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夫婦のこれから/暮らしとおしゃれ

引田かおりさん・ターセンさん「子どもたちが巣立った後、夫婦ふたりの暮らしの組み立て方」【LEE DAYS】

  • LEE DAYS リーデイズ

2021.12.22

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夫婦のこれから/暮らしとおしゃれ

gallary fève オーナー 引田かおりさん・ターセンさん 暮らしと仕事を心地よくする妻の領分・夫の領分

「24時間ほとんど一緒にいる」というほど、仲の良いおふたり。子どもたちが巣立った後、夫婦ふたりの暮らしをどのように組み立てたのでしょうか。

引田かおりさん/Kaori Hikita
ターセンさん/Tarsen Hikita

引田かおりさん
ひきた かおり●1958年東京都生まれ。専業主婦、絵本店アルバイトを経て、東京・吉祥寺に夫とパン屋「ダンディゾン」、ギャラリー「フェブ」オープン。

ターセンさん

ひきた たーせん●1947年東京都生まれ。IT企業に勤めた後、52歳で早期退職し、妻との仕事をスタート。
公式サイト:https://hikita-feve.com/

「最初のころは、彼の家事に口を出して険悪になったことも」(かおりさん)

団塊世代のターセンさんと、ひとまわりほど年下のかおりさんは、結婚生活40年。かつては夫が仕事、妻が家事という役割分担で暮らしていました。

IT企業の最前線で働くターセンさんを支えるために、かおりさんが家庭を切り盛りしていたそうです。そのスタイルが変化したのは、ターセンさんが50代で早期退職をしてからのこと。

第2の人生はこれまでと違う道を歩みたい−−と、夫婦でギャラリーとパン屋をはじめたふたり。

企画全般を担うかおりさんの仕事が忙しくなるにつれ、ターセンさんは「こんどは僕が妻を支える番だ」と家事と向き合うように。しかし、最初はうまくいかないことばかりだったと振り返ります。

「僕が食器を洗うと床も壁もビチャビチャになるし、時間もかかるし、すぐ割っちゃう。どうも相性が悪いのか、ティーポットなんて4つも割っているんだよ」と、持ち前の明るさで過去の失敗を笑い飛ばすターセンさん。

その横で微笑むかおりさんも、最初のころは夫に家事を任しきれず、手探りの時期が長く続いたと告白します。

「夫は、お願いをすると全力でやってくれるんですが、それまで家事は手伝い程度の人だったので、そのやり方が『え?』って思うことばかり(笑)。でも、わからないんだなと思って後から教えたり、仕上がりに対して何かを言ったりすると、あきらかにムッとされてしまうんです。そんなことを何度も繰り返しながら、いったん任せたら後から口出しはダメなんだ、任せきる覚悟を決めなくてはと、私も学んでいきました」(かおりさん)

ターセンさんは人に頼られると応えたくなるタイプ。だからかおりさんは、なるべくターセンさんが得意そうなことを頼みながら、褒める、感謝するという前向きな気持ちをちゃんと伝えるように心がけたそうです。

できることを一つずつ積み重ね、早期退職から20年がたった今では料理、洗濯、掃除など、すべての家事を分け合う暮らしにたどり着きました。

実はターセンさん、毎日の食器洗いを買って出ながらも、魚を焼いた網だけは、匂いが苦手で洗えなかったといいます。最近になってそれも克服した時、「自分に勝ったと思ったよ!」と笑顔で話します。

かおりさんいわく、ターセンさんは「70歳をすぎても、新しくできるようになることって、いっぱいあるんだなあ」と、うれしそうにつぶやいていたそうです。

「食べものの記憶は人を支えるから、家族で同じものを食べることを大切にしています」とかおりさん。家で食べるごはんとお味噌汁が、ふたりにとっていちばんのごちそう。

「食べものの記憶は人を支えるから、家族で同じものを食べることを大切にしています」とかおりさん。

家で食べるごはんとお味噌汁が、ふたりにとっていちばんのごちそう。

ふたりはひとつのメールアドレスを共有。「転送する手間もないし、仕事もプライベートも、すべての情報が見られるから、整理する必要もないのがラクです」とターセンさん。

ふたりはひとつのメールアドレスを共有。

「転送する手間もないし、仕事もプライベートも、すべての情報が見られるから、整理する必要もないのがラクです」とターセンさん。

「人はお金や時間より、居場所が必要なんだよね」(ターセンさん)

夫婦が仲良く暮らすには、相手を理解するための絶え間ない努力がいるのだと、ふたりは口を揃えます。結婚当初より、一日の出来事を互いに報告しながら、夫婦の会話を大切にしてきました。

相手がどんなことをがんばっているのか、何を悩んでいるのか。互いの気持ちを受け止めているうちに、相手への思いやりが育つのです。

「ただね。ビジネスマンとして忙しかったころは、僕が仕事から帰ってきたら、30分間は話しかけないでくれと、伝えていたんです。仕事モードからの切り替えができないからね」とターセンさん。

一方、話しかけないでと言われた側のかおりさんは、「何でそんなことを主張できるのかと、びっくりしました」と笑います。

それでも、30分間でクールダウンができると自分の状況を言語化し、相手に伝えられるのは、ターセンさんならではのコミュニケーション能力だとも。

つねにオープンマインドなターセンさんですが、早期退職をした当時、急激な環境の変化にはさすがに戸惑ったそうです。

「名刺を持たない男になり、やることが何もなくなって、軽いうつ状態だったろうね。同じ業界内から仕事の誘いはあったんだけれど、それを受けたらリタイア前とまた同じになっちゃうでしょう。だからといって、スケジュールを埋めようと躍起になるのも何か違う気がして、人生ではじめて、何にもやる気が出ない状態が、半年は続いたかなあ」(ターセンさん)

そのうちに、かおりさんが探してくれたフランス語の講座や、料理教室に通ってみたところ、ビジネスマン時代とはまた違う価値観を持つ人たちとの出会いがあり、新たな人間関係が広がって、元気を取り戻すきっかけに。

「僕は自分がどこにいたらいいのだろうかと、新しい居場所を探していたんだね。人間、いくらお金があっても時間があってもダメなんだってことが、はっきりわかった経験だったよ。そのうちに、彼女がギャラリーをはじめると言い出したから、僕は営業の役ができそうだなあと」(ターセンさん)

大きなシフトチェンジを夫婦で乗り越えて、仕事上でもパートナーになった、かおりさんとターセンさん。「これが好き」「おいしいね」「感動した」という小さな感情の揺れを共有しながら、「いまがいちばんしあわせ」と思える毎日を送っています。

オンラインショップの発送は、ターセンさんが送り状を書き、かおりさんが箱詰めという分担。もともと贈り物が好きなかおりさんにとって「すごく楽しい作業」だそう。

オンラインショップの発送は、ターセンさんが送り状を書き、かおりさんが箱詰めという分担。もともと贈り物が好きなかおりさんにとって「すごく楽しい作業」だそう。


撮影/濱津和貴 取材・原文/石川理恵 構成/田中のり子


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LEEとともに歩んできて、子育てが一段落。自分に目を向ける余裕の出てきたLEEの姉世代の方に、日々の“ほんとうに好きなものと心ときめく時間”をお届けします。

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