【中村米吉さんインタビュー「コウケンテツさんのレシピで料理をしています」】話題の”ルパン歌舞伎”が京都に!新作歌舞伎のヒロインのつくりかた【9月南座『流白浪燦星 碧翠の麗城』】
2026.08.16
“美しすぎる女方”として注目される歌舞伎俳優・中村米吉さん。ユーモアあふれる語り口も人気で、テレビにもひっぱりだこ。
そんな彼が9月に京都・南座『流白浪燦星 碧翠の麗城(るぱんさんせい へきすいのれいじょう)』にヒロインの瀬織姫(せおりひめ)役で出演。あの人気アニメ『ルパン三世』を歌舞伎にした作品です。新作を作り上げる苦労や楽しみについて伺いました!

五代目 中村米吉
NAKAMURA YONEKICHI
歌舞伎俳優
なかむら・よねきち●1993年、東京都生まれ。屋号は播磨屋。父は歌舞伎俳優の中村歌六。2000年7月、7歳のときに歌舞伎座『宇和島騒動』で、中村米吉を襲名して初舞台。2011年から女方を志す。2023年9月、歌舞伎座にて『祇園祭礼信仰記』の雪姫、2024年1月に浅草公会堂にて『本朝廿四孝』の八重垣姫、同年11月に明治座にて『鎌倉三代記』の時姫を演じ、女方の大役である三姫を短期間で制覇。歌舞伎版『風の谷のナウシカ 上の巻 ―白き魔女の戦記―』のナウシカ役、『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』では、ヒロイン・ユウナ役など、新作歌舞伎でも活躍。
KABUKI actor
もし歌舞伎のお姫様が「ルパン三世」の世界にいたら?
中村米吉さんが語る歌舞伎『流白浪燦星 碧翠の麗城』
映画『国宝』以来、依然として注目度の高い歌舞伎。その人気の一端を担っているのが「新作歌舞伎」です。とくに近年は「少年ジャンプ」原作の漫画&アニメ『ONE PIECE』、『NARUTO』、スタジオジブリ作品『風の谷のナウシカ』に『もののけ姫』、ゲームの『ファイナルファンタジー』や『刀剣乱舞』など、幅広い世代に親しまれてきた作品とその世界が歌舞伎化され、新しいお客様を劇場に呼んでいます。
歌舞伎『流白浪燦星(るぱんさんせい)』もそのひとつ。そう、あの不朽の名作アニメ「ルパン三世」を歌舞伎にしたものです。2023年に第一弾が上演されて話題となり、第二弾となる『流白浪燦星 碧翠の麗城』が全国4都市を回ることに! 東京、名古屋の公演は好評のうちにすでに終え、残すところ、9月の京都・南座、2027年2月の福岡・博多座のみとなりました。
そんな人気作に第二弾から参加しているのが若手の女方として今大注目の中村米吉さんです。古典歌舞伎でも大役を勤めるほか、『風の谷のナウシカ』ではナウシカ役を、『ファイナルファンジー』ではヒロインのユウナ役を勤め、その美しさや再現性の高さがバズるなど、実力も人気も急上昇中。ルパン歌舞伎ではヒロインの瀬織姫を演じています!
「アニメの『ルパン三世』は子どもの頃から慣れ親しんできた作品なので、ヒロイン役をさせていただくのはありがたいこと。 この作品の一番の魅力といえば、なんといっても個性豊かなルパン一味のキャラクターですよね。”ルパン歌舞伎”もそれがそのまま活かされていて、(片岡)愛之助兄さんのルパンをはじめ、(市川)中車さんの銭形刑部、(市川)笑也さんの峰不二子、次元役の市川笑三郎さん、そして第二弾では、愛之助兄さんがルパンと石川五ェ門の二役をおやりになりますけれど、みなさん、すごい完成度。一作目で一度なさっているので、役柄が体に入っているんですね」

「衣裳もアニメの服をイメージして作られていますし、お馴染みのセリフ『俺の名はルパン三世。泥棒さ。』や『つまらぬものを斬ってしまった』があったりして、出てくるだけでそのキャラクターが存在する感じ。今回そこに私はゲストのヒロイン役として入っていくので、お話をいただいたときは楽しみだなと思う一方、どう存在感を出していったらいいか悩みました」
何よりこだわったのが「歌舞伎の要素をいかに出していくか」だったそうです。
「他のキャラクターがアニメ寄りなぶん、瀬織姫に歌舞伎的な人物造形をもりこまないと、全体的に歌舞伎らしさが薄くなってしまいます。ですから、瀬織姫はあくまで歌舞伎のお姫様として存在することが大事だなと思いました。その一方、ルパン歌舞伎らしいお姫様でなければいけない。新しいお姫様像を模索して作りました」
序幕は歌舞伎のお姫様を代表する“赤姫(※)”のひとつ、華やかな「桜姫」の衣裳で登場。4回の衣裳チェンジで、歌舞伎らしさを盛り上げます。声もナウシカやユウナのときのような発声ではなく、歌舞伎のお姫様らしい声色。花のような優美さを保ちつつも、物語が進むにつれてやがて自立していくのが瀬織姫の役どころです。
「瀬織姫はお寺に盗みに入ったルパン三世によって連れ出され、外の世界を知って、やがて羽ばたいていく。現代のお客様にも共感していただけるような芯の強いお姫様像を描けたらと思っています」。
※赤姫とは、歌舞伎の時代物に登場するお姫様の総称。高貴で美しいお姫様の役柄では、赤い衣装を着ることが多いこともその名称の理由。

「どんな作品でも取りこんでしまう懐の深さが歌舞伎にはある」
「新作では歌舞伎俳優としての力量が試されます」と米吉さんは言います。
「普段、歌舞伎作品に取り組むときは先輩方に教えていただいたり、以前の公演の動画を見たりして、イメージやセリフ回しをお稽古できますけれど、新作はゼロから自分たちで創り上げなければならないですから。
とはいえ、歌舞伎にする以上、何でもいいってわけじゃない。今まで先人が築き上げてきたものの蓄積の中に、新しいキャラクターの造形も存在するわけです。だからこれまで自分が培ってきた技術なり知識なりの引き出しを全部開けて、『ここはこうしよう』と工夫していくんですね」
それはまさに歌舞伎俳優にしかできないこと。先日米吉さんが案内役として出演した、NHK Eテレの番組「心おどる『歌舞伎女形』」。番組の中ではルパン歌舞伎のお稽古風景も放映されたのですが、そこには試行錯誤する米吉さんの姿がありました。
「子どもの頃、『歌舞伎って何?』って父(中村歌六さん)に聞いたら、『歌舞伎役者がやれば歌舞伎だ』っていう答えが返ってきました。じゃあ『歌舞伎役者とは何ぞや?』って考えると、それはやはり歌舞伎の演出方法、演技方法を身につけ、出てくるだけで歌舞伎を成立させられる人のことだと思うんです。
でもそれは、歌舞伎の家に生まれたからといってなれるものじゃないし、1年勉強したからといってなれるものでもない。舞踊をお稽古して、義太夫の素養を身につけ、(河竹)黙阿弥(※)だったらどうセリフを言うか、(鶴屋)南北(※)だったらどうセリフを言うか……という世界にまでどんどん理解を高めていくしかない。
本質的に歌舞伎俳優になるのはとても難しくて、一生、それを追い求め続けていくことなるのだと思います。自分もまだその過程にいるわけですけれど、いつか自信を持って新作を作ることができるような歌舞伎役者になれていたらうれしいですね」
※河竹黙阿弥は江戸時代末期から明治にかけて、鶴屋南北は江戸時代後期に活躍し、今なお上演され続ける作品を多数生み出した歌舞伎狂言作者。せりふのリズムや演出にそれぞれの独自性がある。

そんな歌舞伎俳優としての苦悩をよそに、ルパン歌舞伎はいたってライトでカジュアル。カーチェイスならぬボートチェイスがあったり、宙乗りがあったりとエンターテインメント性抜群。さらに大野雄二氏作曲のあのアニメのテーマ曲がそれを盛り上げます。
「筋書きも難しくないので歌舞伎初心者やお子さんも十分楽しめる作品。その一方、瀬織姫が木に縛られたり、桜が降ったりと『祇園祭礼信仰記(金閣寺)』の雪姫のオマージュがあったりするので、歌舞伎好きなお客様には『あ、これはあの作品のパロディだな』と楽しんでいただける作りになっています」
新作を作って、あらためて歌舞伎の懐の深さを感じているという米吉さん。
「どんなに親和性がない作品でもそれを取りこんでしまう懐の深さが歌舞伎にはあるんですね。たとえば『ファイナルファンタジー』に召喚獣という、ある種のモンスターが出てくるんですけれど、歌舞伎にも人間でないものを表現する方法が存在していて、たとえば踊りの獅子がそのひとつ。
ゲームやアニメの世界では召喚獣は巨大なモンスターなんですけど、歌舞伎なら獅子のような形で表現することで歌舞伎として成立してしまうんですね。
歌舞伎というフィルターをかけると、理屈を簡単にび越えることができるんですよ。歌舞伎ってずるいんです。たぶん『サザエさん』だって歌舞伎に合いますよ(笑)」
米吉さんのサザエさん、いつかぜひ観てみたいです!!
「やりませんけどね!(笑)」
KABUKI actor
「雑誌はLEE! お姫様は瀬織ー! それが歌舞伎のセオリー!」
米吉さんの奥様は、京都出身の”嫁吉さん”
ところで京都といえば、米吉さんの奥様の故郷でもあります。南座で公演する際は、どんなふうに過ごしているのでしょうか。
「京都にいるときは、もっぱら妻の実家サービスにお伴させていただいております(笑)。甥っこがまだ小さいので、ご飯に行くにしても子連れで行けるお店がほとんどですね。ロイヤルホストとかカプリチョーザとか。あ、京都の老舗のパン屋さん、志津屋のカルネは大好きです。南座のある祇園四条駅の構内にも店舗があるので、劇場にお越しの際には、ぜひ食べていただきたいです」
結婚されて早2年半。生活のリズムなどはとくに変化はないそうですが、料理をする機会は増えたとか。参考にしているのは、もっぱら料理研究家コウケンテツさんのYoutube!
「コウケンテツさんのコールスローは、あまり野菜を食べないうちの妻が食べるんです。あと最近は、麻婆茄子をコウケンテツさんのレシピで作ったらおいしかったですね。Youtubeも明るくて親しみやすいし、コウケンテツさんはきっといい人だと思います」
一方、苦戦しているのが卵焼きだそう。
「油を敷いて、フライバンもよく熱して焼いてますけど、真っ黄色にできあがらない。茶色くなっちゃう。フライパンを変えたほうがいいんですかね。鉄のフライパンにしようかなと思うけど、重いし、どうしたらいいんだろうって。いい方法がないか、LEEさん、コウケンテツさんに聞いておいてください(笑)」
ちなみに米吉さんの妻・小川梓さんはSNSで「中村嫁吉」というお名前(笑)。「妻が自分で考えたもの」だそう。さすがのネーミングセンスにも、ユーモアあふれるお二人の仲の良さが伺えます。

それでは最後に歌舞伎を初めて観る人へのアドバイスをお願いします!
「とにかく3回~4回は観ていただきたいと思います。というのも歌舞伎にはいろいろなジャンルがあるんですね。古い時代を描いた重厚感のある時代物や江戸時代の庶民の生活を描いた世話物、悲劇もあれば喜劇もあるし、踊りもある。タイプが全然違う作品がたくさんあるので、何かひとつ観て『退屈だ』と思っても別のものですごく好きになるかもしれない。だから何度かご覧いただくことが大事かなと。
そんな中で新作はやはり歌舞伎にご縁のない方でもとっつきやすいし、LEEの読者のみなさんにとっても『ルパン三世』は馴染みのある作品だと思います。だから♪ 雑誌はLEE! お姫様はセオリー! それが歌舞伎のセオリー!と(笑)。ラップバトルみたいになりましたけど、そういうことでございます。
映画にしろ、雑誌にしろ、文化的なものって一文の得にもならないし、お腹が満たされることもない。なくても生きていけるわけです。でも感動したり、考えさせられたり、精神的な満足感が得られるのは文化ならでは。とくに歌舞伎は長い年月をかけて培われてきた伝統や歴史があります。歌舞伎に触れていただくことで、人生がきっと豊かになるのではないかと思っています」

information
9月南座『流白浪燦星 碧翠の麗城』

会場:京都・南座
公演日程:2026年9月2日(水)~26日(土)
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時~
休演日・貸切は日程詳細をご確認ください
Staff Credit
撮影/露木聡子 取材・文/佐藤裕美
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