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LIFE

私のウェルネスを探して/猫沢エミさんインタビュー後編

猫沢エミさんが「父母と愛猫の看取り」を経て得た死生観と、16年間遠距離恋愛したフランス人パートナーとの穏やかな生活

  • LEE編集部

2023.12.30

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猫沢エミさん

引き続き、猫沢エミさんのインタビューをお届けします。

今年の11月、帰国する直前にパリでバッグを盗まれる災難に見舞われ、帰国が危ぶまれながらなんとか日本にやってきた猫沢さん。何事もすんなり終わらない、何かしら起こることが“普通”になっている猫沢家の強い因縁は、移住先のフランスでも変わらずに威力を発揮中のようです。

後半では、猫沢さんが30代になってフランスへ最初に渡ったきっかけ、個性的な家族や猫たちの暮らしから学んだ死生観。そして50歳を迎えた今の心境について伺います。「神様が人生の後半にくれた贈り物」と言う、パートナーについてもお話を聞きます。

渋谷系ブームに乗ってメジャーデビューしたものの「不本意」な音楽活動が続き、渡仏を決意

猫沢さんは、1970年福島県白河市生まれ。祖父母、父と母、弟2人の家族で育ちます。高校卒業後には、クラシックのパーカッショニストを目指し、音楽大学に進学。その後、ミュージシャン“猫沢エミ”としてデビューします。

猫沢エミさん

「レコード会社からデビューをして、シンガーソングライターとして活動を始めましたが、もともとやりたかったのは現代音楽のパーカッショニストでした。でもそれを実現するには家がお金持ちでないと難しく、すでに猫沢家は没落していたので、そうできない現実もありました。デビューはしたものの、レコード会社や事務所のコントロールもあり、“不思議ちゃん”っぽく雑誌のレヴューなどに書かれることが多くて。取材でも誘導尋問のように聞かれる質問ばかりで、つまらなくなってだんだん話さなくなりました。表現者としての面白さはあっても、メディアで有名になることで、私が有頂天になったり満たされることはなかったです。雑誌の中の自分が本当の自分からどんどん切り離されていく感じがありました」

90年代の渋谷系、女性シンガーブームに乗ってのデビュー。ある意味“不本意”な音楽家としての活動が続いたといいます。そして30代を迎え、フランスへ引っ越すことを決めます。

猫沢エミさん

「もともと20歳ごろからフランスに住むことは夢見ていましたが、30歳になったことだし、いらないものを捨てよう!と思って。今のままだと40代以降の自分の姿が想像できませんでした。スキルを上げよう、視野を広げようと思ったことも理由の一つです」。その時に連れて行ったのが、猫沢さんの初代愛猫・ピキです。ピキとの出会いはミュージシャンとしてデビューする直前、当時住んでいたマンションのゴミ捨て場でした。小さなポリ袋に入れられた猫、それがピキでした。名前の由来“ピキ”は「1匹(ぴき)で拾われたから。“猫沢”というアーティストネームに決まったのも、この出会いがきっかけです」。

薬を飲まない、治療をしない。それが母の人生、父の人生。「私はこう生きたい」と生き方・死に方をそれぞれが選択した

ピキを筆頭に4匹の猫との生活、フランスでの生活を描いた本が『猫と生きる。 増補改訂版』(扶桑社)です。猫沢さんの人生のかたわらには、いつも猫がいました。ピキの後には、震災直後に出会ったピガとユピ、2019年に出会った老猫イオ。猫との暮らし、猫沢家での波瀾万丈な生活。共通しているのは、それぞれを“個”として受け入れること。“個”の生き方を尊重し、死ぬ直前まで個が個らしく生きられるようにするという死生観でした。

「2017年頃、付き合っていたフランス人のパートナーと“私たち、そろそろ50歳になるけど今後どうする?”という話になった時、父と母のがんが立て続けに発覚しました。医療保険を調べてみると見事解約されていて、子ども3人で医療費を支払うことになって。母はアメリカの新しい抗がん剤に挑戦することになったのですが、薬代は月に約7万円。だけど母は、それを“副作用がつらいから”って、こっそり飲まずに捨てるんですよ。父は父で、手術や化学療法を断ると宣言し、担当医とモメて“ここで首を吊ってやる!”と騒動になりましたが(笑)、そのまま余命宣告の4倍を生き、最期は静かに自宅で迎えました。父は74歳で、母は71歳で見送りました。

薬を飲まない、治療をしない。それが母の人生、父の人生なんです。今の時代からすれば、早すぎるように思いますが、“私はこう生きたい”と生き方・死に方をそれぞれが選択したんですよね。特に父は、死ぬ瞬間まで自分の軸をブラさず、最後までわがままを貫きました。ある意味、そんな生き方がかっこいいと思いました」

余命2カ月の愛猫の緩和ケアを進め、早期安楽死を選択した理由

『猫と生きる。 増補改訂版』では、イオの看取りについて詳しく書かれています。扁平上皮がんという病気が判明したイオは、手術をしないと余命2カ月と診断されます。イオとしての人生を全うさせるために、手術はせずに緩和ケアを進め、早期安楽死を選択します。

「人間と猫は違います。猫の主治医の先生もそれを繰り返していますが、私個人としては、やっぱりその人らしく、その子(猫)らしく、最後の1秒までその子らしくいられることが大事だと思っています。動物は話せないじゃないですか。飼い主に100%決定権があります。イオが病院に通っている時、もう逝かせてあげたほうがいいんじゃないかという、おばあちゃん犬がいました。その犬に対して“頑張ろうね”と言っている飼い主さんがいて、そう言われると、犬も頑張っちゃいますよね。その気持ちは痛いほどわかりますが。

猫沢エミさん

でもそんな時に思うのが、“愛してるの一方通行”になっていないか、ということです。あなたの愛し方で愛したいからでしょ?って。その存在がいなくなると寂しい、辛い。だからすごくエゴイスティックになってしまう。そういう様子を見ると、人間の欲望はグロテスクだなと思います。私には、そういう他者を侵食するような生き方ができないんです。わが家はめちゃくちゃでしたけど、個の尊重はありました。“私はこう生きたい”と言ったら、誰も助けてくれないけど、誰も邪魔してこない。興味がなかっただけかもしれませんが、それで良かったと思っています」



私を幸せにできる人は、私が知らないふつうの幸せを知っている人。だから私には彼が必要

フランスに移住して、早1年半。16年間遠距離恋愛していたパートナーとの生活は、穏やかそのものだといいます。

「移民の多いフランスですから、外国人として虐げられること、異国に住む厳しさはありますが、彼がとてもいい人で救われます。人生の後半でこんないい人と暮らせるなんて、“神はいるかもしれないな”と思いました。自分の家族でこれだけ苦労したんですから。今50歳を過ぎて70歳で死んだとしても、あと20年は一緒にいられる。彼には大きな娘が2人います。フランスだと離婚や別居もスタンダードで、よくある話でもあります。彼はうちと違って、仲のいい両親の愛に包まれて幸せな子ども時代を送ってきた人ですが、私が普通じゃない家庭に育ったことを、ワハハとおおらかに笑って聞いてくれます。ありとあらゆる猫沢家の話をフランス語で解説するのが私の役目ですね。

猫沢エミさん

若い時は、家庭が複雑な自分と似たようなタイプを好きになることが多かったんです。でも、一緒にいても欠けているものが同じなので、お互いに補い合えないんですよ。私を幸せにできる人は、私が知らないふつうの幸せを知っている人。だから私には彼が必要。長く遠距離恋愛をして一緒に暮らしている今も、“この人でよかった”とあらためて思います」

My wellness journey

猫沢エミさんに聞きました

心のウェルネスのためにしていること

猫沢エミさん

「寝る前にお茶を飲みます。フランスはコーヒー文化で、彼もお茶を飲む習慣はなく、“お茶って、色がついたお湯だろ?”みたいな認識でした(笑)。日本から持って帰ったいろいろな種類のお茶を寝る前に飲むようになってから、お茶の時間が楽しみになりました。1日の終わりに、お風呂に入って彼と一緒にベランダでお茶を飲みながら、今日あった出来事をポツポツと話す。とてもいい時間です」

体のウェルネスのためにしていること

「若い時から趣味でクラシックバレエを続けていました。頸椎ヘルニアで首の手術をしてからは辞めているんですけど。そんなわけでこう見えて、私はけっこう体が柔らかいんですよ。それをキープするために、寝る前に15分のストレッチをしています。歳を取ると、関節が硬くなったり、骨粗鬆症や怪我しやすくなるじゃないですか。パーカッショニストでもあるので、体をキープするためにストレッチはずっと続けています」

猫沢エミさん

インタビュー前編はこちらからお読みいただけます

Staff Credit

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

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