FOOD

料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)第24回

相手の幸せを祈るための「演技」なら許されるのか?『レンタル・ファミリー』を観て気付いた「家族」への一筋縄に行かない思い【ミニレシピ付き】

  • 今井 真実

2026.01.30

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Yummy!

今月のミニレシピ

美しい桜のアイスクリーム

今井真実さん 美しい桜のアイスクリーム

塩漬けの桜をさっと洗い、塩を落とします。水気をよく拭き取り、ガクを落としてちぎり、バニラアイスに乗せれば出来上がりです。

「役割を演じる」ことで、誰かが救われる

レンタル彼女、レンタル彼氏。そんな仕事があると知ったのは20年前ほどのことです。当時は驚いたものですが、人材派遣会社で働いていた私にとって似たようなことかもしれないと思い直しました。知らなかっただけで、実はレンタルファミリーのような業種は80年代からあったとか。

今回ご紹介する映画『レンタル・ファミリー』はそのタイトルの通り、「家族を貸す」というビジネスを軸に話が進んでいきます。

『レンタル・ファミリー』
『レンタル・ファミリー』2月27日(金)公開
監督: HIKARI『37セカンズ』「TOKYO VICE」「Beef/ビーフ」
出演:ブレンダン・フレイザー、平 岳大、山本 真理、柄本 明、ゴーマン シャノン 眞陽ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

ある日、事務所からの依頼で急いで現場に駆けつけることになったフィリップ。場所は葬儀場。彼は何も知らないままアメリカ人の弔問客を演じることになったのでした。いつもの俳優業とは異なる仕事の内容、しかも葬儀という厳かな場所。彼は、この葬儀で「アメリカ人の弔問客」という役割を演じ、レンタルファミリー社からスカウトを受けるのでした。

アメリカ人俳優のフィリップは、日本でのCMの役を得て東京に来日。一世を風靡しましたが、それから7年の月日が経ちました。彼の仕事は順調とは言えず、オーディションを受ける毎日。郊外のマンションの小部屋でひとり暮らしています。

しかし、彼は「家族のふりをすることなんてできない」「まわりの人を騙すことなどできない」と拒否します。しかし、説得され渋々仕事をしていくうちに彼は自分が「役割を演じる」ことで、誰かが救われるということに気づくのです。

ある時は、シングルマザーの家庭のために受験の時の父親役を、またある時は結婚式での新郎役を、と彼は演じます。

演技と自分自身の境目が、徐々に曖昧に

そんなある日、フィリップが出会ったのは、かつての大物俳優、長谷川喜久雄です。喜久雄の娘が、年老いて世の中から忘れられていく父を思い、フィリップを外国人記者として密着取材をするよう依頼したのです。喜久雄に数日にわたりその俳優人生についてインタビューをし、徐々に心を通わせていくふたり。

ある日、喜久雄はフィリップに「故郷の天草に連れて行って欲しい」と懇願します。しかし、それはレンタル・ファミリーの契約違反。喜久雄は年老い、記憶を失いつつ足元もおぼつかないときさえあるのです。そして何より依頼者の娘からは「父の頼みは聞かないで」と釘を刺されています。娘の彼女もまた偉大な父親に対して複雑な感情を抱いているのでした。一度は断るフィリップでしたが、業務を超えて友の願いを叶えたいと思うようになり……。

『レンタル・ファミリー』
©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

「レンタル・ファミリー」の一員として、求められる「役割」を演じていくフィリップ。家族であったり、友人であったり、その時々で彼は任務を遂行します。しかし、俳優業と違うことはカットがかからないこと。彼が現実にその人物であると信じきっている人がいること。

そしてフィリップ自身も演技と自分自身の境目が、徐々に曖昧になっていきます。

ブレンダン・フレイザーの笑っているようにも泣いているようにも見える演技に、胸が苦しくなる

フィリップを演じるのは、ブレンダン・フレイザー。『ハムナプトラ』シリーズでも有名なブレンダンですが、『ザ・ホエール』ではアカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞したことも記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

異国でひとりで生活するフィリップ。孤独でありながらも、彼は小さな幸福をころころと愛でています。その瞳が切なく、笑っているようにも泣いているようにも見えて、彼の柔らかな演技に胸が苦しくなりました。

『レンタル・ファミリー』
©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

日本の文化を時折奇妙に感じながら馴染もうとするフィリップの姿は、ユーモラスでもあり、それでいて異なりを誇張するわけでもありません。これは、大阪出身でアメリカを拠点に活躍するHIKARI監督だからこそ、自然な形でお互いの文化の交わりを表現できるのでしょう。

そして、年老いたかつての名優、喜久雄を演じるのは柄本明さんです。柄本明さんがそこにいるだけで、スクリーンに緊張感が走ります。緊張しているのはもちろん観客の私だけではありません。

本来フィリップは役者でもあるので、日本の伝説的俳優だった喜久雄を欺くほどの演技をしなければならないのです。そのぴんと張り詰めたプレッシャーがありありと画面を超えて伝わってきます。



相手の幸せを祈るための「演技」であれば許されるのか

「演技」。これは本作のキーワードのひとつです。レンタル・ファミリーで依頼された役割を担うことは、演技なのか。それとも嘘なのか。その行動は作り物の世界の中で行われているわけでなく、現実の世界の中で行われているものです。たとえ虚構だとしても、幸せを祈るためであれば許されることなのでしょうか。

レンタル・ファミリーの中でも職業倫理について意見を交わし合うシーンがあります。しかしながら家族を貸し出すという荒唐無稽な設定で描かれている話は、「家族とは?」という普遍的なテーマそのものなのです。「家族だから」「家族だけど」「家族じゃないから」人の、家族への思いは一筋縄には行きません。

では、そもそも「家族」とはなんでしょうか? 私が生まれた時にすでに存在していた父と母と兄。自分が選んだ夫、生まれてきた娘と息子。だけど、娘と息子にパートナーができたら彼らもまた家族となるのでしょう。結局、家族というものはとても流動的なのかもしれません。

「騒がしいのに平和」な、外国人視点の美しい東京

交じり合う人々の繊細な心の動きをさらに引き立てるのが、美しい日本の風景です。製作者の一人であるエディ・ヴァイスマンは、東京についてこう語ります。「騒がしいのに平和なんだ。この二つの全く異なるエネルギーが24時間365日共存している」。

東京は都会の忙しさ、騒々しさに溢れていますが、一歩道に入ると、神社や寺、そして伝統が存在します。そこには静寂が漂っており、私たちの生活には当たり前の光景です。『レンタル・ファミリー』ではありのままの日本の姿が描かれており、外国人から見るとこんな視点で映し出されていくのかと驚きがありました。ああ、こんなにも美しかったのだろうかと。

『レンタル・ファミリー』
©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

夕方、小田急線に乗りフィリップの見た景色を想像しました。彼の孤独、幸せ、そして人々との繋がり、感情。

彼らの見た風景を何度も思い出しては、心が静かに揺さぶられました。

窓の外では家の明かりが流れていきます。たくさんの光の中で、孤独を感じたことがない人などいるのでしょうか。そんな時に寄り添ってくれる人がいれば。温もりや、心を共感してくれる人がいれば。

家族であろうとなかろうと、それを願うことは決して悪いことではない。当たり前の、人としての欲求なのだと思いました。

(『料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)』は毎月最終金曜日更新です。次回をお楽しみに!)


Staff Credit

撮影(料理)/今井裕治

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今井 真実 Mami Imai

料理家

レシピやエッセイ、SNSでの発信が支持を集め、多岐の媒体にわたりレシピ製作、執筆を行う。身近な食材を使い、新たな組み合わせで作る個性的な料理は「知っているのに知らない味」「何度も作りたくなる」「料理が楽しくなる」と定評を得ている。2023年より「オージービーフマイト」日本代表に選出され、オージービーフのPR大使としても活動している。既刊に、「低温オーブンの肉料理」(グラフィック社)など。

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