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40歳を目前に離婚した女性の「自分だけの幸せ」を探る物語

【今月おすすめの本】千早 茜『マリエ』他3編

2023.10.12

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『マリエ』
千早 茜 ¥1870/文藝春秋

40歳を目前に離婚した女性の「自分だけの幸せ」を探る物語

『マリエ』千早 茜 ¥1870 文藝春秋

「普通の幸せ」や「人が決めた幸せ」に疑問を感じる瞬間は、誰にだってあるもの。直木賞作家・千早茜さんの最新小説『マリエ』は、大人が感じがちな「私の人生、これでいいのかなあ」という問いに、新たな風を入れてくれる。

ヒロインの桐原まりえは、40歳を目前にして森崎との結婚生活に終止符を打った。後悔はない。2人で住んだ家を引き払って、新居には好きな家具を置き、自分のために時間を使う日々は、彼女にとっては久しぶりで、新鮮さと安らぎを与えてくれた。仕事ではそれなりのポジションに就いているし、趣味の料理も楽しんでいる。満たされた毎日ながらも、まりえは「これから私はどこへ向かうんだろう?」との思いを抱く。そこで入会したのが、結婚相談所。再婚だけが幸せではないと思いつつ、マリッジコンサルタントのアドバイスに驚かされたり、婚活仲間の女子と報告会を開き合ったりする。そんな折、まりえは年下の男性・由井と親しくなる。恋愛と結婚は別物か? 彼と深い仲になりながらも、彼女は婚活を続ける――。

ライフスタイルの多様化が急激に進む昨今。離婚は失敗じゃないし、結婚=幸せを保証するとも限らない。建て前としてはそんな価値観が生まれ、世の中的にも根づきつつある一方で、親や友人たちからの本音に少し傷つき、でも既婚者だった頃とは違う世界を広げるまりえ。恋人を作りながら婚活なんて宙ぶらりん状態かもしれないけれども、人の心の動きとしては、自然に感じられてしまう。

社会的な属性にかかわらず、30代後半から40代前半は、自分らしい生き方に向かって、本格的に歩み出していく時期。悩みや戸惑いすらも楽しみながら、自分にとってのベストな環境を探り続ける彼女は、とても軽やかに見える。そんなまりえを見守る、年上の女友達・マキさんのアドバイスも秀逸。大人だからこそ楽しめる、次なる幸せへの挑戦。そこには思いがけないときめき感やハラハラさせられる展開もあるけれども、読後はほんのりと、温かい気持ちにさせてくれる一冊。

『おかえり、めだか荘』
北原里英 ¥1760/KADOKAWA

『おかえり、めだか荘』北原里英 ¥1760 KADOKAWA

AKB48の元メンバーで女優である著者の初小説。都内にある2階建ての一軒家でルームシェアをする女性たち。恋愛で暴走ぎみの遥香、役者の仕事に悩む那智、プロポーズの先にある結婚生活に不安を覚える楓と、実家との関係にモヤモヤする柚子。4人は「めだか荘」でお互いの事情を優しく受け止める。彼女たちの成長と、季節の移り変わりにほっこりさせられる。



『親を見送る喪のしごと』
横森理香 ¥1650/CCCメディアハウス

『親を見送る喪のしごと』横森理香 ¥1650 CCCメディアハウス

突然、父や母が亡くなったら……。役所などへの届け出から葬儀や法事まで、そのほかにも相続や遺品整理、お墓の問題などやらねばならないことが多すぎる「喪のしごと」。遺影や遺言など、故人が元気なうちにできることも含めて、著者の経験談と専門家の助言からなる頼りになる実用的読み物。悲しみに浸る余裕もないほどの「わからないことばかり!」に直面する前に。

『かみまち(上・下)』
今日マチ子 (各)¥1320/集英社

『かみまち(上・下)』今日マチ子 (各)¥1320 集英社

名門高校に通うウカは、母親の過干渉に耐えられずに家出をする。彼女と同じように居場所のない少女たちは、自分を受け入れてくれる「神」を求めて街をさまよい続けていた――。親子関係、貧困、性被害、虐待など、現代社会のディープな問題をすくい取った漫画。繊細な絵柄の奥に登場人物たちの心の叫びが伝わってくる。家族で読み、見解を話し合うのもいいかも。


Staff Credit

取材・原文/石井絵里

こちらは2023年LEE11月号(10/6発売)『カルチャーナビ』に掲載の記事です。

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