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子どもが安心して冒険できる居場所とは。『ゆめパのじかん』重江良樹監督インタビュー【川崎市子ども夢パークに3年間密着】

  • 金原由佳

2022.08.18

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子どもの「やりたい」の気持ちを支える、安心して冒険できる居場所とは? 川崎市子ども夢パークの取り組みから考える。

夏休み、子育て中の方にとっては、安心して過ごせる子どもの居場所について、いつになく考える時間ではないでしょうか? 家でゲーム三昧だけでなく、ときには思いきり羽目を外して遊んでほしい。でも、ひとりでの川や山、海辺での遊びは万が一を考え、避けて欲しい。だからといって仕事や家事があり、一日中、子どもに目を光らせてはいられないし、見守りの大人を確保するのは大変。何より子どもの自立の精神を育むには、冒険の時間も必要。どうすればいいの?

ひとつの理想的な場所が、神奈川県川崎市にある「川崎市子ども夢パーク」、通称「ゆめパ」かもしれません。ここは2000年に制定された「川崎市子どもの権利に関する条例」をもとに、2003年、神奈川県川崎市高津区に作られた公設民営の施設。子どもたちの「やってみたい」という初期衝動を大切に、それを試せる自由な居場所として、約1万㎡の広大な敷地にはプレーパークエリア、音楽スタジオ、創作スペース、そして学校に行っていない子どものための「フリースペースえん」などが開設されており、乳幼児から高校生くらいまで幅広い年齢の子どもたちが利用しています。

公式ホームページには利用者への説明として、「夢パークでは子どもが「やりたい」と思ったことにチャレンジできるように、できるだけ禁止事項をつくらないで「自分の責任で自由に遊ぶ」ことを大事にしています。夢パークは子どもの「やりたい」気持ちを軸に毎日変わっていきます。子どもも大人も利用しているみんながつくり手になり、つくりつづける施設なのです。」とあります。

ドキュメンタリー映画『ゆめパのじかん』は、ゆめパでの子どもたちの過ごし方に密着し、子どものやりたいことをただの放任ではなく、最小限の手助けで実現させる、場作りに奮闘する大人や地域の人たちの姿を記録したものです。重江良樹監督は自宅の大阪から神奈川まで、ゆめパに週二回、約3年間通い続け、子どもたちのほっとしている時間に寄り添い続けました。重江監督は前作『さとにきたらええやん』では大阪市西成区の日雇い労働者の街と言われる釜ヶ崎で、40年近く、0歳から20歳までの子どもを障害の有無や国籍の区別なく無料で受け入れている「こどもの里」に通い、そこに通う子どもたちと家族の日常を映し出しました。

さて、日本政府は来年、こども家庭庁の設置法案とあわせ、「こども基本法」の基本理念として「すべての子どもが個人として尊重され、基本的人権が保障され差別的な扱いをうけないこと」「子どもの意見が尊重され最善の利益が考慮されること」などを掲げています。1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」を1994年に批准しながら、子どもの権利について包括的に定めた法律がなかった日本がようやく動き出す今、子どもの居場所を見つめ続けてきた重江監督にお話を伺いました。

重江良樹(Yoshiki Shigee)
1984年生まれ、大阪府出身。大阪市西成区釜ヶ崎を拠点に、子ども若者・非正規労働・福祉などを中心に幅広く取材活動中。映像制作・企画「ガーラフィルム」代表。2016年公開のドキュメンタリー映画『さとにきたらええやん』では全国で約7万人が鑑賞、平成28年度文化庁映画賞・文化記録映画部門 優秀賞、第90回キネマ旬報ベストテン・文化映画第7位。

やってみた、あかんかった。失敗から得ることは多い。

──私の子どもはもう20歳になったのですが、小学校3年生の時、担任のベテラン教諭から、「学校でずっと好きな虫について話をしているが、大学生じゃあるまいし、もっとまんべんなく興味対象を広げるため、学校では虫について語らせないでくれ」と言われたことをきっかけに、その先生の顔を見ると嘔吐するようになってしまい、しばらく不登校になった時期があったんです。

あのとき、このゆめパのような場所があることを知っていればなあとしみじみ映画を観ながら思いました。重江監督は前作『さとにきたらええやん』でも子どもの居場所を題材にされていましたが、重江監督自身は子どものとき、理想的な居場所はありましたか?

「ここが自分の居場所だと思える場所がなかったから、こういう映画を撮っているのかもしれません。小さい頃はサッカーをやっていたんですけど、身体も小さいし、中学くらいになるとどんどん実力差が出てきちゃうから、自分の居場所ではなかったかなあ。子ども時代はゆめパにいるような大人たちと接する機会はなかったし、何だろうな、『大人は敵だ』みたいな考え方でしたね」

──『ゆめパのじかん』の前半は、パーク内を思う存分、遊んでいる子どもたちの点描ですね。全身泥んこ遊びをする子どもの姿は微笑ましいし、ほぼ垂直に見えるベニヤ板を滑り落ちる子ども、かなりの高さからマットに飛び降りる子ども、もう地球の重力を利用した遊び方をしていて大笑いしたんですけど、他の公園だと「やってはいけません」と言われたり、「汚しちゃダメ」って怒る親御さんもいるだろうなあと思いました。特にダイナミックだったのが、自転車を滑り台からみんなで落としてみましたっていう遊び方。あれは他の公園では絶対にアウトでしょう。

「滑り台から自転車。あれは実験ですよね(笑)。いや、無理やろうなあと思いながら、でも、いま、滑り台、無人状態だから落としてみようみたいな。それでガッシャーンでしょう(笑)。あ、これ、やっぱ、無理だってわかる」

やって失敗して怒られる場所でなく、やってみたらと許される場所を

──ゆめパで遊んでいる子どもの顔を見ると、全能感にあふれていますね。子育てしたときいつも悩んでいたのが、公共の場所で「これはダメです」「やっちゃいけません」「規則です」のルールの制限でした。大人の目が合っても、木登り、虫捕り、ダメな場所がほとんどで。

「『危ないからやめなさい』『だから言ったでしょう』。そういう失敗することさえも阻害されるというか。『やってみた、あかんかったあ』。そこから得る事って多いじゃないですか。やってはいけないと決められて、やって失敗して怒られるより、やってみたらと許される場所でやってみて、『どうだった?』と肯定的な眼差しの中での方が子どもって勝手に育つって僕は思っているんです。肯定的に認められることで、本来持ってる力を発揮して子どもは育っていくと思うので、ゆめパみたいな場所であるとか、そういう場を用意して安全に運営していく大人というのはもっと増えていかないと世の中は変わらないんだろうなとは思います」

──火をつける作業に夢中の子供どもたちの顔がいいですね。私の住んでいる東京都にも自分で道具や知恵を使って自由に遊びを作る「プレーパーク」があちこちにあって、焚火にもチャレンジできるんだけど、実現できていないエリアは近隣の住民から賛同を得られないからだと聞いたことがあります。

「ゆめパも焚火に関しては、最初すごいクレームが近隣から来たそうなんですけど、でも、子どもたちのやってみたいという気持ちを守りたい、じゃあどうすれば焚き火ができるかということを近隣の方と話し合いをされたようで、最終的には曜日を決めてやりましょうとなったと聞いています。本当に一つ一つの項目を近隣の人と話し合っている。あと、大事なのは行事ですね。お正月の行事であるとか、映画にも出てくるお祭りとか、地域の人たちに役割を担ってもらって、一緒にゆめパを作っている。地域ボランティアの方たちによる運営委員会があるんですよ。

映画では、川崎市子ども夢パークの所長(当時)で、ゆめパの運営をしている認定NPO法人フリースペースたまりばの理事長である西野博之さんにあの場の大人を代表してお話を聞いています。実際、西野さんがいろいろやっているんですけど、でも、西野さんやゆめパのスタッフだけでなく、地域の方たちの場を作り続ける努力や時間がやっぱり素敵だなと思いますよね。行政だけじゃない、NPO法人だけじゃない。周囲の地域も同様に、子どもが安心して過ごせる居場所を作っているのがいい。いがみ合わずにね」

──木工制作の指導をしているボランティアのおじいさんがいるじゃないですか。あの方の姿勢が素晴らしいですね。子どもの設計図や、組み立て方が間違っていることがわかっていてもずっと黙って見守っていて、出来上がってから、ここがこうだろ、ってさり気なく指摘する。あれはなかなかできないですよね。私なんてせっかちだから、口が先に出てしまって。

「もともとご自身で建築関係の会社を経営されていて、どこかで知り合って、西野さんが連れてこられた方だそうですが、子ども達もそうだし、保護者の方たちにもファンが多くて、木工の制作で子どもたちを遊ばせている間に、お母さんたちも一緒に細かい木工の作業をしながら世間話をしているみたいな風景はたくさんみました」



子どもたちの要望からできた、ゴロゴロしていても怒られない場所

──私が映画を見て、ああ、なるほどなあと感じたのが、子どもがごろごろしていても怒られない場所「ごろり」。今の子どもって、お稽古事や塾やスポーツの試合や練習などでめちゃくちゃ忙しいんで、ああいう場は近くにあったらいいなあと。

「ゆめパを作る会議をしているときに、子どもたちも計画に参画したんですけど、そのとき、子どもたちから出たのが『家でゴロゴロしていたら怒られるから、ゴロゴロできる部屋を作ってくれ』っていう。すごい切実なんですよね。で、それをまた、作るっていう姿勢が僕はすごく好きですね」

──重江監督が通っている中、やっぱりあそこは、子どもはゴロゴロしていますか?

「本当にゴロゴロしています。ゴロゴロできるし、本当に隙間の空間なんですよね。大人たちの目があんまり入らない場所だから、そこは無になれる空間みたいです」

規模は小さくてもいい、上下関係なく楽しく過ごせる居場所が増えれば、子どもはもっと楽になる

──ああいう場所って、結局、親が電車や車で連れて行くような距離では定期的に通うことが続かない。やっぱり、自分の足や、自転車で行ける範囲内にあることが重要ですよね。

「基本的に川崎市内の子どもたちが通っているんだけど、中には東京や横浜から来ている子もいるとは言ってましたね。僕が考えるには、ゆめパほどの規模じゃなくても、あの場が持つエッセンスを持っていれば、小さな場所でもいいと思うんです。ゆめパと同じく、子どもを中心にして、常に子どもの最善の利益を考える場所。それが色んなところにあればなおいい。僕が映画を作った理由もそこにあるんですね。ゆめパみたいに、小さな子どもから大きな子どもたちまで、上下関係なく、楽しく過ごせる居場所が増えていけば、子どもたちももっと楽になれるんかなあと思いますね。

それこそ、ゆめパには一年の半分近く、日本中の自治体から視察が来るそうなんですよ。でも、プレーパークだけじゃなく、不登校の子どもが通うフリースペースを擁するゆめパみたいな施設が全国に出来ているかと言うと、まだひとつもできていない。川崎市が『川崎市子どもの権利に関する条例』を掲げ、土地だけで100億円をもする場所にこういう居場所を作ったことが大きいんですけど、でも、大事なのは規模じゃなくて、中身ですよね。箱だけ立派なものを作っても、全然子どものことを理解してない大人が『きみたちの居場所を作りました!』と言っても、子どもにとってそこは地獄でしかない。

僕は箱の大きさは別になんでもいいと思っていて、そこに集う大人たちの持つ子ども観が重要だと思っています。ゆめパの理念みたいなものをトレースしながら、自分たちなりの規模で考えながら、子どもの『やってみたい』を育む場所を作っていってくれたらなあと思いますね。多分、入り口としては、いま、子ども食堂がそういう役割を担っているのかな」

子どもの屈託ない素顔を映せるのは、僕の影が薄いから(笑)。

──なるほど。例えば重江監督は前作『さとにきたらええやん』では大阪市西成区の釜ヶ崎地区で、年齢、国籍問わず、無料で子どもを受け入れている認定NPO法人のこどもの里で2年間カメラを回していましたが、今作もそうですけど、子どもが全然カメラの存在を気にしてないじゃないですか。今時の子どもたちは生まれたときからのデジタル時代、スマホ世代でなので自撮りの文化もあって、自分を盛って映像に残すという技が身に付いているのに、どうやってそういうのを剥ぎ取っているんですか?

「一つは、僕の影が薄い(笑)」

──そうなんですか?

「あと、ずっと当たり前にカメラを持って喋ってるんで、カメラの前でも当たり前の顔をしてくれるというか」

──ゆめパで出会った子どもたちには、自分が何者だと説明されているんですか?

「映画を撮りに大阪から来ましたと、みんなの前で自己紹介をさせてもらいました。子どもたちは、映画を撮る目的を話せば、ちゃんとわかってくれると思っているんです。みんなには、『きみたちにとってはゆめパって当たり前にある場所だけれど、日本の他の子どもの大半には、こういう場所がない。でも、こういう場所を必要としている人たち、子どもたちが全国にたくさんいるから、みんながいかに過ごしているかの様子を撮らせてもらって、映画にして、ゆめパみたいな素敵な場所が増えたらいいと思ってきました』というような説明をすると、『うん、うん、なるほど』って。

みんなゆめパが大好きだから、そう言われるだけでテンションが上がりますよね。逆に当たり前に過ごし過ぎて、撮影3年目の終盤のときに、ある子どもから、『で、何を撮ってんの?』と今更ながら聞かれて笑いましたけど、これだけずっと密着してたのに、あれなんだったんだろう(笑)」

多用な学び方がある社会になってくれたらなあ

──ある子どもが、「勉強は好きだけど、ノートに書くだけの勉強は好きじゃない」と言っていてはっとしたんですけど、子どもの中には座学が向いてない子や、屋外で体を動しながらの方が知識を習得しやすい子もいる。座学中心で、教室で騒ぐな、静かにしろ、記憶しろというシステムに合わない子が絶対数いて、『ゆめパのじかん』のパンフレットにも書いてありましたけど、今、不登校のお子さんが日本には20万人近くいるという。この20万近い子どもたちにそれぞれ、ゆめパのような空間がなく、放置されているのってもったいないというか、何とかならないかと思います。

「来年からこども家庭庁の活動も始まりますし、子ども基本法の施行もスタートするから、これからですよね。多様な学び方がある社会になってくれたらなあと思います。みんな横一線でヨーイドンで同じように詰め込み式で勉強させられ、そこからこぼれていった人たちが、自分の意思で将来への選択肢を見つけていけるのか、そうではなく生きるためにしょうがなく、わかりやすく給料の安い仕事とかに従事して行く道をいくのか。今、大学まで行けた人たちしか選択肢がないような感じで。

でも、もっと早い段階から、体を動かすのが好きだから建設現場の仕事をしたいとか、モノ作りに従事する職人になるとか、好きな分野を勉強して極めて研究者になるとか、いろんな選択があるよと提示できる社会になっていかなくちゃいけないと思うんです。従来の横一列の競争型の社会で溺れていって、自己肯定感も下げて、きゅうきゅうしながら生きるんじゃなく、社会の意識が『こんな学びもあるよ』『こんな経験をしたらいいんだよ』って子どもたちに言えるようにしないといけない」

──この作品を見た知り合いの新聞記者の方が、フリースペースに通っている子どもたちの考えを聞いて、「すごくしっかりしているのに、なぜ学校にはいけないんだろう」とぽつりとつぶやいていたんですけど、重江監督はそのことについて彼らに聞いたりしましたか?

「『なんで学校に行かないの?』っていう聞き方はしないんですけど、ここと学校は何が違うのとは尋ねました。それは僕自身の疑問でもあるし、知りたいことでもある。まあ、撮影を開始してだいぶ後になってから、ある子から、『重江さんはなんで映画をやってるんですか?』と逆に聞かれたんです。その問いかけをされた時は嬉しかったですね。頼りにされているかどうかは分からないですけど、ちょっと意見を聞いてみたい大人のリストの1人に入ったんやなあって。

そのときは、僕は10代後半でイラク戦争があって、それがきっかけで報道ジャーナリストになりたくて、それでカメラを持ち始めたという話をしましたね。現地ではいっぱい悲惨な映像が流れるけど、全然戦争なんて終わらない。なくならねえなら、俺が映画で変えてやろうみたいな、そういう話をしましたね」

──高校に行かないという選択をした子どもたちがフリースペースで学ぶ中、高等学校卒業程度認定試験、通称、高卒認定を取って、次のステップを目指す姿も記録に取られていますよね。こういう道もあるんだよと、あれはフリースペースの先生たちが指導されているんですか?

「いえ、子どもの方から自分で取りたいと言いますよね。同世代の周りの子が高卒認定の勉強を始めたりすることがきっかけになるみたいです。映画の中に、虫が大好きな少年が出てきますけど、ああいう感じでずっと屋外で虫を観察して学んでいる子がいれば、勉強に追い付かなくて悩んでいる子もいる。木工制作から興味を持って建築関係への夢を見つける子もいれば、好きなことをして生きて行きたいから、高卒認定を取ろうという決断をする子もいる。そういう世代間の連なりみたいなものが、ゆめパにはすごくありますね。

僕がゆめパに通う中でよく見たトラブルって、通い慣れていない子がルールがよくわからず、我を通そうとするときですけど、そういったとき、年齢的には中学生、高校生のお兄ちゃん、お姉ちゃんが『いや、こういう時はさ』と出てきて、仲介してくれたりする。そういう複合的な年齢の在り方がいいと思います」

──大工仕事に興味を持つ子は、前出の木工制作で自分の椅子を作って、失敗するという体験をして、学んでいきますよね。あと、同じく木工制作で、鳥のオブジェを作る子が出てきますが、最終的には素晴らしい作品を作っていて驚きました。

「ゆめパだけじゃなく、家に持って帰っても作業をしているので、次に会ったときにはめっちゃ進んでいるんですよ。あれはバードカービングというんですけど、最終的にあるコンテストに入選して、賞をもらっていました。やっぱり子どもって好きなことと集中が重なるとすごい威力を発揮する。でもね、ぼくは、なにかやりたいことが見つかんなくても良いって思うんですよ。将来何をしたいって聞かれて、すぐに答えられる子ってそういないですよね」

私たちの大事なゆめパをちゃんと世の中に伝えてくださいと託された

──後半は学校に行かず、ゆめパのフリースペースで過ごしている4人の子どもの日常にフォーカスされているのですが、彼らは顔を出して、自分の現状や今の感情をきちんと話をしていて、それを映画を通して多くの観客に伝えることは勇気のいることだと思うんですね。もちろん、映画化に際して、親御さんの了承もあって出演を許可されたと思うのですが。

「彼らが出演を了承してくれたのは、『私たちの大切なゆめパをちゃんと世の中に伝えてくださいね』っていう思いからで、本人たちと保護者の方にほぼほぼ今の形に近い状態の作品を一度、試写会で見てもらったときに、その言葉を投げかけられたんです。まだちっちゃい小学生の子らは、『なんかいつもどうりの風景やな』みたいな感じでしたけど、もうちょっと上の子たちが『ゆめパのことをちゃんと伝えてくださいね』と言ってくれたことは、すごい嬉しかったですよね。本当に優しさの塊だと思いました」

──もし、彼らが映画を見て、これは観客に見せたくないと言ったら、そのシーンはカットして、また構成を変える可能性もあったんですか?

「もちろんそれが大前提ですね。出ている人の意見を尊重してこその作品で、出てくれたみなさんがこれでいいと後押ししてくださって、応援されるから、あとはどれだけ多くの観客の人にこの作品を観てもらえるかっていうのが僕の責任になるので。一生懸命広げていかないと」

ドキュメンタリーに映っている子どもの姿は人生の一部分。映画後の子どもの人生にも責任があるから、自主上映の形をとっている

──ひとつ聞きたいのは、前作の『さとがにきたらええやん』は高い評価を得て、ヒットもしましたが、円盤化せず、自主上映で貸し出しという形をとられていますよね。この『ゆめパのじかん』も劇場公開をした後、10月から自主上映で作品を貸し出しますとホームページに書いてあるのですが、この形をとっていらっしゃるのは、やっぱり映画館で体感してほしいから?

「それもあります。スクリーンで観てほしい。みんなで観てほしい。上映会だと色んな交流が生まれたりもするんで、いい意味で、僕の映画を地域の中で利用して欲しいという思いもあります。『さとにきたらええやん』もすでに上映が始まっているこの『ゆめパのじかん』も本当に好きでいてくれる人も多いので、コレクションとして手元に置いておきたいという気持ちはすごくわかるんですけど、何年か経った後、中古店の棚に並んでいたりしたら、ちょっと悲しい気持ちになるじゃないですか(笑)。

昨今、オンライン上映へのリクエストが増えていて、必要があればやっていいかもしれないけれど、今のところは自主上映で観て頂くのがいいかなと。映画の上映会って、自分で心して行かないとだめじゃないですか。日にちを決めて、時間調整して、わざわざ足を運んでみんなと観る。それって素晴らしいことだなと思っていて。

もうひとつは、ドキュメンタリーに映っている子どもの姿って成長過程におけるひとつの通過点で、僕は彼らの映画後の人生に対しての責任もある。撮影しているときはOKだったけど、しばらくしたら、『今はこういう自分をみんなに見てもらうのはいやだ』と言われるかもしれない。その時、ソフトが世の中に出回っていたら、もうどうしようもないんで。その意味で、彼らが成人して見返した時、ソフト化していいか、ひとつの判断材料になるでしょうね。僕が映画を撮っていて一番大事にしているのは、なるべく相手を傷つけないように撮影すること。それは公開されてからもそうです。僕はずっと付き合っていける人を撮っていきたいなという思いがあるんで。

今回は、僕は大阪の人間だから川崎まで距離があるんですけど、久々にゆめパに行って会った時に、いつものようにだらだらと世間話というか、しょうもない話ができる関係であり続けてくれたらなあと思っているので。作品を撮るためにカメラを回して、作品が完成してじゃあさようならという関係性で、通過してしまうような人は撮れないと思っていますね」

──じゃあ、『さとにきたらええやん』の子どもたちとも未だに交流されているんですね?

「近所ですからね。みんな元気で過ごしていますよ」

──不思議な感覚ですけど、映画を通して出会ったお子さんたちだけど、この後、何かの折に、彼らは元気かなって遠い親戚のように思い出しちゃうんです。多分、『ゆめパのじかん』に出てきた子どもたちもそうなると思います。

「それは本当に嬉しいことなんですね。出てくれている子どもたちを愛してくれてるっていうのは嬉しい。ありがとうございます」

──次も子どもの居場所についてカメラを回すつもりですか?

「うーん、何がいいですかね? ひとつ頭にあるのは、日本社会の中で外国ルーツの子どもが増えていて、そういう子どもに興味はあります。言葉の壁もあるし、ちゃんと居場所があるのかなと。その意味で、改めて学校と言う場にも興味がありますね」

──重江監督のそういう子どもに寄り添う姿勢の原点みたいなものは何ですか?

「別にないんですけどね。まあ、僕自身、思春期の時、しんどかったから、やっぱりそういう子が気になるんでしょうね。あとは、僕が通っていて楽しいって思えることが、ドキュメンタリーを撮る上で大事な要素ですよね。幾つか気になっている魅力的な場所や世の中に伝えるべき場所はあるんですけど、映画を撮るとなると、バチンと決めちゃわないといけない。

ゆめパは過ごしている時間はとても楽しかったんですけど、週2回、大阪から川崎までの深夜バスの通勤が超疲れたんで。もう何がつらかったですかって言われたら、移動の時間です。新たな場所で撮影を始めるとなると、ちょっとそういうことも考えてしまいますね(笑)」

 

『ゆめパのじかん』

『さとにきたらええやん』の重江良樹監督が神奈川県川崎市の子どもたちの遊び場「川崎市子ども夢パーク」=通称「ゆめパ」に通い、子どもたちが安心して自分らしく過ごせる居場所がどう作られているのかを密着したドキュメンタリー。

監督・撮影:重江良樹

構成・プロデューサー:大澤 一生/編集:辻井 潔/音楽:児玉 奈央

制作協力:認定NPO法人フリースペースたまりば/撮影協力:川崎市、川崎市子ども夢パーク、公益財団法人 川崎市生涯学習財団、夢パーク支援委員会、ちいくれん(地域で子育てを考えよう連絡会)、風基建設株式会社

製作:ガーラフィルム、ノンデライコ  配給:ノンデライコ

2022/日本/90分/日本語/カラー/ドキュメンタリー

助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会 推薦:厚生労働省社会保障審議会

★上映館情報

ポレポレ東中野・川崎市アートセンター:8月19日(金)まで
シネマチュプキタバタ:9月1日(木)~20日(火)
横浜シネマジャック&ベティ:8月13日(土)~
あつぎのえいがかんkiki:8月27日(土)~9月9日(金)
シネコヤ:8月28日(日)まで
湯本駅前ミニシアターKuramoto:9月1日(木)~
いわきPIT:9月1日(木)~
フォーラム仙台:8月25日(木)まで
上田映劇:8月20日(土)~
第七藝術劇場:上映中
シアターシエマ:8月25日(木)まで
日田リベルテ:8月26日(火)まで
シネマ5:9月3日(土)~9日(金)
Denkikan:8月19日(金)~
宮崎キネマ館: 9月2日(金)~15日(木)

その他、全国順次公開

(自主上映についての詳細はこちら

『ゆめパのじかん』公式サイト

©gara film/nondelaico

参考:
川崎市子どもの権利条例リーフレット・パンフレット
https://www.city.kawasaki.jp/450/page/0000081452.html
認定NPO法人たまりば https://www.tamariba.org/profile/
川崎市子ども夢パーク https://www.yumepark.net/

撮影/山崎ユミ

金原由佳 Yuka Kimbara

映画ジャーナリスト

兵庫県神戸市出身。関西学院大学卒業後、一般企業を経て映画業界に。約30年で1000人以上の映画監督や映画俳優のインタビューを実施。映画誌、劇場パンフレット、新聞などで映画評を執筆。著書に『ブロークン・ガール 美しくこわすガールたち』、共著に『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』。映画祭の審査員、トークイベントなど講演・司会も多数。

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