LEE読者の間でも経験者が多い不妊治療
2024年「不妊治療のリアル事情」費用や夫婦関係のこと、最新事情まで
2024.08.21
170人の声からわかった
不妊治療のリアル ~夫婦関係、お金、治療のやめどき~
最新の調査では、体外受精で生まれた子どもは約7万人と過去最多に(日本産婦人科学会調査より)。LEE読者の間でも、実は経験者が多い不妊治療。治療中に悩みやすいと言われる“夫婦関係”や“お金”のことに加えて、今回は“治療のやめどき”とその先の選択肢についても考えます。
LEE読者170人にアンケート
1
不妊治療をしたことがありますか?
約7割が経験者!
回答した人の約7割が不妊治療経験者という高い割合に! 経験者の内訳は、授かって治療を終えた人が約70%、治療を継続中と、授からずに治療をやめた人がそれぞれ約1割。その他、授かってはいないけれど休止中や、2人目を希望して治療を再開している人も。
2
友達や同僚など、周りの人と不妊治療について話した経験は?
「友達や職場の先輩にいつからどんな治療をしているかを話した。なかなか結果につながらず、精神的につらかった気持ちも聞いてもらったことも」(みのりさん)と経験者からの発信のほか、当事者でなくても友達や同僚など周りに多く、話題にしたことがある人が多数。また「治療していたことを特に隠していないので、周りに気軽に話しています。SNSでも体験談などを記録」(ほたてさん)など、以前はオープンにしづらかったことも、話しやすい雰囲気が少しずつ広がっているよう。
3
費用は不妊治療を続けるかどうかの決め手になると思いますか?
85%が決め手になると回答。「体外受精・顕微授精まで進めば治療費がかなりの高額に。継続して回数を重ねられるかは、お金の問題が大きい」(ぐみーさん)、「ここまでなら出せるという金額を超えたら、治療をやめると決めていた」(ありさん)などの声が多数。
4
あなたの夫は不妊治療に協力的ですか?
約7割が協力的だと回答し「体がつらいときに気遣ってくれた」(なみこさん)との声。ただ気持ちの面では「私の子どもがほしいという気持ちの強さに夫がついてこられなかった」(ふみさん)、「送迎などはしてくれたけど、治療内容は説明しても理解できず」(アミーさん)との本音が。
Report
170人の読者アンケートでわかった
不妊治療の本当のところ
不妊治療中の夫婦関係と、お金のことについてアンケートで調査。どちらも迷いや葛藤が多く、悩める経験者の実情が明らかに。
夫婦のこと
不妊治療を行う中で、夫婦仲が変化したと感じることはありますか?
「タイミング法のときは、忙しくて会話がない中で行為だけするのがしんどかった」(トニとーさん)と、治療の初期で悪化したとの声が。「注射や採卵の痛みがひどく、夫はやさしさで『無理しないで』と言ってくれたけど『無理しないと妊娠できないよ』という気持ちに」(パン子さん)など、すれ違いで関係性が変わっていくケースも。また「心ない発言もあったけど、調子が悪いときに腹巻きを買ってきてくれた」(サナさん)、「最初はギクシャク。だんだんとお互いを思いやるように」(なみえさん)とのことで「どちらとも言えない」の回答も多数。
不妊治療前と比べて、夫婦仲はどのように変わりましたか?
悪化した人、折り合いをつける人などそれぞれ
「悪化した」人は「『俺も検査するの?』と人まかせな態度にガッカリ」(てるさん)、「思い詰める私に『別に子どもはいらない』と。ショックだった」(りくさん)など心の傷が残るケースが。「よくなった」人は「不安を訴えると夫が『俺にぶつけろー』。やさしさに救われた」(コロンさん)との声。また、「夫は極度の恥ずかしがりやで女性が多いクリニックに同伴できず。でも、前向きな声かけなどできることをしてもらった」(100人隊No.043 chatさん)と夫の特性を理解して、折り合いをつけた人も。
不妊治療中、夫とどのような話し合いやコミュニケーションを心がけましたか?
意見や治療後のイメージも共有、旅行で貴重な夫婦の時間も
「私の意見を尊重してくれるのはうれしいけれど、夫が受け身に感じてしまうので、きちんと考えを言ってもらうようにした」(ぷたさん)、「いつまで続けるかのゴール設定と、授からなかったときのイメージも共有」(Yさん)など、たくさん話してお互いの考えや気持ちをすり合わせることが第一。また「治療が一段落したら、夫婦で旅行へ。夫婦2人きりの時間をたくさんとれたのは、不妊治療をしてよかったと思うことです」(やまださん)
お金のこと
不妊治療の費用は、どのぐらいかかりましたか?
ボリュームゾーンは100万〜200万円。人工授精までは1回1万円ほどで済んでいたけれど、体外受精・顕微授精になると費用が大幅にアップ。「支払いは毎回なのでだんだんと感覚が麻痺しますが、採卵に50万円、移植に30万円とすごい金額を支払うことに」(まきさん)とのこと。また、「保険適用前の治療で体外受精・顕微授精で115万円ほどかかったけれど、助成金で35万円戻った」(エマさん)と、自治体の助成金が助けになることも。
不妊治療の過程で、特にお金がかかったのは?
薬、注射、サプリなど予定外の出費も多数
体外受精や顕微授精の採卵、移植などのタイミングだけでなく「薬代、注射代、サプリ代で5万円、10万円に。自費の検査では30万円の出費が。妊娠反応が出てからも、妊娠を継続するための注射や薬に1万円以上飛んでいきました」(こむさん)と、予定外のタイミングでお金がかかることも多々。また、「地方で不妊治療専門のクリニックが家から遠かったので、採卵で体がしんどいときは病院近くのホテルに泊まったり、交通費や外食にもお金がかかりました」(こちゃんさん)とのケースも。
2022年4月から始まった不妊治療の保険適用で、費用の負担は軽くなったと思いますか?
「どちらとも言えない」が半数以上。負担が軽くなった人はもちろんいるものの、「保険適用だとスタンダードで弱い卵巣刺激や最低限の治療しかできず、保健所や厚生労働省に問い合わせても、保険適用になるかどうかは書類を提出してみなければわからないと。自分に合った治療をするために自費を選択」(ちゅまこさん)との本音が。
Journal
専門家が解説
不妊治療の最新事情は?
不妊治療の保険適用、夫婦関係や仕事との両立など、経験者がぶつかりがちな問題についての最新事情を聞きました。
教えてくれたのは
松本亜樹子さん
NPO法人 Fineファウンダー・理事
不妊体験者のセルフサポートグループ「Fine」理事。相談や不妊で悩む人たちの交流支援などを行う。詳細はhttps://j-fine.jp/
Topic
1
保険適用が始まり約2年、見えてきたメリット・デメリットは?
保険適用が始まり、治療を受ける年齢層が幅広くなっています。特に、これまでは高額で踏み切れなかった20代が、早く治療を始められるのは大きなメリットに。一方で、保険適用になり治療費が安くなったと思う人は約4割。保険でできる治療や使える薬などは限られるので、自分に合った方法を続けるために自費を選択する人も。年齢と回数の制限が撤廃されるよう、Fineでは署名活動をしていて、1万人以上の声が集まっています。
●保険適用の条件
体外受精・顕微授精の回数制限 | |
---|---|
初めての治療開始時点の女性の年齢 | 回数の上限 |
40歳未満 | 通算6回まで(1子ごとに) |
40歳以上43歳未満 | 通算3回まで(1子ごとに) |
Topic
2
できれば治療前に夫婦で話し合いを、可能な限り一緒に通院するのもおすすめ
不妊治療で価値観の違いが露呈して、離婚に至るケースも少なくありません。やはり夫婦の会話は必要で、できれば最初に病院に行く前に、自分たちにとって子どもを持つのはどういうことかなど、意識を合わせておいて。説明会はぜひ夫婦で参加して、夫も可能な限り一緒に通院できると⃝。女性の体に起こること、どれだけ大変かを知ってもらうことが大切で、家での自己注射を夫にしてもらうという人も。
Topic
3
大きな課題である仕事と治療の両立、最新の調査でも、働き方を変えた人が約4割
不妊治療の理解を深めるための研修をしたり、治療のための休暇制度を整えたりする企業も増えていますが、その多くは大企業で、中小企業では手が回らないところも多数あります。また、治療中も会社に言いづらい人がまだまだいるのが現状。不妊治療中に働き方を変えた人は約4割にのぼり、両立の難しさを痛感します。
仕事と治療の両立が困難で、働き方を変えたことはありますか?
Topic
4
東京都が助成金も、卵子凍結をサポートする企業も
子育て支援策として、東京都で実施される卵子凍結の助成事業が話題。卵子凍結をサポートする福利厚生制度を整備した企業には助成金も。選択肢が増えるのはよいことですが、凍結した卵子をどうするのか、具体的なライフプランが求められます。
Interview
治療内容、夫婦関係、お金のこと……
不妊治療経験者のリアル事情
実際に不妊治療をしたことがある30代・40代女性にインタビュー。今回は男性にも話を聞き、不妊治療中の夫の本音に迫ります。
お話を伺ったのは
やまやんさん
LEE100人隊No.020
34歳。夫、5歳の娘、2歳の息子の4人家族。25歳頃から不妊治療を行い、2018年に顕微授精で第1子を妊娠、出産。2020年に治療を再開し、同じく顕微授精で第2子を妊娠、出産。
不妊治療をつづった
\ブログに大きな反響が!/
自身が経験した不妊治療について、3回にわたって記してくれたブログに大きな反響が。今回のインタビューのきっかけにもなりました。
やまやんさんの不妊治療の流れ
2014年
24歳で結婚
2015年
基礎体温をつけたり、妊娠を意識し始める
2016年
地元のA病院へタイミング法、人工授精を2回行う
2017年 春
不妊専門のB病院へ体外受精、顕微授精をすすめられる
11月
採卵
2018年 1月
移植。第1子の妊娠が判明
2020年 11月
2人目の妊娠のために通院を再開
2021年 2月
移植。第2子の妊娠が判明
自己注射やサプリの服用など、採卵までの準備もひと苦労
やまやんさんは、24歳で結婚し25歳からは基礎体温を測るなど、いつ子どもを授かってもいい状況だったとか。ところが、約1年たっても妊娠せず、早めに通院することを決めたと言います。
「まだ20代半ばで焦ることもなかったのかもしれませんが、夫とその先の人生設計をしていたので、治療を始めるなら早いに越したことはないかなと。最初は、人工授精まで行える地元のクリニックに行き、タイミング法から始めました。基礎体温を測ってみて、私は高温期が短く生理周期が長めだったようで、高温期をキープするための薬を服用。約10カ月タイミング法を続けて、後半は人工授精も2回しましたが結果にはつながりませんでした」
その後、治療をステップアップするために、不妊治療専門のクリニックへ転院。
「先生が、体外受精・顕微授精が最短ルートだとはっきり言ってくれたので、すぐに決断しました。このクリニックでは、体外受精と顕微授精を行う人への勉強会があったので夫婦で参加。卵巣から卵子を取り出す“採卵”の方法や、顕微授精の場合は培養士さんがどんな過程で培養するのか、受精卵を培養した胚を凍結保存した“凍結胚”を子宮に移植するまでの流れなど、詳しく説明がありました」
検査や卵巣年齢などから、一度で多くの卵が採れる採卵方法を選択。そのための準備と採卵が、予想以上に大変だったそう。
「排卵誘発剤と卵巣を育てる効果があるもの、2種類の注射がマストで、自分でできるように練習をしました。いわゆる普通の注射なので、アンプルのようなものを自分で開けて針を刺して空気を抜いてと、意外に難しく。ひとつはおなかに、もうひとつはお尻に打つもので、冷蔵庫保管をして時間も正確にと、これだけでもけっこうなプレッシャーで。鉄分を蓄えるフェリチンが妊娠しやすい数値に到達するようにサプリの服用などもして、準備を進めました。
採卵は全身麻酔だったのですが、一度にたくさん採りたいということで時間も長く、多少の感覚はあるんですね。そして麻酔が切れた後が痛くて痛くて……! 個人差はあるようなのですが、私はしばらく丸まって動けませんでした。ここで採卵できたのが11個で、受精して凍結胚になったものが6個。クリニックの方針で体外受精と顕微授精を同時に行ったのですが、顕微授精をしたものが残ったと先生から聞きました。
それからの移植は一瞬の出来事で、痛みなどもありませんでした。ただ、移植後にも妊娠できる体を保つための薬の服用や、膣坐薬の使用などが。結果的にこの移植で妊娠が成立して、第1子となる娘を授かることができました」
「ゼロの数がおかしい……!」毎回の支払額に驚いた
不妊治療を行う中でも、夫との意思疎通はうまくとれていたというやまやんさん。「特に、ライフプランをしっかり共有していたのがよかったのかも」と話します。
「20代半ばで結婚した頃から、家を建てる場所やタイミング、退職金がいくらぐらいだから老後はこんなふうに過ごそうなどと、よく話し合っていました。子どもについても、遅くとも夫が60歳になる頃には子どもに成人していてほしいなどと、いろいろと話していて。早めに不妊治療に取り組むきっかけになったと思います。また夫は、タレントの辻希美さんの家族が理想的だねと言っていて、今は年齢を重ねてもやりたいことはできるし、若いうちに子育てをして落ち着いたら自分たちの生活を楽しもうと。ライフプランに加えて、こういった気持ちの面でも意思疎通できていたことで、治療中の大変な時期もすれ違ったり、険悪になったりせずに済んだのかなと思います。
夫は感情の起伏があまり激しくないこともあり、私が『生理きたよ』と落ち込んでいるときも、特別やさしい言葉をかけることもなく『そうなんだ』と受け止めていました。後からそのときの本音を聞いてみたら、『頑張っている人に頑張ってと言うのも違うし、自分も一緒に浮き沈みするのはよくないと思った』とのこと。言葉は少ないけれど寄り添ってくれていることはわかったので、夫が“普通”でいることが、当時の私にとってもよかったのかもしれません」
20代から夫とライフプランを立てていたので、治療の先を共有できて、すれ違いもなかった
やまやんさん
費用のことも夫婦でしっかりと共有していたそう。
「人工授精は1回1万円ほどですが、体外受精・顕微授精になると一気に費用が跳ね上がります。採卵、移植などのタイミング以外にも、毎回の通院で薬代、サプリ代などを支払い、『金額のゼロの数おかしくない……?』と本気で思ったこともありました。うちは車で行けましたが、クリニックが遠ければ交通費もかかったりと治療以外の出費があることも。正確に記録していないのですが、100万〜200万円はかかったと思います。当時は保険適用になる前だったのでほぼ自費でしたが、自治体の助成金があり、私が住んでいる地域では県から約30万円、市町村から約15万円が申請すれば支給されたので、これは助かりました」
不妊専門病院は、上の子を連れていけず焦ったことも
第1子の出産から約2年後、第2子を授かるために治療を再開。
「同じクリニックで、前回の採卵からできた凍結胚が5個残っていたので、今回は採卵はなく、すぐに移植をすることに。ただ、前回から時間がたっているので、検査などは一通り行いました。第2子の治療のときに大変だったのが上の子のことで、不妊専門のクリニックだったので、院内に子どもは連れてこないようにと言われていたんです。一度、生理周期の関係で、今日病院に来てと言われたことがあって。急で実家にも頼れなかったのですが、育休中の友達に連絡したところ上の子を預かってもらえることに。身近な子どもがいる友達には治療のことを話していたので、本当にありがたかったですね。職場などで不妊治療について話しにくいこともあると思うのですが、可能な範囲で周りに伝えておくと、助けられることもあるかもしれませんね」
周りのサポートもあり、無事に第2子を妊娠。残った凍結胚4個は今もまだ保存していて、いつまで残しておくか悩んでいるとも。
「今のところ、私は3人目がほしいという思いはないのですが、今後気持ちが変わったり、万が一何かあったときのために残しています。ひとつにつき年間1万円ほど保存の費用がかかるのですが、無事に移植できれば赤ちゃんになる可能性があるのに処分することにも少し抵抗があったりして。いつまで残すかは、夫と相談して慎重に決めていきたいと思っています」
やまやんさんの気づき
自己注射、薬の服用、痛みなど採卵まわりの負担が大きかった
夫とはたくさん会話を! 将来のことや思いもすり合わせて
体外受精・顕微授精は費用が跳ね上がる! 自治体で支給されるお金はリサーチを
モデル
堀 まゆみさん
治療中は夫婦ゲンカも……! 夫ができることをしてくれて、求めすぎなければ気持ちがラクに
堀 まゆみさん
PROFILE
ほり・まゆみ●1981年11月2日、神奈川県生まれ。モデルとして女性誌、CMなどで活躍。最新情報は公式インスタグラムにて。2歳児の母で、現在第2子を妊娠中。
公式サイト:https://honest.family/artist/mayumihori/
Instagram:m112yu
堀 まゆみさんの不妊治療の流れ
10~20代
生理不順、生理痛がひどく倒れたことも
2019年 1月
37歳で初診。ブライダルチェックへ
4月
治療スタート。さまざまな検査を行う
顕微授精をすすめられる
10月
採卵。凍結胚まで至らず
12月
2回目の採卵。凍結胚が4個に
2020年 2月
移植。妊娠には至らず
原因があるかもしれないので、検査を4つ行う
子宮内膜炎がわかる
7月
2回目の移植。妊娠には至らず
8月
3回目の移植。第1子の妊娠が判明
2021年 5月
第1子を出産
2022年 5月
2人目の妊娠のために通院を再開
費用の保険適用ができるように
7月
3回目の採卵。凍結胚が3個に
9月
4回目の移植。妊娠には至らず
10月
5回目の移植。着床はしたが流産に
2023年 2月
4回目の採卵。凍結胚まで至らず
4月
5回目の採卵。凍結胚は1個に
5月
6回目の移植。妊娠には至らず
保険適用の範囲が終わり家族会議
7月
6回目の採卵。凍結胚は7個に
10月
7回目の移植。第2子の妊娠が判明
検査で子宮内膜炎と、意外な結果が明らかに
37歳から不妊治療を始めたという堀まゆみさん。医師の提案もあり、最初から顕微授精を選択。
「若い頃から生理不順で生理痛がひどくて、倒れて救急車で運ばれたことも何度かあったんです。そこでは子宮内膜症などの病気はないと言われ、詳しく調べないまま30代後半になっていました。夫と出会ってすぐに、周りにすすめられた不妊治療クリニックで“ブライダルチェック(血液検査、超音波検査など)”を受けることに。年齢や条件を考えて、先生から最も高度な顕微授精の提案がありました。ほかの病院だったら、タイミング法、人工授精と段階を踏むことを考えたかもしれないのですが、不妊専門の病院だったことと、私も早く子どもがほしいという気持ちが強く、決断しました」
その後も検査を続け「結果待ちなどひとつひとつに時間がかかり、早く進めたい私には焦ってしまうことが続きました」と堀さん。初診から約10カ月後に、初めての採卵を行います。
「最初の採卵では、10個の卵子が採れて受精卵が8個できたのですが……培養して凍結できた胚が、なんと0個。受精卵の半分ぐらいは残るんじゃないかと言われていたので衝撃で。すごく落ち込んだし、早々に不妊治療の壁にぶつかってしまいました。気を取り直して、2カ月後には2回目の採卵をして、11個の卵子が採れて受精卵が10個、凍結胚が4個に。さらに2カ月後に初めての移植をしましたが、妊娠には至らず。うまくいくんじゃないかという期待があったし、当時はすべて自費診療だったので採卵1回で60万円ほどかかって。結果が出ないと、お金をかけても何も残らないんだとむなしい気持ちになってしまいました」
次の移植を急ぐ気持ちがありつつも、何か原因があるなら知っておきたいと、このタイミングで追加の検査を受けることに。
「この検査で、子宮内膜炎が判明。子宮の外側はきれいで問題なかったのですが、子宮内が炎症を起こしていたということを、このとき初めて知りました。また、この検査は子宮内膜を削るのですが、これがものすごく痛くて! 私の場合、採卵は全身麻酔で痛くなかったので、治療中はこの検査がいちばん痛くて、つらく感じました」
「お医者さんじゃないから」、夫の言葉に腹が立った
追加の検査を受ける前には、夫との大ゲンカも……!
「夫は、採卵や移植など治療のスケジュールをきちんと把握しようとしたり、病院の日は『気をつけて行ってきてね』と声をかけてくれたりと、基本的にはやさしく協力的で。年下にもかかわらず、よくない結果にも動じることなく、頼りがいもあるんです。でも、次の移植をするか検査をするかを決めるときに、一緒に病院に来ていた夫にも相談したのですが明確な返事はなく、結局は私が検査を選んだんですね。
その後、あらためてどう思ったかを夫に聞くと『僕はお医者さんじゃないからわからない』と言ったんです。私だって医者でも専門家でもないのに、これまですべて自分で考えて、選択してきている。他人事のような夫の言葉に本当に腹が立ってしまって。落ち着いて確認したら、自分の発言の重さを感じて簡単に意見できなかったし、私の気持ちを尊重したかった、ということがわかったのですが……。治療中は、ちょっとした一言が誤解を生むし、夫婦がきちんと意思疎通するのは難しいんだなと痛感した出来事でした。
不妊治療は病院に行くのも薬を飲むのも当然女性で、ひとりで頑張っているような孤独を感じてしまうし、2人の子どもなんだから夫にもわかってほしいと強く思うんですよね。それは悪いことではないのですが、私は途中から、実際に体に変化が起きている自分と同じ熱量まで、夫を引っ張り上げるのは難しいのかなと感じるように。現状報告はきちんとしますが、求めすぎないほうが気持ちがラクになりました。夫は、治療の後においしいお店を予約してくれたり、私が食べたいと言ったものを覚えていて買ってきてくれたり。リフレッシュできるように積極的に動いてくれるようになり、これはうれしかったですね」
それからは、残っていた凍結胚で2回目の移植を行うも結果にはつながらず。さらに3回目の移植を行い、ついに妊娠が判明。
「この頃には私も時間があれば検索をして、たくさん情報収集していました。頭でっかちになってしまった部分もあるとは思うのですが、調べて知った方法を自分から先生に提案したり、納得がいかないことは、後悔しないようにきちんと先生に確認するようにしていました。何が正解なのかわからない中で、診察中の限られた時間内に次の方向性を決めなければならないことも多く、プレッシャーに感じたことも。まさに選択と葛藤の連続でたどり着いた、うれしい結果でした」
第2子は、保険適用での不妊治療、年齢と回数の制限には悩みました
堀 まゆみさん
保険適用内では妊娠に至らず、その後の採卵、移植で結果が
39歳で第1子を出産した堀さん。ちょうど不妊治療の保険適用が始まるタイミングと重なり、第2子を望んでいたために、治療をいつ再開するか悩んだと言います。
「保険適用には年齢の規定があり、40歳未満で治療を始めれば体外受精が6回まで適用されるのですが、40歳以上だと3回に減ってしまうんです(詳細は上記「●保険適用の条件」の表を参照)。私は産後すぐでまだ体が整っていなかったので、40歳になってから2人目の治療を始めることに。ただ、この違いは大きいので本当に悩みました。結局、3回の移植では妊娠に至らず、着床したものの流産してしまうというつらい経験も。
保険適用が終わった後も治療を続けるかどうかは、夫と話し合いました。お互い2人目がほしいという思いは一致していたものの、夫は上の子もいるので区切りは設けたいと。納得できるように、治療をやめるタイミングは私にゆだねてくれて、ここで再度採卵を行いました。これまでで最も多い7個の凍結胚ができ、移植をして、第2子を授かることができました。
保険適用での治療も経験して、適用の範囲が決められているのは酷だなと。私のように、仕事を頑張ってきて30代後半で結婚した人にとっては、40歳はあっという間にきてしまう。難しい問題ですが、年齢や回数の制限も、治療や薬の範囲もなく、保険診療が認められるといいなと思います」
堀さんの気づき
30代後半まできちんと調べず反省。検診はできるだけ早く受けて
夫がすべてを理解するのは難しい。夫なりの役割を担ってくれれば
40歳はあっという間! 制限のない保険適用が理想
芸人
おばたのお兄さん
自分の体に起きることだから、女性はしんどい。気持ちが軽くなるような声かけを意識しました
おばたのお兄さん
PROFILE
おばたのおにいさん●1988年6月5日、新潟県生まれ。舞台『千と千尋の神隠しSpirited Away』に出演。妻はフジテレビアナウンサーの山﨑夕貴さん。2023年に第1子が誕生。公式YouTube「おばたのお兄さんといっしょ」では、夫婦で不妊治療についての発信も。
公式サイト:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=4972
Instagram:bataninmari
X:hinode_obt
不妊治療を経験した夫の本音は?
トレーニングが原因で、驚きの事実が発覚!
昨年、第1子が誕生したおばたのお兄さん。いつ頃から不妊治療をしていたのでしょうか?
「結婚してから2〜3年は、妻が朝の番組などを担当していて多忙だったこともあり、タイミングを見て、できる範囲で妊活をしていました。でもなかなか自然には授からず、妻の仕事が一段落した2年ほど前から本格的に頑張ろうということになり、不妊治療専門のクリニックに通い始めました。そこで、タイミング法、人工授精、体外受精と段階を踏みましたが、妻も僕も確率の高い方法でなるべく早く授かりたいという思いが一致。体外受精にマイナスなイメージなどもまったくなかったので、ステップの進み方は早かったんじゃないかなと。普段から会話が多くて、くだらないことも含めて朝から寝るまでずっと話しているので、そのへんの話し合いはスムーズだったと思います」
専門のクリニックで検査と治療を行う中で、驚きの事実も発覚。
「自分は健康体で何の問題もないと思っていたのですが、精子の数が少ないことがわかったんです。直前に体力系のバラエティ番組の収録があって、ハードなトレーニングをしていたので、それが一因だということでした。トレーニングなんて体にいいことしかないと思っていたのに! 体の疲れと精子の量や動きはリンクするらしいんですよね。もちろん一時的なことではあるのですが、これにはびっくりして。それからは、採取する直前は運動を控えたり、体調も左右するらしいので風邪を引かないように注意したりしました。どうしても女性側に原因があると誤解されがちですが、不妊の原因は男女半々ぐらいの割合であるんですよね。これは、男性もきちんと知っておくべきことだなとあらためて思います」
なるべく広く質問をして、話す内容を妻に選んでもらう
自身のYouTubeチャンネルなどでも治療について語り、妻への寄り添い方ややさしい声かけが話題に。夫婦のコミュニケーションで気をつけていたことは?
「妻が病院に行った日は、自分から話を聞くようにしていました。それも『移植の結果は?』などとしぼって質問してしまうと、つらい結果だったときに言いづらいかなと思い、あえて『どうだった?』となるべく広い質問にして、妻が言いたいことを選べるようにしました。自分の体に起きることだから、どうしても女性のほうがしんどくなってしまうことが多いと思うので、僕はなるべく気持ちに余裕が持てるような声かけを。プレッシャーに感じてほしくなかったので『授かれば幸せだけど、2人で一緒に生きていければそれでいいからね』と子どもがマストではないことも、根気強く伝えました。思っていても言わないと意味がないので、言葉で伝えるように意識していましたね」
治療を経験したことで、男性同士の何気ないやりとりにも気を使うようになったそう。
「お酒の場などで『なんで子ども作んないの?』みたいな、デリカシーに欠ける質問をする人がまだまだいるんですよね。深い意味はなく軽く言っているだけだと思うのですが、当事者としては言葉に詰まったことも。子どもがほしくてもできない人もいるし、治療を頑張っている人もいる。想像力を働かせて、一度自分でフィルターをかけてから発言できるといいよね、と妻ともよく話しています」
おばたのお兄さんの気づき
運動のしすぎや風邪も影響。男性にも原因があることを知る
思っていても言わないと意味がない。妻への気遣いは言葉で伝える
治療中は何気ないやりとりに傷つくことも。発言には気をつけたい
Staff Credit
撮影/名和真紀子 ヘア&メイク/杉山えみ(堀さん) 松元未絵(瀬奈さん) イラストレーション/pum 取材・原文/野々山 幸(TAPE)
こちらは2024年LEE4月号(3/7発売)「不妊治療のリアル ~夫婦関係、お金、治療のやめどき~」に掲載の記事です。
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