私のウェルネスを探して/昼田祥子さんインタビュー前編
【昼田祥子さん】クローゼットの詰まりは人生の詰まり。“服捨て”で選択のレッスンを【片付け苦手勢必読】
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LEE編集部
2024.10.12
今回のゲストは、ファッションエディターの昼田祥子さんです。昼田さんは、昨年『1000枚の服を捨てたら、人生がすごい勢いで動き出した話』(講談社)を出版、LEE2024年7月号プリント版に登場し“服捨て”を紹介すると大きな反響を集めました。また発売中のLEE2024年11月号プリント版では理想のクローゼットの作り方を紹介中、こちらもぜひご覧ください。
インタビュー前半では、服を捨てようと思ったきっかけや具体的な方法、3年かけて向き合い続けた“選択のレッスン”について聞きます。また、昼田さんの変化を機に起こった夫の変化・食生活の変化、人生がクローゼットにつながっているという気づきについて掘り下げます。“クローゼットの詰まりは人生の詰まり”という考え方は、「片付けが苦手」という人にこそ知ってほしい考え方です。(この記事は全2回の第1回目です)
2年着ていない服は「捨てる」。迷ったら袖を通して「明日着る」と思えたものは残し「それがなぜ必要か」理由づけする
昼田さんが服と向き合おうと思ったきっかけ、それは人生の閉塞感でした。仕事のストレスや将来への不安、日々の不満。何かがうまくいかない、そんなモヤモヤを抱えている毎日の中で唯一変えられるのが「物」でした。そこで向き合ったのが自分の中で一番大切だった“服”です。
「それまでも服を整理しようと思ったことが何度かあったのですが、一歩踏み込んでみたら一向に捨てられませんでした。今のままでは何も変わらない、このままだとまたモヤモヤした日々に戻ってしまう。だからこそ今までやったことがない、一番できないと思っていることに向かうことしかない。もう後には引けないという状態でした」
そこで服の整理、“服捨て”を始めます。土日などの休みや子どもが寝た後、まとまった時間がある時に行いました。2年着ていない服は「捨てる」、迷った場合はもう一度袖を通して「明日着る」と思えたものは残す。残すと決めた時も「それがなぜ必要か」をきちんと理由づけする。3年かけてそのプロセスを繰り返し、1000枚の服を50枚ほどに。現在はさらに減って、20枚ほどになっているそうです。
「しんどさもありましたが、私にとっては楽しい時間でした。ジムで体を動かすみたいにスッキリできる気持ち良さがある、少しずつだけれど必ず前に進む。続けているとどんどん軽くなる感覚があり、何も新しいことをしていないのに気持ちが変わっていくんです。私は3年かかってワードローブが完成しましたが、かなり時間がかかった方だと思います」
服捨てをしながら、買うことも続ける。「選択のレッスン」を繰り返して「クローゼットを循環」させる
昼田さんの“服捨て”は一般的な整理収納や断捨離とは異なります。アイテムの枚数を決めたり買わないルールを決めたりせず、服捨てをしながら同時に買うことも続けていました。つまり“クローゼットの循環”、呼吸するように必要なものを選択し不要なものを捨てる。そうすることで自分のクローゼットを作っていきます。
「捨てたものを後になって捨てなきゃよかったと後悔する人もいますが、それは今の状況に満足していないことを表しています。今よりも過去に目が向いてしまう思考が強いのだと思います。選択に失敗はなく、大切なことは自分の選択にきちんと重心がのっかっているか。そんな選択のレッスンを繰り返して、選択の精度を上げていくことで徐々に自分の軸を太くしていく。時間がかかっても、それは選択する力を学ぶ時間と考えれば納得できます。時間をかけて習得した選択力は継続もしやすい。 おかげで私は服捨てを始めてから一度もリバウンドしていません」
選択する時に大切にしたいのは、自分軸で考えられているかどうか。「誰かにおしゃれに見られたい」「会社でこんなふうに思われるかも」「予算オーバーだからこっちにした」。物を購入する時、人は自分以外の軸から選択してしまうことが多いそうです。
「いつも自分の気持ち100%で選べていない。それが続くと本音を忘れてしまい、問いかけを繰り返さないと本音がなかなか出てきません。本音を心の中から取り出すレッスンこそが“服捨て”だと思っています。“なぜこの服が必要なのか”という問いかけを服1枚ずつにしていく。自分の本音をインタビューしまくる。そうすることで自分のなりたい姿、理想のクローゼットが分かってきます。それは“本来の自分でいていいんだよ”と受け入れることでもあります」
服捨て、妊娠、移住、ヨガ、食生活の変化…人生とクローゼットは繋がっている
その後、昼田さんは人生とクローゼットは繋がっていることを実感します。服捨てを始めたのが2016年、その年に妊娠が分かり2017年に出産、2019年に服捨てが完了した後、2020年には夫の実家・山形に移住します。
「移住のきっかけは、夫の退職と子育てをより良い環境でしたいという思いがあったから。あと、いつか自分の好きな場所で好きなように働いてみたい、という思いがありました。2018年、服を捨てている最中に『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』(尾原和啓、ダイヤモンド社)を読んで、こんな働き方があるんだ、こんな生き方がいいなと憧れていたところに、コロナ・夫の退職が重なり、やりたい方向に行けるチャンスだと思いました。大きな選択ですが、選択をし続けてきた私の本音は“行きたい”の一択。移住は自然な流れでした」
夫は退職を機にアシュタンヨガを始め、体重は15キロ減。そんな変化も昼田さんの服捨てがきっかけでした。
「夫はメーカーの営業職で毎日スーツを着て働いていました。でも本当は服装に縛りのない自由な生き方がしたかったようです。自分に合わないスーツを脱いでヨガを始めて体を変え、食生活も大きく変わりました。それまではラーメンやこってりしたものも好きだったのが、ヨガをやるのに体が重くならない食事がいいと食生活に気を配るように。食事もオーガニックにシフトしていきました」
まずは調味料からオーガニックに変え、食事も玄米食を中心にグルテンフリーに。調理法もフッ素加工のフライパンやアルミの鍋、レンジを使わないなど、食べるものや道具にも「食べない」「使わない」ものを増やしていったそう。食生活でも「選択」をしています。
「最近ハマっているのは発酵。味噌、ザワークラウトも意外と簡単に作れるんですよ。その流れで微生物や植物の力が気になり、今読んでいる本は『土と内臓』(デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー、築地書館)です。土が変わると上に生える植物も変わる。祖父が農業の研究者だったこともあり、なぜ祖父が作った野菜は長持ちしたのか、みたいな基本を読みながら学び直しています」
自分の気持ちを丁寧に選択して残るのが、大事なもの。選択の精度を上げていくことで、詰まりのない生き方ができる
本を出版してからは、読者限定のお茶会を開いて参加者の変化を聞いています。「パニック障害を克服した」「家族の関係が良くなった」「親の病気が改善した」などと声を聞いて、服捨ての効果を実感しています。
「人生は、何もかもあるようで大事なものはひと握り。優先順位を決めて、本当に大事なものを見極める。そこに向けて行動を起こし、思考を変えていく。普段の判断力は、自分ではなく他人への意識が強すぎて、自分の気持ちを置き去りにしていることが多いんです。気持ちを丁寧に選択していく。そうして残ったものは大事なものと決まっています。選択の精度を上げていくことで、詰まりのない生き方ができるはずです」
クローゼットは一度理想の形になっても、完成はありません。生きることが変化していくのと同じように、クローゼットも変化し続ける。たとえば新しいことを始めた時、“仕事場が変わった”“ヨガを始めた”となれば、クローゼットも変わっていきます。昼田さん自身も今は服捨てを伝える立場として取材を受けたり、カウンセリングをしたりすることが多いので、表に立つような服が増えていると言います。生きることと連動するクローゼット、それが“呼吸するクローゼット”です。
「クローゼットは今の自分、“現在地”を指し示すもの。そこを見れば自分が何を考えているのか、どこに問題があるのかがよく分かります。私にとって“服=道具”。どう生きたいかを支えるものです。例えば家を建てる時の金槌やノコギリみたいなもの。道具を得るのが目的ではなく、自分らしく生きるためにサポートしてくれるものですね。そして“クローゼット=人生と連動している場所”。ここを動かすと人生が動く、言わばリモコンみたいなものです。クローゼットに完成はなく、いつも通過点なんです。完成するとしたら人生の終わり、亡くなる時かなと思います」
(後編につづく)
My wellness journey
私のウェルネスを探して
昼田祥子さんの年表
1980
広島県生まれ
1998
大学進学のため、京都へ
2001
大学3年で単位を取り終え、ファッション誌の編集に携わるために東京へ。編集プロダクションで働き始める
2002
大学卒業とともに編集プロダクションに入社、以降出版社などにも所属
2013
出版社を退社、フリーランスに
2015
結婚
2016
1000枚の服を捨てはじめる
2017
出産
2019
ワードローブを50枚ほどに減らす
2020
山形に移住
2022
『ミモレ』で連載スタート
2023
1月、瞑想インストラクターに。4月、東京に戻る。11月、『1000枚の服を捨てたら、人生がすごい勢いで動き出した話』(講談社)を出版
Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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