ファイト・ヘルマー監督にその舞台裏を聞きました
懐かしくなるほど、そして思わず笑っちゃうほど、こんな子供が子供らしい映画は、かの「ロッタちゃん」シリーズ以来かも! 「長靴下のピッピ」シリーズや「やかまし村」シリーズファンの方々はきっと大好きなハズの、この映画、必見ですヨ!
見てください、ポスターのぶーたれた6人の子どもたちの顔。すごく味があって、可愛くて。やるコトなすコト子供の頭の中って、本当にミラクルでワンダーランドなんだな、とつい嬉しくなっちゃう。そんな映画『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』の生みの親、ファイト・ヘルマー監督が来日しました。
早速、その舞台裏を直撃!
映画クレジットに「原作」の表記がないということは、もしや本作は、監督オリジナルの物語!?
するとなんと、「そうそう。子供と一緒に映画館に行こうとしても、子供に見せられる映画と言えば最近はアニメばかり。実写映画を見せたいのに、どこにもない。それなら自分で作ればいいのかと思ってね」だそうです。
つまり本作は、監督が幼い息子に見せたい映画を、自分で作っちゃった映画というワケなのです。わお、なんという贅沢。監督のお子さんは子供冥利に尽きますね!!
さて、では、まずその映画の内容をサクッとご紹介します。
舞台は、ドイツのド真ん中にあるボラースドルフという村。“世界一平均的”と言われるその村に、ある日、新商品の市場リサーチのため、消費者調査会社“銀色団”が乗り込んできます。
新商品が試せると大人たちは大喜びですが、子供たちは胡散臭い銀色団が大嫌い。
そんなある日、村の大人たちは、個性的な老人たちを煙たがって、みんなまとめて老人ホームに入れてしまいます。忙しいお父さんやお母さんより、面倒を見てくれて、一緒に遊んでくれるお祖父ちゃんお祖母ちゃんが大好きな子供たちは、プンプン!!
幼稚園を脱走し、天才ハナグマのクアッチと一緒に“ハナグマ・ギャング団”を結成し、お祖父ちゃんお祖母ちゃんの救出作戦を開始するのですが――。
子供たちの破天荒な救出作戦にみんな大熱狂!!
ファイト・ヘルマー監督によると、映画を思い付いた当時、4歳だった息子さんの「映画に消防車が出て来たら嬉しいな」という言葉をヒントに消防車を登場させ、「それがひっくり返ったら嬉しいな」という言葉をヒントに、ひっくり返した、のですって。イチゴミルク、消防車、飛行機、潜水艦、清掃車、クレーン車、楽器etc.…もちろんハナグマも、息子さんのアイディアが満載だそう!
確かに、男の子って乗り物がとにかく大好きですよね。今は8歳になった息子さん(つまり映画製作を思い付いてから、数年かけて丁寧に作ったということ!)は、もちろん本作が大のお気に入り。
監督の今の悩みは、「たまには他の映画も観ようと誘っても、この映画ばっかり繰り返し見ること」だそう。
さて、何と言っても本作の肝は、この子供たちの面構え。それにしても、なんとも魅力的な子供たちが集まったものです。
「そう、本作はキャスティングの成否にかかっていた。だから子供たちのキャスティングには3ヶ月かけたよ。10週間という撮影期間中、飽きずに集中できる子どもを選ばないといけないから。毎週子供たちに会い続け、一緒に遊んだりお喋りをした。すると中には新しいオモチャにパッと飛びつくけれど、1週間後には飽きて放り出す子もいるし、そもそも毎週来ること自体に飽きてしまう子供もいる。だから毎週キッチリやって来て、最後まで飽きずに楽しそうに遊べる子供を選んだんだ」
なるほど……。この言葉、どこか子育て中に感じることにも繋がりますよね。
そんなハッキリ強い意思を持った子供たちが体当たりで巻き起こす、救出作戦が最高なんです!
村の大人たちを“ある方法で”眠らせ、子供たちが村の中でいらないと思っているものを、欲しいと思うものにどんどん作り変えていってしまう。まさに破壊と再生!
余談ですが、一緒に見せていただいた我が家の2人の息子は、子供たちが色んなモノをぶっ壊していくシーンでは、目をふさいで指の間から観ながら嬉しそうにキャーキャー叫び、別のものに作り変えていくシーンでは、もう中腰で拍手喝采!! 彼らのトンでもない作戦の数々に、大爆笑しながら狂喜乱舞の状態でした。
ついつい隣で大人も、爆笑せずにはいられなくなってしまうほど。ココで一つだけ、ネタばれですが、監督が明かしてくれました。
「ドイツの映画館では、あるシーンで子供たちの悲鳴と飛び上がりが最高潮になったよ。それは6人の子供が走らせる汽車を、追いかけてきたパトカーが踏切で汽車を阻止しようと止まっていると、それを電車が轢いて真っ二つにしちゃうシーン。と同時に、あの場面は音楽がいいから、歌ったり踊ったりし始める子供が続出したんだ」
絵本の頁をめくるみたいに楽しいビビッドな映像にワクワク!
物語もさることながら、スクリーンに広がるビビッドな色、一場面ごとにポスターカラーで絵を描いたかのようなカラフルな映像が、まるで絵本を繰っていくみたいに楽しいのも本作の大きな魅力です。
「現場で使う小道具も大道具も、もちろん衣裳も、すべて色味の強いハッキリした色のものを選んだ。撮影後に色味を加えた部分もあるけれど、基本はそうしたカラーコンセプトのもと、ビビッドな映像を作り上げていったんだ」
一方で物語には、消費社会や個性を認めない社会の画一化、老人から元気を奪うような私たち大人の言動など、様々な社会的なメッセージも織り込まれています。
「人によって、どのポイントに反応するかは自由。僕は自分の映画を、一つの大きな宝の箱だと思っているんだ。面白いもの、刺激になるもの、色んなものを入れて、自由に取りだせる宝箱。でも最も重要なのは、子供たちに“君たちは何でも出来る力を持っている。君たちが望みさえすれば、大きな可能性が広がっているんだよ”というメッセージを伝えることだった。大人に対しては、大人だって勘違いをすることがある、ということは伝えたいね」
ドイツの舞台挨拶では、必ず「大人たちが見ちゃいけないシーンが来たら、隣のお父さん、お母さんの目をふさいであげてね」と挨拶したという監督。
インタビュー中、自らイチゴを自分の頭の上に降らせて「ほら、シャッターチャンスだよ!」とカメラマンに撮ることを要求したり、かなりお茶目な方でした!
最後に、監督が息子さんに読んであげたお気に入りの絵本は何でしたか、と聞いてみました。
「絵本もいいんだけれど、僕は、例えば『長靴下のピッピ』みたいな児童文学を読み聞かせていたね。というのも絵で見せちゃうより、自分の頭の中で絵や場面を考えさせることでイマジネーションは広がるし、脳も育つものだからね!」
いつも“ドイツの鬼才”と評されるだけに、どんな人柄かと思ったら、とっても陽気で楽しいイクメン監督でした。ちょっとした一言一言に、息子さんへの愛情と、ちょっとした子育てのヒントが含まれていませんか!?
映画は2月11日公開。ぜひお子さんと一緒に、劇場で大いに盛り上がってください。
「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」公式サイト: http://www.sekaideichiban.com
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。