全国の本屋さん3000人が選ぶ「第9回MOE絵本屋さん大賞2016」でなんと、3回目の第1位受賞、さらに『もう ぬげない』が1位、『このあと どうしちゃおう』が2位に輝いたヨシタケさん。異例の大ヒットを出し続けている、今、人気No.1の絵本作家の素顔は『絵本作家』のイメージとちょっと違う!?
でもだからこそ、新たな読者が増え続けているのかも。
今回はLEEの2016年11月号特集のインタビューの、なんと文字数にして4倍超となる完全版を、特別にお届けします。ヨシタケさん自身の子育ては? どんなお父さん? 本誌特集では2ページにおさめるために泣く泣く削った楽しいお話しをぜひご堪能ください。読者の子供からの質問の答えとして描いていただいたイラストも必見です!
撮影/米谷 享 イラストレーション/ヨシタケシンスケ 取材・原文/原 陽子
この記事は2016年10月7日発売LEE11月号掲載のインタビューの完全版です。
――日常の中で拾い集めた気づきをイラストと一言で描きとめることが、メンタルが弱い自分が世の中をおもしろがるトレーニングになっているというヨシタケさん。そのスケッチは60冊分にのぼるということですが、いつ、どんなきっかけで思いついたものなのでしょう?
「大学卒業後、半年間だけ会社に就職したんですが、大学が楽しかった分、会社勤めがまあすごいストレスで。どうしたら自分を守れるか、悲しいことを予防できるかと、自分なりの世界のおもしろがり方を探さざるを得なかった。それがクセになって、今に至ります。
もともとネガティブな心持ちには才能があったので、紙に描くと自分のつらさを外に出せるというか、流しびなのように『病気よ出ていけ』みたいな、ネガティブな感情をちょっとかわいくして絵と言葉で紙に定着させることで、自分が浄化される作用は結構あるんですよ。みんなもやればいいのに、と思うんですけど。
写真や文章でしか表せないおもしろさもあるけれど、イラストはビジュアルのおもしろさをいい具合に抽出して残せる、このイラストとこの言葉がつくとこのもやもやした気持ちがいちばんよく表現できる、そういうのを考えるのが好きなんですよね。
でも、ノルマを決めているわけじゃないので、自分が幸せなときはひとつも描かないし、逆に〆切の前の日とかいっぱい描いてますよ。試験の前の日に部屋の掃除をはじめるのとまったく一緒で。それが結果的にどんなことでもおもしろがることの練習になっていて、さらにそれがまとまったのが絵本、という順番です」
「ぼくのつくる絵本って、主人公が部屋から出ないんです、せいぜい近所に行って帰ってくるだけなんですよ。そういう人がいてもいい、って言ってもらわないと困っちゃう。自分の頭の持ちようで世の中、世界はおもしろがれるよね、井の中の蛙って悪くないよね、と。
自分の冷蔵庫に入っているものだけでどうにかおいしいものをつくらなきゃいけないというか、なめたけとバター、あとパンの耳しか残っていないけど、どうにか、それをいつ誰と食べたらおいしくなるか、みたいなことですね。
読んでくれた人が私だったらこう、と自分で考えたくなるような、本の中に自分の感情、経験、好みをあてはめてみたくなる、すき間があいている本、読後は現実の受け取り方がちょっとだけ変わる気がする本がぼくは好きで、そういう現象が起きてくれるといいなと思いながら自分の絵本もつくっています。
壮大で完璧なストーリーをバーンと手渡すことはできないので、ぼくにつくれるのはヒントだけ書いてあるもの。玉虫色の表現が大好きなんですけど、読む人が勝手にいいように解釈してくれるのがとてもうれしいことで。ぼくみたいに断言されないことでの安心感を覚える人が、少なからずいるはずなので」
――読者が自由に受けとめられる、すき間があいている絵本。そのストーリーづくりは、どのようにするのでしょうか。
「最初は、ストーリーがなかなかつくれなかったんです。普段描いているイラストは瞬間瞬間を拾い集めるスナップ写真みたいなもので、小ネタのストックはあるんですけど、それを絵本にするときに、1Pから32Pまで順番に読む理由が必要になってくる。はじめて絵本に取り組んだとき、最低限のストーリーと世界観をつくるというのがいちばんのハードルでした。
デビューして2冊目の『ぼくのニセモノをつくるには』(ブロンズ新社)はアイデンティティがテーマですが、『自分とは何だろう』と考えはじめるのは普通中高生くらいですよね。
そこでもっと小さい読者に納得してもらえる設定を考えて、小学校低学年の男の子が宿題やお手伝いを自分のニセモノに全部やらせたら楽ができるんじゃないかと、お手伝い用のロボを買ってくる。
あなたの名前は、好きなものは、嫌いなものは、アイデンティティのデータをくださいとロボに言われたら、楽したい一心で考えるんじゃないかなと、そういう順番でつくっていきました。ストーリーってそういう組み立て方もあるというのが大きな発見で、なるほどなるほど、とつくれるようになってきたんです。
基本的には小ネタなんですよ。それをどうすればいちばんおもしろがってもらえるか、その並べ方、入れものの色と形を考えるのが、ぼくにとってのストーリーなのかな」
「わかる」と「わからない」どっちも大事
――ヨシタケさん自身は2児のお父さんでもありますが、ご自分のお子さんを見ていて、絵本づくりに影響することはあるのでしょうか。
「ありますね。自分が子供の頃にこんな絵本があったらよかったなとか、基本的にはそういう絵本をつくりたいのですが、ただそれってすごく不安で、ぼくはこうだったけど他の人はどうかはわからない。そのときに息子を見てると、何十年も時代の違う息子もぼくと同じことをやっている、じゃあ絵本に書いても大丈夫、と安心できる。
逆にそれはやらないわ、という発見もあるし、子供がいないと絵本をつくれていなかったなというのは、すごく思います。
ぼくは絵本の中には『ああ、わかるわかる』と『これわかんない』と、両方必要だなと思っていて。わからないものはこれどういう意味なんだろう、とついつい自分で考えちゃう、自分なりのゴールを見つける訓練になる。
何かわからないけどおもしろいらしい、それをわかりたいとちょっと背伸びする感覚って、あると思うんです。それが大きくなりたいという未来への希望みたいなものにつながると思う。『こいよこっち、おもしろいぜ』みたいな、相手を子供扱いしないという仲間意識が、ぼくは小さい頃うれしかったんですよね」
――近刊の『このあと どうしちゃおう』(ブロンズ新社)には、「おじいちゃんが生まれ変わったらなりたいもの」のひとつに「コーヒーミル」が。これもやや難易度が高いですが……。
死後=未来?一緒に考えてみよう
『このあとどうしちゃおう』
おじいちゃんの遺した「このあと どうしちゃおう」ノートを開いてみたら、天国や地獄の想像図、楽しそうな死後の予定がいっぱい。死のタブー感とは一線を画す、死を未来として考える斬新な内容で、発売後わずか₃日で10万部を突破。ニヤニヤしつつ、いろいろ考えたくなる最新刊。¥1512 ブロンズ新社
「ぼくの中での正解を言うと、コーヒーミルは毎日使われるわけではないけれど、たまに必要とされておもしろがってもらえるようなる特別感がいいな、と思って描いたんです。でも『なんでコーヒーミルなんですか』と聞かれることは多くて、一生懸命説明しても『はあ』としか返ってこない(笑)。
絵本の中にそういうとんがったものが多すぎてもダメで、『ちょっと難しすぎ』と指摘してもらったり、逆に『これ普通ですよね』と言われたり。後者の方がつらい。『もっとヨシタケさんらしいやつで』と言われると、ええー、ぼくが考えたのに、みたいな(笑)そういったバランスをとるのは、いつも編集の方との共同作業です」
PROFILE
ヨシタケシンスケ
’73年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。絵本デビュー作『りんごかもしれない』で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。2児の父。
子供から出てくる、たくさんの「不思議」「疑問」・・・意外すぎる問いに、思わず口ごもってしまうこともありますよね。そんな時は、どう答えたらいいの?
読者モニターLEE100人隊から寄せられた質問に、ヨシタケさんが特別描き下ろしで回答しちゃいます!
LEE100人隊から寄せられた
子供からの素朴な質問
次回は『もう ぬげない』誕生ストーリーを伺います。
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