料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)第1回
料理家・今井真実さんが『SATC』『AJLT』を見て食べたくなったデザートとは?【ミニレシピ付きエッセイ新連載】
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今井 真実
2024.02.23
LEEwebの読者のみなさん、こんにちは。料理家の今井真実です。いつもレシピでは大変お世話になっております。作っていただいてる読者のみなさんに、いつもありがたく思っています。さて、今回は新しいレシピ紹介…というわけではなく…
私は、ティーンネイジャーの娘と小学生男子と、子どもがいる働く親です。みなさんもそうであるように、夕方には「ふえー」とため息と呼ぶには大きすぎる「息」が出るほど、1日が終わるとクタクタ。
家族と過ごすのも、仕事も楽しい。だけど自分だけの時間もほしい。これさえあれば乗り越えられる楽しみがほしい。そんな私の日々のささやかな「喜び」、時には興奮しながら「好きなもの」を、ここの場所では綴っていこうと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
Yummy!
今月のミニレシピ
真夜中のドラマ鑑賞のお供に。ミランダ覚醒前夜のヨーグルト
子どもが寝静まった後の真夜中のお楽しみのお供は、ギリシャヨーグルトのプレーンにオリーブオイルとはちみつをひとまわし。黒胡椒をガリガリと。罪悪感なしのデザートです。レシピの名前は本編を見た方にはわかるはず。ミランダ〜!
いまふたたびの『SEX AND THE CITY』、そして『AND JUST LIKE THAT』。あの頃、私の心の中にはいつもキャリーがいた
さあ、初回のテーマは「いまふたたびの『SEX AND THE CITY』(以後SATC)、そして『AND JUST LIKE THAT』」! この、アンドジャストライクザットというニューワードをなかなか覚えられないことよ……。LEEweb読者のみなさんも待ちわびてましたよね? 伝説のドラマ『SATC』の続編を! 知らない? 見てない? いやはや、私にとってはこのドラマは、青春そのものなのです。
20年弱前、私は東京で一人暮らしを始めました。上京して2日目、「やっとやりたかったことが実現できる!」とわくわくしてレンタルDVDショップへ。意気揚々と借りたのは『SATC』です。だって、どう考えても実家で見られないタイトルではありませんか。だけども当時、ファッション誌ではこのドラマの特集ばかり! もう見たくて見たくてたまらなかったのです。
ご存知ない方に少し説明すると、『SATC』はNYはマンハッタンを舞台に女性4人の恋愛と友情、人生、キャリアを描いたドラマです。異常にファッショナブルなキャリーはコラムニスト。そもそも「セックス・アンド・ザ・シティ」は彼女が連載しているコラムのタイトルでもあります。親友のクールなミランダは弁護士、PR会社を経営しているサマンサはパワーウーマンでもあり一夜の関係を楽しむ自由な女性、アートギャラリーに勤めるシャーロットは古風な思考で常に結婚を視野に入れて恋愛をするタイプ。
4人の異なる女性たちは、いつもドレスアップをして最先端のおしゃれなカフェやレストラン、バーで女と男の関係を語り合います。彼女たちの会話は、刺激的でユーモアに溢れて、キャリーはそこで得た体験談からさまざまな疑問や実情をコラムに綴るのでした。
その頃の私は、『SATC』のおかげで、初めての一人暮らしの夜も寂しさを感じず、むしろ年上の新しい友人ができたような高揚感にいつも包まれていました。キャリーに憧れて私の部屋には、中華街で買った提灯や、ピンクの大きなフラワーベースを置いていました…築30年の木造アパートの和室にはあまりに珍妙な組み合わせですよね。来た人はいつも驚いていたものです。でも良いんです。私の心の中にはキャリー・ブラッドショーがいて、彼女のアイコンであるフレアスカートにハイヒール(もちろんチープなのですが!)をお給料日に買うのが喜びでした。あの時代、心にキャリーを棲まわせている人々が世界中にいたはずです。
『SATC』と『AJLT』、並行して見ると胸が苦しくなることも。彼女たちの選択のその後を、私は今答え合わせのように見ている
そしてこの伝説の『SATC』の17年ぶりの続編が、『AND JUST LIKE THAT』(以後AJLT/U-NEXTで配信中)ってわけですよ! これにはもう大興奮。往年の『SATC』ファンにとっては、生きてて良かったー!と言っても過言ではありません。今ここまで書いて気づいたんですが、こういうドラマのストーリーってネタバレしないほうがいいですよね? どうしよう。『AJLT』シーズン2のラストで、頬がカサカサになるほど号泣したエピソードを書こうかと思ったんだけど、それもやめた方がいいかしら。
正直なことを言うと、この続編を見るのに数カ月躊躇してしまいました。長年音信不通だった友人に前ほど夢中になれるのか。そんな自分の愛情も試されているような気がしたのです。しかも時間の余裕も昔ほどありません。あの時みたいに寝る間も惜しんで見ることなんて……と消極的に思っていたところで、はたと気づいたのです。DVDで見るんじゃなくてスマホでもいつでも見られるのね! そして、もうこれ以上何を見るのと思いながら新たにサブスクを契約して、ちょこちょことすきま時間に見始めたのでした。世の中は変わったものですね、改めて実感します。結果、すきま時間では済まなかったのは『AJLT』をご覧になった方ならお察しのことかと思います。
朝から子ども達の帰宅時間まで見続けて、寝静まったらまた再生し、それにとどまらず時間がない時や、原稿を書かなくてはいけない時は、昔の『SATC』シーズン3も並行して見る始末。私は、会えなかった時間を埋めるようにどっぷり彼女と彼らに身も心も捧げるようになりました。
『SATC』は今見ても古さは感じられません。全然色褪せない。やはりダントツに面白いしファッショナブルです。そして『AJLT』も負けてはいません! 50代の彼女たちのポップでグラマラスなこと! 歳を取ることがマイナスなこととは、決して思わせません。
しかし、この2つのドラマを並行して見ていると話が進むにつれて胸が苦しくなることも。30代だった彼女たちの選択のその後を、私は今答え合わせのように見ているのです。残念ながら全員がそのままの気持ちのまま幸せに暮らしてはいません。それぞれの人生には紆余曲折があり、苦悩やとまどいがあります。
恋愛のその後が描かれるってある意味ものすごくリアルではないですか? 誰かのことを好きになって、振られたりうまくいかなくなったり、若い頃はその繰り返し。その末に誰かと出会い結婚して、ハッピーエンド……と試合終了ではないのです。実際にはそこからまだまだ人生が続いていきます。ぴかぴかとした恋心は、年月を経てそれが揺るぎない愛情になるかもしれません。しかし「生活」というものはあまりに強固なものです。一緒に暮らしていくと些末な習慣のちがいや、ちょっとした言葉使い、子育ての方針、子どもの個性。そして、病に、老い。かつて恋人同士だった2人はいろんな事象にぶつかります。日々は変化して、修復しての繰り返し。人はひりひりとした傷みを負うとき、どうしたら乗り越えられるのでしょうか。
誰にでも過ぎていく時間がある、という至極当たり前のことが『AJLT』では描かれているのです。
『AJLT』でヨーグルトにいろんなトッピングをしてドラマを見る、ミランダとスティーブの時間の流れにこみ上げるものが
『SATC』のシーズン3で、ミランダはスティーブの「I LOVE YOU」の言葉にほだされます。それまで恋愛で酷い目に会ってばかりの彼女は、まっすぐな彼の愛情に身を委ねることで心の安寧を得られたのです。『AJLT』で彼らは、ヨーグルトにいろんなトッピングをしてドラマを見るのが夜の楽しみに。なんて穏やかでささやかな時間なのでしょう。しかもおいしそうなこと! 私はこの2人の時間の流れに込み上げるものがありました。
今回尊敬してやまなかったのはシャーロット。彼女は現在、なかなかに個性の強い子どもの母親として奮闘しています。明らかに甘やかしすぎではあるし、子どものわがままは常識を超えてひどい。しかし、かつて彼女は世間体を気にする人だったのに、子どもにはそれを決して強要せずどんな時にでも味方であろうとします。そういえば彼女は昔から愛のために戦う人だった。そして私が彼女の素晴らしいと思うところ。同じ母親という立場の友人の成功を心から喜び応援するのです。ここで嫉妬やマイナスの流れにならないところに心底安心しました。そんなシャーロットもシーズン2では、かつての自分を取り戻そうと決意することに。甘え切っていた家族を一喝する場面もとてもいい。限界なんて捨ててしまおうと思った彼女はとても強く美しかった。
今、40代の私は、「ゆくゆくは」「らくになったら」とのんきに考えてしまいます。でも人生を動かすのは今かもしれない。彼女、彼らのように、恐れる気持ちを捨てて、前に進めるかな。
『AJLT』はまたしても、私の心の親友に舞い戻ってくれたのでした。
(『料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)』は毎月第4金曜日朝8時更新です。次回をお楽しみに!)
Staff Credit
撮影/今井裕治
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