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私のウェルネスを探して/勅使川原真衣さんインタビュー後編

【勅使川原真衣さん】コンサルタントとして多忙を極めるも、乳腺炎に悩み整体師に依存。コロナ禍で通院時間ができ乳がん発覚、目が覚めるまで

  • LEE編集部

2025.05.11

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勅使川原真衣さん

引き続き、勅使川原真衣さんに話を聞きます。勅使川原さんの撮影は、東京・築地にある聖路加国際病院の付近で行われました。抗がん剤治療で通っていた場所で検査結果待ちでよく使った喫茶店を感慨深そうに見つめます。撮影はちょうど桜が咲いていた時期で、隅田川沿いにはたくさんの花見客が訪れていました。「大人の遠足みたいで楽しいですね」と、カメラに向かっていろいろなポーズをしてくれる姿が印象的でした。

後半では、本好き・人間観察好きだった幼少期のエピソードや医学部を目指していた1年間、コンサル=“会社の医者”という考えに至るまでを聞きます。乳がんが発覚するまでに2年間依存してしまった整体師の存在、子育てで大切にしている存在の承認と子どもを信頼することについても掘り下げます。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む

小4でエッセイを書くことに夢中に。担任の先生がくれたコメントは、究極の存在の承認だった

勅使川原さんは、両親と兄の4人家族で育ちました。小さい頃からまわりがよく見えるタイプで、趣味は人間観察。その場にいる人の様子を見て、力関係を推測するのが好きだったと言います。

「1人の人がその場に加わることで変わる空気や人の変化を敏感に感じ取るタイプでした。例えば教室で“親がいない時はこんな顔してたのに、この人が来るとこんな顔になるんだ”とか“保護者の中でこの人の意見が通りやすい”“リーダーなんだ”とか。小さなコミュニティの力学が気になるタイプでした。職員室に行っても、“先生の中ではあの人がキーマンだ”とすぐ分かりましたから。先生から見れば、生意気で面倒な子、とても嫌な生徒だったと思います」

勅使川原真衣さん

家族は全員理系で読書好き、小学4年の時に夢中になったのは自作のエッセイを書くこと。毎日原稿用紙1枚にエッセイを書き、先生が読んでコメントをくれたのがとても嬉しかったと言います。

「中高時代は学校まで1時間半くらいかかったので電車の中でずっと本を読んでいました。同じ本を読むのが好きで、遠藤周作の『沈黙』をたぶん150回くらいは読んだと思います。小4の時に好きだったエッセイは1年間ほぼ毎日、360日は書いていたと思います。担任だった永井泰子先生が必ずコメントをくれたんです。それは究極の存在の承認でした。先生は私のことを“リーダーシップがあって面白い子だね”と、とても評価してくれました」

しかし、5年生になり担任が変わると状況は一変します。

「5年の担任の先生からは、“リーダーシップが強すぎて問題だ”と言われ、教室から出されて丸一日図書室にいさせられたこともありました。給食も抜きで。そこからエッセイは一切書かなくなり、余計なことも話さなくなりましたね。その経験を意外と引きずってしまい、中高大学まで、あまり喋らなくて暗い人だったと思います」

医師を目指した空白の1年間を経て、「会社の医者」であるコンサルタントに

将来の夢は中学生の頃は「国連職員」、高校時代は「医者」でした。

「国連職員は大人が喜びそうな職業として選んだと思います。医者は進学校だったので現役合格率を伸ばしたくて勧められたから、だと思います。そんな時に“医者以外にどれくらい仕事を知っているの?”“とりあえず医学だけじゃなく、いろいろなことを学べる大学に行ったほうがいいんじゃない?”と先生から言われ、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)に進学しました」

大学卒業後は大学院に進学。教育学を研究しますが、その後再び医師を目指した空白の1年間がありました。

「やっぱり医師の夢を諦めきれず、医学部に入ろうと医学部学士編入塾に通っていました。だけど受験した医学部はすべて不合格。途方に暮れ、近所の居酒屋で飲んでいた時にエグゼクティブ系人材派遣会社の人から声をかけられ、今の仕事に就くことになりました。“コンサルは会社の医者”と考えればいいんじゃないかと思って。その考えが、すごくやりがいになりました」

2012年には第一子を出産。コンサルティング業界は長時間労働の過酷な労働環境だったため、子育てと仕事の兼業はとても辛かったと振り返ります。

勅使川原真衣さん

「仕事が忙しすぎてトイレに行く時間がなくて慢性膀胱炎になる。子どもの世話がままならず、保育園の先生から“”勅使川原くんだけが靴紐を結べていない”と指摘をされ、児童精神科を紹介される。そんな状況でしたが、どうしてもコンサルティングの仕事は手放したくなかった。そこで選んだのが独立でした。当時同じ会社にいた山口周さんにお世話になり、会社からインディペンデントコンサルタントの名刺をもらって、仕事をする形になりました」

乳腺炎に悩まされ、整体師に精神的に依存。コロナ禍で通院する時間ができたおかげで乳がんが発覚、目が覚めた

2018年には第二子を出産します。第一子の時から乳腺炎に悩まされ、最初は大学病院の母乳外来に通っていましたが、待ち時間3時間に対して処置は5分で完了。流れ作業のような診療に心は満たされず、“もっと親身になってほしい”“話を聞いてほしい”という思いが募ります。そんな時、友人から整体師を紹介してもらい、ぽっかり空いた穴を埋めるようにハマってしまいます。

勅使川原真衣さん

「整体師さんは、私の胸のしこりを見て0.5秒くらいで“老廃物だから”と言ったんです。その時の大きさはゴルフボールくらい、60mmほどのしこりでした。初診時から私の話を2時間も聞いてくれ、“ここで泣いていきなさい”と言われ、女神のように見えました。すっかり信用し依存してしまい、そこから2年間通い続けることになります」

2020年、新型コロナウイルスが蔓延し、対面での仕事が多い組織開発の仕事がゼロに。そこで初めて医者にかかり、ステージ3cの乳がんが発覚します。

「4月の社員研修は組織開発業的には稼ぎ時だったのですが、コロナで対面研修が一切なくなってしまったんです。暇になったから“じゃあ、病院にでも行ってみるか”と行ったところ、目が覚めました。“こんなになるまでよく放っておいたね”と言われて。今思うとコロナ様々ですね。コロナが無ければ、病院に行くのがもっと遅れたと思います」

勅使川原真衣さん

それらの経験が勅使川原さんの本音を解きほぐし、書くきっかけとなり“書くセラピー”“生き直しのセラピー” に。執筆や講演活動が現在の仕事の約7割を占め、生きる原動力になっています。



「まだ何も肩書きがない状態の人=子ども」をどう信じるか、それが子育てで大切なこと

現在、12歳と6歳の子どもを子育て中の勅使川原さん。能力主義・学歴社会については、そのからくりを伝えながらどう生きるかは本人に委ねています。そして必ず伝えているのが存在を承認する言葉です。

「能力・学歴社会は、明日明後日変えられることじゃないので、からくりを知っておくことが重要だと思っています。新入社員や新入学の方にはもちろん、自分の子どもたちにも口が酸っぱくなるくらい言っています。社会はまだ能力主義であり学歴社会で、一元的な能力で評価されてしまう。そこで評価されないことで、自分がしようもない人間だと思ってしまうなら、ある程度その評価に合わせて頑張ることも必要かもしれない、と。ただ、それがすべてじゃないことは確かです。だからこそ、“生まれてきてくれてありがとう”は必ず伝えています」

勅使川原真衣さん

子どもに対し、「宿題はやったの?」「課題はいつやるの?」と問いかけてしまう人は多いはず。勅使川原さんが大切にしているのは対話で、子どもたちが何を考えているかを知り、相手を信頼することを大切にしています。

「例えば宿題をやっていなかったとして、“やらないことによって何を得ようとしているの?”“これ以上先生に嫌われていいということで大丈夫?”と確認します。聞いてみると、子どもたちも意外と考えていて理由があったりします。だから決めつけずに対話の時間を持つようにしています。どんな時も親ぐらいは味方になってあげたいですよね。親は“こうしたらいいよ”とついレールを引いてあげたくなりますが、その先を知っているとそれが正解とも言えないんです。能力主義との戦いは、多分、人を信じることが最終的な問いだと思っていて。“あの人は東大だから大丈夫”とか学歴を能力として信じるのって、ただの藁みたいなものなんです。まだ何も肩書きがない状態の人=子どもをどう信じるか、それが子育てで大切なことだと思っています」

My wellness journey

勅使川原真衣さんに聞きました

心のウェルネスのためにしていること

勅使川原真衣さん

「違和感をそのままにしておかない。これまであまり違和感を表明できなかった経験から、最近は違和感をキャッチしたら、情報収集をしたり相手の状況を考えつつ2日間くらい寝かせた後、まだ違和感があるようなら“あれはどういうことでしょうか”“こういう意味でしょうか”と聞き、対話の入り口を作るようにしています。仕事や子どもの学校まわり、いろいろありますが、そうすることで心がヘルシーでいられます」

体のウェルネスのためにしていること

「よもぎ蒸しに通っています。偶然居合わせた面々で相席のようにしてやることが多いのですが、裸の上からマントを着て、蒸されながらいろいろな話を名前も知らない者同士でします。70代のおばあちゃんから30代の美容師さん、いろいろな人の“働くということ”や世間話を聞くのが、本当に面白くて。話すことも、よもぎ蒸しすることもすごくデトックスになります」

インタビュー前編はこちらから読めます

Staff Credit

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
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