ『森デリバリー』では、イベントや催事場に出店して、スプーン作りやバードコール作りを開催。木こり体験をしながら勉強机を作る『6歳になったら机を作ろう』、『檜原都民の森』で行っているツリークライミング体験、丸太切りや薪割り体験もそうですね。子どもの頃から木と触れあい森で遊ぶことは、大人になってからも森から癒やしや楽しさを受け取る原体験になります。おもちゃを通じて檜原村のことも知ってもらいたい。木のおもちゃ=檜原村、日本一の木のおもちゃ村として知ってもらえる場所になれたらと」

森林ツアーを引率してくれた、『Partage~パルタージュ~』を主宰する鎌田香代さん、子どものあそび場を楽しくするメディア『P_TREE』の代表・森行正さんも東京チェンソーズの活動を応援し、木育を推進しています。鎌田さんは、『檜原 森のおもちゃ美術館』の親善大使、東京の木を身近に感じてもらう活動をする『Love! Tokyo Forest』のメンバーとしても活動しています。青木さん自身も賛同し、『Love! Tokyo Forest』のイベントでトークライブを行うなど、木の魅力を生の声で伝えています。

『檜原 森のおもちゃ美術館』のミュージアムショップ『くるちょい』にて。左から森林ツアーを引率してくれた、『Partage~パルタージュ~』を主宰する鎌田香代さん、子どものあそび場を楽しくするメディア『P_TREE』の代表・森行正さん、『くるちょい』店長で東京チェンソーズ社員の塚本壮二さん。

コロナ禍で“木のある生活”“木育”が見直されたものの…

“木のある生活”“木育”は、コロナ禍で改めて見直された価値観でした。緊急事態宣言下で、多くの人が人混みの少ないキャンプ場や自然を目指し、道路は渋滞に。ステイホームで巣ごもり需要が増え、DIY、住宅の建て替えやリフォームが増加しました。木材が不足し“ウッドショック”が起こり、価格が高騰する事態となり、林業にも影響がありました。

鎌田さん、森さんがメンバーとして活動をする『Love! Tokyo Forest』のパンフレット(左)と、鎌田さん主宰『Partage~パルタージュ~』のパンフレット

「地域材に目を向けるきっかけになりましたが、林業は人手もインフラも十分ではないため、今日明日にすぐ木材を準備できるわけでもない。これまでは“小さくて強い林業”、そこに付加価値をつけようとしていましたが、これからは地域材として多くのニーズに答えていきたい。木材の搬出量を増やして、10年後には1.5倍の生産量を目標にし、公共建築物にももっと使ってもらう。質だけではなく量にも応え、安定した材の供給にも取り組んでいきたいです」

後半では、青木さんが林業の世界に入るまでの半生、5月から檜原村の村議会議員として活動し始めた今、村づくりと林業のあり方について話を聞きます。

『檜原 森のおもちゃ美術館』隣接のおもちゃ工房。

青木亮輔さんの年表

1976年 大阪で生まれる
18歳 高校卒業、東京農業大学農学部林学科に入学。探検部に所属
21歳 探検に行きたいがために、大学を卒業後、研究生として1年残る
23歳 大学での研究生活動を終了。教育系の出版社に入社し、営業職へ
25歳 檜原村の森林組合に半年間の契約で雇われる
29歳 森林組合の仲間と、東京チェンソーズを立ち上げる
30歳 結婚
35歳 『若者だけの林業会社、奮闘ドキュメント 今日も森にいます。東京チェンソーズ 』(徳間書店)を出版
38歳
(2015)
「東京美林倶楽部」をスタート
40歳
(2017)
「森デリバリー」をスタート
46歳
(2023)
檜原村の村議会議員になる

檜原森のおもちゃ美術館


撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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