私のウェルネスを探して/古賀及子さんインタビュー後編
【古賀及子さん】いつも考えているのは「はっと驚くような文が書きたい」ということ。書く力、源になっているのは締め切りですね(笑)
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LEE編集部
2026.09.27

引き続き、古賀及子さんに話を聞きます。撮影は、古賀さんが初めて作った自主製作日記本が販売されている東京・下北沢にある日記の専門店『日記屋 月日』周辺で行われました。お店ができたのが2020年で、古賀さんが初の日記本を置いてもらったのもその直後。その頃に比べると日記本の出版は格段に増え、店内には自主製作のものも含めたくさんの日記本や日記帳が並んでいます。
後半では、古賀さんの幼少期から大人になるまでのエピソード、メディアで17年書き続けたことで鍛えられた執筆力やその陰で生まれた劣等感について聞きます。また日記にもたびたび登場する親子のコミュニケーションで気を付けていることも教えてくれました。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む)
中学時代に手紙にハマる。書くことよりも誰かとつながることに興味があった
古賀さんは東京生まれ、神奈川・埼玉育ち。5人弟妹の長女として育ちます。全員が3歳差で一番下とは12歳差、とはいえあまり弟妹の世話をした記憶はなく、のんびりした性格でぼんやり過ごしていたと言います。小さい頃から今も変わらずに好きなのが『ドラえもん』。とくに映画『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』(1984年公開)が大好きだったと言います。

小学5年の時に家族が増えたのを機に神奈川から埼玉へ引っ越し。生活ががらりと変わります。「その頃はアニメ『らんま1/2』が好きだったのですが、今ほどアニメファンが認められていたわけではありませんでした。アニメ好きというだけでまわりから少し蔑まれ、肩身が狭い思いをしていました」
中学生になりハマったのが手紙です。雑誌のペンフレンド募集のコーナーを見て手紙を送り、返事が来るのを待つのが楽しかったそうです。「当時は交換日記も流行っていましたが夢中になるほどではありませんでした。手紙を郵便ポストに入れて相手に届くというシステムに感動したんですよね。書くことよりも誰かとつながることに興味があったと思います」。

高校生になると演劇に興味を持ち、演劇部に所属します。下北沢の小劇場によく足を運び、ナイロン100℃や大人計画の演劇をよく観ていたとか。「演劇部でしたが裏方の仕事が好きで照明係をしていました。自分で演じるというより観るのが好きでしたね。演劇部の顧問の先生が劇作家の別役実さんが好きで、不条理演劇の戯曲をよく読まされていました」。
高校卒業後は短大へ進学。短大時代は軽音サークルに所属していました。卒業時サークルには4年制大学の仲間がおり皆「就職をしない」と言ったため、古賀さんも就職しませんでした。「実は私は就職活動が得意だったんです。就職氷河期にも関わらず、クレジットカード会社と建材輸入業の会社2社から内定をもらいました。だけど就職しなかったんですよ(笑)。めちゃくちゃですし、世間知らずすぎたと思います」。
『デイリーポータルZ』で書く力は鍛えられたけど、ずっと周りを 「すごいな」と見上げていた
短大卒業後はフリーターに。アルバイトでホームページ制作会社に入り、HTMLやフラッシュを作るなどしていました。待ち時間が多い会社で空き時間に見つけたのが、その後入社することになるウェブメディア『デイリーポータルZ』です。
「内容がとにかく面白かったんです。当時はまだぎりぎりインターネットを使っている人が限られていて閉じた世界だったようにも思うのですが、『デイリーポータルZ』は開かれたメディアでした。執筆する人が本名・顔出しで記事を書く。オープンすぎる媒体が新鮮で潔くて、すごいなと。そこで書きたい、そこに入りたいと思いました」

早速ライター募集の記事を見つけ応募、採用されます。その後17年間所属し「納豆を1万回混ぜる」などユニークな記事を数多く執筆してきました。自由なテーマで執筆者が個性あふれる記事を書くスタイルが人気でしたが、そこで書き続けたことで書く力は鍛えられたものの、どこか劣等感を感じる瞬間があったと言います。
「面白い記事を書く才能に長けた天才たちの集まりの中に長くいたことで、書くことの筋力は鍛えられたと思います。長い文章を書く忍耐力がついたのもここでの経験のおかげです。ただ、どこかで自分は“達成できていない”“手ごたえをつかめていない”という感覚がありました。ずっと周りを “すごいな”と見上げるような17年間でした」
創作者としての根性がインストールされ、現在の日記のスタイルにも影響を与えた17年間
17年も続いた理由は「楽しかったから」ときっぱり。 会社にいると立替申請、稟議の提出、上司と飲みに行くなど、会社員として会社員らしい経験ができたのも良かったと思います」。また『デイリーポータルZ』というコミュニティが何より好きだったのもあると言います。
「私がインターネット好きになったのは、知らない人とつながれるコミュニティが自分にとって最高だったからです。知らない人とつながり、知らない人の書くものが読める 。そんな流れで『デイリーポータルZ』にたどり着きましたが、みんな仲が良くていい雰囲気の中で働けました。ここにいたことで自分の人生が変わったと思います。創作者としての根性がインストールされたのもこのメディアにかかわれたおかげです」




古賀さんの日記を読んでいると、冷静に観察する・俯瞰して物事を見ているような視点を感じます。そこにも『デイリーポータルZ』で学んだことが効いているそうです。
「ひたすら取材してきたことで見たことを捉えて書く、淡々と事実を受け入れることに慣れているのかもしれません。事象と自分を結びつけすぎず、意味は必要なく事象を大切にする。感情は大事にしつつも感情移入せず、それ以上に見たもの・聞いたことを大事にする。そこは今の日記のスタイルに影響を与えているかもしれません」
「怒るお母さん」のイメージが強すぎて、ついそのままトレースしてしまいがち。子どもを否定しない、腐さないのが大事
古賀さんの日記を読んで素敵だなと感じたのが家族の会話です。子どもたちとのやり取りがなんとも心地良く、家族関係の良さを感じます。コミュニケーションや声掛けで気をつけていることを聞くと、こう答えてくれました。
「ハウツーみたいで風情がないのですが(笑)会話で相手を否定しない、腐さない(咎めない)のが大事だと思います。私は親から“服が安っぽい”とか、オーバーオールのポケットにクマを入れていると“馬鹿みたい”と言われたり。“化粧が濃すぎる”“髪が短すぎる”“なんでそんな髪色にしたんだ”とよく言われました。当時は嫌だなとも思えなかったんです。ああそうなんだなと、自信だけ失っていきました。それもあって、自分では一切言わないようにしています」

母親は母親のロールモデルにとらわれやすい。小言を言う、怒る、注意するとか。それに影響されていないかどうかチェックするといいのかなと古賀さんは言います。
「母親は小言を言うイメージがあります。漫画の中の『ちびまる子ちゃん』『ドラえもん』でお母さんはいつも“宿題したの?”とかちょっと怒っているんですよね。怒るお母さんのイメージが強すぎて、ついそのままトレースしちゃうんです。自分はそんなつもりがないのに怒っている母像がロールモデルになり、つい小言を言ったり腐してしまう。それをすべてやらないと、子どものほうから話してくれるし見せてくれると思います。子どもから“この服どう?”“こんなの書いてみたけどどうかな?”と。絶対に腐さない安心感があれば、何でも言ってくれると思います」

書くときに気を付けているのは「言葉選び」。はっと驚くような文が書きたい
古賀さんが書く日記やエッセイの言葉選びには独自のセンス、風情を感じます。普段書くときに気をつけていること、大切にしていることを聞いてみました。
「新鮮に読ませるための言葉選びに気をつけています。そのために慣用句や普通の表現を使わないようにしています。一度書いたあとに読み直し、当たり前の言葉・言い回しは避けて、別の言葉・かっこいい言葉に置き換えられないか調べたり考えたりします。いつも考えているのは“はっと驚くような文が書きたい”ということですね。書く力、源になっているのは“締め切り”ですね(笑)。今まで破ったことがないです。それを守るためにひたすら書きます。万が一遅れそうな場合は、2週間前には相談するようにしています」

My wellness journey
古賀及子さんに聞きました
心のウェルネスのためにしていること
「物理的な健康にいいことは迷いなくできるのですが、概念的ないいこと、ご褒美とか心の豊かさと求める行為みたいなものは照れくさくてできません(笑)。私には身分不相応な気がして、追えば追うほど逃げていくように感じるので形あるものだけを追い求めるようにしています。形のないものを追い求めると足元を取られるというか、嘘になるような気もするので。畏怖して見ないようにしているとも言えます」
体のウェルネスのためにしていること
「早起きです。子どものころから朝型の早起きで、逆に夜が苦手です。骨密度を測ったら同じ年齢の人の8割くらいしかないことが分かって、最近はレバーをよく食べるようにしています。積極的にカルシウムや鉄分を摂るようにもしています。縄跳びがいいとも聞いていて、家の前でなわとびをしたりして体を動かしています」
インタビュー前編はこちらから読めます

Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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