5月歌舞伎座で襲名披露公演!
【新・尾上辰之助さんインタビュー】憧れの祖父の名前を襲名。立役も女方もともに100%を誓う20歳【5月歌舞伎座】最新舞台写真も公開
2026.05.12
若い世代が躍動している近年の歌舞伎界。そんな中で20歳の尾上左近(おのえ さこん)さんが、歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」にて尾上辰之助(おのえ たつのすけ)を襲名。そんな左近改め辰之助さんに新しい名前への思いや襲名の舞台にかける意気込みを伺いました。
記事の最後には今月の歌舞伎座の舞台写真も!お見逃しなく。

KABUKI actor
左近から辰之助へ
初代辰之助の祖父に憧れて、早く辰之助になりたかった
5月、歌舞伎座では尾上左近あらため尾上辰之助の襲名興行が華やかに行われてます。
「以前、松本白鸚のおじさまがおっしゃっていたんですけれど、襲名の“めい ”の字は、じつは“名”じゃなくて“命 ”だと。ただ名前を継ぐのではなくて、今までその名前を名乗ってきた役者の思いとか命を受け継ぐものなんだとおっしゃっていたのがすごく印象に残っていたんです。あらためてその言葉を胸に、5月の興行を大事に勤めたいと思っています。」と、真剣な面持ちで語る辰之助さん。それだけ「襲名」は歌舞伎俳優にとって大切なものです。
歌舞伎の「襲名」って?
そもそも「襲名」とは、先祖や父など先人の名前を継ぐことで、歌舞伎では、節目節目にその俳優の家の上位の名前を段階的に継いでいくという伝統があります。
たとえば昨年、襲名披露があった尾上菊五郎家では、丑之助→菊之助→菊五郎と名前が変わっていきます。尾上辰之助さんの家は尾上松緑(おのえ しょうろく)家。辰之助さんの父・尾上松緑さんも左近→辰之助→松緑と3つの名前を名乗ってきました。襲名によって、俳優としてひとつ大きな階段を登ることになります。
とりわけ辰之助さんには、この「辰之助」という名前に特別な思い入れがありました。
「辰之助と言えば、僕にとっては祖父(初代辰之助)のイメージがとても強いんですね。祖父は40歳で亡くなったので会ったことがないのですが、小さい頃からいろいろな先輩方に『亨さん(初代辰之助の本名)はかっこ良かった』という話をずっと聞かされていて、その後、映像を見たり、本を読んだりしたら、みんなが言うように驚くほどかっこよくて感動した覚えがあります。
口跡の良さ、体の切れ、そして今の人にはない男臭さがある。あふれる男の色気と、少し陰のある芝居。そういうところがすごく魅力的だと思いました。だから辰之助という名前にずっと憧れがあって、早く辰之助になりたいと思っていました。辰之助を襲名して、生まれ変わるじゃないですけれど、もう一回誕生日を迎えることになると漠然と思っていたので、父から襲名の話を聞いたときは、うれしい気持ちでいっぱいでした。
ただそれは純粋にファン目線としての感情で(笑)、役者として辰之助を名乗るということに関しては重責を感じるし、怖い気持ちもあります。でも、この前、講談の神田伯山先生とお会いしたときに『僕は初代辰之助も知らないし、松緑さんが辰之助だったときのことも知らないので、君が初めて見る辰之助になるから、すごく楽しみにしている』と言ってくださって。そういう方もいらっしゃるこというにふと気づいて、少し肩の荷が降りました。
とにかく辰之助は若々しくて華やかなイメージのある名前だと思いますので、勢いをもって、襲名を終えられるように頑張っていきたいです!」

KABUKI actor
三代目はどんな辰之助になるのか
男っぽい辰之助のイメージに自分の色を入れていきたい
強くて男っぽい印象の辰之助という名前。対して三代目となる新・辰之助さんは少し色が違います。立役(男役)だけでなく、女方も可憐に勤めます。
「有難いことに女方もさせていただいていて、坂東玉三郎のお兄さんや七代目尾上菊五郎のおじさまなどの先輩方に、これまでの辰之助が経験していないお役を教えていただいています。自分の家の芸はもちろん大事にしていきたいと思っていますけれど、あまりそこに固執しすぎず、いろいろなものに挑戦したい。これまでの辰之助のイメージに加えて、ひとつ自分の色というものを三代目として入れていけたらと思っています」。

そんな新・辰之助のカラーがよく表れているのが襲名の演目のひとつ『鬼一法眼三略巻』の「菊畑」。奴虎蔵 実は源牛若丸を勤めます。
「父に襲名で何がやりたいかを聞かれたとき、真っ先に浮かんだのが『菊畑』の虎蔵でした。何年か前の巡業で、中村時蔵のお兄さんが勤められていて、とてもかっこよかったんですね。前半は少年らしくかわいらしさがあり、正体を明かしてからは武将としての強さも見せる。ガラっと変わるギャップがこの役の魅力だと思うので、そこをしっかりと明確に出せるようにしていきたいです。
じつは本来、紀尾井町(尾上松緑家のこと)がやる役は牛若丸の忠臣・智恵内という役で、虎蔵のような白塗りの美少年はやらないのですが、僕が紀尾井町の家にないものをやっていきたいと思っていることは父も知っていたので理解してくれました。今回、父の智恵内で虎蔵ができることはとても有難いことだと思っています」。
一方、もうひとつの演目『寿曽我対面』で演じるのは、親の敵討ちのために祝いの場に乗り込んでくる血気盛んな若者・曽我五郎。従来の辰五郎らしさにあふれた豪快な役です。
「五郎は紀尾井町に代々受け継がれた芸がありますので、父に教わりながら力強さが出るように精一杯勤めたいです。定型的な荒事ですけれど、藪から棒に大きな声を出して暴れたらいいというわけではなくて、どれだけ自制して暴れられるかというところが荒事の難しさだと思っています。
祖父の五郎は、鬘の固めかたに特徴があって、祖父はあまりピシッと固めてなくて、見得を切るとちょっと揺れるんですね。そこが色気だと。自分もそこは少し真似をしようと思っています」。


五郎の兄・十郎には、大先輩の八代目尾上菊五郎さん。
「代々菊五郎家の方と十郎、五郎で襲名をしているので、八代目の菊五郎のお兄さんに十郎をやっていただけるのはとても意味のあることですし、本当に有難いと思っています。また、七代目菊五郎のおじさまをはじめ、市川團十郎のお兄さんも出てくださいます。後ろには五郎役者がずらっと並んでいて、チラシ見て、『嘘じゃないよな』と思うくらい超豪華な配役(笑)。その中で五郎を勤めるのは怖い部分もありますけれど、そこはお兄様方の胸を借りて、勤めていくしかないと思っています」。
豪快な立役から美少年、そして女方までとふり幅の大きな役者を志します。
「これは父に言われたことですが、『(立役と女方を)兼ねる役者というのは、両方50%・50%ずつじゃなくて、両方を100%・100%でやれる役者のことを言うのだから、そこを目指しているんだったら、人生2回ぶん、頑張らないといけないんだよ』と。その通りだと思うので、祖父と七代目菊五郎のお兄さんという二人の憧れを目指して努力しつづけたいと思います。

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3歳で初舞台、8歳で左近に
左近は周囲の人々にかわいがってもらえる役者だった
歌舞伎では襲名が決まると、関係者にご挨拶まわりに行くのが慣例です。
「歌舞伎の関係者はもちろん、うちは踊りの藤間流の家元でもあるので、踊りの各家元の方々など、お世話になっている方すべての家にご挨拶に伺います。伺うにあたってアポイントメントを取ってはいけないという決まり事もあるため、何度も足を運ぶことになります。『襲名の挨拶まわりは着物の裾が擦り切れるほどたいへん』と聞きますが、その言葉の意味がやっとわかりました(笑)」。
今ではお話好きで、ユーモアたっぷりにエピソードを語る辰之助さんですが、子どもの頃は違ったようで
「緊張しぃで舞台が苦手でした。自分はこの仕事が向いていないんじゃなかとよく考えた」。父・松緑さんのお稽古も厳しく、子どもの頃はとても怖くてほとんどしゃべれなかったそう。
「今では舞台のこととか何でも話しますけれど、当時は会話がほとんどなくて。あるとき、子どもながらに何かしゃべらないといけないと思って、父の部屋に行って、『どのくらいの役をやってきたの?』と聞いたら、『覚えてない』と言われて、会話が終了したのを鮮明に覚えています(笑)。
高校に入って大人の役をやるようになった頃に、父にあらためて歌舞伎役者になりたいかどうか確認をされましたけれど、僕もその頃には役者を辞めるという選択肢はなかったので続けさせてくださいと言いました。というか、これは持論ですけれど、歌舞伎役者はみんな親にそれを聞かれる段階で、後戻りができなくなっているんですよね(笑)」。

厳しいお父さんに対して、お母様はとてもやさしい人だと言います。
「母も襲名のことはとても喜んでくれています。母はもともと宝塚にいたので、僕が『どうだった?』と舞台の感想をまず聞くのは母。いろいろアドバイスもしてくれます。母は歌舞伎役者の家に嫁いでいろいろ苦労もしてきたと思うので、そのぶん僕が親孝行しないといけないなと思っています。旅行にも連れていってあげたいし、一緒にいろいろな経験ができたらと思っています」。
さらに辰之助さんには「乳母のような存在」と語る人が。父・松緑さんのお弟子さんの尾上緑(おのえ みどり)さんです。今年出演した「新春浅草歌舞伎」で、20歳の誕生日にお世話になった方々への感謝を語る中で、緑さんへの感謝を述べながら感極まって号泣したというエピソードも。「子どもの頃からいつもそばで支えてくれました。人として育ててくれたのは緑さんかなと思っています」。
あらためて尾上左近という役者を振り返ったとき、「いろいろな先輩方にかわいがっていただいた幸せな役者だった」と言います。
「3月に歌舞伎座で『三人吉三』というお芝居で、おとせという役を勤めさせていただきました。最初に花道から出て行くと、普段『音羽屋!』とか『紀尾井町!』と大向こうがかかるところで、初日に『左近!』と声がかかりまして。それを聞いたときに、あらためて左近が終わるんだなと、すごく感慨深い気持ちになりました。左近から積み上げてきものを大事にして新しい辰之助を作っていきたいと思います」。

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花形世代としての今とこれから
「染團辰」で、将来やりたい舞台が無限にある
ここ1~2年、歌舞伎俳優として著しく成長しているだけでなく、新作にも果敢に挑み、人気もぐんと急上昇している辰之助さん。中でも昨年、尾上松也さんが演出・主演を勤め、大ヒットした新作歌舞伎『刀剣乱舞』への出演が大きな転機となったと言います。
「松也のお兄さんに俳優としての心構えを一から教えていただけたのは、本当に勉強になりましたし、自分の意識が変わったと思っています。それまでどうしても自分自身を出しきるのが苦手でした。自分で100%出してるつもりでも、どこかでもっと爆発できる部分があればいいな、と思っていたんです。それがこの新作に出させていただくことによって、ひとつリミッターを外すことができたのかなと思います」。
また同世代の仲間の活躍も刺激になっているよう。
「市川團子さんが22歳、市川染五郎さんが21歳、僕が20歳。1歳ずつ違いでつながっているんです。同世代が少ないので、よく3人でご飯を食べに行ったりします。もともと染五郎さんと團子さんは仲が良くて、舞台の共演も多いので、そこに僕が割り込んだ感じですけど(笑)、もっとこうしたら歌舞伎が盛り上がるんじゃないかとか3人で夢を語り合っています。それぞれ役者としての持ち味が違うので、一緒にできる舞台も無限大にあって。いつか『菅原伝授手習鑑』とか、『勧進帳』を3人でできたらいいですよね」。
「染團左」あらため「染團辰」には期待しかないです! 伝統芸能を継ぐものとして、20歳ながら歌舞伎の未来のことも考えています。
「伝統芸能というのは、時代によって変わっていくものだと思っています。守るだけではなく、攻めていって、今のお客様に楽しんでいただけるように昇華させるのは、僕たち若い役者にしかできないところがあると思うんですね。
また片岡仁左衛門のお兄さんがよくおっしゃっているんですけれど、『かたち、かたちになってしまうから歌舞伎は難しいものだと思われるんだよ』と。確かに昔の名優と言われる方々のビデオを観ると、型がきっちりしてきれいとか、滑らかだとか技術的なこともあるけれど、純粋に役者としての性根、役者自身の気持ちが動くところがお客様を感動させるんだと感じるんですね。それが今のお客様にも理解していただけるひとつのカギだと思います」。
座右の銘は、「毎日が一世一代」。
「曾祖父の二代目尾上松緑が残した言葉です。歌舞伎は25日間と公演が長いので、途中、役者はだれてしまうことがあるかもしれない。でも、お客さまにとっては一度きりの舞台かもしれないわけです。だから毎日が最初で最後だと思って、お客さまにいいものを届ける。これが自分のテーマだと思っています」。
ストイックに舞台に向き合う辰之助さん。襲名を経て、どんなふうに羽ばたいていくのか、本当に楽しみです。まずは5月3日からスタートする襲名の舞台へ足を運び、躍動する新・辰之助を肌で感じてみましょう!
information
5月歌舞伎座 團菊祭五月大歌舞伎

令和8年(2026年)5月3日(日・祝)~27日(水)
※11日(月)、18日(火)休演。
昼の部(午前11時開演)『南総里見八犬伝』『六歌仙容彩』『寿曽我対面』
夜の部(午後4時30分開演)『鬼一法眼三略巻』『助六由縁江戸桜』
ここで今月の舞台写真を大公開!
夜の部『鬼一法眼三略巻』「菊畑」で奴虎蔵実は源牛若丸を勤める辰之助さん。



昼の部『寿曽我対面』で曽我五郎を勤める辰之助さん。


Staff Credit
撮影/露木聡子 取材・文/佐藤裕美
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