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私のウェルネスを探して/長谷川あかりさんインタビュー前編

【長谷川あかりさん】オーディションに落ち続け、すり減った心が「料理」「レシピ」によって救われた感覚を、より多くの人と共有したい

  • LEE編集部

2025.04.05 更新日:2025.04.07

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長谷川あかりさん

今回のゲストは、料理家・管理栄養士の長谷川あかりさんです。長谷川さんは、数多くのメディアでシンプルながらおしゃれで体にも優しい、センスのある料理を提案してきました。またSNSでもバズるレシピをいくつも紹介し、“簡単”“おいしい”“自己肯定感が上がる”と話題を集めています。
 
インタビュー前半では、長谷川さんの最新レシピ本『わたしが整う、ご自愛ごはん 仕事終わりでもサッと作れて、じんわり美味しいレシピ30days』(集英社)について話を聞きます。どんなに疲れていても“これなら作れそう”と思えるレシピが生まれる背景、“料理=セルフメディテーション”という考えにたどり着いた料理と長谷川さんの関係についても掘り下げます。(この記事は全2回の第1回目です)

初めにレシピ名を決め、頭の中で試作を重ね、しんどい時に見返してときめいたらリアルで試作する

長谷川さんのレシピは、いくつものプロセスを経て完成します。その第一関門が「レシピにときめくかどうか」。元気な時ではなく、疲れている時やしんどい時に見て、「それでも作りたい」「作ってもいい」と思えるものが合格ラインです。
 
「私はまず初めにレシピ名を決めます。解決すべき課題を設定し、そこからコンセプトを決めて外枠だけを作り、それから自由に想像してレシピを考えます。妄想の中で料理を作ると、無限に広がるし自由度も高いんです。時間、材料の制約もないし、失敗しても無駄がない。目の前に食材がある状態で作ると、失敗したくないしなるべく早く進めたくなる。結果、どうしても同じ流れになってしまって、広がりがなくなってしまうんですよね。同時に頭の中で試作も行います。それで出来上がったレシピを、疲れている時・しんどい時に見返して、ときめくようならクリア。その段階で、やっとリアルの試作に入ります。ゴールはすでに見えているので、試作も1回か多くて2回で済むんですよね」

長谷川あかりさん

「料理は日常の中にある」「レシピを見て作りたいと思えないと意味がない」の考えのもと、どんな時でも作りたいと思えるレシピ。料理は時代とともに変化するからこそ時代にあったレシピを作ることが、長谷川さんの大きなテーマです。

「今は誰もが料理教室に通う時代でもないし、根本的に料理が上手になりたいと思って料理を作っている人はそれほど多くないと思っています。なぜなら、料理を基礎からしっかり教わりたい、上手になりたいというのは『生きるために必要な料理』より少し先のフェーズにあると思っていて。例えば、大学生・社会人になり一人暮らしを始めて、息つく間もなく生活が始まる中で急に自炊をすることになる。技術的な料理の上手い・下手を解決する余裕がないまま生活のための料理を回していかなくてはならないので、とりあえず真似すれば形になる『レシピ』で日々を楽にしたい・助けてほしいという思いがあるような気がしています。

長谷川あかりさん

と同時に、今の若い人は健康意識や美意識も高いですし、親の世代はまで専業主婦だったという方も少なくないため、”適当料理”や”毎日同じ食事”といったことに抵抗がある人も多い。楽になりたいはずのに、ただ楽になるだけのレシピでは物足りないという自分の中の小さな矛盾に悩んでいる方が多いのではないかと考えます。そこを料理がつないでいくような役割を担いたいんです。 この一皿の料理が“今日のあなたをこう良くする”“こう変えてくれる”みたいな。生活する人、食べる人に寄り添う料理ですね」

結婚して“趣味の料理”から“生活の料理”に変わった瞬間、料理が全然楽しくなくなった

料理=生活する人に寄り添うもの。その考えに至ったのは、自分のライフスタイルが変化し、「生活のために料理をする」ようになったからだと言います。
 
「もともと趣味で作る料理が好きで始めたので、“料理って本当に楽しいな”と思っていました。レシピ本を見て“これを作りたい”“これもおいしそうだな”とこれから作るレシピのリストを貯めていくのが好きだった。だけど結婚と同時に栄養士の資格を取るために短大に入って“趣味の料理”から“生活の料理”に変わった瞬間、料理が全然楽しくなくなったんです。その時に、どれだけ上っ面で料理をしていたんだろうと反省しました。私が作っていた料理とみなさんが直面している料理は別物、それを一緒にして“料理が好き”“料理って、いいよね”なんて言えないと思いました。同時に、生活のためにただひたすらに料理を作り続けることはできないとも」

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“生活に全振り”“簡単・時短”がいいのかといえば、そうでもない。料理をすることで気分が上がり、趣味的に楽しめる一面があり、かつ自分自身を癒してくれる要素があるもの。そんなレシピを作ればいいと思うようになりました。

義務感ではなく“この料理だったら作ってあげてもいいよ”と自分に思わせてくれる料理があったら…とレシピを作り始める

「時間はない、趣味ほどお金もかけられない。趣味的な要素を持ちながら、高揚感もあって、生活にもフィットするちょうどいい料理があったらいいなと思いました。やらなきゃいけないものは辛いけど、やってもやらなくていいけど、自ら望んで取り組むものって楽しいですよね。ということは、やらなきゃいけないものを主体的にやっている感覚にすり替えてくれるレシピがあればいいんだと気づきました。

長谷川あかりさん

例えば私の場合、手早く作れる料理はうれしいしすごく助かるけれど、あまりにも簡単すぎると『わざわざ手をかけて作った料理!』という感覚が得られず、少し損した気持ちになってしまうんです。簡単レシピ、手抜きレシピ、と言われてしまうと、なんだかもやもやして心の満足感が得られない。そうなると、これならお惣菜を買ってきた方がトータルでよかったんじゃ?と思う。せっかく作ったんだからInstagramにも上げたいし、料理を誰かに認めてもらいたい。体に悪いのは嫌だし、おいしくないのも嫌だ。かけた手間とコストを見た時にパフォーマンスが高ければ満足できるけれど、そこが釣り合わないことにモヤモヤするんです。すごくわがままで妥協したくないんですよね。私の中にある“嫌”を排除して、義務感の料理ではなく“この料理だったら作ってあげてもいいよ”と自分に思わせてくれる料理があったら……と思い、レシピを考え始めました。上から目線ですよね(笑) 」



芸能活動中のオーディションに落ち続け、メンタル的にしんどい時期を「料理」「レシピ」に救われる

長谷川さんが料理を始めたのは高校生の時。芸能の仕事を小学生から始め、中学2年の頃には忙しさがひと段落し、オーディションに落ち続ける日々が続きました。メンタルが落ち込み食べることが難しかった時に、自分を救ってくれたのが料理でした。
 
「高校に入って仕事がなくなり、オーディションで落ち続けました。喪失感でメンタル的にしんどい時期は、食欲がすごく落ちてしまいました。食欲がない中、食べたいと思える料理がどこにあるんだろうと探したら、料理本の中にありました。知らないハーブを使った料理、知らない国の料理。面白そうと思って作ってみると見たことのない料理ができあがる。オーディションで落ちる経験が続くと、本当はそんなことはないのだけれど、世間や大人から“あなたは必要ない”と言われ続けているような感覚になってしまって。私にはなんの価値もない、何もできない人間なんだと、自己否定のループに入ってしまっていました。

レシピ本
長谷川さんのお気に入りのレシピ本たち。

そんな中でもレシピはその通りに作るとおいしくできて自分はもしかして天才なんじゃないか?という自信をもたらしてくれました。 家族も友達も喜んでくれて、『私はありのまま生きているだけで価値がある』と、自分のすり減っていた心を満たしてくれたのです。レシピってすごい媒体だな、と思いました。この、私自身がレシピによって満たされ救われていった感覚を、より多くの人に共有したいと思ったことが、今の仕事につながっています」

料理=セルフメディテーションの効果がある

料理をしている時、自然と自分の心がほぐれていく。煮込んでいる間、いい香りに包まれて幸せな気持ちになる。出来上がって“おいしい”だけではなく、料理=セルフメディテーションの効果があると、長谷川さんは言います。

長谷川あかりさん

「料理が作業になってしまう悲しみってありますよね。だけど週に1回でも2回でも、なんなら作らなくてもレシピ本や雑誌を眺めて、“この料理作りたい”“これはどういう味がするんだろう”と考える時間があることにレシピの価値があると思っています。自分の食欲のポイントがどこにあるのかに向き合う。食べることと生きることは直結しているので、その瞬間が今の状態を一番感じられる行為だと思います。昨日はピリ辛スタミナ系料理のレシピにわくわくしていたけど、今日は旬野菜を素材の味を生かした煮物にときめいたり。“今日はどんな料理を食べたいのか”という問いかけにこそ、レシピの価値があると思っています」

「食べたいものを自分の手で好きなように作り出せる」という小さな自信

最も手放してほしいのが“料理をしなくてはいけない”という呪縛。外食、中食、コンビニ……食へのアクセスが容易になった現代人において、自分の手で1から100まで作る料理はもはやマストではありません。でも、「食べたいものを自分の手で好きなように作り出せる」という小さな自信が大切だと言います。
 
「料理って、ひとつの正解やルールを求めがちなジャンルだと思いますが、私はこだわりがないですし、こうしなきゃいけないとも思っていません。よくレシピ見ないで作れる人がすごい、料理上手という神話がありますが、レシピを見て料理を作ったのはその人自身で、作った段階でその人の料理なんです。“長谷川さんのレシピのおかげでおいしくできました”と言ってくださる方も多いんですけど、それはあなたの実力ですから、もっと自信をもってほしい! 

長谷川あかりさん

料理がそれぞれの家庭でどう作られて、その人の人生にどう馴染んでいくかにすごく興味があるんです。例えばレシピの食材を置き換えてくださったり、何かを足してくださったり。私のレシピはあくまでも、私の生活であり人生だから。同じレシピがスタートになっていたとしても、必ずそのレシピは各々の生活の中で全く別物に育っていくと思うんです。今の価値感とは違う古い言い方かもしれませんが、それがいわゆる『おふくろの味』になるのではないでしょうか。『おやじの味』『家庭の味』、なんでもいいんです。失われつつある家庭独自の食文化にすごく興味があるので、私のレシピがそのベースになったらこんなにうれしいことはないと思っています」

家で食べるごはんは、外食と違ってケア的要素がある

そんな考えを経て生まれた本が『わたしが整う、ご自愛ごはん 仕事終わりでもサッと作れて、じんわり美味しいレシピ30days』です。雑誌『BAILA』の人気連載に、オリジナルレシピを加えて書籍化しました。連載時から構成を大きく変え、“美容”“限界丁寧”などテーマ別にレシピを紹介、平日5日間続けられる4週分のレシピカレンダーなども追加しました。

長谷川あかりさん わたしが整う、ご自愛ごはん
長谷川さんの最新レシピ本『わたしが整う、ご自愛ごはん 仕事終わりでもサッと作れて、じんわり美味しいレシピ30days』/¥1650(税込)

「『BAILA』は初めて料理のお仕事をいただいた雑誌。さらに、『ご自愛ごはん』が初の連載でした。レシピは基本的にはミニマムな献立形式の2品を、リアルに自分のために作る料理を紹介するというコンセプトでした。自分のため、自分を楽にするためのごはんです。今の時代、自炊をする意味を考えると、できたての温かいものをその場でいただけることに意味があると思っています。家で食べるごはんって、外食と違ってケア的要素があると思っていて。そうなると胃にも負担がかからない、汁気が多いものが多くなる。炒め物や揚げ物はテクニックが必要なものが多いのですが、煮込みやスープは失敗が少ないんですよね。誰でも成功しやすくて作りやすい、どんな具材でもカバーできる余白がある。だからスープ系、汁だく系のレシピが多めです」

レシピは誰かのために作るものではなく“自分のため”のもの。好きなように生きて、好きなように料理しようぜ!

レシピは誰かのために作るものではなく“自分のため”のもの。食べることの先に生きることがあり、好きに生きてほしいという裏のメッセージが込められています。
 
「自分軸で考えてもらうために、タイトルに“ご自愛”という強めの言葉を入れていますが、私は基本自分のために料理するのが得意じゃないんです。やっぱり食べてくれる人がいた方がモチベーションが上がるし、食べてくれる人のリアクションで気分が上がるんですよね。もう少し高い視点になって、誰かのために作る料理であったとしても、喜んでもらって自分が嬉しいとか、自分のためになる料理であればそれも含めて『ご自愛』だと思っています。なんだったら、料理を作らなくてもいいし、本を眺めてもらうだけでもいいんですよ(笑)。食べることは生きることで、こういう料理が作れたら素敵だし、何も諦めなくてもいいという一冊になっています。

長谷川あかりさん

おしゃれな料理を作りたい、健康も意識したい、料理を作るのに悩みたくない。そんな裏腹なことに一本筋を頑張って通した本なので、ぜひみなさんに読んでほしいです。使い勝手がいい、自分の生活にカスタマイズしやすい本です。その先にあるのは“好きなように生きていこうぜ”“好きなように料理しようぜ”というメッセージでもあり、みんなにそう生きてほしいし、私自身も生きていきたいと思います」

(後編につづく)

My wellness journey

私のウェルネスを探して

長谷川あかりさんの年表

1996

埼玉県生まれ

2007

『天才てれびくんMAX』(NHK)の出演スタート

2018

結婚を機に、芸能界引退。短期大学に入学

2020

大学に編入

2021

スープ作家・有賀薫さんのアシスタントになる

2022

管理栄養士の資格を取得、大学を卒業。『クタクタな心と体をおいしく満たす いたわりごはん』(KADOKAWA)を出版

2023

『つくりたくなる日々レシピ』(扶桑社)、『材料2つとすこしの調味料で一生モノのシンプルレシピ』(飛鳥新社)を出版

2024

『いたわりごはん2 今夜も食べたいおつかれさまレシピ帖』(KADOKAWA)、『長谷川あかり DAILY RECIPE Vol.1 』(扶桑社)、『水曜日はおうちカレー~クタクタな日こそ、カレーを食べよう。』(大和書房)、『米とおかず』(光文社)、『長谷川あかり DAILY RECIPE Vol.2 』(扶桑社)を出版

2025

『フライパンひとつで作るゆるごちそう 煮込み・蒸し・スープ』(扶桑社)、『時間が足りない私たちの新定番「私、天才かも!」レシピ』(講談社)、『わたしが整う、ご自愛ごはん 仕事終わりでもサッと作れて、じんわり美味しいレシピ30days』(集英社)を出版

Staff Credit

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

おしゃれも暮らしも自分らしく!

LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
そんな存在でありたいと思っています。
ファッション、ビューティ、インテリア、料理、そして読者の本音や時代を切り取る読み物……。
今読者が求めている情報に寄り添い、LEE、LEEweb、通販のLEEマルシェが一体となって、毎日をポジティブな気分で過ごせる企画をお届けします!

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