“女性の生きづらさをどう乗り越えるか”を描く映画5選。共感?反発?……感動的秀作を熱烈レビュー!
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折田千鶴子
2023.06.15
彼女たちの決断や選択に、勇気をもらえて感嘆・感動!
今、ナゼこんなにも!? と不思議なほど、女性のおかれた現状を見つめ、その“生きづらさをどう乗り越えていくか”を問う、感動的で素晴らしい映画が続々と公開されています。いわゆる“#MeToo運動”が始まった直後には、声高に主張を込め、拳を突き上げる系の作品が全ジャンルで(例えばアクション映画でも、強い女性を主人公に男たちを叩き潰す的な作品が多く作られ、それはそれで痛快でしたが)多々作られました。
それが今、一呼吸おいて冷静になり、どうすれば望ましからぬ状況を打破できるのか、本当の原因や病巣はどこにあるのかをきちんと見極め、それを感情的に訴えながらも正しく伝えようとする映画が世界各国で作られ始めたように思えます。まさに、#MeTooのきっかけを作った事件そのものを描いた『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(22)も、感情沸点の直後ではなく時間をかけてきちんと検証し、作り手の中で色んなことを精査した上で作られたからこそ、素晴らしい作品になったのだろうと思わせられます。
挙げればきりがないのですが、頑張って5作を厳選。既に公開が始まっている『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(LEE6月号本誌でも紹介)をはじめ、これから公開されるモロッコ映画『青いカフタンの仕立て屋』、映画業界で働く新人女性の奮闘『アシスタント』、ロシアとの国境付近のウクライナに暮らす妊婦の闘い『世界が引き裂かれる時』、そしてダメ母の再生物語『To Leslieトゥ・レスリー』と、すべて見逃せない意欲作ばかり。
しかも『To Leslieトゥ・レスリー』を除く4作品は、すべて監督は女性です。数年前から考えると、既に隔世の感がするほど、なんか嬉しいです!
まずは、本誌7月号でも紹介している『青いカフタンの仕立て屋』から。オンラインで監督にインタビューした模様もどうぞ! 日本で初めて公開されたモロッコ長編映画、かつ長編映画デビュー作の『モロッコ、彼女たちの朝』(金原由佳さんのインタビューはこちらから)で一躍注目を浴びた、マリヤム・トゥザニ監督の第2作目の作品です。
『青いカフタンの仕立て屋』
モロッコの海沿いの町、サレの旧市街の路地裏。父から受け継いだ仕立て屋で、職人のハリムは今も手刺繍をほどこし、オーダーメイドで民族衣装のカフタンドレスを作っている。客をさばくのは、25年連れ添った妻のミナ。しかし最近、ミナは体調が思わしくない。積み上がる注文に追い付かず、2人はユーセフという青年を助手として雇う。手先も器用で筋が良く真面目なユーセフにハリムは大いに助けられるが、ミナはなぜかユーセフに冷たい。そんな矢先、ミナの容体が目に見えて悪化するーー。
<見どころ>
誠実で真面目で謙虚なユーセフに、なぜミナは冷たい態度を取るのだろう……そんな疑問を抱きながら観ているうちに、なるほど、そういうことか…と色んなことが脳裏で繋がっていきます。ハリムが通う公衆浴場での行動や、ハリムとユーセフの間に流れる“時が止まったように感情が交差する瞬間”、さらにミナは重い病を抱え、余命いくばくもないことが分かって来ます。
エキゾチックな街並みや空気、そしてハリムが生み出すうっとりするような美しい刺繍がほどこされたカフタンドレス、艶やかな絹の手触りなどに心惹かれます。けれどミナとハリムが家に戻ろうとすると警官(らしき人たち、軍人!?)に呼び止められた瞬間、ここはイスラム圏であり、女性が夜にフラフラ出歩くことが許されない地なのだ、とハッと気づき冷や水を浴びせられるような苦い思いも抱かされます。女性は当然のように抑圧された中で生きることを強いられていますが、ハリムやユーセフもまた、“自分らしさ”を殺して生きてきたことが分かって来るのですーー。
ここからはマリアム・トゥザニ監督に語っていただきます。
──今年、カンヌ国際映画祭で審査員を務められましたが、昨年のカンヌで本作は国際批評家連盟賞を受賞しました。改めて思い出されたのではないですか!?
「昨年、本作の正式上映が終わって明かりがついた瞬間、観客から伝わってくるエモーショナルな空気を波動のように感じて、本当に感動しました。心を尽くして作ったパーソナルな物語を、皆さんがどう受け止めてくれるのか不安もありましたが、本当にこの映画を理解してくれているんだな、と。ミナ、ハリム、ユーセフを演じてくれた3人の役者たちとも、その美しい瞬間を共有できて、本当に素晴らしい思い出が残っています」
──ミナ、ハリム、ユーセフ、3人の関係性を観客がどのように受け止めるか、稀有な愛の関係性や形を理解してくれるかは、本当にチャレンジングなテーマであり、この映画の肝ですよね。簡単ではないことを成し遂げられたと感じます。
「映画作りはチームワークなので当然ですが、本作は互いを心から信じ合わなければ作れない、それを強烈に感じた作品です。屋外シーンは少しありますが、ほとんどが屋内シーンで、小さなスペースの中、物理的にも気持ち的にも、色んな苦労がありました。ミナは死にゆく人であり、ハリムも自分の仕事が死にゆく(伝統が薄れていく)もの、かつ自分がゲイであるがため社会的に引き裂かれる存在であるわけです。非常に辛いものを抱えた3人の物語なので、苛烈な撮影でもありました。でも上映後、本当にその苦労が報われた思いがしました」
──終盤、ミナが夫のハリムに、「ユーセフはいい人ね」と声を掛けます。それに対するハリムの言葉や反応が想像していないものだったので、不意を打たれて落涙してしまいました。ハリムがミナに話す一連のシーンは、本当にエモーショナルでした。
「私にとっても、あのシーンは、とても美しい瞬間でした。それは脚本を書いているときも、現場で撮影をしている時もそうでした。私は頭で色々と考えながら脚本を書くタイプではなく、キャラクターに導かれるようにわ~っと書き上げることが多いんです。書きながら初めて、私自身がそのシーンに出逢っている感覚というか。あのシーンは一気に集中して書き、一度パソコンを閉じて、また開いて次のシーンを書こうとして読んだ瞬間、思わず涙してしまったシーンです。あの瞬間は、ミナとハリムにとって真実の瞬間でした」
ネタバレ、且つ監督の意図や解釈が含まれます。この回答は鑑賞後にお読みください。
──この夫婦愛の尊さ、真実の愛で結ばれた夫婦の絆の深さには、本当に胸を突かれるくらい感動してしまいます。
「ミナも夫婦として過ごした25年間、分かってはいたんですよね。でも彼女は語らざることを選んできたわけです。でもお互いに彼らなりのやり方で、2人は深く愛し合ってきました。愛というのは様々な形があり、2人の愛には深遠さや忠誠心があり、真実の愛です。でもミナは、岐路に立った時、つまり死期が近づく中で覚醒し、自分の愛するハリムが幸せであることが何より大事である、ということに気が付くわけです。愛の美しさ、そしてハリムが自分自身を受け入れることが大事だ、と。だからこそ自分は夫を100%理解していて、これからは心をオープンにして生きて欲しい、と伝えたかったのです。そうでないと自分は安心して旅立てない、と。ハリムからミナに語られる言葉からも、それが本当に真実であり、ミナのことを本当に愛していることも伝わりますよね。このシーンには、2人の人間としての真実の姿が出ていますが、それを私は意図して書いたわけではなく、彼らのキャラクターによって導かれた言葉でした」
──他にも多々、エモーショナルで涙があふれるシーンがありますが、そういう感情的なシーンはリハーサルをされたりしますか?
「いえ、私は絶対にしません。テクニカルなことを確かめる程度、それも最低限にとどめます。それよりも、役者たちとの会話が最も大事です。このシーンで感情がどこに向かっていくか、なぜその感情が必要なのかなど、心理的な準備をしっかりするために役者と会話を重ねます。“感情表現”についても、私はバッとすぐに出るような感情は好みではなく、抑制された感情、隠れていた感情がギリギリ表面に出てくるか出てこないか、それが生まれる瞬間やその感情が育っていく過程がとても重要だと思っています。だからチーム全員、その感情が向かう正しい場所を理解していると見極めてから撮るようにしています」
夫を心から愛するミナ、ミナを深く愛し感謝しながらも、それだけでは満たされないハリム、そしてユーセフの3人の関係を、みなさんはどう観るでしょうか。監督の言葉どおり、「愛する人にありのままの自分を受け入れてもらう。人生においてこれほど美しいことがあるだろうか」を強く実感させられると思います。なんというか、本当にしっとりした瑞々しい映画というか。この夫婦愛の気高さに、胸を打たれずにいられません。是非、夫や恋人、パートナーの方とご覧になって、色んなことを話して欲しい作品です。
2022 年/フランス、モロッコ、ベルギー、デンマーク /122 分/配給:ロングライド
監督・脚本:マリヤム・トゥザニ
出演:ルブナ・アザバル、サーレフ・バクリ、アイユーブ・ミシウィ
6.16(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
『青いカフタンの仕立て屋』公式サイト『アシスタント』
名門大学出身のジェーン(ジュリア・ガーナー)は、競争を勝ち抜き有名エンターテインメント企業に就職。その会長の下でジュニア・アシスタントとして働き始める。もうすぐ2ヶ月になるジェーンは、誰より早く出社して雑事をこなし、夜中まで働く日々。仕事は平凡な事務作業ばかりだが、いつか映画プロデューサーになる夢を胸に、そんな下働きに甘んじている。しかしある日、会長が地方出張で気に入った若い女の子をアシスタントとして働かせはじめ、しかも高級ホテルに宿泊させていることを知る。会長の性的搾取を知ってしまったジェーンは、意を決して人事に訴え出るが――。
<見どころ>
隅々に至るまで、“あるある”満載! 口に出すまでには至らないような“ちょっとした差別や違和感”や“不当な圧力や扱い”を、働いたことがある人なら十中八九、誰もが経験したことがあると思います。そういう小さな積み重ねがジェーンの胸に溜まっていくのを、息苦しい共感を噛みしめながら観ていると、まさに#MeToo運動の発端となった例の大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの事件を彷彿とさせる事態に行きつき、胸がザワつき鼓動が速まってしまいます(事実、本作を作るきっかけになったのはその事件だそう。それを機に監督は、色んな職種の色んな女性たちに取材をして脚本が作られたそうです)。
しかも人事が彼女に何と言ったと思います?! いやぁ、もう地団太を踏みたいくらい(笑)。まさか思いもしないようなことを平気で言われた瞬間、なんだかものすごく悔しくて、自分が安く下に見られているような、そんな不快極まりない状態で、爆発しそうに。そりゃあジェーンも落ち込みますって!!
さらに、まるで紳士倶楽部のように、“忖度できない女は仕事が出来ない”的な視線になる周囲の男性たち! もう、かつて“女が会議に入ると話が長くなる”と言った元首相の言葉が頭をよぎって仕方ありません。もう頭にきて震えそうなほど。さて、ジェーンはどのような選択をするのでしょうかーー。
語り口も地味なのに、全く持ってどの瞬間も目が離せない87分。本作は比較的19年製作と例の事件からあまり時間をおかずに製作されていますが、監督が『ジョンベネ殺害事件の謎』(17)で知られるドキュメンタリー映画作家のキティ・グリーンさんだけに、事実に基づいたアプローチにはじまり、激情を抑えて淡々と映し出していく、でも全く弛まず嘘くささ皆無で、本当に素晴らしい作品になったのだと思います。次にどんな作品を撮るのか、どんなテーマに取り組むのかもとても楽しみです。是非、同僚や仲間と観に行ってワイワイと、“あるあるだよね~”と文句を言いながら盛り上がってください!
2019年/アメリカ/87分/配給・宣伝:サンリスフィルム
監督、脚本、製作、共同編集:キティ・グリーン
出演:ジュリア・ガーナー、マシュー・マクファディン、マッケンジー・リー
6月16日(金)新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
『アシスタント』公式サイト『世界が引き裂かれる時』
2014年、妊娠中のイルカと夫のトリクは、ロシア国境に近いウクライナ東部のドネツク州グラボベ村で暮らしている。しかしある朝、親ロシア派分離主義勢力の誤射により、家の壁に大きな穴が開いてしまう。2人は壁の修繕に取り掛かろうとするが、続いて起きた航空機追撃事故によって村に緊張と混乱が走り、修繕もままならない。トリクの友人は親ロシア派勢力への協力を迫り、2人の家に押し掛ける。親ウクラウナ派のイルカの弟は、トリクに不信感を抱きーー。村が益々混乱を極める中で、イルカの出産が刻々と近づいてゆく。
<見どころ>
何たる混乱に次ぐ、混乱!! 観ながら訳が分からなくなってくるほどです。でも、それこそが本作の真骨頂。だって多分、イルカ自身も本当に“何がどうなっているの!?”と、途方に暮れながらも子どもを産むために黙々と日常生活を送っていたでしょうから。
本作が描く“航空機追撃事故”とは2014年7月17日、アムステルダム発クアラルンプール行きの旅客機が、同地で撃墜されて乗員乗客298人が亡くなった、実際に起きたマレーシア航空機撃墜事件です。それは現在のウクライナ侵攻の、まさに前段階の出来事だったそう。この時、既に同地における親ロシア派と親ウクライナ派の対立は、かなり深刻化していたことが肌感覚として伝わってきます。実際にイルカの弟役を演じた俳優は、本作出演後、ウクライナ軍の任務に就いて闘っているそうです。
なぜイルカは別の地へ逃げないのか、お腹の子共々危ないじゃないかとむしろ苛々したりもしてしまうのですが、頑としてドネツクの我が家に居続け、そこで赤ん坊を産もうとする妊婦イルカの姿は、現在のウクライナを守り抜こうとする市民たちの強い決意や怒りにも重なり、う~ん、と唸ってしまいます。一方でイルカの強さがまた、どことなくユーモラスでもあって、それが強い生命力となって映画に力強さを漲らせてもいます。
どこまでも広がるひまわり畑や荒涼とした野、その中にポツンと建つ家、その壁が大きく丸く穴が開いている姿、荒涼とした野原に落ちた飛行機の片翼など、残酷でどこか詩的でもある風景に目が吸い込まれます。
そしてこれは過去のことなどではなく、現在までずっと続いている、いや侵攻後の今はさらに激化・悪化した状態にあるということに愕然としてしまいます。
監督は、本作が長編3作目となるマリナ・エル・ゴルバチさん。サンダンス映画祭ワールドシネマドラ部門で監督賞を受賞し、ベルリン国際映画祭パノラマ部門エキュメニカル賞など、世界各国の映画祭で41冠に輝く本作。是非、世界の今を目の当たりにしてください。
2022年/ウクライナ、トルコ/100分/配給:アンプラクド
監督・脚本:マリナ・エル・ゴルバチ
6月17日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次開
『世界が引き裂かれる時』公式サイト
『To Leslie トゥ・レスリー』
テキサス州西部、シングルマザーのレスリー(アンドレア・ライズボロー)は、宝くじで高額当選(日本円にして約2,500万円!)するが、数年後には酒でほぼ使い果たしてしまう。遂にモーテルを追い出された彼女は、遠くの町で働く息子を頼ってアパートに転がり込むが、やはり酒で失敗し、またも息子(オーウェン・ティ―グ)を失望させてしまう。行き場を失ったレスリーは、かつての友人ナンシー(アリソン・ジャネイ)とダッチ(スティーヴン・ルート)のもとへ向かうが、酒に溺れて追い出される。もはや万事休す状態の彼女に手を差し伸べたのは、しがないモーテルを経営するスウィーニー(マーク・マロン)だった。レスリーは、今度こそ人生を立て直そうとするのだが――。
<見どころ>
酒の失敗……は、自分にも大いに思い当たる節があるので責められないのですが(笑)、それにしてもダメ過ぎて途中、レスリーに何度もイライラしてしまいます。昔の自分は美しかった、昔は金を持っていたと、過去の栄光にすがろうとする姿にも、何となく気持ちが分かるだけにイタイやら苛々するやらで(笑)。ところが後半、ダメな自分を本当は自覚していて、その不甲斐なさに落ち込んだり、どん底からどうにかして這い上がろうとする姿に気持ちがグッと持っていかれます。そして最後はウルウル必至! そうだよね、人間なんて弱いよね、でも頑張れ~、息子のためにも、とメチャクチャ体中に力を入れて応援し、そして感動をいただきました!
噂通り、評判通り、レスリー役アンドレア・ライズボローの演技のスゴさ、凄みがハンパないです。なるほど、錚々たる女優達が大絶賛・称賛したくなるのも分かる! 実は本作、単館公開で地味に終わるかと思われた矢先、シャーリーズ・セロンやエイミー・アダムス、ケイト・ブランシェットやケイト・ウィンスレットなど、オスカー女優たちがこぞって彼女を大絶賛し、何と今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートにまで押し上げてくれた、というシンデレラストーリーがあるのです!!
監督はロンドン出身、本作が長編初監督となるマイケル・モリス。世界中から新しく素晴らしい才能が続々と飛び出しているのも嬉しいですね! 思わず女優アンドレア・ライズボローの過去作(『わたしを離さないで』『オブリビオン』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』など)を見直したくなりました。是非、劇場でレスリーのジェットコースター人生を一緒に楽しんでください。
2022 /アメリカ/119 分/配給:KADOKAWA
監督:マイケル・モリス
出演:アンドレア・ライズボロー、マーク・マロン、オーウェン・ティーグ、アリソン・ジャネイ
6月23日 金 全国ロードショー
『To Leslie トゥ・レスリー』公式サイト『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
最後に、現在公開中でLEE7月号でも大きく紹介している『ウーマン・トーキング 私たちの選択』を。
この映画の素晴らしさ、大好きさは本誌で思いのたけを書きましたが、本当にもうサラ・ポーリーの才能の素晴らしさったら、語り尽くせないほど感銘を受けてしまいました。人気女優として活躍していた若かりし日に、いきなり監督に挑戦した際は驚きましたが、既に本作で監督5作目。名匠の風格です! 今年のアカデミー賞にも作品賞・脚色賞でノミネートされ、見事、サラ自身が脚色賞で受賞しました。
田舎の集落で少女たちが(多分、薬などを飲まされ、寝静まった夜中に)性的暴行される事件が次々発覚。どうやら昔から行われ、被害者であることを自覚している女性たちも多いようで、初めてハッキリ事件が表面化したことによって、これからどうすべきかを話し合う――という物語です。選択肢は3つ。村に残って男たち(男社会)と闘うか、村を出ていくか、それとも赦すか。男たちが拘留されているタイムリミットがある中で、全員一致を目指して投票、そして話し合いが始まります。
映画は8割以上、話し合いばかりなのに、それがどうしてメチャクチャ緊迫感が漂っていて、でも同時に共感や怒りが込み上げたり、観ているこっちの感情も非常に忙しく揺さぶられてしまいます。ここでもまた、“女は話が長い”って発言した人のことが頭をかすめてしまいましたが(笑)、話し合いを尽くす、どんなに時間がかかろうが意見の一致を目指して相互理解をし、納得できる答えを探す、その努力や姿勢の尊さに胸を打たれ、最後はもう、感無量の思いで涙が止まらなくなってしまうのです! これも絶対に観ていただきたい作品です。女優たちの味わいも絶品です。
2022年/105分/アメリカ/配給:パルコ
監督:サラ・ポーリー
出演:ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー、ベン・ウィショー、フランシス・マクドーマンド
全国ロードショー中
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』公式サイト状況は変わりつつある!?
こうして5作品を観てくると、いまだ生きづらい状況は完全には改善されているわけでは全くないし、特に日本は多様性に大きく後れをとっているわけですが、それでも私たちはどうすべきかを考えながら前に進まねばならないことが痛感させられます。でも、当然ながらくじけそうになったりもするわけで……。そんな時やクサクサした気分の時など、同志を求めるような気持ちでこの5作、どれでも見ていただけたらきっと何かが見つかると思います。
この他にも、先日、webでローラ・キヴォロン監督インタビューをさせていただいた『Rodeo ロデオ』や、荻上直子監督による『波紋』など、女性の生き方・生きづらさ、それでも前に進む人生を描いたおススメ映画は挙げたらキリがないくらい秀作が今、揃っています。ちょっと心にグッとくる、心に残る映画が観たいな…と思われた方、少しでも参考にしていただけたら嬉しいです。
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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