岸井ゆきのさん×ツェン・ジンホアさん『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』公開記念対談
【吉本ばなな短編映画化】『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』岸井ゆきのさん×ツェン・ジンホアさん「言葉によるコミュニケーションより、言葉を交わさずに感じるものが大切だった」
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折田千鶴子
2026.06.24

戸惑いを抱えたままシンシンと出会う
吉本ばななさんの短編小説集『ミトンとふびん』に収められた「SINSIN AND THE MOUSE」が、日本と台湾の合作で映画化されました。主演を務めるのは、演技力に定評のある岸井ゆきのさんと、台湾人俳優ツェン・ジンホアさん。デビューしてまだ7年ですが、その間に出演した作品をことごとく大ヒットに導くと(立て続けに興収が1億台湾ドルを突破!)、“億万の幸運星”と呼ばれている注目の俳優です。
そんな2人に、映画『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』について、短い時間ながらお聞きしました。

どんな役も血を通わせる達人の演技派女優
岸井ゆきの
Yukino Kishii
1992年生まれ、神奈川県出身。 2009年俳優デビュー。映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』(17)で映画初主演、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。『愛がなんだ』(19)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、『ケイコ 目を澄ませて』(22)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞ほか多数の賞を受賞。近年の出演作に映画『若き見知らぬ者たち』(24)、『佐藤さんと佐藤さん』(25)、ドラマ「お別れホスピタル」シリーズ(23、26)、「恋は闇」(25)、「火星の女王」(25)など。公開待機作にカンヌ国際映画祭に出品された映画『すべて真夜中の恋人たち』(26)がある。

柔らかな物腰&高身長がシンシンにピッタリ!
ツェン・ジンホア(曾敬驊)
Tseng Jing Hua
1997年生まれ、台湾出身。2019年、映画『返校 言葉が消えた日』で俳優デビュー。同作は、20年の台湾映画で興行収入1位を記録。代表的な出演作に、金馬奨に5部門ノミネートされた『君の心に刻んだ名前』(20)、韓国映画の台湾版リメイク『ハロー!?ゴースト』(23)、『疫起 エピデミック』(24)、大阪アジアン映画祭で上映され、“最も輝きを放っている俳優”に贈られる薬師真珠賞に主演4人が史上初の同時受賞して大きな話題となった『我が家の事』(25)など。台湾の演技派俳優として注目されている。
岸井さんが演じたちづみは、最愛のお母さんを亡くして大きな喪失感を抱えています。対してツェンさんが演じたシンシンは、幼いころに忙しいお母さんの愛情を渇望し、叶えられなかったトラウマを抱えています。2人とも心に悲しみや重いものを抱えている役ですが、演じる上でどんなことを意識して役に入っていきましたか。
ツェン「それは僕がシンシンという役や本作の物語を、どういう風に捉えたかにも繋がりますね。ただ僕は、シンシンはそこまで大きなトラウマを抱えているとは思いませんでした。生い立ちや日常生活の中で、確かにいろいろ抱えてはいましたが、ちづみと出会うことによって初めて、孤独や悲しみを抱えていたことを思い起こされる。『実は自分はちょっと傷ついていたんだな』と。ようやくそうした感情を意識するようになったというか。本作は、シンシンがそこから小さな一歩だとしても、新たに踏み出すまでの物語です。
でも、ごく普通の人たち、つまり多くの人も同じように経験しているんじゃないかな。だってシンシンにとって「寂しい」とか「一人で留守番」なんて、当たり前の日常だったから。本作はファンタジー要素もある作品で、1日という短い時間における物語、且つロマンチックなラブストーリーでもあります。そんな短期間におけるちづみとの出会い、触発されて気づきを得て、成長も感じられるように意識して演じました」
岸井「ちづみは母の死を受け入れられない、母がいない世界が認められない、そんな時間を長く引っ張った状態にいます。台北行きを誘われ、やっと踏み出したその一歩が、新しい出会いに繋がっていくわけです。だから演じる上では、“母の死を受け入れられていない”とか“認めたくない”という思いを抱えたまま飛び出していくことを意識しました。戸惑いの中で台北へ出かけて行って、その街の喧騒の中でも喪失感や戸惑いを抱えたままである、ということが大事だと思いました。

Japanese original edition published by Shinchosha Publishing Co., Ltd., Japan in 2021.
The permission to use the original novel to produce this movie has been arranged with
Banana Yoshimoto through ZIPANGO, S.L.
©2026 映画「SINSIN AND THE MOUSE」FILM PARTNERS
つまり、どこかへ行っただけでスッキリしてはダメ。引きこもっていた家から移動し、訪れた街の活気に飲み込まれて何となく元気を取り戻すのではなく、戸惑いを抱えた状態のまま、シンシンに出会わなければいけなかった。だからずっと“抱え続けている”ことを意識して演じました」
『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』ってこんな映画
親友のように何でも共有して来た最愛の母(余貴美子)を亡くし、ちづみ(岸井ゆきの)は深い悲しみを抱えたまま日々をやり過ごしている。喪失感が埋まらないまま何もする気にもなれないちづみは、ミュージシャンの友人(藤原季節)から台湾で出演するライブを見に来て欲しいと誘われる。意を決して訪れた台北で、ちづみは台湾人の母と日本人の父を持つ青年シンシン(ツェン・ジンホア)を紹介される。台北の街を歩きながら、シンシンと何気ない会話を重ねていくうち、少しずつちづみの心は動き始める。一方、シンシンは幼き日に母の帰りを一人で待つ間、屋根裏に住むネズミが立てる音で寂しさを紛らわせていた、という話を語り始める――。
物語としては、取り立てて大きな事件も変化も訪れない。そんな中で少しずつ2人の気持ちに変化が起き始める。つまり観客にそれを感じさせるのは、すべてお2人の演技に委ねられていたと思います。特に大切に演じたシーンなど、覚えていることはありますか?
ツェン「どのシーンもとても難しかったです。というのも、本当に大きな事件が起こるわけではないのに、とても小さく細やかな変化を繊細に表現しなければならなかったことに加えて、僕の場合は日本語でお芝居するという難題が待ち受けていたからです。

日本語のセリフを覚えるだけでも、とても大変な練習が必要でしたが、現場ではその日本語のセリフにちゃんと感情を乗せてお芝居をしなければならない。それが難しくて、今回はいつもとは違うアプローチをしました。
例えば、ゆきのさんのセリフも、まず中国語で全て覚えて、どういうところでどうなるのかを理解しました。それでも日本語が分からないので、完璧には出来ない。だから現場では、出来る限り自分の目をこらして注意して見て、ゆきのさんがどんな風にお芝居をしているかを観察し、ゆきのさんが表現する細かな感情を掴もうとしました。本当に難易度が高かったです」
岸井「シンシンといるちづみを演じながら思ったのは、ちづみにとって大切なのは言葉のコミュニケーションではなく、言葉を交わさずに感じるものだと思いました。大切なのは目の前にいるシンシン。例えばただタクシーで隣に座っている時の温もり――シンシンの体温や存在を感じることが最も大事で。だからこそ今回はどのシーンも特別でしたし、どのシーンも常に感覚を研ぎ澄ましていた気がします。特にどのシーンを大切に演じたというのが挙げられないくらい、すべてのシーンに対してそう臨みました」

Japanese original edition published by Shinchosha Publishing Co., Ltd., Japan in 2021.
The permission to use the original novel to produce this movie has been arranged with
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©2026 映画「SINSIN AND THE MOUSE」FILM PARTNERS
では、本作を観て印象に残っているシーンは?
ツェン「自分が演じたシーンではないですが、ちづみが台北のホテルや日本のちづみの家で寝ているシーンが、とても印象に残っています。なぜなら、そういう瞬間のちづみの気持ちが、僕自身とてもよく分かるから。自分の中で消化できないことや、心に重たいものがある時って、ちょっと寝てみようかなと横になることが僕にもあって。でも、ちっとも寝付くことができない。もし眠ることが出来たら新しい考えが生まれるだろうなとか、気持ちを切り替えられるだろうなと、とりあえず横になるのだけれど。ちづみの状況が理解できる、とても印象深いシーンとして残っています」
母と娘、母と息子の関係性は――
強いきずなで結ばれた、ちづみとお母さん。対照的にシンシンはお母さんの愛情や温もりを欲していたけれど、期待ほどは得られなかったトラウマがある。自分と親との関係と比較しながら、ちづみと母、シンシンと母の関係をどう思われましたか? 個人的には、ちづみと母の互いへの愛が双方ともに少々強すぎるように思えてしまったのですが……。
岸井「ちづみとお母さんの関係のように、いろんなことをたくさん共有している、それはとても幸せなことだと思います。ただ、2人はいつまでも(親離れ、子離れという意味で)手を離さなかったというか……。もちろん、ちづみは社会に出て働いていましたし、外の世界を知ってはいる。でも、私もやはり、家や母親の存在が少し大きすぎるように感じました。

ちづみと母親の関係って、まるで運命共同体のように一つに絡み合っている。だから母が亡くなったとき、自分自身の半分がそぎ落とされてしまったかのような感覚になったのではないか、と。私は相手が家族――母親でも父親でも、誰もが「個々の存在である」という意識が強いので、ちづみと母親の一つにまとまってしまっているような関係とは違います。ただ、周りからはよく聞くことでもあって、そう珍しい関係性でもない気もします」
ツェン「シンシンという役に対する自分の見方と、シンシンとお母さんの関係は、共通点があるように思えるんです。というのは、シンシンは人生経験が豊富だったりもしますよね。例えばバーでファンが握手を求めてくるように、過去に映画に出演した経験があったり、現在はバーを経営していたり、いろんな人脈を持っていて、大人で成熟している面もある。一方で本当に純粋というか、自分の空間をとても大事にしていて、1人で自分と向き合う孤独を抱えこんでいる人でもある。それが、お母さんとの関係でも同じことが言えると感じました。一見すると、とても関係良好なように見えるけれど、実はシンシンは小さい頃から孤独や寂しさを感じる状況にあった。人物も関係性も、相反する両面があるなと感じるからです」


此処ではないどこかへ行けば心は解放されるのか
先ほど、ちづみは異国を訪れたから気持ちが変わるわけではなく、ずっと変わらず重い気持ちを抱えたままだと意識した、という話がありました。一方で自身の経験としては、此処ではない何所かへ行ったからこそ気分転換になったり癒された経験もあるのでは?
岸井「確かに、今いる場所と違う所に行ったことで、心が解放されることもありますよね。でも私は、そうではない経験もたくさんしてきました。その時の状態にもよりますが、わずかでもいいから新たなことを受け入れられる余白が心にないと、どこに行っても何も受け取れず、切り替えられないことがあります。多くの場合は、日常とは違う景色や空気、気候をはじめ、日常と離れたことからもたらされるものもいっぱいあります。ただ、そうではないことがあると知っているからこそ、台北に行っても目の前の景色が目に入って来ないちづみの気持ちも分かったというか。そんな時でも、シンシンの何気ない一言によって街の景色が見えるようになったんだと思います。その後は、やっぱり回復していく気がしましたし。別の場所に行き、違う空気を吸うことは基本的にはいいことですが、経験上、心の余裕が少し必要ではあると思いますね」

インタビューを終えて
ちづみとシンシンの会話や、互いを労わりあうような心の交流が、優しく心に響く本作。同時に、監督が日常生活で聞こえる“音”にも相当こだわったというように、観ながら感覚が研ぎ澄まされていく、ピンと張った気持ちの良さも味わえますよ。ぜひ劇場で、ちづみとシンシンの出会い、そして、これから人生を再び歩き出せるほのかな温もりを味わってください。
『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』
6.26(Fri)より新宿バルト9、シネスイッチ銀座ほか全国公開
2026/日本/108分/配給:カルチュア・パブリッシャーズ

Japanese original edition published by Shinchosha Publishing Co., Ltd., Japan in 2021.
The permission to use the original novel to produce this movie has been arranged with
Banana Yoshimoto through ZIPANGO, S.L.
©2026 映画「SINSIN AND THE MOUSE」FILM PARTNERS
監督・脚本・編集:真壁幸紀
出演:岸井ゆきの ツェン・ジンホア 藤原季節 中田青渚 伊勢佳世 柄本時生 飯田基祐 余 貴美子
Staff Credit
撮影/山崎ユミ スタイリング(岸井ゆきのさん)/丸山晃 スタイリング(ツェン・ジンホアさん)/Connie s. ヘアメイク(岸井ゆきのさん)/茂木美鈴 ヘア(ツェン・ジンホアさん)/Isiah 倆佰立 メイク(ツェン・ジンホアさん)/Ellie Hu 通訳/木藤奈保子
■岸井ゆきのさん着用分
シャツ¥88,000、ビスチェ¥52,800、パンツ¥93,500(カナコ サカイ)、ピアス¥75,900、右人差し指リング¥924,000、右中指リング¥23,100(ジョージ ジェンセン/ジョージ ジェンセン ジャパン)
【問い合わせ先】
カナコ サカイ info@kanakosakai.com
ジョージ ジェンセン ジャパン TEL:0120-637-146
■ツェン・ジンホアさん着用分
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
















