料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)第6回
高1娘とショッピングに行ったら、映画『リアリティ・バイツ』を久しぶりに見たくなった件
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今井 真実
2024.07.26
Yummy!
今月のミニレシピ
甘くてしょっぱくってしびれちゃう、現実を楽しむためのとうもろこしと実山椒のピザ


とうもろこし1本の粒をそぎ切りし、ヒゲは3cm長さに切ります。市販のピザの上に、とうもろこし粒、ヒゲをまんべんなく乗せて、 250℃のオーブンで10分、もしくはトースターの一番高い温度で、ヒゲがこんがりするまで焼いてください。焼き上がったら、生ハムをちぎってトッピング。大人は、実山椒の塩漬けや佃煮をトッピングしてください。これがまた合うんです。 とうもろこしを丸々1本使ったピザは甘じょっぱい味わいを十分に楽しめます。実山椒は大人用。びりっとしたアクセントになります。とうもろこしのひげもチリチリになった姿がユーモラスでなんだかかわいい。それだけではなくむくみにも良いんだとか。私たち世代に嬉しい食材も無駄なく使いましょう。
1990年代に憧れた「MILKFED.」「X-girl」の服を娘も欲しがるなんて…久しぶりに『リアリティ・バイツ』が見たい!
新学期、娘が通学用のリュックが欲しいと言うので、一緒に買い物へ行った時のことです。私は彼女の年頃の子たちがどこで買い物をするのか分からなかったものですから、とりあえず大きなショッピングモールに行くことにしました。到着してすぐに、娘は「かわいい〜」とピンクが基調のお店にずんずん入っていきます。
あれ? このブランド!?「MILKFED.」ではありませんか! その次に、「わあ! ここでTシャツ見たい!」と入ったお店は「X-girl」! うそでしょ! 私は1990年代にワープしたのでしょうか? なんて懐かしいのでしょう!
ちょうど私も10代半ばの頃でした。あの時に、私の憧れだったブランドの服を娘が欲しがっているなんて……と思うとあまりに感慨深い。これは是が非でも娘が望むならば買ってあげたくなりました。なぜなら、私の親は厳しく、チビすぎるチビTは買ってもらえなかったのです。(正確に言うと怒られそうだから言い出せなかった)はっ! 娘ばかりか、今なら、自分でこの服を買えることだって出来る! 気がついたらTシャツを広げて自分の体に合わせていました。……やはり今もチビTです。記憶よりチビTです。そこで察しました。大人になった私は、立派に身も心も成長したのだと。43歳、憧れの服をきれいに畳んで棚に戻したのでした。
ショッピングセンターの他のお店を見ていると、どこも懐かしいスタイルの服が売られていました。少しおへそが見えていたり、カラーボーダーにスキッパーシャツまで。ファッションの流行は、どうも1990年代〜2000年代初頭のあの時代が繰り返されているようです。『non-no』と『Olive』と『mc Sister』を読み漁り、X-girlやMILKFED.をちらちらと横目に見ながら、ドゥファミリィやOZOCで買ってもらっていたことを思い出しました。
ああ、帰ったら久しぶりにあの映画が見たい! それは『リアリティ・バイツ』! 帰りの車では、もう待ちきれずにサントラをかけて、「マイ・シャローナ」を歌い踊ります。
先行き不透明な1990年代の空気を詰め込んだ、甘くてしょっぱくってしびれちゃう青春恋愛映画
『リアリティ・バイツ』は1994年に公開された、若者たちの青春と恋愛を描いた映画です。ウィノナ・ライダー演じるリレイナは、大学卒業後TV局に就職してドキュメンタリー制作を夢見ていました。しかし仕事はなかなかうまくいかず、結局無職に。同じくブラブラしている男友達のイーサン・ホーク演じるトロイ、サミー、そしてGAPで働き続けて店長にまで出世した親友の女友達ビッキー、男女4人で共同生活を送ることに。彼女は友人たちの日々やインタビューをビデオカメラで撮影し、いつかそれをまとめた作品を作りたいと思っていました。
そんなリレイナが出会ったのが、ベン・スティラー演じるマイケル。彼はなんとMTVの編集局長。マイケルとリレイナは仲を深めていきます。しかし、そんなリレイナの様子にトロイはやきもきして、まるで子どものように彼女に喧嘩をふっかけます。
そしてある日事件が起こります。リレイナは自分の撮り溜めていた映像をマイケルに見せたところ絶賛されて、彼に素材ビデオを預けます。すると彼女の意図とは違う方向性のドキュメンタリーが作られてしまったのです。彼のスタッフによって、若者の葛藤がおもしろおかしく編集されて、それはそれはひどい作品に……。理解者だと思っていた恋人が自分の誇るべき作品をめちゃくちゃにしたなんて…とリレイナは自尊心がぼろぼろになってしまいます。
「ジェネレーションX」と呼ばれる若者世代の、不況時代真っ只中の将来への不安、ひりひりするような恋、そしてこの頃にはまだ不治の病であったエイズへの恐怖心——そんな不安定な90年代の空気をぎゅぎゅっと詰め込んだ『リアリティ・バイツ』。”Reality Bites”とは「現実は厳しい」との意味だそう。
もやもや青春期どまん中の私の、行き場のない悩みを吹き飛ばしてくれたバイブルでした
当時、もやもや思春期ど真ん中の私にとって、この映画はまさにバイブル。将来のことなんて考えられないし、自分が何をしたいのかなんて分からない。そもそも「私」って何? そんなふうにアイデンティティを真剣に悩むお年頃ってありますよね。そしてその行き場のない悩みを吹き飛ばしたのが何を隠そう『リアリティ・バイツ』でした。不思議なことに、「なーんだみんな同じようなことで悩んでるのか、じゃあ仕方がないか」とあきらめがつき、もやもやが晴れたのです。




サウンドトラックのアルバムも話題になり、収録されていたリサ・ローブの「STAY」、ビッグマウンテンによる、ピーター・フランプトンのカバー曲「ベイビー、アイ・ラヴ・ユア・ウェイ」も大ヒットしました。U2やレニー・クラヴィッツ、ダイナソーJRなどビッグネームも参加していましたし、なんせこのサントラではイーサン・ホークのしゃがれ声の劇中歌まで聞くことができます。このイーサン・ホークの曲は色気たっぷり。ブルージーでとってもかっこいいんです!
そして、イーサン・ホーク演じるトロイの魅力的なことよ!! ハンサムで頭もいいのに、世の中を斜めに見ているトロイ。リレイナがカメラをまわしているときも、トロイはおもしろおかしく世の中の矛盾や資本主義を皮肉るのです。その上ナイーブで女たらし。字面だけ見るとそんな男性と恋に堕ちたら、困ってしまうことは目に見えているのに、もうトロイだったら良い! 仕方がない!!と思わせる神々しさ! 繊細さ!
大人になってしまった私は、もう暴力的なほどの衝動を持ち合わせていないけど、リレイナの強い怒りは理解できる
私は高校時代、映画研究部に所属していて、学校でもずっとハンディカムのビデオカメラを持ち歩いて、なんでもない友人の普段の姿を撮影していました。今となっては、あれは『リアリティ・バイツ』の影響だったんだろうなあと、ちょっぴり恥ずかしく思い出します。撮り溜めたその映像を何度も見返し、地元のテレビ局に持ち込んで編集までさせてもらったことも。なんたる行動力! それが今やスマホで気軽に撮影できるはずなのに、その場で編集だってできるのに、それはしないのです。
若い時ってやっぱり溢れるものがあり、それをぶつける捌け口に似たものが、情熱であり、それが原動力だったのかもしれません。大人になってしまい疲れ切った私は、もう暴力的なほどの衝動を持ち合わせていないのです。
しかしそんな今でも物語の終盤、自分の作品をMTVのスタッフに、納得いかない形に編集されてしまったリレイナの強い怒りを理解することができます。他人にとっては意味をなさないものでも、自分にとっては大切な宝物。たとえ自身の作品が大衆にウケなくても、一方的に評価を下され勝手に改竄されてしまうことには怒るべきなのです。
ウィノナ・ライダーのファッションは今見ても新鮮で、大人にぴったりの着こなし
マイケル役のベン・スティラーはこの作品が初監督作品。早々に主演女優としてキャスティングが決まっていたウィノナ・ライダーは、この映画の影の立役者だったそうです。当時実際にMTVで活躍していたベンがメガホンを取るということで、ウィノナはイーサンに電話をかけて「あなたも出演するべき!」と説得したのだとか。そしてウィノナは若い女性が書いた物語を映画にしようと先頭に立ち、まだ新人であったヘレン・チャイルドレスは自身初の脚本をこの映画で書くことができました。ヘレンは映画公開当時25歳!『リアリティ・バイツ』は、若者による若者のための映画だったのです。
くるくると変化する魅力的な表情に、無造作なショートヘア。瞳を縁取っているびっしりとしたまつ毛、オレンジがかったリップ。この映画のウィノナは、どの瞬間も魅力的で永遠に見つめていたいほど可憐です。ファッションだってシンプルなのにキュート。品が良いのに、ちょっとくずしていたり、レトロだったり。今見てもいっさい古臭さを感じません。90年代スタイルが最先端に見える今、この映画はファッションムービーとしても楽しむことができます。
チビTは難しくても、この映画のウィノナのファッションなら今の私でも真似できそう。赤のノースリにデニム。白のレースニットのワンピースにブラウンのポシェット。小花柄のワンピース。そして黒のローファー。大人にぴったりの着こなしです。
そして三角関係の甘酸っぱい恋愛ストーリーも存分に味わってほしいところ。ポップに見えて、人々の心の移ろいや葛藤が丁寧に描かれた映画であることに気づきます。

どこに行っても暑い夏に、くつろぎながら家でのデートムービーとしてパートナーと観るのもありですよ。そのときはぜひ、手作りのピザを片手に楽しんでくださいね。なぜ、ピザか? それは映画を見てからのお楽しみ。決してハッピーなエピソードではないのですが!
(『料理家 今井真実の「食べたいエンタメ」(ミニレシピ付き)』は毎月第4金曜日朝8時更新です。次回をお楽しみに!)
Staff Credit
撮影/今井裕治
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