ストレスMAXな今、やっぱり映画に救われる!
大都市圏でまたも緊急事態宣言が発令され、人と会いにくいストレスフルな生活の中で、やっぱり心にビタミンをくれるのは、本当に面白い映画です! <本当に面白い>というのがミソ。だって、グイ~ッとその世界に力づくで連れ去ってくれる力ある映画は、観終えた後、脳味噌が丸洗いされたような感覚になりますもの。ぱぁ~っと、心に違う景色が広がっていたりします。
ということで昨年を振り返り、なんの忖度もフィルターも入らない “偏愛”映画ベスト10”を選んでみました。ちなみに、各所で発表されている中に散見される『パラサイト 半地下の家族』は、2019年の年末公開のため対象外に(個人的には昨年、2019年ベスト1に選びました)。ちょうど配信やDVD&Blu-rayのリリースが始まったので、未見の方は必見です! では、いきなり第1位から……。
第1位:脳みそが刺激される快感『TENETテネット』
自分としては珍しく、ハリウッド系エンターテインメント超大作に。とはいえこの映画、非っ常~に説明しにくい(笑)。一言で言えば、CIA工作員の主人公が、“時間を逆行する”兵器の出所を突き止め、兵器利用を阻止しようとする、というお話ですが、正直いまだ内容を100%は理解できていないと思います。観ている間なんて、「え、何!? 何!? 何!?」の連続です。でも、その分からなさが、たまらなくワクワクで刺激的!!
さすが天才監督、クリストファー・ノーラン。『インターステラー』『インセプション』などを堪能した方は絶対ハマると思いますし、初期作『メメント』の翻弄させられ具合も感じます。また、分からないと言っても、いわゆる“難解”タイプの作品とは異なり、アクション系エンタメ好きな方にも躊躇なくおススメできる作品でもあって。オペラハウスが爆破される冒頭から、アドレナリン全開必至です。主演のジョン・デヴィッド・ワシントンは、名優デンゼル・ワシントンの息子ですし、彼の相棒をグッと骨太な俳優になってきたロバート・パティンソンと、俳優陣も魅力的です。とにかく目にするもの(時間が逆行している様子を目撃できるのですから!!)すべてに、驚きで度肝を抜かれてしまう、そんな快感に脳が痺れる一作です。
2.スゴさが筆舌に尽くしがたい『異端の鳥』
ちょっとディープな映画好きな方におススメの、“これぞ映画!”と鳥肌が立つ傑作です。それなりの覚悟を要する作品でもありますが(ベネチア国際映画祭でも途中退出者が続出する中、ユニセフ賞を受賞。アカデミー賞チェコ代表作品でもあります)、この映像体験は、そうそう出来るのものではありません!!
両親から預けられ、一緒に暮らしていた祖母が亡くなり、家も火事で焼け落ち、一人取り残されてしまった幼い少年。行く当てもなく少年は、野に彷徨い出るのですが……。
いたいけな子供に、そんな惨い運命が降りかかるなんて! しかも村の人々は手を差し伸べるどころか、悪意に満ちた眼差しを向け、怒声と暴力を浴びせます。「なぜ惨い仕打ちを!?」と、不可解さに震えながらスクリーンにかじりつきに! というのも、魔的ともいえる詩情あふれるモノクロームの映像に、どうしようもなく魅せられてしまうから。
なんと11年を掛けて撮られた驚異の作品で、劇中、リアルに少年が成長していくのです。恋を知り、自分の中の醜い嫉妬を知り、仕返しさえできるまでに。そうしてラスト、少年がなぜ預けられていたのか、なぜ疎まれていたのかが分かると、愕然としながら本作のスゴさに震えてしまいます。ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズ、ウド・キアー、バリー・ペッパーら、激シブ名優たちが次々に登場するのも見逃せません!
3.胸ガクブル映画『その手に触れるまで』
『息子のまなざし』『ある子供』『サンドラの週末』等々、常に世界中で高く評価されてきたダルデンヌ兄弟の監督作。期待値が上がった状態で観てもなお、今度はソコくるかぁ、と唸ってしまいます。本作は、突如イスラム過激思想にドハマリしてしまった13歳の少年の、心の内奥に迫っていきます。
以前、自粛明けで映画館が再開された際にも、見逃せない作品としてご紹介しました(https://lee.hpplus.jp/column/1671898/)が、そこでも書いた「待ち構える映画ファンの期待を、やはり裏切らない“胸ガクブル映画”」という、まさにその通り。
なぜ、少年は薄っぺらそうな若きイマーム(イスラム指導者)に急に傾倒しちゃったの?と観ながら終始、疑問が渦巻きます。両親の関係への不満や憤り、この年代特有の潔癖さなのか<ねじれた自己承認欲求>か、もしかしたら性の目覚めに対する自己嫌悪? とにかく敬虔なイスラム教徒からしたら“進歩的”と感じるらしき女性教師に、少年は敵意をむき出しにし、イマームに焚きつけられ刺してしまうのです。少年院に入ってからの少年の変化が、「これって劇映画ですよね!?」と疑いたくなるくらいのリアルさで映し出され、少年の妄信が解けるのか否か、彼の心の揺れに見る私たちの心臓がなぜかバクバクに! きっと数日は、この映画のことで頭が一杯になるかもしれません!!
4.何じゃコレ!?不思議映画『ホモ・サピエンスの涙』
『散歩する惑星』『愛おしき隣人』『さよなら、人類』など、スウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソン監督作は、すべて“何じゃコレ!?”と思いつつ、どこかプスッと噴き出してしまうような、独特な世界観の作品です。本作も過去作同様、なぜか登場人物はゆ~っくり動くか静止、顔はやや白塗り、お天気はいつも薄曇りか雨。そして皆ちょっとした不運や不幸に見舞われるのですが、そこはかとないユーモアが漂っているのです。
“神が信じられなくなった”と精神科医を訪れる牧師、魚売り場の前でビンタを応酬する男女と遠巻きに見る人々、招かれた誕生日会に向かう父と娘が土砂降りでボロボロに……。かと思えば、顔面蒼白のヒトラーが現れ、恋人たちは戦禍で荒廃した街の上を飛び(有名なシャガールの絵を実写で模倣とは!)……など、まるで夢を見ているような心地にもなってくるのです。強いメッセージを押し出してこないのが心地よく、でも哲学的な空気にも満ちていて。全33シーンすべてを、なんと自前のスタジオに巨大セットを組み、ワンシーンワンカットで撮ったのですって!! なんという贅沢な映画。観終えた後、また観たくなるので、監督に怒られそうですが、ずっと掛けっぱなしにしておいて四六時中流し見したいな、なんて思ってしまう作品でもあります。
5.アドレナリン沸騰『フォードvsフェラーリ』
19年の米アカデミー賞で作品賞/響賞(編集)/音響賞(調整)/編集賞の4部門ノミネートのうち、音響賞(編集)と編集賞を受賞。でも、もっと高く評価されてしかるべきなのに、と思ったほど全身がグワ~ッと熱くなり、ダイナミックな感動をもらえた作品です。車レース映画なんて男くさい……と敬遠したら勿体ない!!
60年代後半、ル・マン24時間レースを舞台に、才能はあるけれどはみ出し者の男2人が、米最大手自動車メーカー、フォードから、絶対王者フェラーリ打倒の夢を託されますが――。
マット・デイモン扮する元レーサーで気鋭のカー・デザイナーと、クリスチャン・ベール扮する天才ながら破天荒過ぎるドライバー。BLムードからは程遠いですが、2人が激しくぶつかり合いながらも、絶対的な信頼で結ばれている友情というか、友情を超えて大切な存在であり続ける、そんな関係に、ブロマンス萌えしちゃいます♡(*ブロマンスとは男同士の強い絆、関係のこと)それにしても、映像からビンビンに伝わって来る風圧を感じさせるくらいのスピード感は、実際にジェットコースターに乗る以上の迫力とリアル感! そしてラストの後味が、何とも切ない! 「LOGAN/ローガン」「3時10分、決断のとき」などのジェームズ・マンゴールド監督、男の“どうしようもない性”や、悲哀や切なさを描き込むのがホント、上手いです!
6.抱腹絶倒!『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
タイトルからすると(配給会社の方、ごめんなさい!)、軽~いB級学園ムービーかと思ったら、会話もキレッキレで面白く、且つ“現代”を活写し、性的指向やジェンダーなども盛り込んだ、かなり上級な学園コメディで驚きました! しかも登場人物が、みな逞しくて個性的で魅力的なんです!!
有名大学入学を勝ち取った優等生、且つ親友同士の女子2人が、卒業前夜、派手な遊び人だったクラスメートたちが、自分たちと同じようなハイレベルの大学に入学すると知って愕然!! 「自分たちだけ青春を謳歌できなかったなんて不公平だー!!」と、招待されていないパーティに参加しようと奮闘する物語。鼻息荒くしながら、頭のいい2人の屁理屈や悪戦苦闘ぶりが最高です! 今どき女子高生のリアルな下ネタも満載で、爆笑に次ぐ爆笑。ところが思わぬ感動も盛り込まれていて、最後は落涙! 青春って痛いけど、でもキラキラで、痛いからこそ忘れ難い!
女の子同士の友情に快哉し、本当の自分を認め、自分と違う相手も認め、怖いけれど未来に向かって一歩を踏み出していく彼ら全員に、涙ながらに拍手を送りたくなります。なんと監督は、妖艶な美女を演じることが多い女優のオリヴィア・ワイルド。彼女の才能にも喝采です!
7.切なくてまさかの大号泣『His』
遂に来ました日本映画! 今年は面白い日本映画がとても多い年でしたが、個人的に最も心を震わされたのが、『愛がなんだ』の今泉力哉監督による『his』。主演の宮沢氷魚さんと今泉監督に対談(https://lee.hpplus.jp/column/1562789/)させていただいたことが懐かしく思い出されます。
大学卒業間近、相思相愛だった渚(藤原季節)から一方的に別れを切り出された迅(宮沢氷魚)は、人を遠ざけるかのように、寂れた田舎の村で一人暮らしています。数年後、そんな迅の元に、6歳の娘を連れた渚がいきなり現れるのですが――。
渚なんか放っておけ~、と心の中で叫んでしまいますが、優しい迅が行き場を失った2人を拒絶できるハズもなく……。なんとも複雑。娘を間に、ようやく疑似家族のように穏やかに暮らし始めた3人の前に、渚の元妻が現れて、娘を奪おうとするのですが……。
周囲の人々の偏見や心無い言葉に全身がカ~ッと熱くなったり、逆に差し伸べられる手の温かさに心がジンジンしてしまったり。何度も泣かされました。特に親権をめぐる裁判の後の、渚と迅の場面には、ツと胸を突かれドバ~ンと涙で大洪水に。人に優しくなれる、優しくなりたいと思わせてくれる、愛ある映画。これまた絶対に見ていただきたい作品です。
8.異色の恋愛映画『劇場』
又吉直樹さんの同名原作を映画化した本作は、恋愛映画ですが、かなり辛口という異色さ。山﨑賢人さん×松岡茉優さんの、生の表情をガッとスクリーンに焼き付けた、その鬼気迫る演技は、観る者の感情をグチャっとかき混ぜ、最後は忘れ難い感動を掘り起こします。山﨑さんにインタビューさせていただいたLEE本誌記事(https://lee.hpplus.jp/column/1626191/)もチェックしてみてください!
山崎さん扮する小さな劇団の主宰者が、どうしようもないダメ男!! 彼を支える沙希(松岡さん)に対する態度の酷いこと、そのゲスっぷりやお子ちゃまぶりは、時に吹き出してしまうほどヒド過ぎる(笑)。でも、彼の “いいものを作りたい”情熱や渇望、認められないことへの鬱屈、「分かる奴にしか分からない」とうそぶく傲慢さ……自分を正当化したり、相手を見下すことで自分を保つ人間の身勝手さや醜さって、自分の中にも必ずあるように苦々しく認めざるを得ないんです。しかも、そんなゲス男がラスト、なんという鮮やかな裏切りをしてくれるのでしょう。清らかな愛の結晶に涙が止まらず、完全にやられました~っ!! ちなみに本作、コロナの影響で、結局、劇場公開と同時配信されたのですが、それによって日本映画界の賞レースから対象外にされてしまいました。あり得ない!! それはさておき、見逃し厳禁の必見作です!
9.“生きづらさ”に目を瞠る少女を映す『はちどり』
これまた昨秋、LEE本誌で韓国映画特集がありましたが、その中でも本作を挙げさせていただいた記事がこちらです(https://lee.hpplus.jp/column/1778280/area02/)。最近、この手の韓国映画が多い(『未成年』や、これから公開の『夏時間』など)ように感じますが、少女のみずみずしい感性と、感覚的にすべてを察知しているかのような現実を見つめるひっそりした眼差しに、ドキリとしながら鼓動を速めずにいられません。
1994年、ソウル。中学2年生の女の子ウニは、学校でも家でも孤独を感じています。色濃く残る家父長制のせいか父親はガミガミうるさく、兄はすぐウニに手を上げます。姉はデート三昧でいつも不在、母親は存在感が薄い……。ウニは、「なぜ?」が胸につかえたまま、問いかけるように目を瞠っています。そんなウニは塾の新しい女の先生に心を開くのですが――。きっと誰もが身に覚えのある“心の棘”にチクチク刺され、ウニの姿にハラハラしてしまう……本当に繊細で忘れ難い作品です。深く考えずに流されて生きられちゃう方が、きっとずっと楽。でも「なぜ?」「おかしい」と社会の理不尽さに気づいてしまった途端、生きづらくなってしまう。ウニが目を開かされる塾の女性講師の言葉、2人の優しい関係に観る者も心癒され、魅せられます。それだけに最後は……心の琴線に触れること間違いなしの、世界で話題となった秀作です!
10.気持ちのよい意欲作『37セカンズ』
ロサンゼルスを拠点に活動する日本出身のHIKARI監督が、初長編監督作にしてベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞とCICAEアートシネマ賞を受賞するという快挙を成し遂げた、意欲的な人間ドラマです。HIKARI監督にも昨年、LEEwebでインタビューさせていただきました(https://lee.hpplus.jp/column/1576661/)。彼女の魅力的な人柄も、今いちどご覧ください!
ヒロインは、出生時に37秒間呼吸ができなかったために、手足が自由に動かない脳性麻痺を患うことになったユマさん。母親の過保護な愛情を受けて育って来たユマも23歳となり、自立しようとするのですが……。幼馴染の漫画家のゴーストライターをしてきたユマが、お母さんを振り切り、一人で世界に飛び出して奮闘する姿に熱くなります。もちろん傷つくこともあるし、一人ではできないことも少なくないけれど、いろんな人と出会い、助けを借りたりしながら生きていく、その大冒険ともいえる物語に、気持ちよく快哉したくなります。禁忌と思われがちな、女性の障がい者の「性」にも切り込み、描き出し、誰もが楽しんで見られるエンターテインメント作品になっているのが、素晴らしい。監督の人柄同様、とてもパワフルでポジティブな作品から、たくさんの勇気をもらえます!
2020年は特に日本映画が面白くて、『ミッドナイト・スワン』、『MOTHER マザー』、『朝が来る』、『ミセス・ノイズィ』、『罪の声』、そしてドキュメンタリーの『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』など、最後の最後までとってもとっても迷い、悩みました~。
また、『1917 命をかけた伝令』『ミッドサマー』『バクラウ 地図から消された村』『透明人間』『凱里ブルース』なども、入れてみたり、外してみたり。
そんなわけで、2020年公開の作品は、配信やディスクで既に観られる作品も増えてきました。少しでも「おうち時間」の助けになりますように。
本年も、どうぞ、宜しくお願いします!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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