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LIFE

さらに“沼落ち必至”の韓国ドラマ

「韓国ドラマおすすめ5選」人気作品はどのように生まれるのか? 映画ライター渥美志保さんに伺いました

2022.03.04

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だから沼落ち必至 ジェンダー、格差、いじめ、価値観のアップデート…… 韓国ドラマは社会問題もきっちり描くから深い

韓国ドラマには、 実はその時代の社会問題が緻密に盛り込まれているんです。エンタメ度も批評性も高い。そんな作品はどうやって生まれているんでしょうか?

伺ったのは
映画ライター、コラムニスト 渥美志保さん

映画ライター、コラムニスト 渥美志保さん

1990年代より釜山国際映画祭に通い続け、取材対象は、映画監督や俳優、アイドル、作家など多岐にわたる。著書に『大人もハマる!韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)。

Twitter:atmsh_official

渥美さんおすすめ5選

1. 古い価値観から自由な、涙と笑顔あふれる医療ドラマ

『賢い医師生活』(シーズン1 2020年 シーズン2 2021年)

『賢い医師生活』(シーズン1 2020年 シーズン2 2021年)

Netflixシリーズ『賢い医師生活』シーズン1~2独占配信中

医大の飲み会で出会った同級生医師5人(男性4人と女性1人)が40歳になり、同じ病院のVIP病棟で働くことに。エリート医師たちの深い友情とそれぞれの苦悩、命の現場でのさまざまな日常がつづられている。

「こんなお医者さんがいて、こんな病院があったらいいなと思う、ユートピアのような病院が舞台です。3年目の男女の研修医の様子を見たベテラン医師が、ふたりが恋仲ではと揶揄します。すると居合わせた新人研修医が、『おじさんだね』 と考え方が古いことを指摘する。

そして、これまでの医療ドラマにありがちな、男性医師を狙う女性看護師といったステレオタイプな描写も出てこない。リベラルで、それでいて説教くさくなく、変に希望を与えるわけでもない。シーズン2までありますが、このままずっと続けばいいのにと思うほどの作品です」(渥美志保さん)

2. 兵役制度の内情と闇を深く描いた問題作

『D.P.-脱走兵追跡官-(2021年)

『D.P.-脱走兵追跡官-』(2021年)

Netflixシリーズ『D.P.−脱走兵追跡官−』独占配信中 シーズン2が配信決定

原作者の実体験に基づく軍隊内のいじめがテーマ。でありながら、主人公(チョン・へイン)と相棒の先輩兵のやりとりが楽しい“バディもの”でもあるのが、さすが韓国ドラマ。

「父が母を虐待するのを見て見ぬふりをしたことが罪悪感として残っている主人公は、兵役で入隊後、日常的にいじめを受けることに。鋭い洞察力を買われて脱走兵を追う部隊『D.P.』に配属され、初めての任務でいじめが原因で脱走した兵士を追いますが……。いじめた人間だけじゃなく、周りで傍観しているのも同罪では、と問う良質なドラマ。チョン・へインの胸に迫る演技にも注目です」(渥美志保さん)



3. 性別を超越した恋にどんな結末が訪れるのか

『恋慕』(2021年)

『恋慕』(2021年)

Netflixシリーズ『恋慕』独占配信中

“双子は不吉、女児と一緒に生まれた男児は王になれない”とされていた時代。双子で生まれた王の孫タミ(パク・ウンビン)は、女児のため生後捨てられてしまう。時が流れ、世子(皇太子)である兄の死後、男装したタミが代わりとなって陰謀に立ち向かう。

「韓国時代劇のおもしろいところ全部盛りで、日本のドラマ『大奥』のような男女逆転の要素も。男女が入れ替わった理由、男子しか王になれないという性別にかかわるテーマがさし込まれています。世子の教育係が、タミを男だと思いながら好きになるという恋愛模様も描かれ、異性愛にこだわらない新しい感覚を持ったドラマです」(渥美志保さん)

4. 高齢者問題や若者の就職難を斜め上の展開で描く

『まぶしくて-私たちの輝く時間-(2019年)

『まぶしくて-私たちの輝く時間-』(2019年)

幼い頃、時間を戻せる腕時計を拾ったヘジャ(ハン・ジミン)だが、使うと自分だけ急激に老いるため封印していた。しかし25歳になり、突然訪れた父の死を阻もうと時間を巻き戻し、老いてしまう。

「ヘジャが突然70歳ぐらいのおばあさんになると、若者にだまされそうになるエピソードなどが出てきます。韓国は儒教国なので年長者を敬う教えが強いはずが、実は年老いた人が寄る辺ない場所に追いやられていることがわかる。それをタイムリープという設定を使って、ファンタジックに描くというのが韓国ドラマのおもしろいところ。100人中100人が想像できないようなどんでん返しが待っていて、笑いもあり、最後は号泣必至です」(渥美志保さん)

『まぶしくて–私たちの輝く時間–〈韓国放送版〉』DVD-BOX発売中 発売・販売元:ポニーキャニオン¥13200(税込)

『まぶしくて–私たちの輝く時間–〈韓国放送版〉』DVD-BOX発売中 発売・販売元:ポニーキャニオン¥13200(税込) ©Jcontentree corp & JTBC Content Hub Co., Ltd. all rights reserved.

5. ヤングケアラー、格差……過酷な現実に明かりをともす

『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~(2018年)

『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』(2018年)

スペシャルプライス版コンパクトDVD-BOX発売中 © STUDIO DRAGON CORPORATION

家族を養うため淡々と働くドンフン(イ・ソンギュン)。同じ職場で働く派遣社員のジアン(IU)は死んだ両親の借金を返しながら、祖母の面倒も見ている。ジアンは借金返済のためにドンフンを陥れる依頼を受けるが……。

「ジアンはヤングケアラー。自分の人生を捨てていた彼女が、ドンフン(おじさん)との出会いで変わっていきます。誰かが手を差し伸べることで、人生が変わるんです。そして、仕事や家庭で孤独を抱えるドンフンにも変化が。おじさんが、恋愛感情なしの善良な大人なのもいい。最初は見ていてつらい! それを乗り越えると生涯忘れられないドラマに」(渥美志保さん)

アンテナを張ってさえいれば社会問題を描くことはできる

──今や韓国ドラマは、初対面の人とでも盛り上がれるほどに広まりました。どうして多くの人を巻き込む作品を次々作れるのでしょうか?

「いろいろな理由がありますが、まず作り手が厳しい競争下にあること。韓国の人はテレビを流し見しないし、しかも移り気。だから中身がぎっしりしていないといけないし、常に新しい作品を求められています。

また、ドラマ『相続者たち』『星から来たあなた』(ともに2013年)の人気が中国で爆発したり、小説『菜食主義者』がイギリスのマン・ブッカー賞を受賞したり、ここ10年で自分たちの作るものが世界でウケるということがわかってきた。そうすると、韓国の人の“攻める気質”も相まって、世界基準のクリエーションを目指すようになりますよね。やっぱりお金もかかっていて、映像の質も高いです」(渥美志保さん)

──中身がぎっしりということですが、さまざまな要素が盛り込まれる中で、社会問題にも必ずと言っていいほど言及されています。

「社会問題って、結局、多くの人が共感しやすいところなんです。すべての人が社会とかかわって生きていて、そういう話って身近にゴロゴロ転がっているわけですから」(渥美志保さん)

──少し前の映画ですが、『トガニ』(2011年。聴覚障害者学校で実際に起きた性的虐待とその隠蔽事件を描いた)がヒットしたように、重いテーマを扱いながら、エンタメにするのもうまいなと感じます。

「『トガニ』の成功は、スターであるコン・ユが映画化を企画し、主演したことが大きいと思います。それはつまり、俳優が『自分のスターパワーを使って世に出すべきものを発信するんだ』という意識を持っているということなんです」(渥美志保さん)

──俳優も含めて、作り手がそういう意識を持っているんですね。

「『青春の記録』(2020年)という作品は、いわゆるアイドルドラマなのですが、主人公の仲間が交際中の彼女から『HPVワクチンを打ってきて』と言われて、仲間3人で打ちに行くシーンがあるんですね」(渥美志保さん)

──日本でも、SNSなどでそのエピソードは話題になっていました。

「ですよね。韓国でもやっぱり話題になって、結果的にさまざまな層の人にこのドラマが見られました。これって社会問題をエンタメとして描くのがうまいとか下手とかじゃなく、作り手に意識とやる気があるかどうかの問題だと思うんですよ。社会のことにアンテナを張っていて、それを作中に入れようと思えば、すぐにできることなのではないかと」(渥美志保さん)

──視聴者から、ドラマにそういうことをさし込んでくれるな、といった声はないのでしょうか?

「まったくとは言いませんが、あまり多くはないと思います。政治や社会の話をするのは普通のことですし。その点は、むしろ世界の中で日本が特殊なのかも。以前、大統領選期間中の韓国で百貨店の若い女性店員に誰に投票するか質問したら、すごく熱い答えが返ってきましたからね」(渥美志保さん)

『青春の記録』の主人公たちがHPVワクチンを打ちに行くエピソードは、出演者がインスタグラムに投稿したオフショットも含めて大きな話題に。「こういう内容を入れるだけで、ドラマの見え方って全然違ってくるものなんですよね」(渥美志保さん)

『青春の記録』の主人公たちがHPVワクチンを打ちに行くエピソードは、出演者がインスタグラムに投稿したオフショットも含めて大きな話題に。「こういう内容を入れるだけで、ドラマの見え方って全然違ってくるものなんですよね」(渥美志保さん)

誰かが言えなかった悔しさや思いを明確にするのがカルチャーの役割

──ドラマに限らずですが、フェミニズムの文脈でも評価の高い作品が次々に生まれている印象です。

「フェミニズムの視点が入っている作品だと『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』(2018年)がおすすめです。ソン・イェジン(『愛の不時着』では主人公ユン・セリを演じた)がカラオケで必ず上司のセクハラの標的になる。そこで盛り上げるから、周りの女性から“タンバリン”と揶揄される。揶揄されてるのはわかってるけど言い返せない。

そこに『わかるよ、その気持ち』って共感する人、たくさんいるんじゃないかな。自分が言えなかった悔しさや思いを言葉や映像にして、『これだったんだ』って明確にしてくれる。それってカルチャーの大きな役割ですよね」(渥美志保さん)

──ちなみに、韓国にも“タブー”はあるのでしょうか。

「軍隊内のいじめが題材で、2014年に実際に起きた事件も織り込まれたドラマ『D.P.』(2021年)がヒットしたのですが、軍隊のネガティブな話は触れにくかったと思います。『D.P.』は地上波やケーブルTVでは難しくて、Netflixだから作ることができたんです。動画配信という新たなチャンネルが出てきたことは、韓国でも、そして日本でも、これから描かれるテーマの幅がより広がるチャンスですよね」(渥美志保さん)

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詳しい内容は2022年LEE3月号(2/7発売)に掲載中です。

イラストレーション/ナカムラミサキ 取材・原文/石川晴美
※商品価格は消費税込みの総額表示(2022年2/7発売LEE3月号現在)です。

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