映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

情熱が迸る! 今、話題沸騰中の井浦新さんが 伝説の監督を熱演した『止められるか、俺たちを』が熱い!

 

新さんに新境地を開かせた鬼才・若松孝二

巷では、ドラマ「アンチュラル」で演じた“やさぐれた色気”と、「日曜美術館」MCでの穏やかでインテリな魅力に“ギャップ萌え”した人が続出しましたが、最近バラエティなどで覗かせた一面が“お茶目で変わっている!!”と、ネットで話題沸騰中の井浦新さん。確かに新さんと言えば私の中でも、ナイーブでどこかアーティスティックな美青年、というイメージが強かった! そんな新さんを“骨のある男気系俳優”に押し上げたのが、12年に亡くなられた故・若松孝二監督ではないでしょうか。

1974年東京都生まれ。『ワンダフルライフ』(98)で映画初主演。『ピンポン』(02)、『青い車』(04)などで存在感を発揮。その他の代表作に、『空気人形』(09)、『かぞくのくに』(12)、『光』(17)、『ニワトリ★スター』(18)、『菊とギロチン』(18)など。そのほか、「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」のディレクターなど多様な活動を展開。公開待機作に、『赤い雪 RED SNOW』『こはく』『嵐電』など。  撮影:齊藤晴香

きちんとフィルモグラフィを眺めると、それ以前からその都度イメージを打ち破るような色んな役に挑戦されていた新さんですが、それでもやはり若松監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』(08)の存在が大きいように感じます。以来、新さんは『キャタピラー』(10)、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12)、『海燕ホテル・ブルー』(12)と若松作品に立て続けに出演されました。

名の通った“ARATA”名義から、現在の本名に変えたのも、三島由紀夫を演じた『11・25~』がきっかけです。

それほどまでに、新さんの俳優人生に大きな影響を及ぼした鬼才監督を、自身で演じるというのは、かなり大きなプレッシャーであったことは想像に難くありません。そんな質問から、新さんにぶつけてみました!

 

オファーを受け一ヶ月、焦らしました(笑)

――資料によると、白石和彌監督が「新さんが引き受けると腹を括ってくれて、一気に話が進みだした」と述べられていますが、実際問題“腹を括る”までに、どれくらいの逡巡や覚悟を要しましたか?

『止められるか、俺たちを』 【2018/日本/DCP/シネスコ/119分】
2018年10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
出演:門脇麦 井浦新 山本浩司 岡部尚 大西信満 タモト清嵐 満島真之介 渋川清彦 音尾琢真/ 高岡蒼佑 / 高良健吾 / 寺島しのぶ / 奥田瑛二
監督 白石 和彌 / 脚本 井上淳一 / 音楽 曽我部恵一
配給 スコーレ 宣伝 太秦  (C)2018若松プロダクション
■公式サイト:www.tomeore.com

「無茶ぶりしてくるな、と思いました(笑)。白石監督もプロデューサーたちも。もちろん若松プロが再始動して映画を撮るのは、すごく喜ばしいことだし、どんなことでもお力になりたいと思っていました。でも、若松孝二監督を演じろ、だなんて! また白石監督が、“僕が引き受けなければ、この映画はなかったことになる”みたいな暴言を放り込んで来て(笑)」

「正直なところ、お話をいただいた瞬間、既に腹は決まっていたというか、心の中でやると決まってはいたんです。ただ、そんな二つ返事で引き受けられるほど、そんな簡単なものではないと伝えたくて。無茶ぶりに対し“この苦しみを味わえ!”と、お話をいただいた16年の年末から、年を越して暫く約1ヶ月、無反応で過ごしました。焦らせようと思って」

――でも、瞬間的に腹は決まっていたのですね。

「もちろんです。嬉しい~、頑張るぞ~なんて気持ちが沸く役ではありませんが、自分しかいないだろうと理解していたし、もし他の方が若松監督を演じられていたら、一生後悔することも分かっていたので。腹をくくる以前に、やるしかないと思っていました。だから事務所を通して正式に回答なんてことはなく、監督と若松プロの面々と顔を合わせ、“やらせていただきますけれど、でも、バカ野郎~!!”と言いました(笑)」

 

当たり前を飛び越える映画作り

――新さんが演じるのは、69年、ピンク映画で若者たちを熱狂させていた頃の、33歳の若松監督です。その時代のうだるような熱気、映画作りにかける熱い想いがビンビン伝わってきます。

「僕が若松組に参加したのは監督の晩年ですが、その時でも、この映画に描かれている当時のままのような映画作りをされていました。というのは、若松組での撮影では、もちろん役者としても仕事をしますが、別部署で人手が足りないと気づいたら、自分で責任をもって行動すれば、やらせてもらえるんです。俳優部でありながら助監督の下っ端として現場を支えることもできるし、制作の動きをさせてもらえる。本作でも描かれていますが、現場で暇をしている人が一人もいない、少数精鋭部隊で映画を作られて来た。それを体験したので、本当に幸せでしたし、この役を演じる上でも大きかったです」

 

――映画は若松孝二という監督の伝記映画でありながら、主人公は“めぐみ”という若い女性です。彼女の視点から物語が語られていきますね。

「僕はめぐみさんの存在を、若松監督と関わらせていただいたときには話題に出て来なかったので、全く知らなかったんです。後から、実はめぐみさんの命日に毎年、監督がお花を供えに行っていたと聞きました。ただ、僕が参加していた頃も、若松組には割と女性スタッフが多かったんです。『連合赤軍~』も、助監督や監督補として女性が仕事をされていた。若松監督は女性に対しても非常に厳しいけれど、怒りをぶつけることでその人が何かを掴めたり、何かを考えたりするきっかけになったことは間違いなく、愛情がそこには必ずあるんです。そういうのを目の当たりにしていたので、今回、めぐみさんを叱咤激励する若松監督という構図が割と自然に作れたような気がします」

 

白石監督も僕自身もめぐみさん

――やはり女性に対しても厳しいですか(笑)!

「厳しいです。でも優しさと愛とリスペクトがありました。若松監督ってフェミニストというか、自分でよく“俺はマザコンだからさ”とおっしゃっていましたが、母親への深い愛情があり、女性への向き合い方がすごく真摯で、筋が通っていたし、厳しさと優しさをしっかり表されていました。だからこそ、僕の知る監督像からめぐみさんとの距離感を持つことができましたし、めぐみさんを演じた門脇麦さんが本当に勘の鋭い方なので、その距離をちゃんと作られていました。決して横には並ばないけれど、ずっと監督の背中を見てくれている、という」

 

「若松監督が、なぜ何度も声をかけてくれたのかは、分からない。でも、常に必ず一本勝負でした。以前、ある番組で監督からメッセージをいただいたのですが、“彼は与えた役にしっかり責任をもってケジメをつけてくれる。なあなあにならず、毎回、初めましての気持ちでやってくれるからいい”とおっしゃって下さって。本当にありがたいな、と泣きそうになっちゃいました」

――門脇麦さんにとっては、本当にめぐみ役は難しかったでしょうね。

「若松プロを体験していないということも、この現場ではまずコンプレックスになったと思います。何しろすべて実在する人物であり、何人かのレジェンドたちはこの作品を観ますから。若松監督の背中を追い、監督に刃を突き付けたいというめぐみさんの思いを、どう表せばいいか、非常に考えられたでしょうし、本当に難しかったと思います。でも麦さんは、それを自分でちゃんと察知して、本当に真っ直ぐやられていました」

「白石監督も同じことをおっしゃっていましたが、僕自身もめぐみさんなんです。監督と共に映画を作り、常に監督の背中を見ている感じ。僕は、現場でしか若松監督と正面を向いて喧嘩することなんてないですから。芝居を以てして監督を唸らせ、最大のOKをいただく、というのが僕と監督の喧嘩の仕方でした」

 

 

若者の生きづらさ。現代の方が大変!?

――どんな映画を作りたいか分からないけれど、監督になりたい、というめぐみの焦燥は、いつの時代も若者が経験することですよね。自分のことのように痛いです。

「本当にそうですね。若松監督もよく、 “自分たちの時代より、今の君たちの方が生きていくのが大変だよ”とおっしゃっていました。こんな生きづらくなっていく世の中で、君たちはどうやって生きていくのか、と」

「僕も10代~20代、特に10代の頃は、夢もあるのかどうかわからない漠然とした中で、“何かをやりたい”という思いだけがあったように思います。同時に、なぜ10代で今後やりたいことを決めなければならないのか、とも漠然と思ってました。やりたいことなんて無限にあって決められないよ、と」

「でも若松監督の時代は、その年代で“俺はこれがやりたい”と言って、もがきながら一生懸命そこで生きている姿があって。そういうのを観ると、果たして自分はホントに本気で生きているのか、って思うところがあります。自分は本気で何かをやっていると思っていたけれど、もっともっと本気になれたんじゃないか、と。もっと夢中になって10代20代を駆け抜けていたら、また違う今が必ずあっただろうな、とも思うんです」

 

 

――そういうことも、この映画から感じ取って欲しいですよね。

「若者の熱量なんて無限大なのに、今は限界を植え付けられてしまうような時代です。本当はもっと出来るのに、出来ない、やらせない、みたいな。出る杭はどんどん打ち、どんどんコンプライアンスでダメというものが増えて来た中で青春を送らなければならない若者たちに、ほんの数十年前の日本はこんなでした、ということを知って欲しい。これでいいんだ、もっと思い切って必死に生きられるんだ、と。それで何かを手に入れられるかは分からないけれど、ウダウダしているより、とんでもない熱量で走り向けた方がいい、ということをこの映画は伝えられるんじゃないかな、と思います」

観ているうちに熱に浮かされ、熱くなる本作を撮り上げたのは、『凶悪』(13)『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)、『孤狼の血』(18)など、今や日本映画界を牽引する白石和彌監督。これでまた、面白くないわけがない理由が増えました!

女性にとってはとっつきにくい作風に見えるかもしれませんが、いやはやどうして。めぐみのように、“何者かになりたい”と願ったことのある人はみな、共感必至の物語でもあるのです。ぜひ、劇場でスクリーンから溢れてくる熱量を浴びてください!

 

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