LIFE

赤ちゃんの排泄を考える

辛いトイレトレーニングにさようなら/『おむつなし育児』で子育てがラクになる!【第2回】

  • 津島千佳

2017.05.20

この記事をクリップする

長期に渡っておむつを使うことで起こる不都合とは?

おむつなし育児研究所所長の和田智代さんに『おむつなし育児』の具体的なやり方をうかがった前回

今回は長期に渡っておむつを使うことで起こる不都合についてお話いただきました。排泄が自立するタイミングを逸すると、ママも子供も大変!

開発途上国の赤ちゃんは裸でも排泄を垂れ流さない!?

津島 そもそも和田さんが『おむつなし育児』に興味をもったきっかけは?

和田 大きくは3つあります。

一番のきっかけは津田塾大学教授の三砂(みさご)ちづるさんです。三砂さんは2007年にトヨタ財団の助成金を得て『赤ちゃんにおむつはいらない―失われた身体技法を求めて』という研究を開始されました。この時研究チームに誘っていただいたことで『おむつなし育児』に関わるようになりました。

ただそれ以前から、おむつや赤ちゃんの排泄に興味を抱くことは多々ありました。

30〜40代の約20年間、開発途上国で国際協力の仕事に従事していました。暑い地域が多かったので、おむつはおろか、すっぽんぽんですごしている赤ちゃんをよく見かけました。でも裸の赤ちゃんを抱っこしているお母さんが、赤ちゃんのおしっこやうんちで汚れていることはあまりない。「どうしてなんだろう」と、ずっと思っていました。

津島 日本の感覚だったら、おむつの外れていない赤ちゃんを裸で長時間抱えるのは、おしっこをかけられそうで怖いですね。

和田 そう思いますよね。そんな日本の今どきのおむつ事情が『おむつなし育児』に興味を持つ3つめのきっかけです。

実家が保育園をしているので、最近の園児さんの話をよく聞きます。10年くらい前からおむつが外れる年齢が上がっていて、現場が困る話をよく聞くようになりました。

2歳までの乳児クラスなら1人の保育士が見る園児さんは3〜6人ですが、3歳児以上になると20人くらいを1人で見ないといけません。それなのに3歳児クラスに新入園する子供のほぼ100%おむつが外れていない状況になっているようです。排泄が自立していない大勢の3歳児を、保育士1人でお世話すると目が行き届かなくて危険だそうです。

30年以上前ですが、私も20代の頃は保育園で保育士をしていました。当時は紙おむつが出始めた頃で、まだ布おむつが主流でしたが2歳児クラスでおむつ替えをした記憶がありません。30年前くらいまでは2歳前後でおむつが外れていたのです。

おむつでの排泄は感覚器官の発達が鈍る?

津島 おむつが外れる年齢が上がってきている話は耳にしたことがあります。

和田 ある調査によると2009年の段階で日本の子供のおむつが外れる平均年齢は3歳4カ月とのことでした。それから8年後の今、首都圏の幼稚園の先生にお聞きすると「今は3歳後半頃が平均的なおむつ外れの時期」とおっしゃいます。4歳すぎても外れていない子も珍しくないそうです。

津島 外れていない小学生もいるとか。

和田 たくさんではないですが、そういう子も少しずつ増えているそうです。トイレでの排泄はできるけれど、もらすのが怖くてランドセルに替えのおむつを入れて登校する子がいる話は全国の小学校の現場から聞こえてきます。その事実を指摘した研究論文もあります。

津島 それはおむつで育てると感覚器官の育ちが鈍くなるからですか?

和田 その可能性は十分あると思います。欧米では2000年代になってから「トイレトレーニングの開始が遅れると(生まれてから長期間、おむつの中だけで排泄し続けると)、成長してからも昼間のおもらし等の排泄トラブルを抱えるリスクが高くなる」と指摘した研究論文がいくつか発表されています。

おむつの中だけで排泄していると、子供は自分の身体から排泄物が出ていることを五感使って認識しづらいのです。皮膚でもあまり感じないし、見えないし、臭わないし、音も聞こえない。排泄物が出ている事実を脳が十分認識できないのですね。

だから生後3年、4年と長期にわたっておむつの中だけで排泄し続けた結果、小学生になってもおしっこをためて出す神経が適切に発達できていない子が一部現れてきているのではないか、と疑っています。実際、おむつをつけていると頻尿傾向になる子供が多いことはわかってきています。



今のお母さんは赤ちゃん本来の排泄の姿を知らない

津島 最近は「早くおむつを外せ」と言われないのも問題なのかもしれませんね。

和田 多くの専門家は「いつか外れるから、子供の自然な発達に任せましょう」と指導しますよね。3歳をすぎて簡単に外れる子もいますが、そうでない方が圧倒的に多い印象です。

幼稚園には入園時には「入園前に必ずおむつを外してきてくださいね」と言われるのに、なかなか外れない。そのくらいの年齢の子なら歩けるし、走れるし、会話もできるようになっているものだからキツイ言い方をしてしまい、親子で悲しい思いをしたケースをたくさん見てきました。私自身も息子のトイレトレーニングで辛い経験をした母親の一人です。

津島 紙おむつも大きいサイズが出ていますし、うちの子供は1歳児クラスですが保育園でトイレトレーニングの指導はまだありません。母親としてはおむつを外し時期が本当にわからないのが本音です。

和田 昔の布おむつは2歳児くらいまでのサイズしかありませんでした。だから2歳頃になったら迷うことなくパンツにできた。昔の人は2歳前後が本来は排泄が自立する年齢だと経験的に知っていたのでしょう。

しかし大きなサイズの紙おむつが登場した今、お母さんはもういつ外していいんだか本当にわからなくなっている。それは専門家もお母さんも、赤ちゃん本来の排泄の姿を知らないがために起きている悲劇です。でも、そう指導する専門家を責める気にはなれません。私自身、保育士と二人の息子を育てた経験がありながら、つい10年前までは赤ちゃん本来の排泄の姿をわかっていなかったですから。

おむつの中で排泄することを強く学習しなければ、トイレトレーニングはうんと楽になります。それだけではなく『おむつなし育児』が提案する“自然で気持ちのいい排泄”を通じて、言葉の話せない赤ちゃんとの間でも豊かなコミュニケーションが取れるようになります。そうすると本当に子育てが楽しくなるんですよ。

次回は自然な排泄で生まれる人間らしさについてうかがいます。

目次

お話をうかがったのは、和田智代さん

おむつなし育児研究所所長、みらい子育て研究所代表
国内を中心に『大人と子供のコミュニケーション』をテーマに、講演・セミナー・カウンセリング&コーチング・執筆など、様々な形での子育て支援事業に携わる。
訳書『おむつなし育児』、『世界一しあわせな子育て』(ともに柏書房)、実践指導『五感を育てるおむつなし育児』(主婦の友社)、共著『赤ちゃんにおむつはいらない』(勁草書房) のほか、育児・保育雑誌への執筆多数。『おむつなし育児』をもっと知りたい人に向け、全国各地での『おむつなし育児』講演会やアドバイザー養成講座も行っている。

おむつなし育児研究所 http://omutsunashi.org/

みらい子育て研究所 https://miraikosodate.jimdo.com/

おむつなし育児研究所のイベント情報 http://omutsunashi.org/event/

津島千佳 Tica Tsushima

ライター

1981年香川県生まれ。主にファッションやライフスタイル、インタビュー分野で活動中。夫婦揃って8月1日生まれ。‘15年生まれの息子は空気を読まず8月2日に誕生。

LEE公式SNSをフォローする

閉じる

閉じる