FOOD

これからの「おいしい」について、二人の専門家がトーク!

『エブリシングだし』とは?スープ作家 有賀薫さん×ライター 澁川祐子さんの「おいしい」対談

  • 藤本こずみ

2024.08.01

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トークイベント「<だし>と<うま味>の味なカンケイ」

先日、東京・新宿にある紀伊國屋書店新宿本店で、これからの「おいしい」について考えるトークイベント「<だし>と<うま味>の味なカンケイ」が開催されました。

このイベントで対談されたのは、食や工芸をメインに執筆するライターの澁川祐子さんと、スープ作家の有賀薫さん。

(写真左)ライター 澁川祐子さん(写真右)スープ作家 有賀薫さん

澁川さんは『味なニッポン戦後史』(集英社インターナショナル)、有賀さんは『有賀薫のだしらぼ:すべてのものにだしはある』(誠文堂新光社)という著書を刊行したばかり。つまり、同じタイミングでそれぞれの角度から「味」にアプローチした二人の著者によるトークイベント、というわけです。

書影

澁川さんの『味なニッポン戦後史』は、世の中の動きとともに人々の味の嗜好が変わってきたことに注目し、戦後日本における、「うま味」「塩味」「甘味」「酸味」「苦味」「辛味」「脂肪味」という7つの味覚の変遷をたどる研究本。

一方、有賀さんの『有賀薫のだしらぼ』は、「そもそも、だしって何?」という疑問に答え、暮らしの中でのだしとのつき合い方や料理への生かし方を紹介する、生活者目線のだし本。

そんな「おいしい」のプロ二人によるトークは、ディープでありながら身近にも感じられる、とても興味深いものでした。今回は、イベントの内容の一部をレポートしたいと思います!

お互いの著書の魅力は?

澁川さんと有賀さんは、数年前から、おいしいものを食べに行く会の仲間として交流があるそう。トークイベントは、お互いの著書の感想と魅力を紹介するところからスタート。

有賀さん澁川さんの本は、時間軸で7つの味覚をとらえて、緻密な研究や取材からわかったその変遷を紹介しているところが魅力だと思いました。例えば、第一章の『うま味』の部分では、かつて広く使われていた『味の素』が、『化学調味料』という呼び名もあだになって、家庭では一時下火になった。それが最近、SNSや、『うま味調味料』を使う料理研究家のリュウジさんの登場によって、改めて話題になってきてーーというようなことが書かれていて、すごく面白い!」

澁川さん「実は『うま味』の章を書いている時には、有賀さんの作る、素材の味を生かしたスープのことが頭にあったんです。そうしたら、ちょうど有賀さんがだしの本を出されることを聞いて。読んでみたら、食材を煮出すだけで溶け出してくる『エブリシングだし』、昆布やかつお、丸鶏などから手間ひまをかけてとる『ラスボスだし』、そして現代に入って飛躍的に増えた『インスタントだし』の3つに分類しているところが、とても新しいと思いました。特に、インスタントのだしについてきちんと触れているのが画期的!」

有賀さん「今回、本を書く前にXでだしについてのアンケートを実施したところ、一番多く使われていたのは、顆粒だし。そのほか、だしパックや、めんつゆなど合わせ調味料に入っているだしも、日常的に使われていることがわかりました。でも、今世の中にあるだしの本のほとんどは、本格的なだしに関するものなんですよね。私たちが家庭で日々使うだしについて、もっと情報を得られるといいのに、という思いから、それらを昆布かつおだしやブイヨンと同列に扱う本を作りたいと考えたんです」

澁川さん「みなさんが知りたいことをカバーされているところが、素晴らしいですよね。私は、今回の本を書く中で、日本人は『うま味』にこだわりがあるんだ、ということを改めて認識しました。昆布かつおだしから、うま味調味料や顆粒だしまで、いつの時代も料理の中で『うま味』を意識してきたんだな、と。昨今は、1988年のソウルオリンピックの頃からキムチが甘くなっていったと言われていたり、冷凍食品やレトルト食品がどんどんおいしくなってきていたり。経済の成長やテクノロジーの発展が、味覚の変化の大きな要因になっているんだろうと思います」

家庭料理への指摘に目からウロコ!

昔の味と、今の味。本格的なおいしさと、日常的なおいしさ。トークショーで語られた「<だし>と<うま味>の味なカンケイ」には、発見や納得がいっぱいでした。日々の家庭料理についても、ハッとするような指摘が!

澁川さん「最近は、外食メニューやお惣菜もおいしくなりましたよね。みんな一定の合格点をクリアしていて……平均点みたいな味が増えたとも言えるかもしれませんけれど。そんな中、『家庭での料理もおいしくあらねばならぬ』みたいな風潮が高まっているような気がします。みなさん、味を決める、ということに対するプレッシャーを感じていらっしゃるんじゃないかな」

有賀さん「それは、レシピ本を出していても強く感じます。でもね、外食や冷食は決まった味じゃないと戸惑うけれど、おうちの味は毎回違っていいはず。作るたびに少しずつ違ったり変わったりしていくものが、家庭料理。だからこそ、毎日飽きずに食べられるんだと思うんですよね」



「おいしい」の未来予想図は?

 トーク後半には、お二人の好きなだしやレシピ、本来は人にとって不快なものとされる「苦味」や「酸味」、第六の味覚として有力視されている「脂肪味」についてのお話も。そして、最後には、「おいしい」の未来予想図が語られました。

有賀さん「ナチュラルな素材そのものの風味を生かした料理もあれば、強い『うま味』や『脂肪味』などで本能に訴えかける『やみつき味』もありますが、あらゆる味は対立するものではなく共存できるものだと思うんです。私だって、シンプルなスープを作る一方で、スナック菓子一袋を食べることもありますから(笑)。どんな食材であっても、そのもの独自の香りやテクスチャーを感じることが料理を豊かにする。それに気づいた上で、みなさんが自分の意志で“おいしい”を選ぶことができると、もっと味わうことが楽しくなるんじゃないでしょうか」

澁川さん「味は社会と連動しているから、今後は料理の世界でも、繊細な素材の味を楽しめる人とそうでない人の分断化は進むのかも。でも、世の中にたくさんの味があって、それにみなさんが自由にアクセスできる状況であるといいですよね。過去の味を大事にするのもひとつだし、それを踏まえつつ自分の好きな味を見つけたり、時には冒険してみたりするのも素敵。そうすれば、飽きずにいろいろな『おいしい』を楽しめるんじゃないかな、と思います」

お二人の著書はこちら!

澁川さんと有賀さんの著書はこちら。『おいしい』について深堀りしてみたくなったら、ぜひチェックしてみてくださいね。

澁川祐子さんの書籍

『味なニッポン戦後史』澁川祐子・著(集英社インターナショナル)¥968

有賀薫さんの書籍

『有賀薫のだしらぼ:すべてのものにだしはある』有賀薫・著(誠文堂新光社)¥1760

藤本こずみ Kozumi Fujimoto

ライター

1979年、兵庫県生まれ。雑誌やWEBで、インタビュー、ライフスタイル、占いなどの記事を執筆。趣味は、テレビドラマ鑑賞&リラクゼーションスポット巡り。夫、長男、長女との4人暮らし。兵庫・東京の二拠点生活に挑戦中。

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