TAKARAZUKA STAR|ことばの力
【星組・極美 慎さん】「自分のことは自分が一番わからないのが当たり前。それを知っていくのが人生」【宝塚スター|ことばの力】
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TAKARAZUKA STAR INTERVIEW ことばの力
2024.04.18 更新日:2024.04.25
気づきを与えた言葉、背中を押してくれた言葉、自分を鼓舞する言葉……。舞台人として、一人の人として。“清く正しく美しく”輝くタカラジェンヌが大切にしている言葉とは?

星組
極美 慎さん
今の自分を作ったことば
「自分のことは自分が一番わからないのが当たり前。それを知っていくのが人生」
Shin Kiwami

Shin Kiwami ・Profile
2014年、宝塚歌劇団に入団。星組に配属される。入団4年目にして新人公演主演を果たす。二度の新人公演主演を務めたのち、’22年にバウホール公演主演も経験。抜群の美貌と華やかな存在感で観る人の心をつかむ男役スター。
厳しくも優しい父が教えてくれた
“経験して自分を知ること”の大切さ
Shin Kiwami
「実は“極美慎”というこの名前は“極真空手”に由来しているんです。私が空手を習い始めたのはアニメの『ドラゴンボール』がきっかけでした。主人公の孫悟空に憧れ、彼と同じような道着を着ている子どもを近所で見かけたときに、“あれが着たい!”と父に訴えたのが始まりで。幼稚園から中学2年生まで教室に通い続けました」
このエピソードからも伝わるように、極美さんは自身の幼少期を「あまり女の子っぽくなかった」と振り返ります。
「近所の親同士がみんな知り合いだからか、子どもたちもみんな親戚のように仲がよくて。公園で一緒に遊んだり、蛇の巣をつついてみたり、夏はマンションの屋上にビニールプールを置いて遊んだりしていました」
近所のお兄さんお姉さんたちとのエピソードを懐かしそうに語った極美さん。そんな思い出話に続いたのが「時に優しく、時に厳しく、いつもそばに“大切なことを教えてくれる人”がいた。私は人に恵まれている」という言葉です。
「空手教室の先生もそのひとりです。厳しいけれど、師範としても人としても本当に素敵な女性で、迷い悩んでいるときに指針となる言葉を届けてくれることも。空手だけでなく人生の学びをいくつも届けてくれました。先生とは今でも交流があり、いろいろな話をするんです」
極美さんを育ててくれたご両親もまた「とても厳しいけれど、大切なことを教えてくれた人」だそうです。
「私が宝塚に出会ったのは中学生の頃。“人生は経験だ。いろんなものを見たほうがいい”と父が劇場につれていってくれたのがきっかけでした。思春期の私は半ば嫌々ついていったのですが、幕が上がった瞬間、その嫌々はあっという間に吹き飛んで夢中になってしまって。その半年後には宝塚音楽学校を受験している自分がいました」
なんの知識もなく挑戦した一度目の受験。ゆえに面接では思わず「押忍!」と挨拶してしまったという失敗談も。
「その受験も両親は“人生の経験だ”と反対せず送り出してくれました。一度目の受験は不合格だったのですが、試験会場で本科生※の方々が話しかけてくださったことが印象に残っていて。“こんな素敵な先輩がいるならやっぱり入りたい!”と宝塚への思いがより明確に。その経験があったからこそ、二度目の受験への思いが強まりました」
そんな極美さんが大切にしているのが、幼い頃から何度も言われた「自分のことをよく知る人はいない。自分のことは自分が一番わからないのが当たり前。それを知っていくのが人生なんだよ」というお父さんの言葉です。
「実は自分では短所だと思っていたものが周りから見ると長所だったり、自分から見えている自分なんて本当に不確かなものなんですよね。男役としても、人としても、今の私はまだまだ自分自身を知っている最中。だからこそ、挑戦や経験を恐れたくないし、そこで失敗してもあまり落ち込まないんです。これも自分を知るための経験、人生は失敗してなんぼ、この失敗が明日の私を作るんだ!と」
※=宝塚音楽学校の上級生。下級生は予科生という。
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極美 慎さんに3つの質問!
1
「極美 慎」はどんな人ですか?
1
自分の中にはいろんな“極美 慎”がいて、どの自分も自分自身なんです
周りの人からは「素直」とよく言われます。それはお芝居も同じで、自分の中で腑に落ちない部分があると上手く演じることができなくて。歩き方から目線までぎこちなく、定まらず、悩み迷っているのが周りにすぐに伝わってしまう。上級生からは「極美は自分の中で腑に落ちた瞬間、芝居がバンッと急に“上がる”から。今、悩んでいるのか、腑に落ちたのか、どんな状況にいるのかすぐわかる」と言われています(笑)。
失敗を恐れない大胆な一面もあるけれど、腑に落ちるまで行動に起こせない慎重な一面も。稽古中には必ず一度は落ちるところまで落ちてどん底を見るのですが、どん底にいる自分も好きですし、そこから這い上がる自分も、壁を乗り越えた自分も好き……。現在も私は自分を知る過程の途中。周りからは「わかりやすい」と言われますが、今もやっぱり、自分は自分のことがよくわかりません。その時々で、自分が感じる短所や長所も変わりますし、自分の中にいろんな“極美 慎”がいるのを感じています。
でも、どの自分も全て自分なんですよね、そこで思い出すのが「欠点は治すことよりも認めることが大事だ」という父の言葉です。自分の欠点を認めれば、その対処方法が見えてくる。それと同じで、まずはダメな自分も、良い自分も、嫌いな自分も、好きな自分も、いろんな自分を認めて受け入れることが“自分を知ること”の第一歩だと思っています。
2
スイッチがオフになる休日は何をしていますか?
2
サウナで“整い“、凝り固まった頭をリセット
最近はサウナにハマっています。以前は水風呂が苦手だったのですが、星組のみんなとお風呂に行ったときに初めて“整う”という経験をして。そのとき、すごく頭がスッキリして驚いたんです。同時に、普段は自分が無意識にいろいろなことを考えてしまっているので、リセットする時間をちゃんと作らなければいけないと思いました。お風呂に入るときも、キャンドルを灯してリラックスしてみたり、意識してリセットタイムを作っています。
最近はコロナ禍を経てやっと宝塚の仲間たちとも食事に行けるようになったので。仲間と過ごす時間もよいリフレッシュタイムになっています。同期や下級生が遊びにくるときは、パパッとできる鍋を作ることが多いです。料理は得意ではないのですが、昨年のクリスマスはスペアリブとハッシュドビーフを作ってみました。とても忙しい時期だったのですが、意地でもクリスマスを楽しみたかったみたいです(笑)。
3
男役11年目、今、どんな時期にいると感じていますか?
3
自分の中にある「こうじゃなきゃいけない」を、ひとつひとつ削ぎ落としながら視野を広げています
今までは上ばかり見ていたと言いますか、上級生の背中を見て「男役はこうだ」「男役はこうでなくてはいけない」と考えてばかりいた気がします。それこそ、歩き方ひとつにしろ、手の所作ひとつにしろ「どうしたらいいんだろう」と、頭の中で考えては小さなことにつまずいてしまったり。個性豊かな星組の中で“色がない”自分に焦ってしまった時期もありました。
男役11年目を迎える今は、自分の中にある「こうじゃなきゃいけない」「ああしなくてはいけない」を削ぎ落としているような感覚と言いますか……まだまだ沢山の荷物を抱えてはいるのですが、それをひとつおろすたびに、視野が広くなっていくように感じています。
以前、轟(悠)さんと共演したとき、「これが男役なのか」と、舞台全体を支配するような、その余裕や包容力に驚いたことがあります。同時に、自分の未熟さを痛感し「自分に足りないものは何か」を探し続けてきた気がします。でも、最近は足りないものでなくあるものに目を向けたり、技術だけではないものを見るようになったり、違う視点で自分自身や舞台と向き合えるようになりました。
11年目の今も悩み迷う日々ですが、その時々の精一杯が結果につながる、という思いはずっと変わりません。順調に前進し続ける人なんていない、誰にだって波はあるし、立ち止まることもある。どんなときも楽しみながら「今」を積み重ねていけたらいいなと思っています!

NEXT STAGE
ミュージカル
『BIG FISH(ビッグ・フィッシュ)』

ジャーナリストのウィル・ブルームは、幼い頃父エドワードの奇想天外な物語を聞くのが好きだった。大人になり、疎遠にしていた父の足跡を辿ると見えてきたものとは……。主演:礼真琴
東急シアターオーブ
5月30日〜6月16日
Staff Credit
撮影/柴田フミコ 取材・文/石井美輪
こちらは2024年LEE5月号(4/6発売)「ことばの力 vol.12 極美 慎さん」に掲載の記事です。
▼ 「ことばの力」連載一覧はこちら
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