表出してきた「ヤングケアラー」の実態
最近メディアでも取り上げられる機会が増え、耳にする機会が増えている「ヤングケアラー」という言葉。皆さまはご存じでしょうか?
「ヤングケアラー」とは、「本来、大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを、日常的に行っている子ども」のこと。
両親や祖父母の介護、きょうだいの世話、毎日の家事など…ともすれば「単なるお手伝い」「当たり前のこと」かもしれません。
しかし、その内容や量、責任が度を超えることで、「子どもが子どもらしく過ごす時間」が奪われてしまう恐れがあるとしたら…。
私がこの問題を知るきっかけになったのは、20年にわたり教育支援を行う「認定NPO法人カタリバ」が主催したオンラインイベント「“ケア”を担う子どもたちの今~ヤングケアラー支援の現場から~」への参加。
元当事者の声や、支援現場に立つ方のお話などを聞くと、その現状は思っている以上に複雑でした。
まだまだ知られ始めたばかりのこの問題。
このレポートが、少しでも多くの方の「ヤングケアラー」について考えるきっかけとなれば幸いです。
中学生の17人に1人はヤングケアラー。自覚のある子どもはわずか2%
令和3年3月、国が初めて発表した「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」。
「世話をしている家族がいる」と答えた子どもの割合は、中学生の約17人に1人、高校生の24人に1人。クラスに1~2人はいるということになります。
しかし「ヤングケアラー」と自覚している子どもはわずか2%ほど。
当人が「お手伝いの一環」「仕方ないから」と思っているケースも多く、「ヤングケアラーという言葉を聞いたことがない」という回答が8割を超えるほど、まだまだ認知されていません。
誰かに相談しようにも、友人などに話すと「重い」と思われそうで、なかなか周囲に打ち明けられないという声も。
学校側も、虐待や非行など既存のジャンルに当てはまらない問題ということもあり、見つけるのが難しく、家庭への介入もしづらいのが現実のようです。
「ヤングケアラーが担うケア」と「お手伝い」との違いは、担っていることの内容や量(頻度・時間)、そして責任の度合い。家族のケアにかける時間が多いと、勉強や睡眠の時間が十分にとれず、学業や進路、心身の健康にも大きな影響を及ぼします。
問題なのは、ケアをすること自体ではなく、子どもの時間や権利を奪ってしまうことなんですね。
それでも、ケアを一方的に「ネガティブなもの」として捉えるのも要注意。
家庭により状況が異なるうえ、ケアを通して身につくポジティブな価値観や資質もあるため、単にケアから引き離せば解決するというわけではないというのも、この問題で考えたいポイントのひとつです。
元ケアラーが語る…当事者のリアルな声
イベントでは、ヤングケアラー経験者の方が、当時の状況や思いなどを語ってくださいました。
現在は自宅を離れて大学に通う、元ケアラーの女性。
母子家庭育ちで、小学5年生になる時に母親が精神疾患をわずらって働けなくなり、生活保護を受給しました。
中学までは母親の話を聞くなどの「情緒的ケア」を行っていましたが、当時はケアをしているという意識はあまりなかったそう。
しかし高校生になると、アルバイトをして修学旅行費を自分で貯めたり、生活費も賄ったり…。進路を考える必要も出てきた頃、「何でこんな家なんだろう」という思いやストレスが大きくなり、保健室に通うようになりました。
しかし、先生が家の事情を知っていたため話しやすかったことや、「自分の人生は自分のもの」と励ましてくれたのが大きかったそう。自立しようと決め、大学進学を機に家を出ることに。
受験を自己推薦で早めに終わらせ、12月からは引っ越し資金を貯めるためのアルバイトに励んだといいます。
ケアから離れた現在も、人を信じられなくなるなどのトラウマが出ることもあるそう。
それでも母を支えた経験から、人の話を聞くのが上手になったことや、仕事に活かせる部分もあることは良い面だと、前向きな言葉もあったのが印象的でした。
この方は、高校の先生の理解などが支えとなり、問題から抜け出すことができた好例かと思います。
しかし、まわりの大人の理解がない、必要な支援にうまく繋がれないことも多いのが現状。痛ましい事件に繋がるケースもあるため、対策や支援は急務といえるでしょう。
支援はまだまだ始まったばかり。まずは身近な大人にSOSを
さきほどの実態調査の結果を受け、国も支援策の検討を始めました。
学校から自治体の福祉のサービスに繋ぐ仕組みづくり、相談先の拡充、社会的認知度の向上など…。
しかし、一朝一夕でできることではなく、日本にはまだまだ、ヤングケアラー本人を対象とした支援の仕組みがないのが現状です。
一方で、NPOや民間によるサービスもスタート。
例えば「認定NPO法人カタリバ」では、ケアを担う子どもも家族も支える完全オンラインのプログラムを開始(現在はいったん募集を終了)。ヤングケアラー同士の交流の場を設けたり、必要な公的支援を受けるためのサポートをしたりと、支援の輪は広がり始めています。
また、先日の「不登校支援の最新事情」の記事でも書かせていただきましたが、問題のテーマは違えども、いざという時の相談先にはさまざまな選択肢があります。担任や保健室の先生、かかりつけ医、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど…。
たとえ身近に支援の仕組みがない、またはどこに行けばいいか分からなかったとしても、まずは誰かにSOSを出せたら、何かが変わるかもしれません。
まずは大人たちが「正しく理解すること」
今は、ヤングケアラーの現状が少しずつメディアでも取り上げられ、知られ始めている状況。その後どうなるか、知ったところから何ができるか、というターニングポイントだといいます。
支援現場に立つ方の「誰しもがケアを担う時代。大人も子どもも一緒になって、自分のケアと自分の大事な人のケアについて考えられる社会を目指したい」という言葉も印象的でした。
まずは大人たちが、ヤングケアラーの存在に気付き、正しく理解すること。
そして行政、民間を問わず支援の仕組みが広がることで、子どもは助けを求める先を、大人は手の差し伸べ方を知ることが大切なのではないでしょうか。
すべての子どもたちが「子どもらしい時間」を享受できる社会に
「ヤングケアラー」の問題について考えるとき、心に浮かぶのは自分自身の学生時代。
小学生の頃、放課後は友だちと遊んだり、習い事をしたり。中学・高校では平日も休日も部活漬け。大学は県外へ進み一人暮らしをし、勉強やらサークルやらバイトやら遊びやら…。
ごく平凡な学生時代でしたが、確かに人生の彩りとなっているし、当時を共に過ごした仲間は今の大切な友人です。
この時間がなかったとしたら。家族はもちろん大切だけれど、人生の中でも「今しかない」子どもらしい時間が過ごせなかったとしたら…。思うだけで胸が苦しくなります。
自分の基礎を築く時期に、大人でも大変な「他者のケア」が優先になってしまうことで、将来への影響が計り知れないことは想像に難くないですよね。
すべての子どもたちが、子どもらしい時間を享受し、自分らしい人生を歩んでいける。そんな当たり前が叶う社会になることを、子を持つ親として切に願います。
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福島綾香 Ayaka Fukushima
ライター
宮城県仙台市出身。夫、息子(2018年9月生まれ)と3人暮らし。これまでフリーペーパー、旅行情報誌などの編集を経験。趣味は食べること、旅行、読書、Jリーグ観戦。