私のウェルネスを探して/くどうみやこさんインタビュー前編
くどうみやこさんが子どもを諦めた傷を癒し「子どものいない女性」を応援する『マダネ プロジェクト』を立ち上げるまで
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LEE編集部
2026.07.18 更新日:2026.07.21

今回のゲストは、トレンドウォッチャーで大人ライフプロデューサーのくどうみやこさんです。くどうさんは一般企業で広告や宣伝の仕事に携わり、いくつかの企業を経た後にトレンドウォッチャーとして活動をスタート。2017年『誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方』、2019年『誰も教えてくれなかった 子どものいない女性の生き方』(共に主婦の友社)を出版します。これまで光が当たらなかった子どものいない女性の声を取り上げ、数値化されにくかったデータをまとめました。出版後の反響は大きく、テレビやメディアなどにも出演し、2021年には『まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』(小学館)が出版されます。
前半では、くどうさんが子どものいない女性の声を聞くようになったきっかけやリサーチを始めての気づき、子どものいない女性を応援する『マダネ プロジェクト』を立ち上げるまでの経緯を聞きます。また、くどうさんが名付けた“未産うつ”“未産クライシス”という言葉についても教えてもらいました。(この記事は全2回の第1回目です)
ママ向けの本はたくさんあるのに「子どもがいない女性」向けのものはない現実
くどうさんが子どもがいない女性に注目し始めたのは、自身の体験がきっかけでした。31歳で結婚し、42歳の時に子宮の病気が発覚。出産できる可能性が絶たれ、子どもを諦めることになります。
病気だったから仕方がないと理解しながらも、子どもが産めない事実に傷ついている自分に気づきます。手術のことを話すと自然と涙がこぼれてきました。40代半ばで出産する女性もいるため、“自分にまだ可能性があったかもしれない”と思う中で産めなくなってしまったことから痛みにも似た感情が込み上げてきました。その後、少しずつ体と心の傷を癒し「子どもがいない人生とはどんなものなのだろう」とリサーチを始めるようになります。

「論文や図書館のリファレンスコーナーで本を探しましたが、当時はそういった資料はほぼありませんでした。ママ向けのものはたくさんあるのに“子どもがいない女性”のものはない、その現実に愕然としました。“どれくらい子どもがいない女性がいるんだろう”“子どもがいない女性はどう思っているんだろう”とリサーチとデータ収集を始めました」
コミュニティにつながる機会が少ない「子どもがいない女性」同士が気軽に話せる『マダネ プロジェクト』を発足
個人的な知り合いからインタビューを始め、その後インターネットで参加者を募って交流会を開くように。2012年には子どものいない女性を応援する『マダネ プロジェクト』を発足。子どもがいる場合は幼稚園や小学校などのコミュニティごとにつながる機会がある上、社会的支援も手厚いですが、子どもがいない人は横のつながりが少なく、ざっくばらんに話せる場所がありません。子どもがいない女性同士が集まって気軽に話せるコミュニティを作り、子どものいない女性の生き方を応援したいという思いから立ち上げました。

「参加してくれる方の中には、20代や30代のいわゆる AYA(アヤ)世代(adolescents and young adultsの略、15歳~30代)に乳がんや子宮頸がんにかかった方もいました。20代や30代前半と、30代後半や40代でがんにかかるのは少し違うんですね。一般的には、がんの治療では再発リスクが大幅に減る5年が治癒の一つの目安とされています。 その5年間を妊活に充てることができないとなると、治療を終えてからでは年齢的に難しかったり、断念せざるをえない場合もあります。その後の人生が大きく変わるため、治療を優先するのか、妊活を優先するのかも大きな決断になります」
もう子どもを産むことはないと思うのは40代前半
(全体の35.3%、『誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方』p127より)
子どもを持たなかった理由は「タイミングを逃したから」
(全体の34.1%、『誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方』p129より)
「子どもがいない」事実は共通しているものの同じ事情・同じ気持ちの人は誰一人いない
約1000人の声に耳を傾け続けたくどうさん。そこから見えたものは、当事者である自分も含め理解できていないこと、知らなかった本音がたくさんあることでした。一人ひとり違った物語がある、子どもがいない事実は共通しているものの同じ事情・同じ気持ちの人は誰一人いないということでした。
「友人や会社の同僚にDINKs(共働きで子どもを持たない夫婦)がいましたが子どもについては繊細なテーマだったので、日常で聞く機会はほとんどありませんでした。“そんな思いを抱えていたんだ”“そんな気持ちだったのか”と胸を突かれました。初めてリアルな本音に触れた気がします。子どもがいない事実は同じであっても、抱える感情も、そこに至るまでの経緯も一人ひとり違うんです。話す機会がなく苦しんでいる方も多く、自分も当事者でありながら理解できていないことがたくさんあると反省しました。一方で子どもがいないことへの偏見や同調圧力があるということも改めて感じました」

子どもがいない女性の人生ストーリー
- 2回の流産を経て子どもを断念、妊婦さんを見るのがつらい時期もあった。交流会を経て気持ちが楽に。来世は子どもを2人産みたい(50歳・既婚)
- 年下男性と結婚が出産のあせりに。不妊治療がうまくいかず離婚。今は趣味と自分磨きに充実した日々を過ごしている(45歳・独身)
- 幼少期から家庭を持ちたい願望がない。会社員をしながら資格を取得し、将来のリスクヘッジを(独身・37歳)
『誰も教えてくれなかった 子どものいない女性の生き方』第二章より抜粋
約4人に1人は「未産うつ」に。子どもをあきらめた後に夫婦関係が不和になる「未産クライシス」になるケースも
著書の中で印象的だったのが「未産うつ」「未産クライシス」という言葉。くどうさんによると、子どもを持てなかったことで気持ちが沈み、心身に支障をきたすことを「未産うつ」、子どもに対する考え方の違いや温度差などから、子どもをあきらめた後に夫婦関係が不和になることを「未産クライシス」と言うそうです。
「“子どもが産めないと分かった時3か月ほど外に出られなかった”“子ども連れを見るのがつらく、スーパーに夜中しか行けなかった”“不妊治療のために仕事を辞めたものの、治療を終えた後にぽっかりと時間ができ『未産うつ』になった”という人もいました。アンケートを見ると4人に1人は『未産うつ』のような症状があったと分かりました。



『未産クライシス』に関しても不妊治療で夫婦での熱量の差があったり相手への思いやりが不足していたり。そこで人間性が分かり夫婦の関係性が大きく変わることがあります。問題が起きた時に夫婦でどう乗り越えるのか、寄り添えるのかという部分で掛け違いが生じると『未産クライシス』になる可能性があるということですね」
「子どもがいるのが普通」「子どもがいないと幸せになれない」という思い込み
子どものいない人生になり、心の中にもやもやしたものを抱えている女性は多くいます。そんな人が一歩踏み出すきっかけとなるのは、“本音を語ること”“自分と同じ立場の人の話を聞くこと”だと言います。
「まず思いを語ること。誰に話してもいいというわけではなく、話す相手、どこで話すかが大事で、もやもやした思いを気兼ねなく語れる相手や場所が大切です。言葉にすることで心が軽くなったり整理ができたら、次は自分とは違う境遇の人の話を聞く。そうすると“自分だけじゃなかった”“自分が一番つらいと思っていたけれど、もっと大変な経験をされていた人もいる”と知ったり、“もともと子どもがほしくなかった”という意見もあったり、多様な考えを知ることができます。

“自分はなぜこんなに子どもが欲しかったんだっけ”と気持ちを紐解くきっかけにもなりますし“子どもがいるのが普通”“当たり前”と思い込んでいたこと、“子どもがいないと幸せになれない”という思い込みが自分を縛っていることに気づかされることもあります。誰かの価値観に触れることは、自分の視野を広げ、そうした気づきにつながっています」
グランドルールは「互いの価値観が違っていても否定しないこと」「話したくないことは話さなくていい」
『マダネ プロジェクト』では、3・4か月に1度集まって語り合うイベントを開催しています。1度の参加で気持ちがすっきりする人、初回は聞くだけで回数を重ねていくうちに徐々に話すようになる人、年1度だけ参加する人などペースはさまざま。気持ちが整理されていく時間も人それぞれです。
Q 子どもをあきらめてから気持ちのけりがつくまで、どれくらいかかりましたか。
- 1年未満…19%
- 1-2年…19%
- 3-4年…23%
- 5-6年…19%
- 7-9年…6%
- 10年以上…14%
(『誰も教えてくれなかった 子どものいない女性の生き方』P29より)
Q 子どもがいないことの思いや本音を話せますか?
- 誰にも本音を話したことはない…39%
- 親しくなくても同じ立場の人に話せる…37%
- 夫(パ―トナー)には話した…36%
(『誰も教えてくれなかった 子どものいない女性の生き方』P45より。平均年齢44歳、年齢層28-65歳、複数回答可、n=301)
「イベントでは私が全体の進行役を務めています。1回の参加者は約30人で、7・8人ずつのグループに分かれ、それぞれにスタッフが1人つきます。最初にグランドルールである“互いの価値観が違っていても否定しないこと”“話したくないことは話さなくていい”などを説明します。各グループを回りながら、会話に参加したり話を聞いたり。人によって差はありますが、赤裸々に話される方が多いですね。1人が思いを吐露すると、そこから自然とみんなも本音を話し始めます。最初は緊張していますが、徐々になごんで盛り上がるケースが多いですね」

コロナ禍ではリアルイベントが難しくなり、オンラインでの開催に。「参加者同士でもっとやり取りしたい」という声から、2021年にはオンラインサロン「つながるサロン」を開設。オンラインチャットや音声での交流、時にはZoomなども活用しながら、さまざまな形で参加者同士が交流できる場を設けています。オンラインのため、海外からの参加も可能です。
Q 子どもがいないことで肩身が狭いと感じることはありますか?
- ある…81%
- ない…6%
- どちらでもない…13%
(『誰も教えてくれなかった 子どものいない女性の生き方』P21より)
互いを思いやりながら個々の価値観が尊重され、誰もがフラットに認め合える社会になればいい
『マダネ プロジェクト』を続けて15年。くどうさんが願うのは、個々の価値観が尊重される社会になること。女性のライフコースは多様になり、いろいろな幸せや生き方が広がっています。自分とは違う人生観に触れることで、子どもがいない人の実情や本音についても理解が深まり、誰もが生きやすい世の中になることを望んでいます。
「どのライフコースを選んでも得られるもの、得られないものがあります。そこでしか知りえない悩み、幸せがあるんですよね。少子化という社会背景の中で、『子どもを産んでほしい』という無言の圧力のようなものを感じている人も少なくありません。

また、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関係する健康と権利)という言葉も聞かれるようになり、妊娠や出産に関する自己決定が尊重されるべきという考え方も広がっています。
子どものいない女性の悩みを紐解くと、子どもを持たない生き方への理解が十分に深まっていないことも大きな要因だと思います。互いを思いやりながら個々の価値観が尊重され、誰もがフラットに認め合える社会になればいいなと思います」
(後編につづく)

『マダネ プロジェクト』代表
くどうみやこさん
MIYAKO KUDO
トレンドウォッチャー、大人ライフプロデューサー
東京都生まれ。一般企業に入社し広告宣伝部に配属。その後、アパレル企業で広告や宣伝を担当。2002年よりトレンドウォッチャーとして活動をスタート。大人世代のライフスタイルからトレンドまで、時流をとらえた独自の視点で情報を発信。メディア出演から番組の企画や執筆、講演など活動の幅は多岐にわたる。2012年に子どものいない女性を応援する『マダネ プロジェクト』を発足。“女性の生き方”の調査・研究に勤しみ、「未産うつ」「未産クライシス」の名付け親でもある。

Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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