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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

【山里亮太さんインタビュー】『ねこのガーフィールド』「僕自身が父親になったことで、物語を見る目線や感謝のバリエーションが増えました」

  • 折田千鶴子

2024.08.15

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ヤンチャなガーフィールドにみんな夢中!

さぁ、夏休みも後半戦! どう過ごそうか…と迷っている方にピッタリなのが、この『ねこのガーフィールド』。親子鑑賞に是非おススメです。しかも個人的な見解では、今回は吹替版がより楽しめそう。というのも日本語吹替版でガーフィールドを演じるのが、山里亮太さんだから。

オリジナル版でガーフィールドを演じるのは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などのクリス・プラットさんで、もちろん上手ですし楽しいのも変わりませんが、山里さんのハスキーがかったあの声が、どうにもガーフィールドのキャラにピッタリなんです。ということで今回は、ガーフィールドの声を演じた山里亮太さんにお話しをうかがいました。

山里亮太(やまさと・りょうた) 
1977年生まれ、千葉市出身。03年、お笑いコンビ「南海キャンディーズ」を結成、ツッコミ担当。お笑いタレント、MC、声優、ラジオパーソナリティとして多方面で活躍。現在は、バラエティー『あざとくて何が悪いの?』や、情報番組『DayDay.』でMCを務めるほか、多数のレギュラー番組をもつ。短編妄想小説集『あのコの夢を見たんです。』(19年発売)のほか、執筆活動も。

「本当に僕なんかがやっていいのか? 嬉しいというよりも怖かった」とコメントされている山里さんですが、『名探偵コナン 戦慄の楽譜』(08)や『きかんしゃトーマス ディーゼル10の逆襲』(12)、『ONE PIECE STAMPEDE』(19)、つい最近も『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』(23)ほか、誰もが知る人気アニメーションで既に何度も声優や吹替を経験されてきました。

そういう経験を積み上げての堂々の主演作かと、なるほど納得です! 

“僕なんて”と躊躇した後、“逃げて後悔するより、全力で挑戦しよう”と覚悟を決めたそうですね。

「ガーフィールドって世界中の誰もが知るキャラクターですから、光栄であるのは間違いないですが、それだけにすごく危険なことでもありますよね。逆の立場で考えたら、自分が好きなキャラクターがアニメ化された時に、イメージが違った声を聞いたときに感じる寂しさ……みたいな。それを観る人に感じさせたくない、という思いもありました。そんな時、やっぱり頭によぎったのは、娘が自分の作品を観て笑ってくれるかもしれない……という思い。それでダメ元でエントリーしました」

本作は既に世界的に大ヒットしていますが、実は私個人は、恥ずかしながら“ガーフィールド”のアニメーション作品を観たのは、本作が初めてでした。

「確かに他国ほどの知名度は、日本ではなかったかもしれません。かくいう自分もガーフィールドを初めて知ったのは、うちのやんちゃな兄貴が着ていた、どう見ても正規品とは思えないジャージに刺繍されたガーフィールドでしたから(笑)。そんな兄も本作への出演を喜んでくれるのではないか、と(笑)。僕も改めてしっかり見直したら、こんなに面白かったのか、と思いました。いろんなシリーズが見たくなったので、映画もシリーズになればいいなと思っています」

ねこのガーフィールド』ってこんな映画

食べることが大好きで怠け者のガーフィールドは、飼い主ジョンに溺愛され、幸せ太り中の家ねこ。親友の犬オーディと一緒に、冷蔵庫の中のものを食べ尽くしては、ネットですぐに注文。ところが生き別れた父さんねこヴィックが突然現れたことで、平和な日々は一変する。悪いねこに追われている父ヴィックを救うため、しぶしぶ家を飛び出したガーフィールドは、ずる賢い敵やヘンテコな仲間たちに出会いながら、大冒険を繰り広げる。

本作の面白さ=ガーフィールドのキャラクターとも思いました。彼の魅力をどう感じましたか?

「ねこの自由気ままでワガママな感じを、可愛らしく描くことって多いですよね。でもガーフィールドは、とってもふてぶてしい。それを描いているのが面白いんですよね。みんな、ねこに対して“ツンデレで可愛いんだよね~♡”と言いますが、実は“(ねこが)そんなことを言ってたのか”と、日常でねこを見かけてもつい笑えて来ちゃう。“実は人間のことを飼ってると思っていたのか!”なんて、新しい視点がもらえて、ねこを見るのがより楽しくなりました。だから今回の役作りとしても、徹底して“食べ過ぎ、寝すぎ、ふてぶてしく”いこうと思いました」

“食べるシーン/食べながら喋るシーン”が多いので、音も含めて難しかったのでは?

「というより、とにかくガーフィールドが叫びまくるんですよ。本当に目まぐるしく色んなことが起きますし、それに対してガーフィールドが全力でリアクションを取り続けるので、もうヘトヘトになっていました。もちろん休憩を挟みつつですが、5時間ぐらい収録を通しでやったりするので、最後は“今日はもう声が出づらくなっているので、ここで止めましょう”みたいな状態で。プロの声優の方と違って、僕の声の出し方が上手くないからだとも思うのですが……。声をあてるために観ている分には、既にクリス・プラットさんの声が入っていて、本当にガーフィールドが楽しそうに大冒険してるので楽しいのですが、実際にやり始めると大変でした」

ちなみに山里さんは、猫派・犬派で言うと、やっぱり猫派ですか?

「いや…それが…実は猫アレルギーなんです。くしゃみが止まらなくなってしまうんですよ。だから犬派です。ねこも可愛いし大好きで近づきたいし、抱きしめたいのに抱きしめられず、気分はシザーハンズですよ! ずっと叶わぬ夢でしたが、今回ガーフィールド(のぬいぐるみ)を抱っこさせてもらったら、本当に抱き心地がよくて気持ち良くて、欲しいです!」

歌うシーンはカラオケボックスで練習しました

では、最も難しいポイントはどこでしたか?

「ガーフィールドが歌うシーンがあるのですが、そこが最も難しかったです。クリス・プラットさんの歌がノリノリで、メチャクチャ上手いんですよ。僕がこんな大作に挑む方法は、それこそ“努力賞”しかないと思っていたので、本当にひたすらスタジオでもやりましたし、家でも練習しまし、カラオケボックスに通ってずっと練習しました。歌詞をすべて書き出して、どこで句読点をうつか、どこで切ったら上手く当てはまるかを計りながら」

「特に難しかったのは、クリス・プラットさんのアドリブっぽい言葉をばーっと並べて遊ぶような箇所。それを日本語でやるには、なんて表現したら合うのかも含め、巻き舌をしてみたり言葉を探したりカラオケボックスで考えて。そのシーンの収録前は、2時間くらいボックスで歌ってから現場に入って、どうにか録り終えました」

益々近年、声のお仕事が増えて来た印象がありますが、その醍醐味はなんですか?

「声で何かを表現する場合は、色んな余計な要素に触れずに内容まで到達できますし、受け手側にもすんなり受け入れてもらえる、ということでしょうか。例えばいろんなスタッフさんが作り上げたものをいざ表に出す時に、“自分が伝えたいものはこれなのに……”ということに、芸人としての“嫌われ者”とか“気持ち悪いオタク”とかの要素が乗っかって、言いたいことが隠れてしまうことが多々あって。でも声のお仕事だと、純粋に自分たちが作ったものが面白く伝わる、そのまま拡声器になれる、ということです」

山里さんの声は聞けばすぐに分かる、個性的なハスキーボイスです。

「ちょっと特殊な声なんですよね。ガサガサというか少しハスキーと言うか、しゃがれてて珍しい声とはよく言われます。確かに今、眼鏡を外すと街中では誰にも気づかれませんが、声を出すと“あ!”となることはよくあります。僕という存在を作る上で、やはり自分の声は大きいとも感じています」

見どころはズバリ・・・

“すごく笑えるし、泣けるし”とコメントされていますが、それぞれどんなところにグッときたのか教えてください。

「泣けるポイントとしては、やっぱり人と人との距離について。みんなが思ってる距離って、一人一人で全然違うんだな、と。例えば父ヴィックはすごく近くにいるけれど、ガーフィールドはとても距離を感じてる、とか。一方が近いと思っても、近づくことができないわけです。でもその距離が埋まる瞬間があって、そこまでの流れや、距離が埋まるに至る理由が判明していくと、劇的なドラマがあり、本当にグッと来てしまいました」

その距離感の変化や違いを、声で表現するのも難しいですね。

「監督はじめスタッフの方々が、いろんな技術や空気感などで増幅してくれていますが、僕自身の表現としては、距離が縮まってくと、一言一言や1文字1文字の“丸み”が変わってくるというか……。敵に対する攻撃や嫌悪感が混じって投げかける言葉や文字と、何かに気づいて距離がぐっと縮まる時のそれって、字面は同じでも全然違う。それを声の発し方やトーンでちゃんと出せればいいな、と。相手の名前を呼ぶだけでも、相当に違いますから」

楽しい注目ポイントはどこでしょう?

「見どころは至る所にちりばめられていますが、実はアクションもスゴイんですよ! ずっとインドア派ねこだったとは思えない(笑)、まさかの戦い方もあります。そのシーンが本当に素晴らしいので、是非、お友達や家族と観てください。また、例えばお子さんとちょっと距離を感じたりした時に、“一緒に見に行こう”と言うと、その言葉が子供へのすごいラブレターや、素晴らしいメッセージになると思います! 自分も娘が反抗期を迎えたら、これを見せようかな、なんて今から考えています(笑)」

山里さんご自身が父親になられたからこそ、幾重にも響いたところもあったのではないでしょうか。以前は子供目線で物語を見ていたのに、そこに父目線も混じってくるような。

「本当にそうですね。父親目線を持った子供の目線として観るようになると、感謝のバリエーションが増えたように感じます。例えば親として子供を見ている目線で楽しんだ後で、“あぁ、俺が子供の時は、(親は)こういう風に見てたんだ”とか“あの時、こんな思いだったんだな”と思うと、自分って割に感謝が足りてなかったな、と気づかされたりして(笑)。あの頃は大変だったろうな、とか、この頃はこんなこと言ったな、あんなことやったなと、今は両方の目を持って物語を追うようになった気がしますね」

同時に、今もガーフィールドが拗ねている気持ちも、やっぱり分かっちゃう、みたいな。

「そうなんです。だからその辺りのシーンも、感情を乗せやすかったですね。でもやっぱり、ガーフィールドとヴィックの親子がワーワーと言い合ったりしていても、“あんな些細なことが頭の中に残っていて、(息子が)ピンチになった時に思い出して……”というシーンも、すごくいいんですよ。首輪の何気ない1シーンなどが含んだ伏線も、とても素敵なので注目して観てくださいね」



山里家をガーフィールド家族に喩えると……

ガーフィールドと犬のオーディを飼っている、人間のジョン。なぜジョンはそこまで尽くすの!?と不思議になるくらいの関係性が面白いです。山里さんの家の中では、みなさん、どんな立ち位置になりますか。

「俺は家の中では、完全にジョンですね。もう、ひたすら奥さんと娘に尽くしまくる、という立ち位置です。もちろん娘はガーフィールドで、本当に好き放題、自由に遊んでくれています。確かに娘にも(ガーフィールド同様に)、“お父さんと遊んであげてる”という感じがありますね(笑)。それを見守ってくれているのが、うちの奥さん。でも奥さんがオーディというわけでもないな……もう最近は2人ともジョンになっていますね。ガーフィールドに尽くしながら、メチャクチャ楽しく振り回されています」

以前、奥様の蒼井優さんがLEEに登場くださった時、「うちの夫婦はなんでも喋る。どんなことでも夫に話す」とおっしゃっていましたが、その関係も本当に素敵です。

「確かにうちの奥さんは結構なんでも話してくれますね。やっぱり“喋る”って、すごいストレスが発散できるものだとも思うので、いいですよね」

ちなみに、今回もアフレコの練習を家で付き合ってもらったりしましたか?

「いえ、いえ、全然していません。というのもうちの奥さんも何度もアニメのアフレコをやっていまして、すごい上手いので(*『鉄コン筋クリート』や『花とアリス殺人事件』など神レベル!)……、奥さんに聞いてもらったら緊張しちゃいますから!! 逆に怖くてできない。でも時々“どうなの!? ”と聞いてくれて、“頑張ってるよ”みたいな会話はしていました。緊張して“やっぱ(収録が)怖えな”と漏らしたときは、 “すごくいい声してるんだから、自信をもってやってきな!”と声を掛けてくれたので……うん、ですね(笑)!」

最後に「嬉しい」とか「助かった」とか言わずに、「うん」と噛みしめるようにされていたのが、とっても印象的。照れもあるでしょうが、それよりも、言葉にしたくない何かがあるんだなぁ、とジワッとあらぬところで来たりして(笑)!

さて、いよいよ公開がはじまる『ねこのガーフィールド』は、猫好きさんはもちろんのこと、どんな大人が観ても、この夏をスッキリ乗り切れるパワーと感動をジワッとくれると思います。山里さんもおっしゃっていましたが、後半のアクションシーンがスピーディーでアイディアに溢れていて、メチャクチャ面白いんです。

ぜひ、大いに笑って、大いにジワッと来てください!

映画『ねこのガーフィールド

2024年/アメリカ・イギリス・香港合作/101分/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

監督:マーク・ディンダル

声の出演:クリス・プラット、サミュエル・L・ジャクソン、ハンナ・ワディンガム

日本語吹き替え版:山里亮太、MEGUMI、花江夏樹、山路和弘、磯部勉、日髙のり子ほか

8月16日(金)より全国ロードショー

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写真:菅原有希子

ヘアメイク:根本茉波(nemoto manami)

スタイリスト:山田隆太(yamada ryuta)

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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