染谷将太さん『チルド』公開記念インタビュー
染谷将太さんが「さとり世代の“冷たい強さ”」「システム化された現代社会」を分析する【映画『チルド』インタビュー】
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折田千鶴子
2026.07.15

ベルリン国際映画祭・国際映画批評家連盟賞受賞!
ずっとお話を聞いてみたかった染谷将太さんに、ついにご登場いただきました。染谷さんと言えば、ドラマ『田鎖ブラザーズ』の放送が終了したばかりですが、あの兄弟の運命に涙した方も多かったのでは? 数えきれないほど多々出演作があるのに、なぜかほとんどハズレがないのは、もはや卵が先か鶏が先かの問題に行きついてしまうほどです。
先日も編集者やライター仲間らと、『麒麟がくる』で演じた織田信長も、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で演じた天才絵師・喜多川歌麿も、観る前は「イメージと違う」とか「年齢が合わない」と思ったのに、結果、「不思議なほど見事にハマる。スゴ過ぎる」と盛り上がったばかりです。
そんな染谷さん主演の映画『チルド』が、もうすぐ公開に! CMディレクターとしてキャリアを積んできた岩崎裕介監督の長編デビュー作品にして、見事、ベルリン国際映画祭フォーラム部門で国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞した作品です。

時代も種族も年齢も軽く超えスルッと役に入り込む
染谷将太
Shota Sometani
1992年9月3日、東京都出身。7歳より活動を始め、9歳のとき『STACY』(01)で映画デビュー。『パンドラの匣』(09)で長編映画初主演。『ヒミズ』(11)で第68回ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。近年の主な映画出演作に『爆弾』『ひゃくえむ』『風のマジム』『BAUS 映画から船出した映画館』(全て25)、『教場Requiem / Reunion』『廃用身』(共に26)、『だぁれかさんとあそぼ』(7月公開)ほか。伊藤英明とダブル主演映画『国境』が27年公開予定。近年の主なドラマ出演作に『地面師たち』『滅相も無い』(共に24)、『シナントロープ』『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(共に25)、『田鎖ブラザーズ』(26)など。
演じたコンビニ店員・堺という人物像について、監督とどのようなお話をされましたか?
「監督は、“堺は自分自身だ”とおっしゃっていました。加えて、コンビニオーナー(西村まさ彦)も、ご自身のお父様がモデルだそうで。実際に監督のお父さんも、コンビニで毎日同じ仕事を繰り返しているうちに、段々と虚無化していったそうなんですよ。それを聞いて、人間らしさが削がれて、どんどん空っぽになっていく様が怖いなと思いました」
監督に、「その後、お父様は大丈夫だったのか?」とか聞きました?
「いや、聞いてないです(笑)。ただ、監督は子どもながらにその様子を『面白かった』とおっしゃっていて、割と楽しんでいたようなんです。『面白いと思えるのが、また面白いな』と、さらに監督を凄いと思いました。多分、生まれながらにセンスがある方なんだなと思います。
というのも監督は、『自分には伝えたいことがあるわけでも、描きたいものがあるわけではない』とおっしゃるんですよ。それを聞いて僕は、堺のキャラクターを少し掴んだというか。実際には、監督が書かれた本(脚本)には確実に伝えたいことや描きたいものがあると思うので、“監督自身が捉えるご自身”と“監督の中の概念”は乖離していると思いますが、『何もない』と言うのは、監督なりの“虚無”なのかな、と思って。だからこそ、監督の『自分には(表現したいものが)ない。ゼロなんだ』という感覚を、堺を演じる上で大事なヒントとして受け取り、台本に書かれた堺をどう成立させるかを考えて演じました」
『チルド』ってこんな映画
都内の某コンビニ店員・堺(染谷将太)は、朝から晩までレジ打ちに品出し、廃棄処理と、無感動に日々を繰り返している。厳格な店長(長島竜也)には嫌味ったらしく叱責され、同僚の室田(くるま/令和ロマン)や芳賀(正木佐和)と短いお喋りをたまに交わすだけで、みな漠然と不満がくすぶっている風だ。オーナー(西村まさ彦)は、自分が決めたシステムの中で、わずかな乱れも許さない。そんなある日、新人アルバイトとして小河(唐田えりか)が入ったことで、店の均衡が崩れ始める――。
監督の「(表現したいことが)何もない」という言葉から堺という役を掴んだという話ですが、確かにすべてに受け身というか、覇気がない人ですよね。堺は、なかなかに難しい役だったのでは?
「堺はただそこにいるだけの人、且つ何も変わらない人なので、基本的に“何もしない”ということをしなければならない。それが自分としては一番難しかったです。ただ監督がそこも演出をつけてくれましたし、突拍子もないことが周りで多々起きていく環境を作ってくださったので、僕は本当に“ただそこに立っている”だけで自然と堺が成立した気がします。自分としては、一番の特等席で現場を見て楽しんでいた、という感覚に近いですね」
具体的には、どんな演出があったのでしょう?
監督が身振り手振りも含めて『こんな風に』と提示してくれることもあり、それも面白かったです。監督がしっかり堺という役や作品の狙いを伝えてくださったので、それさえ共有しておけば、本当に立っているだけで大丈夫だろうという安心感がありました。加えて、ものすごく冷たい距離感のカメラワークだったんです。全くキャラクターに寄り添った撮り方を敢えてしないんです。そういう距離感も、逆に『本当に自分はドンとそこにいるだけで大丈夫だな』と、堺がサラダチキンを見ている初日のショットで確信しました(笑)」

新人バイトとして登場する、唐田えりかさん演じる小河の出現によって、少し堺がポジティブになる気もしました。コンビニ内にも異変が起き、終盤には衝撃シーンが展開します。
「小河という外の世界の人間、且つ自分とは全く違う性格の人と出会うことで、堺も少し心を動かされて“いい雰囲気になる”と監督から話がありました。だから2人がファミレスで話をするシーンは、そこだけ撮り方やトーンも若干変えているんですよ。『いわゆる日本の恋愛映画的な空気を出したい。本当はやりたくないんだけどね…』と監督がおっしゃっていたので(笑)、 “いい雰囲気”を作りました。でもそれも、現実か妄想かよく分からないシェフの登場でぶっ壊されてしまう(笑)。とてもウィットに富んでいるなと思いました」
“いいムード”になったのに、結局……。
「あの辺りで堺も何かが変わる、どこか成長すると見せかけておいて――。ある種、現代社会を映し出しているなと思いました。同時に、堺ってある意味、最強だなとも思いました。僕ら世代というと少し語弊があるかもしれませんが、堺という人間に(自分世代特有の)“冷たい強さ”を感じました」
染谷さん世代に共通? “冷たい強さ”と温度感
“冷たい強さ”という、その世代観はとても興味深いです。監督とも同世代(1990年代生まれ)ですね。となると、堺の持つ“虚無”に染谷さんも共感する部分があると?
「それまで監督とお会いしたことはなかったのですが、最初に台本をいただいたとき、『こんな本を書く人は、人として信頼できるな』と思いました。『この感覚を持っている人は、信用できる』と。堺の持つ無情さというか、マイナスでもプラスでもない、ずっとゼロ地点にいるような感覚は、僕自身も分からなくない。例えば僕も現場では、緊張しないために冷静さを保とうとして、割と『ゼロでいよう』と心構えをしていて。

その、冷たくも熱くもない温度感というのは、何となくですがバブル崩壊後の90年代から2000年代生まれ世代の空気感として、同じものを感じることがあります。決して熱がないわけではないのですが、分かりやすい熱さではない。だから僕も周囲から、『何を考えているか分からない』と言われがちなんです。その“分かりづらさ”が、世代の特徴のような気が勝手にしています」
自分の内側のものを守ろうとして、敢えてフラットになっているとも言えますか?
「言えますね。特に堺にはそれを感じましたし、自分もよく分かるというか。自分を保つために、ある種の虚無になる。敢えて変化を求めないことで自分を保っているというか。それが、“さとり世代”の自分の守り方なのかな、という気もします。
ただ、やっぱり堺のように、ずっとその状態にいる人間は恐ろしい、『こうはなりたくないな』とは思いましたね。それこそが本作の怖いところで、これだけ周りで色々と起きるのに、本人は何も変わらず、平穏に人生を全うするんだろうな、と想像できてしまう。その“平穏”という着地が、一番恐ろしかったです」
ホラー映画というものが、実は「時代や社会や世相を映し出す、最も効果的な手段」であると改めて感じさせます。
「そうですね。しかも物語が進むにつれて、堺のような人間――“生きながら死んでいるような人たち”が大量に増えていくように感じたんですよ。現実がそうだとは言い切れないまでも、本作が描くフィクション世界に、現代社会がどんどん似ていく――いろんなことがシステム化されていく現代においては、そうなっていっても全く不思議はない気がしました。監督の実体験や実感を元にしているということからも、そう言えると思います」
ジャンル映画としての怖さだけでなく、本作には笑ってしまう瞬間が結構あります。高く評価されたベルリン映画祭でも、観客が大爆笑されたそうですね。本作の面白さやその味わいをどう感じますか?
「確かに自分も(先述した)ファミレスでのシーンは、現場で笑いを堪えるのが大変でした(笑)。堺は唐田さん演じる小河と対面していますが、その奥で確実におかしなことが行われているのも視界に入っている。でも、それには一切反応しない。でも自分は必死で笑い堪えていたという、異様な状況の現場でした(笑)。



あのシーンは実際に映画を観ても笑いましたし、他の方々も笑っていましたね。人が動物であるがゆえの、ふとした瞬間に感じる滑稽さに、僕は若干、愛おしささえ感じました。「人間って本当に面白いな~」と好感を覚えてしまい、それがちょっと嫌だなと思いましたが、それでもやっぱり『面白いと言わざるを得ない』というのが、この映画の妙だな、と。
『ただただ怖かった』とおっしゃる方もいれば、『もはや笑えた』と言われる方など、本当にいろんな感想をいただくので、自由に楽しんでもらえたら嬉しいです」
ちなみに、染谷さんはもともとホラーというジャンルは?
「好きですね。色んな種類があるからこそ好きで。人間が怖い“ひとこわ”も、本当に幽霊が出てくる幽霊ものも、どっちも好きです。敢えて挙げるなら、白石晃士さん、黒沢清さんの作品は好きで観てきました」
1週間の濃密な撮影と、配信時代の映画の価値
なんと撮影期間は、わずか1週間だったそうですね。
「監督がこれまで組まれてきた撮影チームで、初日から“以前からの知り合い”のように温かく迎え入れてくれました。7日間しか撮影していないのに、振り返ると1ヶ月くらい撮影したと錯覚するほど充実した時間でした。本来ならそれくらいの時間が必要な内容なので、どんどん撮っていかなければならない。そんな状況なのにワンカットたりとも手を抜くことなく、しっかり撮れたというのは不思議な経験であり、とても楽しい時間でした」
染谷さん自身は、日常生活で何らかのシステムに組み込まれていくような、気持ち悪さや恐怖を覚える瞬間はありますか?
「撮影現場はそういうものとは全く逆というか、人の感情がダイレクトに入り混じる生々しい仕事なので、(システムに)飲み込まれそうな恐怖は感じたことがないですね。たとえあったとしても僕自身は、そういうものと闘う“小河タイプ”ではないのは確実なので。出来るだけファイティング・ポーズを取らずに、スルッと上手に逃れるタイプですね。

それに、“システム化”というものに、自分は嫌悪感があるわけではないんですよ。例えば“人間ドック”に行くたびに、とてもシステム化されているなと感じます。まるで人がベルトコンベアで運ばれていくように、流れ作業で検査が進んでいって。検診を受けに来る方々も健康のため『ちゃんと生きたい』と思っている人たちのハズなのに、みんなどこか疲れて目が死んでいて(笑)、それも面白くて。あの流れ作業を体験するたびに、人間ではなくモノのように運ばれていく感覚を、ちょっと面白いなと思いながら受けていますね」
これまで長く映画業界に携わって来られましたが、現代はいろんなことが世界へ拡散するスピードも、そして作品の配信スピードも早まっています。
「そのあたりの変化も、自分は割とポジティブに捉えています。配信ドラマに何作も携わってきましたし、配信という文化も非常に面白いと思っています。一方で、映画館以外の場所で手軽に映画が見られるようになった今、逆に『映画館の価値がより上がっていくだろうな』とも思います。

もちろん自分が10代の多くの時間を過ごした映画館が閉館していくのを見るのは、すごく悲しいです。でも、それでも残っていく映画館は、よりスペシャルな場所になるはずです。今後、“映画館に映画を見に行くという行為”そのものが、特別で贅沢な体験になってくれていったら嬉しいですね」
ドラマ『田鎖ブラザーズ』についても一言
先月、放送が終わったばかりのドラマ『田鎖(たぐさり)ブラザーズ』も、とても面白く拝見しました。視聴者から愛されるキャラクターの田鎖兄弟・弟と、本作の堺は対極ですね。
「役柄も全く違えば、作品のジャンルも方向性も全く違いますからね。『田鎖ブラザーズ』はハードな世界観でしたが、演じていると、どこかほっこりする部分がありました。しかも最終的には、“愛を確かめる作品”だったと感じています。一方で『チルド』は、“愛情をすべて振り落とした先にある、人としての恐怖”を描いている。そういう対極な作品に同時に関われたのも面白かったです」
最後に、染谷さん自身はコンビニによく行かれますか?
「よく行きますよ。特にロケなどで訪れたことのない見知らぬ土地に行くときは、近くにコンビニがあるとすごく安心します。『コンビニさえあれば、なんとかなる!』と安心感をもらえる、いうなれば文化の象徴のような存在です。だからこそ本作の脚本を読んだとき、『コンビニをこんな角度から見ると、こんなに冷たい世界に見えるんだ』と、監督ならではの視点とセンスに驚かされました」

取材を終えて
時代や社会や人間の変化を、とてもポジティブに捉えられている染谷さん。ふわっとした空気感と、脱力したぬくい温度感は、やはり独特の魅力を放っていました。そんな染谷さんは、ホラーでも絶妙な味を放っています! 特に終盤~最後の表情は、見逃せません。
そして映画『チルド』は、「怖いような面白いような、コワ面白さ」が好奇心をくすぐります。みなさんもよく利用するであろうコンビニのバックヤードの様子にも興味津々です。コンビニのすぐ近くに念願のオシャレ~なキッシュ屋さんを開店する男性の行く末も必見!
決められた枠の中からはみ出さず、その中の決まりに従って生きる「楽」さと、それに慣れ切る「怖さ」と。あなたは本作のエンディングをどう、ご覧になりますか? 是非、真っ暗闇の劇場で本作のコワ面白さに鳥肌を立ててください。
『チルド』
テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

2026年/日本/88分/配給:NOTHING NEW/©︎『チルド』製作委員会 (NOTHING NEW・東北新社)
監督・脚本:岩崎裕介
出演:染谷将太、唐田えりか、西村まさ彦、くるま、長島竜也ほか
Staff Credit
撮影/菅原有希子 ヘアメイク/光野ひとみ スタイリスト/清水奈緒美
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
















