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LIFE

CULTURE NAVI「CINEMA」

関根光才監督作品

映画『かくしごと』胸のざわめきが消えない心奪うヒューマン・ミステリー

2024.06.16

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Culture Navi

CINEMA

今月の注目映画情報をお届け!

イラスト 折田千鶴子さん

Navigator

折田千鶴子さん

映画ライター

最近さすがにマズいかもと、週に2度ノンアルに切り替え成功。お気に入りの味を見つけたのが勝因です。

『かくしごと』

『かくしごと』
©2024「かくしごと」製作委員会

胸のざわめきが消えない、心奪うヒューマン・ミステリー

善意や正義感から発した彼女の行為を、冷静に“間違いだ”と断罪できる人はいるだろうか。もしそうなら、“それなら、あなたは……”と、こちらが感情的になってしまいそうだ。もちろん彼女が罪に問われる法的理由はわかる。でも、だからこそ胸のざわざわが止まらない。

絵本作家の千紗子(杏)は、独り暮らしの父(奥田瑛二)が認知症になったため、故郷の田舎に戻ってくる。厳格な父と長く絶縁状態にあった千紗子は、今や娘のことさえ忘れたような父に葛藤を抱えつつ、それでもしぶしぶ介護生活を始める。ある日、一緒に出かけた旧友(佐津川愛美)の運転する車が、夜道をフラフラ歩く少年(中須翔真)をはねてしまう。幸い少年に大きな怪我はなく、友人から事故を秘密にしてほしいと頼み込まれた千紗子は、少年を家に運び込む。翌朝、元気に目覚めた少年は、記憶がないという。その身体に激しい虐待の跡を見つけた千紗子は、しばらく自分が預かることに。やがて記憶が戻らないままの少年に、“自分が母親だ”と嘘をつき、少年を「拓未」と呼んで、自分の息子として育てることを決意する――。

もし事故が起きなかったら。懇願する友人を振り切って救急車を呼んでいたら。少年が虐待されてなかったら。少年に記憶があったら。千紗子の正義感が強くなかったら。詳細は省くが、いくつもの“もし”を越える偶然が重なり、千紗子は少年を助け、迷わず匿う。スクリーンを見つめる私たちも、「お願い、あんな親元に戻さないで!」と千紗子の背中を必死で押してしまう。それなのに、千紗子が「私が母親」という言葉を口にした瞬間、ドキッと心臓が飛び跳ね、思わず血の気が引く。もはや戻れぬ一歩を踏み出したと、無意識にも感知する。さらに千紗子の過去を知ってからは、正義と“自己愛やエゴ”を、うっすら天秤にかけてしまう。それでも、子どものようになりゆく父親との生活が、「拓未」のおかげでうまく回り始めると、壊れないでほしいと祈らずにいられない。だが破滅の予感がひたひたと近づく。

監督は、『生きてるだけで、愛。』の関根光才。ドキュメンタリー映画『燃えるドレスを紡いで』も公開中という、多彩な感性が光る。映し出される美しい自然は、同時にすべてを包み込んでしまう畏怖も覚えさせるし、縁側の先の緑萌える山々が大きな窓によって切り取られ、その中心で肩を寄せ合う父娘の後ろ姿は、一枚の絵画のように目を奪う。一方、千紗子を演じる杏の凛とした佇まいとリアルな息遣いが、観る者の共感を引き寄せる。観客は“もしや”と薄々勘づきつつも、最後にアッと小さく息をのむだろう。誰しも守るべき生活や己の正義、そして孤独を抱えている。それゆえ一線を踏み越えることもある。とても他人事とは思えず、きっと誰もが胸を掻きむしられるハズだ。虐待、介護、法と倫理と人間の性や業など、いろんな問題をはらんだ魅惑のヒューマン・ミステリーだ。

TOHOシネマズ日比谷、テアトル新宿ほか全国公開中

公式サイト

『ブルー きみは大丈夫』

『ブルー きみは大丈夫』
©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

大きな“もふもふ”のブルーから愛と勇気をもらって感涙必至!

母を亡くして心に傷を負ったビーは、祖母の家で不思議な存在のブルーに出会う。周りの大人には見えないブルーに導かれるように訪ねた隣家で、ビーはたくさんの“空想のお友達”と、彼らと暮らす男性・カル(ライアン・レイノルズ)と出会う。かつての親友が大人になり、存在を忘れられてしまったというブルーたちは、新しいパートナーが見つからないと消えてしまうという。ビーは彼らを助けるために奮闘する。ドジなブルーに癒され、ファンタジックな展開にワクワクしていると、いつしか彼らの愛の深さに予期せず感涙! 疲れた大人たちこそ、彼らの優しさが心にしみる。

6月14日より全国ロードショー

公式サイト



『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

歩き続ける男とたくさんの出会い。思わず自分も同行している気分に

定年退職し、妻と平穏に暮らすハロルド(ジム・ブロードベント)は、思いがけない手紙を受け取る。昔の同僚クイーニーが、余命わずかでホスピスに入院中という。返事を出すためポストに向かったハロルドは突如、直接会おうと思い立つ。彼女との関係、かつて何があったのか、何も持たずに歩き始めた目的は――。驚いたり、感動したり、“あるある”を覚えたり、道中のさまざまな出会いがそれぞれ、今を生きる人々の事情を映して示唆に富む。これぞイギリス的な人情と人生観だと、しみじみ感動。原作は日本の本屋大賞第2位を獲得、世界で600万部を超えるベストセラー。

新宿ピカデリーほか全国公開中

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配信 CINEMA & DRAMA

『フォールアウト』

『フォールアウト』
© Amazon MGM Studios

世界的大ヒットRPGの実写ドラマ化

昨今の“ゲームの実写化”は、世界観、人物造形、人間社会への問いかけも、なんと深い! 核戦争から200年後、23世紀のアメリカ。贅沢なシェルターで育った世間知らずのルーシーが、拉致された父を探しに地上へ。放射能によりグールとなったガンマン、ヒーローに憧れる兵士と運命が絡み合う。荒廃した地上で生きる人々の在りよう、武器や各機器の未来技術など、レトロフューチャー的な世界にそそられる。かの鬼才監督クリストファーの弟、ジョナサン・ノーラン製作総指揮。

Amazonプライムビデオで配信中

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


Staff Credit

イラストレーション/SAITOE
こちらは2024年LEE7月号(6/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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