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CULTURE NAVI「CINEMA」

スペインを震撼させた実際の事件に基づく衝撃作

映画『理想郷』自然豊かな田舎に移住した夫婦が直面した現実とは

2023.11.15

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『理想郷』

『理想郷』
©Arcadia motion pictures,S.L.,Caballo Films,S.L.,Cronos Entertainment,A.I.E,Le pacte S.A.S.

自然豊かな田舎に移住した夫婦が直面した現実とは

日本でも、スローライフを求めて移住したら……という成否半々の実体験を時々目にするが、次第にスリラーの様相を呈する本作は、スペインを震撼させた実際の事件に基づくというから衝撃だ。昨年の東京国際映画祭で最優秀作品賞など3部門のほか、各国で多数の賞を受賞。世界各地が抱える諸問題を鋭く照射する。田舎の経済的困難、閉鎖性、外国人排斥、利権争い、施設誘致と自然破壊など、容易に日本に置き換えられるだけにひと時も目が逸らせない。

フランス人夫婦のアントワーヌと妻オルガは、緑豊かなスペインの村に移住。始めたオーガニック野菜の売れ行きも好調だ。しかし昔から貧しく細々と暮らしてきた村人、とりわけ隣人のシャン&ロレンソ兄弟は、新参者の2人が気にくわない。それは風力発電誘致プロジェクトに夫婦が異を唱えたことで決定的になり、あからさまな嫌がらせが始まる。畑を台なしにされるなど兄弟の攻撃はエスカレートし、ついに森でアントワーヌが襲われる。

前半は襲撃までを夫の視点で、それから1年をおいた後半は妻の視点で描かれるが、終始不穏な空気が流れ、嫌な汗がジワリとにじむ。もちろん夫婦にも友人はできるが、乱暴者の兄弟に誰も逆らえず、町の警察も村のことは村でと及び腰だ。できるだけトラブルにかかわりたくないのも、目先の利益につい釣られてしまうのも、なるほど古今東西、人間の常。そんな中にあっても恐怖にくじけず、暴力とは真逆の方法で静かに淡々と思いを遂げようとするオルガの強さ、その愛の深さに畏怖を感じずにいられない。女だから、都会者だからと、理不尽にかけられる圧力に毅然とノーを突きつけ腹をくくる姿に、鼓動を速めながら見惚れる。

住めば都とはよくいったものだが、最初からそこにある理想郷なんてないのかもしれない。これは転ばぬ先の杖か? 小説より奇なりの現実を突きつけ、底知れぬ恐怖に突き落としつつも魅了する、パワフルな心理スリラーに圧倒されたし!

Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国順次公開

公式サイト

正欲

『正欲』
©2021 朝井リョウ/新潮社 ©2023「正欲」製作委員会

豪華キャストで贈る多様性の意味を突きつける群像劇

検事の啓喜(稲垣吾郎)は不登校の息子をめぐり妻と対立。販売員の夏月(新垣結衣)は元同級生・佳道(磯村勇斗)と秘めた共通点を見いだし、地元を出て2人で暮らし始める。しかし、ある事件で佳道が取り調べを受け……。家庭環境、性的指向、容姿等の違いと、誰かとつながりたいという共通した思い。人はいかに偏見を捨てフラットに受け入れ合えるか、観客に鋭く問う衝撃作。朝井リョウの同名小説を『前科者』の岸善幸が映画化。

11月10日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

公式サイト

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『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』

『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』
© Institution of Production, LLC

このヒロイン、クセになる! 新感覚のサバイバルムービー

“次世代のタランティーノ”とは言い得て妙! 赤い満月の晩、12年も拘束されていた精神病院から少女モナ・リザが逃走。たどり着いたニューオリンズで、“人を操る特殊能力”を駆使し、人生を切り拓こうとするが――。大人たちの身勝手な事情や欲に反し、幼い少年と育む信頼と友情に熱くなる! 逃亡劇に世相批判が込められており、ヒロインがピュアだからこそそれが痛快! 主演はチョン・ジョンソ、共演にケイト・ハドソン。

11月17日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開

公式サイト

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


Staff Credit

取材・原文/折田千鶴子
こちらは2023年LEE12月号(11/7発売)『カルチャーナビ』に掲載の記事です。

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