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折田千鶴子

【宮野真守さんインタビュー】『僕のヒーローアカデミアTHE MOVIE ユア ネクスト』「“ヒーローとは何か”というメッセージ性が多くの人の心に大事なものを残す」

  • 折田千鶴子

2024.08.01

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世界的人気シリーズの劇場版第4弾

夏休み真っ盛り。子どもを持つLEE読者の方々に朗報です! 世界累計発行部数1億万部突破という、子どもたちがみんな大好きな“ヒロアカ”こと『僕のヒーローアカデミア』の劇場版第4弾『僕のヒーローアカデミアTHE MOVIE ユア ネクスト』が、いよいよ8月2日(金)より公開になります。 

2014年に「週刊少年ジャンプ」で連載が開始されて以降、雪だるま式にファンを増大させてきた“ヒロアカ”ですが、原作者・堀越耕平さんが原案を手掛けた本作でオリジナル・キャラクターの声を担当した宮野真守さんに、お話をうかがいました。

宮野 真守 
1983年6月8日、埼玉県生まれ。01年に海外ドラマ『私ケイトリン』で声優デビュー。以降『DEATH NOTE』『機動戦士ガンダム00』など数々の作品で注目を集める。映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズや『トップガン マーヴェリック』ほか多数の作品で吹き替えを行う。俳優としても劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season月《下弦の月》や劇団☆新感線いのうえ歌舞伎 『神州無頼街』で主演を務める。声優・俳優・歌手として広く活躍。

ファンにはお馴染み、ヒロアカの舞台は“個性”と呼ばれる超常能力を持つ人々の存在が当たり前の世界です。主人公の緑谷出久、通称“デク”が、笑顔で人々を救う最高のヒーローを目指して“個性”を悪用する犯罪者・敵<ヴィラン>に立ち向かう、王道のヒーローアクションです。 本作で宮野さんが演じるのは、資産家シェルビーノ家に仕える執事ジュリオ・ガンディーニ。普段は冷静沈着で言葉も丁寧ですが、時々粗暴な素の部分が垣間見える謎めいた男です。

“ヒロアカ”劇場版には、これまでも豪華なゲスト声優が出演されて来ました。今回ゲストとして呼ばれた感想を教えてください。

「劇場版はオリジナル・ストーリーなので、どの作品でもオリジナルキャラクターは非常に重要な位置づけだと思います。物語自体は原作コミックの内容ではないですが、それだけにしっかりと原作の空気感や世界観を踏襲して劇場版として打ち出していくのは、きっと制作する上でも難しいのではないかな、と。ですから“ヒロアカ”の世界観の中での自分の立場をしっかり認識しつつ、覚悟を持って飛び込みたいと思いました」

演じられたジュリオというキャラクターのビジュアルをご覧になられた時、どのように感じましたか。

「とてもカッコイイなと思いました。既にキャラクター・デザインの中に意味深な部分が描かれてもいるので、“なぜこのようなビジュアルか”というところは、しっかりと監督や製作サイドとすり合わせていかなければと思いました」

僕のヒーローアカデミアTHE MOVIE ユア ネクスト

かつて“平和の象徴”と呼ばれたNo.1ヒーロー、オールマイトが“悪の帝王”との死闘を制した直後、「次は君だ――」という言葉を残し、その座を退く。その後も彼の意志は、雄英高校ヒーロー科に受け継がれていく。そんな折、出久(でく)らが2年生の春、ヒーローvs敵ヴィランの全面戦争が勃発。出久は、恐るべき力を手に入れた死柄木弔と激しくぶつかり合う。双方が大きなダメージを受け、死柄木の撤退により戦いは終結するが、全面戦争の影響で荒廃した社会に突如、謎の巨大要塞が現れて次々と街や人を飲み込んでいく。そして出久たちの前に、オールマイトそっくりだがその思想は全く違い、自身の野望ために“個性”で作り出した巨大な要塞に人々を次々と取り込んでいく。出久や爆豪、轟たち雄英高校1年A組は、ダークマイトと、彼が率いる謎の犯罪組織“ゴリーニ・ファミリー”に果敢に立ち向かっていく。果たして、【新たな象徴】ダークマイトの野望を阻止し、世界を守ることができるのか。

ジュリオについて監督らとのすり合わせとは、どのようなものでしたか。

「ジュリオがオリジナル・キャラクターだけに、例えば彼がどういう人生を送ってきたのかという部分を、僕自身がしっかり認識していないと、単にセリフを喋っているだけになってしまいます。そうではなく、ずっとこの世界で生きて来た人として存在できるように、分からないことを監督に聞いたりしながら、彼の生い立ちのエッセンスを自分の中で膨らませていきました。生い立ちについては劇中で深く追及されていませんが、映画を観れば、きっとそれを感じていただけると思います」

具体的には、どんな風にキャラクターを作っていったのでしょう。

「演出としてキャラクター設定をしっかり説明していただき、自分がどうアプローチできるのかを、まずはテストでやってみます。ストーリー上の役割として、“ジュリオの感情が表出する瞬間はちゃんとジュリオの<生理>で爆発させて欲しい”と音響監督から指示がありました。ですから闇雲に感情を爆発させるのではなく、ジュリオの使命感の中における感情の起伏などを、丁寧に演出していただきながら作っていきました」

シェルビーノ家の令嬢アンナに、ジュリオは非常に忠実ですね。

「ネタバレに抵触しないように話しますが、多少なりともジュリオが初めてアンナに出会った時の“ときめき”は、絶対に重要だと思いました。劇中で描かれる/描かれないは別にして、アンナに尽くす彼の心の内には、やっぱり大きな“思い”があるはずです。その境地に至るまでには、やはり生い立ちが関係してくる。彼の境遇――シェルビーノ家に救ってもらったという思いや感謝が根底にないと、あんな献身的な行動にはならないと思います。つまり彼の一家に対するその思いが、非常に大きかったのだと思います」

普段のジュリオの口調はとても丁寧ですが、時々ちょっとした毒舌が混じったりします。出久のことを「ガキ様」と呼んだり。

「その“ガキ様”等々の言葉遣いは、とてもキャッチーで印象的であり、作中でも面白く描かれていますよね。でも実は、そういうところにこそ彼の性質が見えると僕は思っています。彼本来の性質と、執事として生きてきた年月が掛け合わされた結果の言葉遣いなのかな、と。キャッチーで面白いだけではなく、そういう言葉遣いには結構意味があるんですよね」

アンナを演じるのは、“めるる”の愛称で知られる生見愛瑠さんです。

「収録は別々でしたが、取材で顔を合わせました。元々めるるさんのお芝居が素晴らしいと思っていましたが、完成版を見せていただいたら本当に素晴らしくて。明るいバラエティなどで見せる普段の姿と、お芝居になったときの差異が本当にスゴイ。だから今回、声優を務めると聞いて“なるほどな”と思いました。しかもアンナは洗脳されているような状態で始まるので、その根本をどう作るのかなど非常に難しい役だと思うんです」

「今回の音響監督は僕もとても信頼している方で、“心情”を大事にアプローチして下さるので、それだけに色んな要求があったでしょうし、それに誠実に向き合ったと感じさせるお芝居がとても素敵でした。またアンナは洗脳状態から始まるがゆえに苦しいシーンも多いのですが、そんな彼女の震える声には、僕もギュっと心臓を掴まれました。同時に所々で挿入される回想シーンでの弾むような声には、僕自身もジュリオとしてもトキめきましたし、本当に素敵でした」

自分にとってのヒーローは?

子供時代の宮野さんにヒーローはいらっしゃいましたか。

「やっぱり特撮作品を真剣に見てました。特撮ヒーローに憧れて、よくお兄ちゃんと戦っていました。こうして自分が声優になり、いろんなヒーローを演じるとは思っていませんでしたが、ある意味、夢は叶うなという思いがあります」

当時、悪役やヴィランに惹かれることはありましたか?

「大人になってからは悪役の方が多い気がします…(笑)ただ、“ヴィラン”や“悪役”という言葉にすると一言で片付いてしまいますが、ヴィランにも色んな形がありますよね。これまで僕がやらせていただいたヴィランたちは、むしろ自分の正義を貫いてる人が多かったので、“正義のあり方”など表面的ではない部分まで色々と考えるようになりました」

「誰にとっての正義なのか、その正義はどこに向いてるのかなどをちゃんと理解していないと出来ない仕事でもあるんです。その上で、どういう決断をするか、ということなんですね。世間的には“ノートに名前を書いて人殺すのはダメだよ”となりますが、それでも彼は彼なりに自分の正義で戦っていた。そういうことを考えていく仕事なので、より人間の思いなどを色々と考える機会が多くなりましたし、それによって自分の引き出しが増えてきたかなと思っています」

本作を通して、改めて“ヒーロー”について考えたことはありますか?

「ストーリー全体として、誰が何のために(ヒーローを)受け継いでいくのかなどを考え始めると、結構面白いんですよ。今回登場する敵<ヴィラン>も、ある意味、受け継いでしまった純粋な思いがあったりする。その矛先がどこに向かうか、どんな手段を取るかによって“正しい/正しくない”が判断されてしまう。一方で、出久たちの姿を見ていると、正しく真っ直ぐに受け継ぐことも、やっぱり重要だと思わされました。また別の正義としてジュリオも登場するように、いろんな人物の正義の矢印の方向性や、それがどこへ向かっているかが、とても面白いと思いました」



現在・過去・未来

主人公の出久と同年代の10代の頃に思い描いた自分と、今の自分にはどんな違いや一致がありますか。

「10代の頃、自分がどんな大人になっているかなど、はっきりとは考えたことはありませんでした。ただもう必死で、どうしたらこの世界で生きていけるのか、そればかりを考えていました。運よく声優の仕事に出会うことが出来て何とか一命を取り留めた、みたいな感じなので、本当に感謝しかありません。子役の頃はなかなか上手くいきませんでしたが、刷り込みのように“この世界でやってくんだろうな”と思っていて。でも、どうすればうまくいくか、その方法論も分からなかった。

小さい時は習い事の延長線上みたいな感覚もありましたし、必死さが全然足りなかったとも言えますが、段々と高校生くらいになると先のことを色々考えなければならず、人生で最も悩んだ時期でした。あれから何十年経ちますが、こうして今の自分があるのは、目の前のこと1つ1つをやって来たから。ただがむしゃらだった時期もありますが、その1つ1つ乗り越えて来た経験は、自分に自信を与えたと思います。やっても出来なかった時代の劣等感が根底にあるので、出来ていくことが楽しかったんだと思います」

今は“何がやりたいのか、何を頑張ればいいのか分からない”という人も少なくありません。

「逆に僕はやりたいことが多過ぎましたが、酷な言い方をすれば、それは自分で見つけるしかないことですよね。ただ、立派でなくちゃいけないとか、何かやりたいことを見つけなきければいけないという、その考え方自体が違うのかもしれない、とも思います。それって単に大人の押し付けかも、と感じたりもします」

ところで、常にご多忙だと思いますが、もし好きなことをする時間があるとしたら何をされますか?

「昔からテレビが好きで見て来たことが、今の自分のエンタメ力に繋がっているので、今もよくテレビを見ますし、テレビを見る時間が大好きです。くだらないことで何も考えずにゲラゲラ笑いたいんです。だから時間が空くと、よくお笑い番組をザッピングして観ていますよ。世間では“テレビ離れ”と言われますが、僕は逆に、ドラマやバラエティに出させていただくようになって、その反響の大きさがスゴイので、やっぱりテレビの影響力はとても大きさを感じています。全然テレビ離れなんて進んでいないんじゃないか、と思っています」

最後に、“ヒロアカ”シリーズがこんなにも長く大ヒットを続ける理由、その魅力を、今回参加されて改めてどのように感じましたか。

「やっぱり少年少女が憧れる王道のストーリー構成の中に、「ヒロアカ」しか持っていない“ヒーローとは何か”というメッセージ性が、多くの人の心に大事なものを残すからだと思います」

『僕のヒーローアカデミアTHE MOVIEユア ネクスト』はもうすぐ公開です! 是非、涼しい映画館で、親子で胸を熱くしてください。

僕のヒーローアカデミアTHE MOVIEユア ネクスト

2024年/日本/配給:東宝

2024年8月2日(金) 公開

原作・総監修・キャラクター原案:堀越耕平(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)

監督:岡村天斎 / 脚本:黒田洋介

声の出演: 山下大輝(緑谷出久 役) 岡本信彦(爆豪勝己 役)梶裕貴(轟焦凍 役) 佐倉綾音(麗日お茶子 役) 石川界人(飯田天哉 役)稲田徹(エンデヴァー役) 中村悠一(ホークス役) 宮野真守(ジュリオ・ガンディーナ) 生見愛瑠(アンナ・シェルビーノ) 三宅健太(オールマイト/ダークマイト 役) ほか

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撮影/菅原有希子

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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