内野聖陽さん『負けへんで』公開記念インタビュー
内野聖陽さんインタビュー「冤罪は誰の身にも起こりうる。それを僕ら一般の人が知らないだけに、ホント怖い」
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折田千鶴子
2026.11.04

今年も大活躍の内野聖陽さんの新たな魅力爆発!
1カ月以上にわたる主演舞台『リア王』の全国公演を、まさに終えたばかり。今年も大活躍が続いた内野聖陽さん。取材時に現れたこの珍しいお姿――たくましい髭をたくわえた――も、『リア王』の準備のためでした。
そんな内野さんが、「監督とプロデューサーさんのお誘いに、“出ます!”と手を挙げた」と語るのが、映画『負けへんで』。無実の罪によって逮捕され長きにわたって勾留された男が、完全無罪を勝ち取るまでの道のりを、血管が切れそうになったりショボンと萎んだりと七変化をみせながら演じた内野さんに、その思いを聞きました。

重鎮の域に入った今も常に真っ向から役と格闘する
内野聖陽
Seiyo Uchino
1968年9月16日生まれ、横浜市出身。1993年に俳優デビュー。代表作に、朝ドラ「ふたりっこ」(96)、大河ドラマ「風林火山」(07)、「JIN」シリーズ(09~)、「臨場」シリーズ(09~)、映画に『(ハル)』 (96)、『海難1890』(15)など。近作に、ドラマ&劇場版「きのう何食べた?」(19~)シリーズ、映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(24)、ドラマ「PJ 〜航空救難団〜」(25)、Amazonプライム『犯罪者』(26)など。
本作には原作があり、実際に原作者の身に起きた事件を基にしています。映画化にあたって、原作者・山岸忍さんにお会いになられたそうですね。
「実際に起きた事件を基に“フィクションのエンターテインメント”として作りたいという意向を聞いて、僕は監督とプロデューサーのお誘いに『出ます!』と手を挙げたので、最初はお会いしない方がいいなと思っていました。自分のイメージを基にして演じ切ろうと思って。でも当時のデベロッパーさんたちを取り巻く環境や雰囲気などについてお聞ききするうちに、やっぱりお会いした方がいいかなと、お願いして会いに行きました」
実際にお会いした山岸さんからは、どんな印象を受けましたか?
「なんとも素敵な人でしたね。正直者で人たらしの面白いオジサンだな、という印象を受けました。同時に、すごいパワフルな経営者だと思いましたね。あれだけのことを成し遂げた方ですから当たり前ですが、本当にパワフルでした(笑)」
お会いしたことが、演じる上で生きましたか?
「僕としては苦しかったこと、悔しかったこと、悲しかったことなど、色んな弱音をお聞きしたかったのですが、ご本人は弱音を吐いたり見せるのを良しとしない方のようで、その点においては取材にならなかった(笑)。必死で、“ここだけの話で、絶対に他言しません”とか“SNSやネットにも絶対にあげません。だから特別にお話していただけませんか”とお願いしてみましたが、本当に負けず嫌いな方でダメでした。当然ですよね。結局メンタル的な取材は出来ませんでしたが、当時のデベロッパーさんたちの“生き馬の目を抜くような”激しい世界――まさに体育会系な世界で山岸さんが激しく仕事をされていた時代の話を色々とお聞きし、“なるほど”と得心した部分はありますね」
『負けへんで』ってこんな映画
不動産デベロッパーの創業社長・藤堂(内野聖陽)は、社員に慕われ、猛烈な勢いで仕事をこなしていた。すべては順風満帆だったが、2019年いきなり地検から事情聴取を受ける。3年前のある学校の土地買収について、不審な点があるというのだ。検事の鈴鳴(松本若菜)は、大学の後輩だと同情気味に接してくるが、結局、藤堂は30億という巨額の業務上横領の罪で逮捕される。身に覚えのない事件の自白を迫られ、保釈も認められず、長い勾留生活が始まる。絶望して気弱になりかけた藤堂の元に、恋人の美奈(美村里江)から激励の手紙が届き、藤堂は最強の弁護士軍団とともに奮起を誓うーー。248日間にわたり不当に勾留された藤堂が、弁護団とともに“有罪率99.9%”といわれる裁判で完全無罪を勝ち取るまでの軌跡を描く。
カリスマ社長の藤堂を演じるにあたって、フィクションとしてどのように作り上げていきましたか。
「基本的には“スポーツマンで前向きで人生を謳歌している経営者が、ある日突然、検察の罠にはまり落ちていく”物語だと僕は捉えていましたので、まず、あまり特殊な人間にはしたくありませんでした。“何も悪くないのに、人間ってこんな目に遭うんだ……”と皆さんが共感できることが大事かなと。ところが準備稿での藤堂は、服装も奇抜なものだったので、“これは少し特殊過ぎないか!?”と意見を出し、そこから監督や脚本家さんと喧々諤々やりながらキャラクター造形をしていきました」
あんなにパワフルだった藤堂が、長い勾留生活の中で落ち込み、絶望し、気力を失いかける姿を観ているのは、とても辛かったです。演じていても、かなりキツかったのでは?

「冒頭のシーンは、トレーニングがてら自転車で会社に乗り付けて、部下たちが“社長~!!”と(書類への)サインを求めて寄って来るのに対して“よっしゃ~”と対応している元気炸裂のキャラですからね。撮影は基本、京都の松竹撮影所で行われていたので、ほぼホテルと撮影所の往復だけの日々だったんですよ。朝起きて撮影所に行き、夜ホテルに帰ってきたら、部屋で大阪弁の特訓を始める、という日々でした。本作で僕にとって最も大きな壁は大阪弁だったので。毎日、撮影所からすぐ帰って部屋にこもって特訓。でもそんな状態は、勾留されて“シャバに出られない”という藤堂の感覚に近いのかなと感じ、結果的には良かったと思いました。でも、そんな生活を1カ月半続けていたのは、やはりキツかったですね」
追い詰められていく藤堂の精神状態を、ある種、内野さん自身も体感されたわけですね。
「勾留期間に藤堂が抱えていた状況は、どんなに過酷だったでしょうね。何日間も誰とも会えず、外の世界にも触れられず、そんな状況下で自分が興した会社が崩壊する瀬戸際にあるわけですから。多分いろんな妄想に取り憑かれたのではないか、と想像しながら現場に通いました。ニュースで“拘禁病”に掛かる人について聞いたことがありますが、実際に長いこと勾留されていると、精神が壊れてしまうことがあるそうです。そういうシーンを撮影する際は、僕も出来るだけ想像してイメージの中で自分を追い込んでいきました」
美人検事vs不屈の男
松本若菜さん演じる綺麗で気さくな鈴鳴検事とのやり取り、その数々のシーンが印象的です。
「実際に、いわゆる“美人検事さん”がいらっしゃって、“チーママ”と呼ばれていたそうで、それも面白いなと思いました。逮捕されて精神がめげているところへ、自分の味方のような顔をされて優しい言葉を掛けられると、思わず“はい、その通りです”と言っちゃったりするらしいんですよ、人間って。映画の中で藤堂も、“(鈴鳴検事と接する時間が)一番心が休まる”と言っていますが、そんな状況に追い込まれ、足を掬われそうになるわけです。

上の検事が書いたシナリオ通りの供述を取れと命令されている鈴鳴検事は、どうにかシナリオに沿う供述を得ようと藤堂を誘導し、あの手この手で来るわけです。本当に怖いですよね。面白いと言ったら失礼ですが、非情な甘い罠だったわけです。僕としては、そんな美人検事さんに恋しそうになってしまう気持ちを持ちながら演じていました」
その鈴鳴検事との攻防戦が、第1幕、第2幕みたいに進行していく、相対しながら藤堂がなびいていきそうになる、その力学の変化が面白くて。あれらのシーンは、一括で撮っていったのですか。
「そうです。まとめて何日間かにわたって、一気に順撮りで撮っていきました。制作側が、藤堂が鈴鳴に徐々に心を許して、いつの間にかなくてはならない人になってしまう、という流れを作ってくださったので、僕らもやりやすかったですね。鈴鳴もコテコテの大阪弁で、大学の先輩である藤堂を揺さぶってくる、時に女を使って揺さぶってくる。松本さんもコテコテの大阪弁に苦労していらっしゃいましたね。“カット!”が掛かった瞬間、“今の大丈夫ですか?”と常に聞いて確認されていました」
2人の攻防シーンについて、監督も含めて練り上げていく感じだったのでしょうか?
「監督は、松本さんには“いわゆるチーママ風に”などとガイドを出していらっしゃって、僕はそれを“いいなぁ”と思いながら見ていました。僕に対しては完全に放置でしたから(笑)。監督が構ってくれないな、ディレクションを出してくれないな、と不安で……。というのも僕は、“ああでもない、こうでもない”とか“そうですか、じゃあこうします”とディスカッションしながら芝居を仕上げていくタイプなので。

でも本木克英監督と言えば、西田敏行さんと三国廉太郎さんの『釣りバカ日誌』シリーズも何作か手掛けていらっしゃる松竹商業映画のトップの人ですからね。藤堂に関しては役者に託した方が絶対に面白くなる、という確信お持ちだったんでしょうね。僕は不安で仕方がなかったですが(笑)。完成した映画を観たら、特に複雑な裁判劇のパートがピシッと作られていたので、さすがだなと思いました。改めて“監督、参りました!”と思いました」
“99.9%有罪”をひっくり返せた理由は?
それにしても、藤堂は黙秘をしない。絶対に、そこは譲りませんでしたね。
「藤堂にとっては、自分は悪いことをしていないのだから黙秘はしたくない。そんな卑怯なことは出来ない、と思っているから。だから騙されちゃったのかな、と思うくらい真っ直ぐな人。でも、だからこそ検事の誘導にも、ギリギリのところで自分の気持ちや主張を保っていられたのだと思います。それが“負けへんでぇ!”と藤堂が戦い抜けた最大の理由だと思います。本当に精神力が強い人だなと思いました」

演じながら、さすがに“おいおい!”と思ったりしませんでしたか(笑)?
「部下をそんなに信用していいのかな、とは思いましたね。原作者ご本人も、“ちょっと部下を信用しすぎました”と反省していらっしゃいましたが(笑)、それくらい部下を信頼し、仕事を託していたんでしょうね。ただ、彼の負けん気の強さには共感を覚えました。実はお会いした際、山岸さんから“内野さんは俺にそっくりだ”と言われ、“全然似てませんよ!”と返しましたが、完成した映画を観たら、やっぱりちょっと似ているなと思っちゃいましたね(笑)。
僕は、彼をモデルにして演じたつもりは全くないのですが、人生を前向きに捉えたいという思いや向上志向など、どこか自分と重なるものを感じました。彼には、前向きに生きている経営者の気持ち良さがありますよね。そんな男が地獄に突き落とされ、助けてくれるはずの社会正義を守るための組織に人生を蹂躙されるわけです」
映画としては面白いですが、考えると怖いですね。
「そう、これは誰にでも起こりうる物語ですから。しかも僕ら普通の一般の人は、日本の裁判手続きの遅さや、検察のトップが決めたシナリオ通りに動いていくとか、全く知らないのが怖いですよね。そういう意味で本作は、非常に社会性のあるエンターテインメントだと言えますね」

演じている際、特に自分の中に強い印象が残ったシーンはありますか?
「僕が劇団に居た若い頃、アレクサンダー・デュマの長編小説をコンパクトに舞台化した『モンテクリスト伯』に出演したことがあるんですが、その構図と本作は似ているなと思っていました。無実の罪で牢獄にぶち込まれた人間が、出てきてから自分を陥れた人たちに復讐していく――という。藤堂が冤罪で閉じ込められ、出てきてからの権力に対する復讐だと捉えていたので、例えば出所後に弁護士軍団に“僕は今、ものすごい勢いで怒りが溢れかかっている”というようなセリフを言うシーンでは、自分を陥れた者に対する怒りを、それこそ青白い炎くらいのイメージで演じていました。
脚本の吉川次郎さんが書いてくださったセリフを、僕が“こういう風に言いたい”と訂正して、吉川さんにOKをいただいて、それを淡々と、しかし深い決意で口にする。これから戦っていく後半戦の序曲として演じた、相当にこだわったシーンです。映画を観るとサラッと終わるけど(笑)、僕的には復讐戦の始まりのシーンとして、強く印象に残っています」
ライバル社長(北村一輝さん)との熱き友情に感涙!
北村一輝さん演じる、ライバル会社の社長さんとの関係性にも心惹かれます。
「藤堂がいきなり“あんたの土地を売ってくれ”と訪ねていって2人が出会うシーンがありますが、実際にもそうだったらしいんですよ。北村さん演じる社長は、“この男、変なの”と思ったけれど、それで大親友になっちゃうなんて本当に面白いですよね。実はその2人の出会いのシーンは、稿を重ねていく段階で消えたことが何度かありましたが、やっぱり大事だよねと復活したんです。北村さんも、“あの出会いは面白い”と言って。北村さんと言えば、こっちが撮影終わってヘトヘトになっているところへ“話がある”というんで、監督やスタッフと撮影所の会議室に行ったんです。そしたら、北村さんの台詞の変更案を沢山話されて。“今日はもうこれくらいで勘弁してくれ”って(笑)。一つのセリフに対しても、“こんな風に言いたいんやけど”とギリギリまで悩んで脚本以上に肉付けしてくださって、とても感謝しています。

コテコテの大阪弁に苦労している人が多かった中、完全なるネイティブな彼は、一人でニコニコと自由自在に余裕で大阪弁を操っていて。しかも人たらしというか、とても人懐っこい方で、撮影初日から“内野さん、ちょっと”と親友のような雰囲気を作ってくださって、本当に相手が北村さんで良かったなと思いましたし、いろんな関西文化を注入してくれました」
そんな風に、現場に入ってからもシーン構成が変わったのですね!
「例えばウェイクボードのシーンでも、ボートに乗っている彼が、やいのやいのと盛り上げている楽しげなシーンも一度はシナリオから消えたんです。でも2人の友情の深まりや、藤堂が人生を謳歌している時間として必要だよねと話し合って復活しました。観ても、あって良かったシーンだと思いましたね」

取材後記
いよいよ公開が迫ってきた『負けへんで』。
「負けへんで!」と頑なに初志を貫き通して有罪率99.9%を覆すという“奇跡”を起こした、“ちょっと暑苦しいけれどスゴイ奴!”を、内野さんはチャーミングに体現しています。是非、感情のジェットコースターを劇場で楽しんでください!
『負けへんで』
11月13日(金)より全国ロードショー

配給:ギャガ/©2026「負けへんで」製作委員会
監督:本木克英(『空飛ぶタイヤ』『超高速!参勤交代』)
出演:内野聖陽 松本若菜、竜星 涼、美村里江、石丸幹二 / 北村一輝
Staff Credit
撮影/山崎ユミ ヘアメイク/佐藤裕子(スタジオAD) スタイリスト/中川原寛(CaNN)
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
















