11月歌舞伎座で上演中の通し狂言『仮名手本忠臣蔵』に出演する尾上右近さんと中村隼人さん。若手の花形として大注目の二人が、本作でも大役をつとめています。
記事の前半では舞台への意気込みを語った取材会の様子を、後半ではLEEwebだけのスペシャルインタビューをお届けします。同世代で仲良しのおふたりの、お互いへの思いは必見です!

二代目 尾上右近
ONOE UKON
歌舞伎俳優
おのえ・うこん●1992年東京都生まれ。曾祖父は六世尾上菊五郎、母方の祖父は俳優 鶴田浩二。清元節宗家の家に生まれながら歌舞伎俳優に憧れ、2000年、本名の岡村研佑で初舞台。2005年、二代目尾上右近を襲名。2018年、七代目清元栄寿太夫を襲名。踊りに定評があり、女方と立役、両方をつとめる。2026年、「第33回 読売演劇大賞」において杉村春子賞を受賞。第76回文化庁芸術選奨において、演劇部門の「文部科学大臣新人賞」を受賞。屋号は音羽屋。ニックネームはケンケン。

初代 中村隼人
NAKAMURA HAYATO
歌舞伎俳優
なかむら・はやと●1993年東京生まれ。二代目中村錦之助の長男。祖父は四代目中村時蔵。大叔父に映画スターの萬屋錦之介。2002年、初代中村隼人を名のり初舞台。端正な顔立ちと品のある雰囲気の立役スターとして、近年は『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」の知盛など古典の大役に挑むほか、『新作歌舞伎NARUTO』、新作歌舞伎スーパー歌舞伎Ⅱ〔新版〕『オグリ』でも主役をつとめる。2019年から続くNHKBS時代劇「大富豪同心」シリーズで主演を務めるなどドラマでも活躍。屋号は萬屋。
KABUKI actors
取材会レポート
尾上右近さん&中村隼人さんが『仮名手本忠臣蔵』で共演!
歌舞伎三大名作のひとつとして知られる『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら』(”三大”は他に『義経千本桜』と『菅原伝授手習鑑』)。江戸時代に実際に起きた、赤穂浪士討入り事件をモチーフにした作品です。
理不尽な理由で切腹を命じられた主君・塩冶判官(えんやはんがん・浅野内匠頭にあたる)のために、大星由良之助(おおぼしゆらのすけ・大石内蔵助にあたる)をリーダーとした家臣たちが命がけで仇(かたき)打ちを果たすという、全部十一段の物語。
昼の部では、悲劇の主君・塩冶判官を、尾上右近さんが中村七之助さんとのWキャストでつとめます。
夜の部では、右近さんがおかるを八代目尾上菊五郎さんとWキャストで、その夫・早野勘平(はやのかんぺい)を隼人さんがつとめます。「おかる・勘平」は歌舞伎の中でも人気の高いカップル。ともに初役で大役に挑む二人が、どんなケミストリーを見せてくれるのか、期待が高まります!!

尾上右近さん・中村隼人さん × 忠臣蔵
「憧れのお役を初役で演じる喜びと畏れを胸に演じたい」
おかると勘平の役が決まったときのことを教えてください。
尾上右近さん(以下、右近) 『忠臣蔵』という歌舞伎を代表する作品で、おかるという重要な役どころをつとめさせていただけることは、本当にうれしく思っていますし、隼人さんと一緒にできるということでわくわくしています。
おかるは初役ですが、じつは義太夫狂言の女房役というのも初めてなので、そういう初々しい気持ちを役柄に重ねて写し出すことができたらと思っています。(坂東)玉三郎のお兄さまに教えていただくので、たくさんのことを学びたいと思っています。
中村隼人さん(以下、隼人) 歌舞伎役者で立役をやっている人だったら、誰でも勘平の浅葱色の衣装を1度は着たいと願うんじゃないかなと思いますけれど、僕にとっても憧れの役でした。
八代目菊五郎さんや右近さんをはじめ、勘平経験者がいらっしゃる中で、勘平をつとめるのは、「どんなふうにやるんだろう」と見られている緊張感もありますが、いろいろ教えてもらえるというありがたさもあります。じつはさっきも裏で、「あのときどうしてる?」と右近さんに質問していたところでした。
勘平は本当に約束ごとが多くて、型が細かく決まっているので、難しさ、怖さというのもありますが、今回は(片岡)仁左衛門のおじさまにお稽古していただくので、いろいろ教えていただきながらやっていきたいと思います。


おかると勘平、それぞれどんなところに魅力を感じますか?
隼人 勘平をやるにあたって、芸談を読ませていただいたり色々調べてみたりすると、一貫してみんなが変わらずに思っていることは、とにかく忠義一途な人物であるということです。浪人になった身でも仇討ちを生きがいにしているような人間なんですね。
でも一方で矛盾があって、おかると駆け落ちしてしまうような情けないところがあったり、間が悪いというか、ちょっとしたボタンのかけ違いから、どんどん歯車が狂って悲劇の方に繋がっていってしまう。そういう人間臭いところが魅力につながっていると思います。
右近 おかるはとにかく何よりも勘平が大切で、最後までその思いを貫いた人だと思います。もちろんもとは腰元だから、お家のための、主君のためという大義は理解しているけれど、それよりも勘平に仇討ちをさせたいという思いで、自分の運命を引き受ける。
母性と同時に、そういう腹の座ったところも持ち合わせている女性です。こんなに女方の充実感を味わえるお役っていうのはそうそうないんじゃないのかなと感じます。
尾上右近さん・中村隼人さん × 忠臣蔵
忠義を背負いながら人間味がこぼれ落ちる家臣たち
右近さんは昼の部で、塩冶判官も演じられますね?
右近 そうですね。いつかは判官をつとめてみたいという気持ちでいたので、すごくうれしいと同時に不安もあります。『忠臣蔵』は、判官の切腹から物語が始まっていきますので、とても背負うものが大きいんですね。
切腹をしたあと、判官は駕籠に乗せられて花道を引っ込みますが、昔は演じた俳優がそのまま家まで送り届けられたそうです。実際にやってみないとどんな気持ちになるのか、まったく想像がつかないんですよね。劇場内にパンパンに膨らんだ静寂と緊張に、すっと穴をあけて、そこから静かに空気が抜けていくようなそんなイメージでしょうか。
判官は七代目の菊五郎のおじさま(七代目尾上菊五郎さん)にも見ていただくことになっているので、判官を演じてこられた先輩方の思いを汲んでつとめたいと思います。
ちなみに『忠臣蔵』は、かつては日本人なら誰もが知るお話でしたけれど、今では馴染みのない若い世代の人たちも少なくないと思います。あえて現代人も共感できるポイントをあえて挙げるとしたらどのあたりでしょうか。
右近 共感というところで言うと、たとえば高師直(こうのもろのう・モデルは吉良上野介)のパワハラに翻弄されてしまう判官だったり、仇討ちをするにあたってリーダー役となる由良之助の重圧だったりは、現代社会を生きる人たちにも通じるところがあると思います。
また、それに巻き込まれる家族の物語も『忠臣蔵』のひとつの大きな柱になっていて、武士としての忠義を背負いながらもそこに人間味がこぼれる作品になっています。そこが庶民に愛されてきたゆえんだと思うし、今の人にも通じる普遍的なところだと思います。
隼人 僕は逆張りすると、演劇って共感がすべてではないと思うんです。目まぐるしく流行りが変わっていく時代の中で、300年以上前の作品が、現代に上演されること自体、奇跡だと思うんですね。
だから僕としては共感してもらいたいというより、それだけ完成度の高い作品をみなさんにお届けしたいという気持ちのほうが強いですね。今とは違って、忠義に生きることがすべてだった人たちの生きざまを現代の若い俳優が、どういうふうに演じるのかというのを見ていただきたいと思います。


KABUKI Actors
LEEwebだけの特別インタビュー!
幼馴染みの二人に共通するのはウェットなキャラ
LEE編集部 ここからはLEEwebだけのインタビューです。お二人は同世代ということもあって、とても仲良しですが、お互いのことをどんなふうに見ているか教えてください。
右近 隼人さんとは、子どもの時に家が近所だったし、高校も一緒だし。役者という枠を超えて幼馴染で、人間的なつきあいが長いんですね。
隼人 歩いて5分くらいのところに住んでいたから、一緒に駄菓子屋さんに行ったりして。多分初めて認識した同世代の歌舞伎役者ってケンケン(右近さんの愛称)だったんですよ。僕は初舞台も遅かったんですけれど、ケンケンは、いろんなお役を同世代の中では最初にやることが多くて羨ましい思いがあったり。とはいえ、僕らってどういう道に進むかわからない二人だったから、将来、自分たちがどうなるかっていうことを熱く語った思い出がありますね。
そこからお互いにいろいろ経験して、少しずつ大きな役をいただけるようになって、いろいろと悩むことも多いんですけど、ケンケンが隣にいてくれることによって、また先に走ってくれることによって、「この道に進んでいこう」って確信がもてるような、そういうある種、僕にとっての道しるべ的な存在だなと思いますね。
右近 ありがとうございます。お互いに役者として、いい意味で、刺激しあえる間柄ですね。昔は思っていることがあっても変化球として伝えないと照れくさいところがあったけれど、最近、それを直球で投げられるような時期が来たと感じています。
この間、隼人さんが僕の自主公演(『研の會 FINAL』)の千穐楽に来てくれたときも「ありがとう」と、まっすぐ目を見て言えるような関係性になっていることに気づいて、それがとても嬉しかった。
隼人 そうだね。「ありがとう」と「ごめんね」をずっと面と向かって言い続けられる関係でいたいですね。


LEE編集部 では、人間的に好きなところを教えていただけますか。
右近 隼人さんの好きなところは熱いところですね。情に厚いって言ったほうがいいかな。こう見えてすごく泥臭い男ですね。
隼人 それはケンケンも同じでしょう? 歌舞伎界で1、2を争うくらい情に厚くて、人のことを自分のことのように考えているし、愛を持っているし。
右近 そうだねぇ。ウェット!(笑)本当にウェットなんですよ、二人とも。
LEE編集部 遠目には二人ともさわやかな風が吹いますけど、そばに寄ると、かなり湿り気があると。
右近 それと隼人さんはマイナスなことを言わない。弱音を吐かないんですね。いつも僕が無理やり言わせてる(笑)。余計なお節介なんだけど、抱えていることがあったら吐き出したほうが楽なんじゃないかと思うから、「どうだったの、あれ?」「たいへんだったんじゃないの?」って聞くと、やっと話してくれる感じで。でも自分からは絶対言わないね。言う気にならないんでしょう?
隼人 そう。さすがに全部見抜かれてる。
右近 自分自身に負けず嫌いなんじゃないかな。あと家族構成も性格形成に影響してると思う。お姉さんと妹がいて、真ん中で。そういう場合、真ん中はわりと我慢しがちだから。
隼人 めっちゃ分析するねぇ(笑)。僕はケンケンのことは、幼稚園くらいから知ってますけれど、ケンケンは歌舞伎という大きな軸がありながらも、とにかくいつも何かに熱中している男ですね。その熱量が凄まじくて、僕が衝撃的だったのは、中学生の頃、レゲエにハマってる時期があって、髪の毛もドレッドみたいな……
右近 ツイストパーマ。
隼人 それそれ。当時、そんな髪型の中学生、誰もいなかったですよ(笑)。だから生きているエネルギーみたいなのがものすごく大きくて。それは『研の會』(自主公演)を見たときも感じたし。
あとケンケンは思ったことは直接本人に伝えるタイプです。表裏がなくて誠実なところも魅力だし、かといって、太陽みたいに明るいだけじゃなくて根暗なところもあるので、それがお芝居に陰影をもたらしたり、女方の色気につながっているんだと思います。
右近 根暗なのは隼人さんも同じだから、一緒だね。

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尾上右近さん×中村隼人さんの仲良しトーク
打ち上げはナイルと焼き肉のはしごで
LEE編集部 結局、お互い、似た者同士ということですね。そんな仲良しの二人が、11月の舞台が終わって打ち上げに行くとしたらどこに行きますか?
隼人 打ち上げ!? まだ始まってないのに(笑)。
右近 どうしようか。いっそのことクラブとか行っとく?(笑)行くことはないだろうから、激しめのところに行っておくのもいいかも。
隼人 いや、僕は根暗だから、そういうところは遠慮したい。
右近 だよね。僕も結局、「うるさかったね~、ゆっくり話ができるところに行こうか」ってなっちゃうと思う。
隼人 やっぱりインドカレーじゃないの?
右近 ナイル(歌舞伎座近くにある「ナイルレストラン」)で打ち上げ?
隼人 僕は焼き肉がいいけど(笑)。
右近 じゃあ、はしごする? ナイルに行って、焼き肉行って。
隼人 はしご、いいね。
右近 僕たち、めちゃくちゃ食べますからね。
隼人 でも、僕たち切腹するからプラマイゼロです(笑)。 いや、だから切腹って、それくらいエネルギー使うってことですよ! お腹の中で、感情を激しく動かしたら、そのくらい消耗するっていうことです。
右近 切腹ブラザースだから、公演中もしっかり食べないとね。
隼人 あ、でも、僕、カレーの香りがするおかるは嫌だよ(笑)。
右近 わかってる。それは僕もヤダ。
LEE編集部 カレーの香りの判官もまずいですよね。ってことは、右近さん、11月はカレー断ちですか??
右近 終演後なら大丈夫かもしれないけど……まあ、カレーは控え目にしたいと思います(笑)。
LEE編集部 では、最後に読者のみなさんにひとこと、お願いします。
隼人 今回もそうですけれど、歌舞伎の三大名作の中でも『忠臣蔵』は、通しで上演されることが多いんですよね。ひとつの家のお家騒動なので、他の二作に比べてスケールは小さく見えるかもしれないんですけど、すごく濃密で、討入りを果たして本懐を遂げるクライマックスに向かって、どんどん気持ちが盛り上がっていくようなストーリー展開なので、通しで見てこその演目という気がします。ぜひ、昼の部も夜の部もご覧いただければ幸いです。
右近 そうですね。歌舞伎は人気のある段だけを上演することが多いから、話がわかりにくくなっちゃうこともあるけど、今回は「通し」なので、ストーリーがわかりやすいと思いますし、歌舞伎をふだんご覧にならない方も観やすいと思います。
1日で全部観なくてもいいけれど、やっぱり昼の部→夜の部という順番で見てもらったほうがいいかもしれないですね。それと通しで見ることで、春夏秋冬と四季を感じていただけると思うので、そういう楽しみ方もあると思います。『忠臣蔵』は、年末の日本の風物詩なので、ぜひ劇場にお越しください!

information
11月歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」
演目:通し狂言『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』
公演日程:2026年11月1日(日)~25日(水)
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~
休演日・貸切ほか詳細は公式サイトをご確認ください
Staff Credit
撮影/露木聡子 取材・文/佐藤裕美
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