
引き続き、山脇りこさんに話を聞きます。山脇さんの取材は、二拠点生活先である郊外のマンションで行われました。シンプルで広々したリビングにはヴィンテージの家具やアートピース、季節の花が彩りを添えます。見晴らしの良い窓からは色鮮やかな新緑と青い空が広がり開放感たっぷり。「窓から見える景色や抜け感が気に入ってこの部屋に決めました。キッチンの窓から見える富士山も好きです」。
後半では、山脇さんの健やかな日々を作る3つのことを聞きます。1つめは「旅」。50代からひとり旅をはじめたきっかけや、〝歩く旅〟の効用などを聞きます。2つめは「料理」。レシピとエッセイで構成された最新著書『生きていく、軽やかごはん 道具ひとつでずっと好きな味』(集英社)でつづった、旅先で出会ったおいしいものを再現する楽しみや料理に興味を持つようになった原体験を話してくれました。3つめは「読書」。幼少期から重ねてきた読書は、今も山脇さんのごきげんを保つための時間になっています。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む)
ひとり旅のきっかけは“ふきげんさ”
山脇さんは、料理家でありながら旅好きとしても有名で旅エッセイ『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)は15万部の大ヒット。以前にも台北のガイドブックや、屏東(台湾)を巡るエッセイを出版するなど、山脇さんを知るうえで旅が重要なポイントになっています。若い頃に何度かひとり旅をしましたが、旅好きの夫と結婚してからは夫婦で出かけることが多かったそうです。50代間近になった頃、ひとり旅をするようになりますが、それは更年期真っただ中で感じた“ふきげんさ”がきっかけでした。

「すぐには気づかなかったのですが、イライラも更年期の症状のひとつだったのですよね。そんなふきげん真っただ中にネットの記事で、更年期できげんが悪くて夫と離婚したという体験を読みました。離婚して1年ほど経ってからつきものが取れたようにすっきりして“離婚を後悔している”と書いてあったんです。“わわ、私もそうなるかも?”と私も自分の状態が心配になりました。私のきげんの悪さのいちばんの犠牲者が夫と母だったと思うんです。それで、意識してごきげんでいよう、なによりごきげんを優先しようと思うようになりました。
そこで、なにが私をごきげんにしてくれるのか? まずは健康であること。その上で、他にもいろいろ試した結果、確実にごきげん貯金がたまるなと感じたのが『ひとり旅』でした。ひとり旅には、使っていなかった筋肉を久しぶりに使えた喜びのような、すがすがしい達成感がありますし、自信を失うことも多い中で、初めてのおつかいみたいな、ささやかな自信ももらえるな、と」
「旅」と「料理」は切り離せない
山脇さんの第二の健やかポイントである「料理」では、旅先の味を再現するのが楽しみに。最新著書『生きていく、軽やかごはん 道具ひとつでずっと好きな味』(集英社)に掲載された書き下ろしのエッセイでも、イタリア・トスカーナ地方で出会ったパッパ・アル・ポモドーロのエピソードが綴られています。

スーパーに買い物に行って食材を見て何を作ろうか考えている時間、手を動かしながら段取りを考えて無心になる時間にワクワクするそう。そんな山脇さんが食に興味を持ったのは幼少期。長崎の旅館の一人娘として育ち、調理場で料理をする板前さんを見るのが好きだったと言います。
「旅館の調理場はとても広く、板長さんが指示を出して、どんどん料理が出来上がっていく。その手元を見ているのが楽しかったんですよね、かなり邪魔だったと思うのですけど。水に昆布がつけられたボールがずらっと並ぶ様子や、鍋いっぱいの盛り付け前の料理も見飽きることがなかったです。旅館ならではの季節の仕込みもあって、6月に梅干しを100㎏、10月には柚子胡椒を1年分とか。年末は餅つきもあって、1月ごろには白菜漬けを自分の身長くらいある樽に漬けたり。どれもいっしょに楽しんでいました」
料理の仕事への憧れを持っていったものの、料理の道を志すようになったのは30代。いったんは諦めていましたが、人生1回、やはり一番好きなことを仕事にしたいと、挑戦することに。2008年に夫の留学について行ったニューヨーク暮らしの2年間をはさみ、料理学校や海外の料理教室で知識と技術を磨きました。



「習ったことがない料理を習おうと思い、辻調理師専門学校が共同プロデュースしていたAlain Ducasse Formationの日本校“ADF+TSUJI”や、フードコーディネーターの資格を取るために江上料理学院にも通いました。イタリアに夏休みの度に5、6回行き料理を習ったり、タイのマンダリンオリエンタルホテルで体験できるタイ料理教室に行ったり、料理を習う旅を繰り返しました。フードアナリストの資格も取得したり。料理の仕事の中で何をやりたいか考えたとき『自分に子どもがいたら、伝えたい料理を伝える教室』をやりたいなと思ったんです。料理教室をするのに資格はいらないかもしれませんが、何をどうはじめたらいいのか手探りな中で、できることはなんでもやり、取得できる資格は取ろうと。その中で学ぶことや、見えてくるものもあると思ったんです」
人生初の「やり切った体験」
現在は書く仕事にも活躍の場が広がっています。小説新潮の「ソロソロ、ひとり」や主婦の友社のTomo Noteでの「長崎ものがたり」など、旅や食、ひとり活動などをテーマに執筆を続けています。
山脇さんの転機となったのが、30歳で大学院に入り直し、修士論文を書き上げた経験です。

「修士論文は入学1年目にテーマを決め、2年目に書き始めます。当たり前ですが、先行論文を読み込んだり、調査もして、完全を目指すことが求められます。途中、教授やゼミの仲間から様々な質問を受けたり、厳しく批判されたりしながら仕上げていきました。最後にはもう、1週間ぐらいお風呂にも入らず、部屋に籠もって書きました。そうして、完成したときに、それまで味わったことのない達成感があったんです。大変遅ればせながら、『もうこれ以上はできない、120%出し切った』って30歳にして初めて思った。それまで、『いつか本気出す』みたいな感じで、ゆるゆるやってたので。スポーツも受験も、とにかく必死でやった経験がなかったんですね。論文の出来は他人の評価はともかく、私にしては会心の出来で(笑)。このやり切った体験が、自分の中では分岐点になりました。仕事への姿勢というか考え方に影響を与えたと思います。今でも、最後の追い込みの日々を思い出します」
顔立ちよりも顔つき、優秀さよりも優しさ

二拠点生活を送る部屋の本棚には本がずらりと並んでいます。山脇さんにとって不可欠なのが読書の時間。いつも並行して3冊ほどの本を読んでいるそう。移動で読む、寝床で読む、風呂で読む、で3冊。移動時は文庫本を持ち歩き、いつでも本を読めるようにしています。寝る前に読むはよく聞きますが、山脇さんは、朝起きたら昨夜の続きを読むそう。
「寝る前はいつも本を読みながら寝て、朝目が覚めたら布団から出るまで、また続きを読みます。時間があれば合わせて2時間くらい。今ベッド横にあるのはデビュー時からのファンですべての作品を追いかけている佐藤正午さんの『どこ吹く風 小説家の四季』(岩波新書)、去年出された『熟柿』(KADOKAWA)もおすすめしたい」

これからの目指す姿、どんなふうに歳を重ねたいかを聞いてみました。
「求めるものは年齢とともに変わってきました。顔立ちよりも顔つき、優秀さよりも優しさ。眉間に皺を寄せているおばあちゃんより、なんだかにこにこしているおばあちゃんになりたいなと思います。いくつになってもカチンとくること、失礼なことをされることってあると思うんですけど、これからはそんな相手とは距離を置いて、というか一目散に逃げることにして、大切な人を大切に、きげんよく。残年カウントダウンもはじまっているので、行きたいところへは行き、本当にやってみたいことはやって、身体も心も健やかでいられたらと思います。その健やかの元だし、死ぬまで自分の味で食べたいなと思うので、料理は自分のペースでずっとしていたいですね」
My wellness journey
山脇りこさんに聞きました
体のウェルネスのためにしていること
「歩くこととランニングかな。旅も『歩く旅』で、とにかく歩きます。歩くと、セロトニンというきげんが良くなるホルモンが出るらしいですよ。確かにスッキリします。死ぬまで歩くには、日々歩き続けるしかないなと思ってもいるので。歩くのは基本的に毎日、ランニングは特に決めていませんが週に2回走れたら理想的ですね。旅先ではいつも朝ランしています。だいたい3~5kmくらい、“往復したら5kmくらいかな”という場所を、目的地に決めて走っています」
心のウェルネスのためにしていること
「長期的なスパンだとなかなか難しいですが、簡単なことてしては、爆笑できる本を枕元においています。それを読めば必ず爆笑できる本。私の場合は『金の言いまつがい』(糸井重里監修、ほぼ日刊イトイ新聞編/新潮文庫)とか、WEBですが、みうらじゅんさん の『老いるショック』(※取材後、単行本『老いるショック大賞』〈筑摩書房〉が出版に)」

インタビュー前編はこちらから読めます
Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
この連載コラムの新着記事
-
人気料理家・エッセイストの山脇りこさんが「電子レンジレシピ」の研究を始めた理由
2026.06.29
-
【川野芽生さん】自ら選び取った「文学」「ロリータファッション」とともに、自分に噓をつかずに生きる。
2026.04.26
-
【川野芽生さん】東大在学中に「他者に性的に惹かれない」アセクシュアルを自覚。性自認をオープンにしているからこそ、見える景色がある
2026.04.25
-
「猫は幸せのかたまり。一緒に過ごせてその重さが分かりました」陶芸家・小川麻美さんが振り返る”愛猫の看取り”
2026.03.29
-
会社員を経て32歳で陶芸家へ転身。小川麻美さんの人生を切り拓いた「出会いと縁の不思議」
2026.03.28
おしゃれも暮らしも自分らしく!
1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
そんな存在でありたいと思っています。
ファッション、ビューティ、インテリア、料理、そして読者の本音や時代を切り取る読み物……。
今読者が求めている情報に寄り添い、LEE、LEEweb、通販のLEEマルシェが一体となって、毎日をポジティブな気分で過ごせる企画をお届けします!
この記事へのコメント( 0 )
※ コメントにはメンバー登録が必要です。
















