私のウェルネスを探して/佐藤卓磨さんインタビュー前編
【佐藤卓磨さん】プロバスケットボール選手兼2児の父が「絵本」を通じた社会貢献活動に込めた想い
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LEE編集部
2025.02.08

今回のゲストは、プロバスケットボール選手の佐藤卓磨さんです。佐藤さんは現在はBリーグの名古屋ダイヤモンドドルフィンズに所属していますが、千葉ジェッツに所属していた2022年、社会貢献活動として絵本『ぼくはキリン』を制作。絵本は、千葉県内や名古屋市内の幼稚園や保育園、児童施設に配布され、2024年10月には303BOOKSより販売されました。
前半では、『ぼくはキリン』が生まれた背景や物語に込めた思いを聞きます。バスケットボールを始めたのが10歳、今でも「バスケットをしている時間が楽しい」という佐藤さんが気づいた“誰にでも強みはある”というメッセージ、絵本やバスケットを通じて伝えたいことを掘り下げます。(この記事は全2回の第1回目です)
母に読んでもらった記憶、子どもへの読み聞かせの習慣…幼少期から好きな「絵本」を通じた社会貢献活動
佐藤さんが絵本を作ったのは、幼少期から絵本が好きだったこと、親に読み聞かせしてもらっていたことがきっかけでした。
「社会貢献活動として何をするか考えた時、自分の好きなことをやりたいと思って。小さい頃に母に絵本を読んでもらっていた経験があり、かつ自分も子どもがいて読み聞かせをしています。ちょうどコロナ禍で人と会うことができない中で、間接的に思いを届けられるもの、形に残せるものがいいと絵本になりました。最初はクラウドファンディングで制作し、そのリターンとしての絵本をお渡ししようと思っていました」

どんな絵本にするか、担当編集者と話し合いながら物語を練り上げました。伝えたいのは“誰にでも強みがある”こと。その思いは、幼少期からのスポーツ体験や佐藤さんがチームを移籍して初めて感じたプレッシャーから気付かされたことでした。
「4年前に滋賀レイクスターズ(現:滋賀レイクス)から千葉ジェッツに移籍したのですが、日本屈指の強豪チームに入って、いきなりスタメンとして起用してもらって。ありがたいことですが、すごくプレッシャーに感じました。学生まではただ好きでバスケットをやっていたのが、プロになるとスポンサーさんがいてお金をいただいてバスケをやることになる。勝つことはもちろんですがエンタメとしてのバスケットを見せなくてはいけない。“最後の1秒まで頑張らないと失礼になる”とも言われました。そんなプレッシャーの中、ヘッドコーチに言われたのは“卓磨の強いところだけ伸ばせばいいんだよ”という言葉でした」
小4でバスケに出会い「これで両親を振り向かせられる!」と思ったのを今でも覚えている
佐藤さんは北海道生まれ、父と母、兄、祖父母という家庭で育ちました。母親が元バスケットボール選手だったこともあり、とにかくスポーツ大好き一家。幼少期からさまざまなスポーツに取り組み「好きなことを見つけなさい」と言われてきました。
「サッカー、テニス、スキー。スキーは3歳から始めて、小学生の頃は週4で通うくらい好きでした。バスケットに出会ったのは小学4年の時。4つ上の兄は勉強ができてハンドボールも得意で“兄に負けたくない”という競争心から“何か自分に合うスポーツはないか”と探していました。バスケットに出会った時“これで両親を振り向かせられる!”と思ったのを今でも覚えています」
























他のスポーツと違ったのは、観戦してもプレーをしても楽しく、体も動かしやすかったこと。自分の中で“これだ!”と確信を持ちました。
「小学5年の時には世界選手権の試合を観戦。実際にプロのバスケット選手と練習をする機会もあったりして、よりバスケットが好きになりました。始めた当初は全然上手くなかったんですが、親が“失敗したっていいじゃない”“やってみたらいいよ”と全肯定してくれました。中学・高校になると僕より上手な子はたくさんいましたが、“絶対1番になる”“プロになる”という気持ちは変わりませんでした」
「自分に自信が持てないキリン」がバスケットボールに出会い、自分の“強み”に気づく物語に込めた想い
絵本『ぼくはキリン』の主人公は、自分に自信が持てないキリン。何をやってもうまくできず、みんなと一緒に遊べないキリンがバスケットボールに出会い、得意なこと、好きなことを見つけ、“強み”に気づく物語です。
「子どもに伝える絵本を作るなら、主人公は動物がいいなと思って。人気の動物といえばライオン、ゾウ、キリンあたりで、最初はゾウがいいなと思っていたら、当時の所属クラブの大人気マスコットと被っていたのでやめました(笑)。背が高い動物ということでキリンになったのですが、結果的に僕に似ていました(笑)。絵を担当したカワダクニコさんがとても魅力的に描いてくれました。振り返って気づいたのは、好きなことは強みだし、できることは強みになる。子どもは自然とそれができると思うので、好きなことを強みにして伸ばすことが大事だと改めて思いました」

他の国の選手とプレーをしたり、これまでのチームメイトの国籍もさまざまだったりと、バスケットボールを通じていろいろな文化に触れてきました。国や宗教で指導の仕方・伸ばし方が違っていることにも驚いたと言います。
「育った国や地域によって、やりたいように自由にのびのびやってきた人、試合後に映像を見ながら叱られた人、指導者にも“褒めて伸ばす”タイプと“しごかれて強くする”タイプがあったりと、それぞれ違っています。僕自身が思うのは“褒めて”“勝手に育つ”のが理想かなと思っています。僕の両親がそうだったように、相手を認めて全肯定で支えてあげること。それが強みを見つけたり、伸ばすことにつながるんじゃないかと考えています」
絵本を読むことも、バスケットを教えることも、ある意味似ている。子どもたちが笑顔になる瞬間が一番幸せ
佐藤さんは絵本を持って図書館や園、児童施設に読み聞かせに行っています。自身もふたりのお子さんを持つ親として、絵本の大切さ、読み聞かせをする喜びを実感しています。
「小さい頃は、まさかプロバスケットボール選手になって絵本を作って、人前で絵本を読み聞かせるなんて想像もしませんでした(笑)。ふだん子どもに読む時は自分の膝の上に乗せて読みますが、何十人という子どもの前で絵本を読むなんてやったことがありませんでした。どうしたらいいか悩んでいたら、園や施設の方に“相手の目を見て読むといいよ”とアドバイスをもらって。昔母に読んでもらったように感情を込めて読んだり、キャラクターごとに声色を変えたり工夫するようにもなりました。最初は子どもたちの反応が薄いかなと思っていましたが、物語が進みキリンが活躍するにつれて盛り上がってくるのが楽しいですね」

絵本を読むことも、バスケットを教えることも「ある意味似ている」と佐藤さん。同じ目線に立ち、目を見て伝える。伝えながら子どもたちが笑顔になる瞬間が一番幸せだと言います。
「プロバスケット選手として子どもたちに教える機会もありますが、僕らにとって日常であっても子どもにとってはバスケットの魅力を知ったり、もっと好きになるかもしれないキラキラした一瞬です。だからこそ、その時間は集中して向き合いたい。それは絵本を読み聞かせる瞬間も同じですよね。目を見て、語りかけるように読む。終わった後、子どもが笑顔になってくれる瞬間が一番嬉しいですね」
バスケットを通じてみんなに元気になってもらいたい。落ち込んでいる時に僕やメンバーのプレーを見て「頑張ろう」と思ってもらえたら嬉しい
バスケットを通じてみんなに元気になってもらいたい。人には上向きな時もあるし下り坂の時もある。それらを受け入れながら、前向きになれるような力を与えられたらと願います。
「自分やチームのメンバーのプレーを見て、来た人がワクワクするようなプレーをしたいです。人生って、良いこと悪いことがあると思うんですけど 、特に悪い時や嫌な時、落ち込んでいる時に僕やメンバーのプレーを見て、頑張ろうと思ってもらえたら嬉しいです。もしバスケットができなくなっても、人に勇気を与えられるようなことをし続けたいですね。日本だけではなく海外でもそんな活動をできたらと思います。プロ選手のイメージって、勝ち続けてきた人、強いイメージの選手が多いと思うんですけど、僕は挫折も多いし、良くない時期もありました。もし2冊目の絵本を作るとしたら、そんなことを伝えられたらと思います」

もうひとつの願いがバスケットボールをより多くの子どもに知ってもらい、触れてもらう機会を増やすこと。バスケットボールが盛り上がり、新しい選手がどんどん生まれることも期待しています。
「たとえば“ディズニー”の物語やキャラクターって、小さい頃から見ていて身近にあり、みんなが好きですよね。それと同じようにバスケットが身近にあり、試合観戦したり、普通に好きな選手がいたりするのが理想です。そして第二の八村塁選手や 河村勇輝選手が 生まれて欲しいです。この2年ほどでバスケット、Bリーグはどんどん盛り上がってきています。この流れで、もっとみんなに愛されるスポーツになること、バスケットの“ディズニー”化が最終目標です」
(後編につづく)
My wellness journey
私のウェルネスを探して
佐藤卓磨さんの年表
1995
北海道札幌市生まれ
2012
高校3年時にU18日本代表に選出される
2013
東海大学に進学し、1~3年までインターカレッジ準優勝を果たす。3年時には李相佰盃日本代表選手に選出。4年時には、バスケットボール部のキャプテンに、また李相佰盃日本代表選手に選ばれ、優勝を果たす
2017
滋賀レイクスターズ(現:滋賀レイクス)に入団
2020
千葉ジェッツふなばしに入団
2023
名古屋ダイヤモンドドルフィンズに入団
2024
『ぼくはキリン』(303BOOKS)を出版

Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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