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【書評】『肉体のジェンダーを笑うな』「性別役割」をユーモラスに少し違った角度から眺めてみた短編集

2020.12.28

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LEE読者世代の
体と心のあり方をキュートに描いた短編集

『肉体のジェンダーを笑うな』山崎ナオコーラ ¥1600/集英社

肉体のジャンダーを笑うな

大人になってライフイベントを重ねていくたびに気になってくるのが、世の中には母親らしさや女らしさなどの旧来的な「性別役割」を期待される場面が多い、ということ。結婚や妊娠、出産、子育てを通じて、あらためてその現実を痛感させられている人も少なくないかもしれない。

今月の一冊『肉体のジェンダーを笑うな』は、30代の登場人物を中心に、ファンタジーの要素も交えながら「性別役割」を少し違った角度から眺めてみた短編集だ。著者の山崎ナオコーラさんは1978年生まれ。既婚で、配偶者とともに二人の子を育てている人でもある。

収録の中の一作『父乳の夢』は、子育てにまつわる母乳神話や、母性本能に対する思い込みを、一度脳内リセットさせてくれる物語。主人公の哲夫は34歳の派遣社員。同い年のパートナー・今日子はつい最近、二人の子どもである薫を出産したばかりだ。哲夫は、薫に授乳をする今日子を見てモヤモヤを感じてしまう。子どもが好きな彼は若い頃から子育てをしたかったし、育児の“当事者”になりたかった。

しかし妊娠・出産・授乳を通じて、今日子と薫の結びつきはとても強そうに感じられるのに、男性である自分は“協力者”でしかいられていないような気がするのはなぜなのだろう。そんな中、哲夫は男性にも授乳ができる仕組みがあると知り、早く仕事に戻りたい今日子と交代に、自分の“父乳”で薫を育てる生活を始めることにする――。

その他、PMS(月経前症候群)を体験できるサーフボードが登場する物語など、大人の心と体、社会とのつながりを、ユーモラスに描いているのが特徴的なこの短編集。「性別役割」を題材にした話というと、誰かに対して攻撃的だったり、悲劇的な目線で語られるストーリーも世の中にはあるが、本著の登場人物たちは、社会の押しつけに疑問を感じつつも、自分の考え方や新たな科学技術に解決策を見つけて生きていく。その過程が愛らしい。
読後はこちらもほがらかに、しかし凝り固まっていたものの見方を、優しくほどいてくれるはず。

『父よ、あなたは…』
沖田×華 ¥1000/幻冬舎

父よ、あなたは…
ドラマ化もされた『透明なゆりかご』で、人気漫画家となった著者のコミックエッセイ。
17年間絶縁状態の父親が突然死したと知らされた著者。実家の処分やお墓の購入など現実的な問題に取り組みながら、父親への憎しみや愛情にも向き合うことに。ヘビーな内容ながら時にはギャグもあり読みやすい。家族のつながりに新たな気づきをもらえる。

『世間とズレちゃうのはしょうがない』
養老孟司 伊集院 光 ¥1450/PHP研究所

世間とズレちゃうのはしょうがない
『バカの壁』などの著作で知られる解剖学者・養老さんと、テレビとラジオでも活躍中のお笑いタレント・伊集院さんの対談集。若い頃から自分の感覚と、世の中にズレを感じがちだった二人が、“世間”とは何か、そして世の常識と折り合う術を考える。
同調圧力に疲れたときや、既存のルールにとらわれすぎていると思ったときなど、気分転換のきっかけに!



『野菜はあたためて食べる!』
堤 人美 ¥1300/新星出版社

野菜はあたためて食べる!
野菜はたくさん食べたいけれど、いつも同じ調理法になりがちに……そんなマンネリ料理を打破するために、本誌でおなじみ堤人美さんがオイル・だし・とろみの3種の火の通し方で野菜をおいしく食べるコツを提案。
レタスやアボカドだってあたためるとうま味がアップ。あらゆる野菜をたくさん使用できるレシピが全65品。寒い季節に大活躍の一冊に!


取材・原文/石井絵里


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