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私のウェルネスを探して/三宅香帆さんインタビュー後編

【三宅香帆さん】夫婦喧嘩の解消には「議論」を。無理に意見を合わせず自分の考えを伝えられることは、生きやすさに繋がるはず

  • LEE編集部

2025.01.05

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三宅香帆さん

引き続き、三宅香帆さんに話を聞きます。三宅さんの撮影は、神保町の古書店街で行われました。撮影の合間に本棚を見てまわり、「これ欲しかったんですよ」と本を買うこと数回。撮影終わりには、本が入った紙袋がいくつも増えていたのが印象的でした。

後半では、読書好きの三宅さんが育まれるまでと20代で結婚を決めた理由、夫婦喧嘩を“議論”で解消する理由について聞きます。最近みなさんは夫婦で話し合いをしていますか。三宅さんは議論=コミュニケーションと言います。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む

作家の恩田陸さんが、私にとってのブックガイド的存在

三宅さんは高知県生まれ。読書好きだった母親の影響で幼少期から本や漫画に親しみ、成長しました。

「田舎だったのでテレビ局は3局だけ、テレビ朝日・テレビ東京は大学に行ってから見ました。高校の修学旅行で東京に行った時“「ミュージックステーション」が生放送だ!”と盛り上がってましたから(笑)。私たちの世代は中高時代にアニメが流行り出した世代でもありますが、私はテレビを見ることはあまりなく、本やインターネット中心に育ちました。だから同世代が好きだったアニメやBLもあまり見ておらず、ほとんどが本や漫画で楽しんでいましたね」

三宅香帆さん @ワンダー
LEE編集部から至近の神保町の古書店・@ワンダーで撮影をさせていただきました。三宅さんだけでなく『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』担当編集と本記事担当編集ディレクターも思わず本を買ってしまいました! http://atwonder.blog111.fc2.com/

幼少期からピアノを習い、高校時代はコーラス部に所属。自身のエッセイ『それを読むたび思い出す』(青土社)には、その時の経験を「音楽は、生活のかなり大きな部分を占めていた。しかしその大半の時間が、けっこう、苦痛だった」と振り返っています。

「私は向き・不向きがはっきりしている人間で、好き・嫌いもはっきりしています。音楽は聴くのは好きですが、プレイヤーとしてはあまり向いていないんだなと思って。練習している子を見ると上手い子は最初から上手い 。書くことは中学生の頃から読書ブログをやっていて、上手いとか下手とかじゃなく、本を読んでいればネタが尽きなかったので書き続けていました。同世代でも中高生時代にインターネットに触れてものを書くようになった人は多いですよね。私も同じで、インターネットのおかげで好きなものを見つけやすかったと思います」

三宅香帆さん @ワンダー

中学生の頃よく読んでいたのは恩田陸さんの著書。恩田作品や恩田さんがおすすめする本を積極的に読んでいたことが、今の三宅さんの読書スタイルにつながっていると言います。

「恩田さんは文芸作品もたくさん書かれていますが、書評・エッセイも書かれていたので、恩田さんが紹介してくれていた本から“こんな本があるんだ”と知ることも多かったです。私にとってのブックガイド的存在ですね。恩田さんがジャンル問わず本を読む方だったおかげで、私もいろいろな本を読むようになりました。その頃から漠然と本に関わる仕事がしたいなと思っていました。ただ、どうしたらなれるのか分からず、大学になれば見つかるのかなとぼんやり考えていました」

『ママレード・ボーイ』『カードキャプターさくら』から「家族や居場所についてフラットに見られる感覚」を教えてもらった

三宅さんが読書好きになった理由のひとつが「自分にしっくりくる言葉を探していた」から。高校時代は「謙虚でなければいけない」「自信なさげに振る舞わなくてはいけない」と過ごしていましたが、大学に進学するとその考えは大きく変わります。

「高校時代はみんな自信がないのが当たり前だった。でも、大学に入ったら自信があることを隠さない子が多くてびっくりしたんです。それまでは能力がある人ほど自信を持っていない方が謙虚でいいのではと思っていたのですが、大学に入ると能力がある人は普通に自信があるように見せている。むしろ自信がなくても、自信があるように振る舞った方がいいんじゃないか。自信がないことに意味なんてないと気づきました。そのおかげで私も肩の力が抜けて、ぐんと生きやすくなったと思います」

三宅香帆さん @ワンダー

数ある読書体験から今の三宅さんの土台になっている本について聞くと、これらの作品を挙げてくれました。

「人生で初めて読んだ漫画が『ママレード・ボーイ』(吉住渉著/集英社)でした。アニメは『カードキャプターさくら』で、原作漫画も読みましたね。今改めて読むと、当時の漫画やアニメって、家族観や男女観が先進的で家族の枠組みもいろいろな形があります。男女平等だったり、シングルファザーのお父さんがいたり、女性や男性同士の恋愛が普通に描かれていたり。自分を含む同世代が偏見なく人間関係を受け入れられたり、家族や居場所についてフラットに見られる感覚を教えてもらったりしたのではないかと感じます。これらが物語の原体験だったのは大きかったのかもしれません」

結婚願望があって、仕事も頑張りたいなら、結婚も早めにする、という選択肢もある

三宅さんは、2年前に結婚。周りや後輩からは「どうして結婚したの?」「結婚って、どんなものですか」と聞かれることが多いと言います。

「20代って何に時間を使うか難しい時期ですよね。私の場合は当時、会社員をしながら副業していたので、すごく忙しかったんです。恋愛って時間を使うじゃないですか。休日に友達と遊ぶことと原稿を書くことと、本を読むことと、さらにはデートしたりなんて、大変すぎる(笑)! 28歳くらいでいっぱいいっぱいになってきたので会社を辞めて結婚して。フリーランスになって、自分の使いたいように時間を使いたかったのかもしれない」

三宅香帆さん 神保町

今や結婚しない人も増え、晩婚化も進んでいます。三宅さんは“頑張りたいことがあるから早く結婚する” という、新しい考え方を教えてくれました。

「語弊があるかもしれないですが、自分より歳下の方に結婚について尋ねられた時には“結婚願望があって、仕事も頑張りたいなら、結婚も早めにする選択肢もあるよ”と言っています。仕事を頑張りたいから結婚を後にまわす、という考え方もありますが、ある意味結婚は生活が固まることなので、子どもがいないのであれば、より仕事に集中しやすい環境が作れる可能性もある。婚活やマッチングアプリで恋人をつくることも、すごく時間がかかりますよね。時間がかかっても恋愛を趣味的に楽しめたらいいんですけど、そうでないなら辛いなと思って。だから若いうちに、仕事の正念場が来る前に結婚するという考え方もありだよ、と伝えています」



夫婦喧嘩の解消法は「議論」。何も話さないより、立場の違いを明らかにして喧嘩し議論するくらいが良い

現在は京都に住まいを構える三宅さん。料理は夫が担当、片付けや掃除は三宅さんが担当しています。

「夫の名字を“三宅”に変えてもらっています。名字を変えてもらうことに本当に大きな意味があったわけではないのです。結婚するとき、住む場所はそちらに合わせるから、名字は三宅でお願いします! みたいな話になりました。夫も義実家もとても柔軟だったので可能だったことですが 」

三宅香帆さん

「夫婦喧嘩はしますか?」という質問に「毎日しますよ(笑)」と即答。喧嘩の解消法は、なんと議論! だそう。

「夫も私も議論が好きなんです。議論って、職場の仲間や友達同士だと「怒ってるの?」と思われるかもしれないから、なかなかできないじゃないですか。議論って対立することでもあって、今の社会だとあまり良くないことだと思われがちなんですけど、私は大学の時にも立場が違う人とよく議論をしていました。実は立場が違うことを前提として、お互いの考えを伝え合いながら議論をするのはとても楽しい時間なんですよ。他人に無理に意見を合わせず、自分の考えを伝えられることは生きやすさに繋がるんじゃないかと思って。夫婦も何も話さないより、立場の違いを明らかにして喧嘩し議論するくらいが良いのでは、くらいに考えてますね」

最近は“対話”“ダイアローグ”をテーマにしたワークショップやイベントも一般的ですが、対話と議論では意味合いが異なります。対話は同じゴールに向かって話すことが目的ですが、議論は互いの意見を論じ合うことを目的とし、合意をゴールにしていません。

三宅香帆さん

「対話と議論は違うものだと私は思っています。対話はお互いわかりあえるポイントを探りつつ話すことが必要になりますが、議論は異なる意見の対立点を明らかにし、意見を戦わせて、結局は2人とも違う結論に至ってもいい。むしろ議論の方が外ではできないことなので、夫婦でできるのがいいなと思っています。正しい結論を導く対話よりも、コミュニケーションとして対立を楽しむ議論。共感できる正しさではなく、むしろ対立を楽しめるようになったらいいなと思います。ぜひ夫婦で議論しよう! とみんなに言いたい(笑) 」

感想はみんな違った方が面白いし、社会の見え方も人によって違うのが当たり前。批評や議論の面白さを伝えていきたい

文芸評論家として多数の連載を持ち、ポッドキャストの配信、テレビやメディアへの出演、文章講座を開講するなど意欲的に活動する三宅さん。今後やりたいことを聞くと、“議論”をもっと広めたいという思いがあるそうです。

三宅香帆さん

「批評や議論、そういうものの楽しさを知ってもらう活動をしていきたいと思います。今の時代って、どうしても正しい結論を導き出すための対話、正しい結末を当てるための考察とか、正解を奪い合うための解釈が流行している気がしています。でも感想はみんな違った方が面白いし、社会の見え方も人によって違うのが当たり前。批評とか議論とか、そういうものの面白さを伝えていける本を書いたり、発信をしていきたいと思っています」

My wellness journey

三宅香帆さんに聞きました

心のウェルネスのためにしていること

三宅香帆さん

「仕事をサボって本を読むことです。原稿を書けなくて本を読む時間が、実は一番健康に通じているなと思います」

体のウェルネスのためにしていること

「鉄分を摂ることです。ずっと貧血体質で、昔は立ちっぱなしだと倒れていたのですが(笑)鉄分
サプリを飲み始めてから血液の検査結果がいいので、すごくおすすめです。“あんまり最近健康じゃないかも?”と思う方は、まずは鉄分サプリを飲んでみてほしいです」

インタビュー前編はこちらからお読みいただけます

三宅香帆さん @ワンダー

Staff Credit

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
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