FOOD

料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)第14回

かつて“給食で傷ついた”大人も見ればトラウマ克服?『おいしい給食』【きな粉揚げパン(風)のレシピ付き!】

  • 今井 真実

2025.03.28 更新日:2025.03.29

この記事をクリップする

Yummy!

今月のミニレシピ

給食のアイドル「きな粉揚げパン」(風)

今井真実さん 給食のアイドル「きな粉揚げパン」(風)

バター10gを耐熱容器に入れてラップをかけて600w30秒温めます。コッペパンに満遍なく塗って、トースターで150w5分焼きます。砂糖小さじ2、きなこ小さじ1をまぶせば出来上がり。バターでリッチな揚げパン風です。

恐怖だった「給食」の時間を思い出す…そんな憂いを見事に裏切ってくれた『おいしい給食』

最初は見るの、やだなあと思っていたんです……それが、今やこんなに愛おしくなってしまうなんて……今、私が毎日繰り返して見ているドラマ、それが『おいしい給食』です。

ずっとこのドラマの存在は知っていました。しかし、市原隼人さんの熱血教師のようなビジュアルも、給食というテーマも、私にとって苦手な要素があまりに多く避けていたのでした。

と、いうのも、私は、学校が苦手な子ども時代を送り、その中でもとりわけ恐怖だったのが「給食」の時間!

食べるのも遅く、いつも時間が過ぎても食べ切れない私に教師は容赦無く圧をかけてきました。まだ体罰や、強い言葉が許されていた時代。叱られるのは本当に怖くって、クラスメイトから注目されることも恥ずかしかったんです……。小学校6年間、ついぞ給食の時間を一度も楽しむことはありませんでした。

そんな私にとって、このドラマを見たくなる理由はありませんでした。しかし、ある日息子が「おかあさん、このドラマいっしょに見よう!」とキラキラした顔で言ってくるものだから……ああ仕方がないと覚悟を決めたのです。

熱血先生苦手なんだけどなあ。……しかし『おいしい給食』、そんな私の憂いを見事に裏切ってくれたのでした!

熱血漢(風)だけど、清々しいほど給食以外に興味がない甘利田先生

舞台は1980年代。地方の自然豊かな場所にある常節(とこぶし)中学校。

市原隼人さん演じる甘利田幸男先生は中学1年1組の担任教師です。

冒頭、校門に立つ、甘利田先生。登校してくる生徒に朝の挨拶をして、生徒の服装の乱れを厳しくチェックしています。しかし、頭の中ではまったく違うことを考えているよう。

「私は給食が好きだ。給食を食べるために学校に来ているといっても過言ではない」という甘利田先生の語りから物語は始まります。なんでも、母親の料理はまずく、給食は1日の中で最も充実した食事なのだそう。

おいしい給食 市原隼人さん

甘利田先生は、朝から今日の献立である「鯨の竜田揚げ」にテンションがマックス! 早く昼になれ、と願っています。だけども、顔は怖い。なぜなら甘利田先生は教師たるもの、給食が何よりの楽しみだということは知られてはならない、教師としての威厳を失ってしまうと思っているからです。

彼の職員室での日課は、献立表をクリアケースに入れて、ハンカチできれいに磨き上げながら今日の給食を想像すること。その顔はとろけきって、まるで子どものようです。

そして先生、顔が怖いだけで、全然熱血ではありませんでした。基本的に生徒に高圧的ではあるものの、清々しいほど給食以外に興味がありません。しかしそんな先生にもときおり例外が。給食や食に絡むことには、熱を持ち生徒に強く叱責するのです。

おいしい給食

ちなみに甘利田先生、給食好きをひた隠しにしていますが、まったく隠せていません。給食を食べる前に歌う校歌は、いつもノリノリで踊り狂いながら熱唱します。もうすぐ給食が食べられるという喜びでボルテージもマックス。しかし、なぜかそれを気にする生徒はいません。きっと毎日の習慣に慣れてしまったのでしょうか。これは、もうすでに給食好きがバレているに違いありません。

そして食べている最中だって、テンションが上がり過ぎて挙動不審。鯨の竜田揚げに耳をすましたり、ガッツポーズを取ったり。明らかにおかしいのです。甘利田先生は豊富な知識に基づいた含蓄を(頭の中で)語りながら、出されたものをそのままウヒョウヒョと素直においしく食べます。



給食をアレンジし、おいしさを最大限楽しむ天才・神野くん

そんな甘利田先生のライバルは、彼のクラスの生徒、神野ゴウ。

彼は給食に独自のアレンジを施し、おいしさを最大限楽しもうとする天才です。神野くんのそれは、もう給食を使った「料理」と言ってもおかしくない域。

甘利田先生はお腹が満ちると、いつも我に帰り、神野くんの給食の食べ方に衝撃を受けるのです。

神野くんはあらゆる手段を使い給食をさらにおいしく昇華させます。そんな神野くんに、甘利田先生は畏怖を覚え、毎日給食のたびにKO負けをしたかのようにダメージを受けるのでした。

おいしい給食 佐藤大志さん

また神野くんも甘利田先生を常に意識しています。給食アレンジをしたあとは、甘利田先生に「こんなの作ってみました」といわんばかりの表情で給食アレンジを見せながらにっこりと微笑みかけるのです。その顔もまたいいんです!

神野くんは、実際すごい。中学1年生にして、自分で自分を幸せにする術を知っているんです。甘利田先生は神野くんに挑発されていると思い込み、ライバル視していますが、神野くんは違います。彼は、甘利田先生を給食が大好きな仲間だと思い尊敬し、おいしさを分かち合いたいのです。甘利田先生よりずっと器が大きい……!

そんな独自の給食道を歩むふたり。回を重ねることに、甘利田先生と神野くんが、共通の愛するものを通して通じ合っていく様子がまた愛おしく、なぜだかちょっと切なさまで感じます。

かつて給食で傷ついた私も救われるようなシーンに、このドラマの懐の深さを感じた

初回、給食が苦手な女生徒が登場します。

彼女は給食費が無くなって納めていないので、今日の給食は食べませんと甘利田先生に言います。実は給食費が無くなったこと自体、彼女の狂言で、理由は給食を時間内に食べ終わることができないプレッシャーからでした。

保健室にこもった女生徒に、「そんなこと気にしないで、ゆっくり食べればいいのに」と言ったのは新人教師で副担任の御園 ひとみ先生。

女生徒は辛い気持ちを吐露します。

おいしい給食

「先生、給食時間の短さナメてませんか? たった15分ですよ」「給食が遅い子っていじめられるんです。小学校6年間いじめられました。理由は食べるのが遅いからです」。

そしてお昼、甘利田先生の指示で、副担任の御園先生は給食を女生徒の分まで運び、ゆっくり一緒に保健室で食べようと提案します。

女生徒は先生と給食を食べながら言いました。

「おいしい。鯨の竜田揚げっておいしいんですね」

「初めて食べるの?」

女生徒は少し微笑んで答えます。「いつも味なんて感じなかったから……おいしい」。

今日は早く食べ終われますように。小学生の頃、私はそんな風にいつも思い、給食係の子にほんのちょっぴりよそうように頼み込んでいました。私も、正直給食の味なんてわからなかったんです。

食事って、ただ味の問題じゃなくて、食べる時の状況や、心の状態も関わってきます。給食で傷ついたかつての子どもも救われるようなシーンに、このドラマの懐の深さを感じました。

自分で自分を縛りがちな大人の胸に響く「給食はもっと自由でいいと思うんです」という言葉

そして、甘利田先生、給食にしか興味がないように見えますが、生徒のことをよく観察しているんです。しかし、感情移入をするのは給食だけ。

見れば見るほど甘利田先生はおかしいし、変なドラマなのに、毎回ラストシーンはしんみり。そしてその瞬間、「だーいじょーぶ、どんなときもー」と主題歌が流れるんです!

あれ? そんな感動するドラマだったっけ?と自問しながら、なぜだかいつも泣きそうになってしまうんです! なんなの!?

おいしい給食

「給食はもっと自由でいいと思うんです」という神野くんの言葉。こうしなければならない、と自分で自分を縛りがちな大人の私にはとても胸に響きます。

ドラマはシーズン3まで続き、シーズンが終わるごとに映画が公開され、なんと今年は新作映画も公開されるそう!

神野くんは中学1年生だったのに、いまやすっかり青年に。しかし、いつ見てもまったく色褪せないこのドラマ。ぜひお子様と大笑いしながら、ご覧ください。

私の息子は神野くんを見習い、出されたご飯をふつうに食べないアレンジ魔になってしまいました。黙って見守るのに苦労しています。

(『料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)』は毎月最終金曜日更新です。次回をお楽しみに!)


Staff Credit

撮影/今井裕治(料理写真)

Check!

あわせて読みたい今井真実さんのレシピはこちら!

今井 真実 Mami Imai

料理家

レシピやエッセイ、SNSでの発信が支持を集め、多岐の媒体にわたりレシピ製作、執筆を行う。身近な食材を使い、新たな組み合わせで作る個性的な料理は「知っているのに知らない味」「何度も作りたくなる」「料理が楽しくなる」と定評を得ている。2023年より「オージービーフマイト」日本代表に選出され、オージービーフのPR大使としても活動している。既刊に、「低温オーブンの肉料理」(グラフィック社)など。

この記事へのコメント( 0 )

※ コメントにはメンバー登録が必要です。

LEE公式SNSをフォローする

閉じる

閉じる