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【書評】“セカチュー”の作者、片山恭一さんが「大人に向けた、新しい形の純愛小説」

2020.02.10

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カルチャーナビ「BOOKS」

“傷ついた子どもたち”の再生を追う物語。
偶然の展開に心洗われる
『世界が僕らを嫌っても』片山恭一 ¥1650/河出書房新社

今から約20年前に発表された純愛青春小説『世界の中心で、愛を叫ぶ』。
映画やドラマ化にもなった大ヒット作を、懐かしく覚えているLEE読者も多いはず! 今作は、あの“セカチュー”の作者の片山恭一さんが、大人に向けて放った、新しい形の純愛小説だ。

登場人物は20代後半と思われる未婚の3人。そのうちの一人、“タシケ”は、物心がついた頃から自分の心が男であることと、肉体が女性の事実になじめず、さらに周りの人たちとなめらかに会話をすることができなかった。唯一友達と呼べそうだったのは、言語聴覚士のいる施設へ通うときに何回か会った、名前も知らない同世代の男子。彼も会話に障害を抱えており、タシケは彼を“クチナシ”と名付けていた。

十数年後――。大人になったタシケが偶然に夜の公園で出会い、タシケの働くお店へ客として通うようになったのが、看護師の多恵。多恵は傍から見ると普通に暮らしているが、実は「自分の父親が母親を殺したのではないか」という疑惑を持ったまま、生きてきた。彼女が心の苦しみから解放されるたったひとつの方法は、思春期の頃に始めたダンス。そして大人の男に成長したクチナシは、たまたま、多恵がタシケと知り合った公園で、一人で踊る多恵を見かけてしまう。クチナシも家族が彼に残した傷を癒せぬまま、年齢を重ねていた――。

決して器用に生きているとは言えない₃人の、苦しみ、切なさなどの、細やかな心理描写はさすが。群像ものの小説は読んでいて混乱することも多いけれども、本作は3人のキャラクターがきれいに書き分けられている。読み手もそれぞれが抱える痛みに寄り添え、いつの間にか愛おしさすら感じてしまう。偶然が偶然を呼ぶ展開は、「ちょっとできすぎ?」と思う人もいるかもしれないけれども、このファンタジーっぽさこそ、小説を読む醍醐味!

幼少期からの傷を抱えたまま大人になった3人の再生を見守りつつ、「……もしかしたら、現実でもこういうことってあるかも」と、感動あふれるラストに身を浸して!

 

RECOMMEND

『できない相談』
森 絵都 ¥1600/筑摩書房

マルチな活躍をするモデルの菊池亜希子さんが綴る、おいしいものと自身の経験をちりばめたエッセイ。小学生時代、お母さんにこっそり持たせてもらったおにぎり、大人になり、心が折れた日に女友達が用意してくれたしゃぶしゃぶ――。おいしいものと人との優しい交わりに触れて、「今日は大切な人と何を食べよう?」と、やわらかな気持ちになる一冊。

『ぶぶちよ絵日記』
bubuchiyo ¥1100/扶桑社

かつて著者が「私の人生は終わった」と考えていたつらい時期、レシートの裏に絵日記を描き、Twitterに投稿を始める。絵日記は徐々に注目を集め、遂に書籍化されることに!ほんわかした絵に癒される一方、人間関係や人生の悩みに関する言葉にグッと心をつかまれる場面も。読後は、なんだか気持ちが軽くなり、目の前の景色が少し鮮やかに見えてくるかも。

『ごはんにかけておいしい。材料2つで炒めもの』
ワタナベマキ ¥1350/主婦と生活社

LEEでもおなじみの人気料理家・ワタナベマキさんの最新レシピ本。マキさんの今回のテーマは、なんと2品の材料だけで作れてしまう、ごはんによく合う炒めもの。肉、魚、卵、豆腐、缶詰など、身近な素材を使いながらもバリエーション豊富なレシピがたっぷり! 炒めもの=冷蔵庫の余り物でなんとなく作るもの、という概念をくつがえされそうな一冊。


取材・原文/石井絵里

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