私のウェルネスを探して/長谷川あかりさんインタビュー後編
【長谷川あかりさん】マンダラチャートで目標設定、20代半ばで料理本出版。「令和の家庭料理=長谷川あかり」と名前が挙がるようになりたい
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LEE編集部
2025.04.06

引き続き、長谷川あかりさんに話を聞きます。今回の撮影は、東京・神楽坂で行われました。パートナーと初めて一緒に住んだ場所からほど近いというこのエリアには、長谷川さんが大好きなおいしいお店がたくさんあります。移動中にも「この店のトマト卵麺がおいしいんですよ」「初詣の後は、いつもここに寄ります」など、お気に入りのお店をたくさん紹介してくれました。中華料理の『龍朋』、書店&カフェの『かもめブックス』、『広島お好み焼き くるみ』、『ドーナツ もり』。まるでグルメロケをしているような情報量で、帰る頃にはすっかり神楽坂のファンになりました。
後半では、ダンススクールを経て芸能活動をスタートした10代での成功と停滞期に感じていた苦悩、大学進学に結婚、料理家としての活動など、激動の半生を振り返ってもらいました。また料理家になる後押しをしてくれた夫の存在、理想の料理家像やこれからの目標についても語ってくれました。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む)
初めて受けたオーディションで合格し、いきなりテレビのレギュラー番組出演が決まる
長谷川さんは、4歳の時に「ダンスがやりたい」とダンススクールに通い始めます。10歳の時、ひょんなことから受けることになったオーディションに合格し、テレビ番組のレギュラー出演が決まります。
「自分で言うのも何ですが、ダンスが上手だったんです。頑張って練習していたのもありますが、ずっとセンターにいて、すごく褒められました。“できること”より“褒められること”、“褒められるものが一番頑張れるよね”という思いは今も変わっていません。小学5年生のころ、本気でダンサーになりたいと思い芸能事務所のオーディションを受けたのですが、選考の途中で事務所の方から『子ども番組のオーディションを受けてみないか』『番組のオーディションに受かったら、そのまま事務所のオーディションも合格にする』と言われて。チャンスが倍になった、ラッキー!と思って受けてみることにしたんです。

そしたら、受かってしまって。いきなりレギュラー番組への出演が決まりました。スタートから割と上手くいったせいか、どこか負け知らずな自分もいたと思います。だけど実際にその世界に入ると“もう無理”と思えるくらいみんなかわいくて、骨格から違うレベルでスタイルも良くてショックを受けました。少しでも“自分は可愛い”と思っていたことが恥ずかしくなったくらい。だから収録現場ではいつも声を張って、人一倍頑張っていたと思います」
レシピ本で見た食材を転用したおにぎりを喜ばれ、オーディションで削れた自己肯定感が埋まっていった
中学3年の時にレギュラー番組を卒業し、高校生になるとオーディションに落ち続ける苦しい時期に。幼少期から客観的に自分を見られるタイプで、俯瞰して冷静に自分の状況が分かるからこそ、オーディションに落ちる“認めてもらえない”“必要とされない”苦しみが深く、メンタルを病んでしまったと言います。
「ずっとのびのび生きてきたと思っていたけど、やっぱり不安でメンタルはまだまだ未熟だったんです。その未熟な精神の上に考え方だけは大人が乗っかり、追いついていなかった。そのチグハグがすごくしんどかったです。“私のことを本当に好きな人はいるのだろうか”“そのままの自分でいていいのだろうか”と不安がありました。ダンスも芸能活動も自分がやりたいと言ってやり始めたことだから、中途半端にやめられない。決めた自分を否定したくなかったのもあり、すぐにやめる決断ができなかったのもあります」

そこで出会ったのが料理でした。自分が生み出した料理で人を幸せにできる、自分が認められているような感覚に救われたと言います。高校時代に一番作ったのは、おにぎり。祖父が米農家だったため、材料費を抑えることができたんだそうです。
「レシピ本をそのまま作るのは結構お金がかかるので、私はおにぎりをよく作っていました。レシピ本で見た組み合わせや食材をおにぎりに転用するのが好きだったんです。ハーブやチーズを入れたり、珍しい食材を混ぜてみたり。そのおにぎりを友達に振る舞うとすごく喜んでくれる。オーディションで削れた自己肯定感が埋まっていく感覚があり、自分が必要とされていること・喜んでもらえることがシンプルに嬉しかったですね」
夫に“付き合いたい”と言われた時、“結婚する気はありますか?”と先に確認した理由
高校時代に料理に目覚め、22歳の時に芸能活動を引退。栄養学を学ぶため短期大学に進学し、同時期に結婚もします。
「人間関係を構築する上で、恋愛でごたつくことが一番もったないなと感じていました。付き合って別れたら、大切に重ねてきた2人の関係が0になってしまう。人生は積み重ねのはずなのに、恋愛が原因で構築してきた人間関係が無くなってしまうことがどうしても受け入れられなくて。そのせいか恋愛への憧れがなかったんです。

だから夫に“付き合いたい”と言われた時、この人間関係を失うわけにはいかない!と思い相当悩んで、“結婚する気はありますか?”と先に確認しました。イエスだったので付き合うことになり、そのあとは迷いなく結婚。付き合うハードルがすごく高いですよね。22歳で結婚したのは、今思うとかなり早かったなと思いますが(笑)。何歳であっても夫と結婚したいと思っていただろうし、後悔はひとつもありません。夫は、自分のことが大好きだと迷いなく言える強い人。愛情深く利他的で、毎日『私もこういう風に生きられたらなあ……』とうらやましく思うくらいです」
夫のアドバイスでマンダラチャートを書き、料理家としての目標設定やターゲットのペルソナ設定を行う
長谷川さんが料理家を目指そうと思った時、「好きなことをやったらいい」と背中を押してくれたのも夫でした。将来的に“どんな料理家を目指すか”を考えた時、夫のアドバイスでマンダラチャートを書き、目標設定やターゲットのペルソナ設定を行ったと言います。
「商品が私自身と料理になるので、まずは自分を知ることから始めるのが一番いいんじゃないかと言われ、何冊かマーケティングの本をおすすめしてくれました。そこから他の料理家とどう差別化していくか、どんな料理家を目指すかを考えました。マンダラチャートを書き、ペルソナを設定し、こんな料理家になるためには何が必要で、何が足りないか、そして何が強みかを具体的に書きました。

料理の発信をSNSからスタートし、その後に雑誌やメディアに行きたいと考えた時、戦略的に考えることやマーケティングの手法が活用できるかもしれないとアドバイスをくれて。そのおかげもあってか“35歳までに料理本を出す”目標も20代半ばで早々に達成できました」
目指すのは、生活が見える・顔が見える料理家。自分の顔を出して生活を見せるのは意図的にやっています
長谷川さんが目指すのは、生活が見える・顔が見える料理家。レシピの先にある料理家の人柄、生活も含めて知ってもらうことが、さらに大きな広がりになると考えています。
「たまに“顔じゃなくてレシピが見たいんですけど”と怒られることもありますが(笑)自分の顔を出して生活を見せるのは意図的にやっています。人と料理がつながってこないと、『私のレシピ』として出す意味があまりなくなってしまうような気がして。材料や洋食和食といったジャンルからワードを絞ってレシピを検索して作って、次の日にはまた料理サイトや雑誌でレシピを探して……というのも気楽で便利でなのですが、できれば私は、『長谷川あかりのレシピをつくりたい 』と、名前から思い浮かべてもらえる料理家になりたいと思っています。

レシピの奥に、そのレシピを作った生活者が透けて見えるようなレシピが好きなんです。料理家を知らずにレシピを読んでも、『このレシピ、長谷川あかりさんっぽいな』と感じてもらえるような料理がいいなと思う。料理を作っている人の顔が見えるということは、その料理家が発信している言葉やライフスタイルをまるごとレシピを通し感じ取ってもらうことができます。つまり、レシピが媒体として機能する。そうすると1つのレシピがただのレシピではなくなるというか。10にも100にも広がるメッセージ性の強いレシピとして、永く残るものになるんじゃないかと考えています」
スープ作家・有賀薫さんのアシスタント経験で、料理家としての基本のすべてを学ばせてもらった
長谷川さんは料理家として活動し始める少し前、尊敬する大好きなスープ作家・有賀薫さんのアシスタントを務めました。その経験も大きな糧になっています。
「有賀先生の料理も、レシピの先に生活者としての発信があります。もともと有賀先生の料理が好きで先生みたいな料理家になりたいと思っていたところ、ラッキーなことにアシスタントの募集があって採用してもらえました。余談ですが、当時は料理家として何かに特化した方がみなさんに覚えてもらいやすいかなと思って、その時炊き込みご飯が好きだったこともあって、炊き込み料理家でやっていこうかと考えている時期もありました。有賀先生のスープとの組み合わせもいいなと思って(笑)。

先生のもとで半年ほどですがアシスタントをさせてもらったおかげで、レシピの作り方や考え方、撮影の仕方、基本のすべてを学ばせてもらい、たくさんの方とも知り合いました。その半年後には本を出せることになり、意外と早く実現できたのもそこでの経験があったからこそ。感謝してもしきれません」
“しなくちゃいけない”家庭料理からの解放、自由な家庭料理を深めていきたい。私は自己犠牲ではない自炊がしたい
料理家としての目標達成マンダラチャートは年に1回更新し続けています。今後の目標、なりたい料理家像を聞くと、こんな思いを明かしてくれました。
「少し恥ずかしいのですが、40歳くらいまでに“令和の家庭料理”=長谷川あかり、という名前が挙がるように一つひとつのレシピを大切に作っていけたらと思っています。家庭料理ってあくまでも生活の中にあるものだから、時代とともにスタンダードが移り変わっていくのはごく自然なことだと思います。令和における家庭料理はもはや 、”してもしなくてもいいもの”になっています。無理をしないことが第一優先になりつつある。だけど自由に料理ができる選択肢をもっておくことで自分の心身の健康は支えられるし、料理って本来はもっとポジティブなものだと思うのです。自分のために少しでもいいから手をかけて食事を用意すること、その行為そのものがセルフケアにもなる。

“しなくちゃいけない”家庭料理からの解放、自由な家庭料理を深めていきたい。してもしなくてもいいけど、私は自己犠牲ではない自炊がしたいんです。料理を作ることの意味は時代によって変わると思うので、今の時代だから必要な家庭料理を自分なりに再定義していけたらいいなと思っています」
My wellness journey
長谷川あかりさんに聞きました
心のウェルネスのためにしていること

「とにかくよくしゃべります。考えていることも多いんですけど、頭の中がごちゃごちゃしているほうが心地いいんですよね。それを順番に整理して、また戻してというのを慌ただしくやっています。疑問があればすぐに調べるタイプでもあります。私はデジタルまみれが心地よくて、いつも情報に触れていたいんです(笑)。料理をする30分や1時間の集中はデトックスになりますが、デジタルから離れて森に行くとか、スマホを見ないとかは無理ですね。がちゃがちゃした空間が好きだったり無音が苦手だったりもして、家ではよくPodcastを流していたりします」
体のウェルネスのためにしていること
「何を食べたいかずっと考えています。一日中、今日食べたいものをずっと探し続けています。お酒も大好きなので、何を飲もうかなとも考えています。最近の朝ごはんのルーティンは、コーヒーと豆乳を混ぜた豆乳ラテを飲みます。お米は毎日食べますし、おやつはおにぎり、たんぱく質が不足しないようにゆで卵もよく食べます。基本朝昼晩しっかり食べるというより、撮影があると不規則になるので、お腹が減ったときに食べるスタンスですね。そうしないと体が重たくなってくるので。あとは散歩も好きですね。散歩しながらおしゃべりするのが好きで、合間にカフェに入ってお茶をしたり、甘いものを食べるのも最高です」
インタビュー前編はこちらからお読みいただけます
Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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