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LIFE

私のウェルネスを探して/猫沢エミさんインタビュー前編

【猫沢エミさん】「消費者金融でお金を借りてきて」と言う母。借金と浮気を重ね、酒を飲んで暴れる父。それでも家族を見捨てなかった理由

  • LEE編集部

2023.12.29

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猫沢エミさん

今回のゲストは、ミュージシャン・文筆家の猫沢エミさんです。

猫沢さんは、1996年にミュージシャンとしてデビューし、2002年に渡仏。2007年に帰国してからは、フランスでの生活や猫との暮らしのエッセイ、料理本の発売をはじめ、フリーペーパー『BONZOUR JAPON』の編集長、フランス語教室を主宰するなど幅広く活躍しています。2022年、ふたたびフランスに移住し、現在はフランス人のパートナーと2匹の猫と暮らしています。

前半では、猫沢さんが10月に出版した本『猫沢家の一族』(集英社)についてお話を聞きます。「書いた話は氷山の一角です」という破天荒な家族との思い出や書きながら変化していった心境、今だからこそ考えたいステレオタイプにはまらない家族のあり方とは。

家族ネタはお酒の席でウケたけど「今出したら、奇人枠になっちゃう」と執筆を止められていた

『猫沢家の一族』は、ウェブメディア『よみタイ』での連載を一冊にまとめた本です。連載は、猫沢さんがちょうどフランスに旅立つ前に決まりました。テーマは未定のまま、担当編集者から「何かまとまったら送ってください」と言われ渡仏。新しい暮らしが落ち着いて、「さて何を書こうか」と思いついたのは家族のことでした。

猫沢エミさん

「他で書いている連載とどう差別化するのか、フランスがテーマではないけれどどこかでフランスには触れたい。テスト的に書いた、第1章 『リヴォリ通りの呉服店』を読んでくれた編集者さんが“面白いじゃないですか! これで行きましょう!”と言ってくれましたが、私としては“これ、本当に面白いのかな”と半信半疑でした」

母の一周忌、愛猫イオの看取り、コロナ禍でのフランス移住。さまざまな苦労が同時に起こり、疲労はピークに達していました。移住直後によく言っていた言葉は、“死にたくはないけど、もう生きていたくない”でした。

猫沢エミさん

「自殺願望ではないので勘違いしてほしくないのですが、心底疲れていました。家族のことや個人のこと。疲れ切った虚無の中で書いていたこともあり、飄々と、冷めた気持ちで書いていました。私にとって家族の話は、お酒の席での良いネタ話だったんです。あとがきに書いていますが、90年代の音楽シーンで活躍していたエディターの川勝正幸さんと家が近い飲み仲間で、よく家族の話を聞いてもらっていました。その時にも“本にしたほうがいい。だけど、今じゃない。今出したら奇人枠になっちゃう。猫沢エミとしての他の項目を立ててからじゃないと、イメージが変わってしまう”って」

一番近しくてあったかくて湿度が高い、そして面倒くさい。だけど一生逃れられない、それが家族

それから十数年後、移住先のフランスで家族の話を書くことに。書き始めた頃は、決して楽しい気持ちではなかったことを明かします。

「当時家族に起きていたことを思い出していると、背景やそれ以外のことまで蘇ってきて嫌な気持ちになりました。第1章、第2章を書いている時は“気が重いな”と思っていましたが、第3章くらいから、やっと楽しくなってきて。言葉にすることで、気持ちが楽になっているのかもしれない、これは面白い作業かもしれない、と思えるようになりました」

第7章「風呂(バス)ガス爆発」、第11章「ヅ・ラ・ランド」、第14章「笑いと許しの終末介護」。タイトルをさらに上回るパンチのあるエピソード、笑いと涙が溢れるブラックユーモアたっぷりの家族の姿が綴られています。猫沢家という血筋の濃さにも圧倒されます。しかし、収録されている内容は実際あったことのごく一部。

猫沢エミさん

「提案したのですが、ネタとして書けなかったものもあるんです。笑える話に落としていますけど、実際はもっといろいろあるんですよね。悲惨な部分はあえて外していますし、もし本当に全部書いてしまったら『裏猫沢家の一族』、悪魔の書になっちゃう(笑)。どんな家庭にも大なり小なりの問題があって、折り合いのつかないこと、笑えないこともある。それをどう捉えるかは、家族の状況やそれぞれの性格で違うと思います。家族に何の問題もない、トゲがひとつもないなんてことはないですから。一番近しくてあったかくて湿度が高い、そして面倒くさい。だけど一生逃れられない、それが家族だと思います」

最終章で明かされる出生の秘密…母とは別の「生みの母」が。だけど私は母を愛していた

最終章の第15章「半分閉じたカーテン」では、猫沢さんの出生の秘密が明かされます。母親とは別の“生みの母”の存在が分かり、第1章から登場していた母親が、育ての親だったことに衝撃を受けます。生みの母を辿る旅、そして妹の存在も明らかに。

「確か14歳の時だったと思います。祖母がうっかり口を滑らせて発覚したことでしたが、一番傷ついていたのは母でした。“エミが『積木くずし』(当時流行っていた不良の主人公を描くドラマ)みたいになったらどうしよう”と泣いて。だけど私は母を愛していたし、母はいつも一生懸命で、子ども一人ひとりときちんと向き合ってきましたから。“何を泣いてるの? 誰が私のことを育てたの? あなたでしょ? 自信を持っていいんじゃないの?”って言いました」

猫沢エミさん

そう大人びた返事をしたものの多感な思春期だったこともあり、生みの母がバーのママをやっていたことを軽蔑するような発言をしたことがありました。そんな時、母親は猫沢さんを強く叱りました。

「“あなたのお母さんは苦労人で、妹を高校に出すために仕事してたのよ。飲み屋のママのどこが汚いの? そんな立派な仕事ないでしょ。家族のために、自分ができることを一生懸命やった。そんな立派な仕事はない”と。一番印象的だったのは“血なんて関係ない。人は生まれ落ちたら、その人自身、あなたはあなた自身なの。人はそれぞれ個々の魂が独立して、存在しているんだから。”と言われたことでした」



弟のお宮参りの写真なのに弟はそっぽを向いて、私も死んだ目をしている。だけど父と母はベストショット(笑)

博愛な母でしたが、猫沢家に嫁いでから金銭感覚が狂ってしまい、嘘をついて子どもにお金を借りることも頻繁でした。“消費者金融でお金を借りてきて”と言ったりすることもあったそう。そんな母に加え、借金に浮気、お酒を飲んで暴れる父。実家に帰るたびにエネルギーすべてが消耗され、貯蓄も持っていかれる。しかし帰省しないという選択肢はなく、家族を見捨てることはありませんでした。

「そこに愛はあったと思うんです。それは世間一般の愛し方ではなく、お母さんなり、お父さんなりの愛だとは思います。父親は家では一番大きな子どもみたいな存在でした。この世代は、こういうタイプが多いですよね。口下手でお酒が入ってないと話ができないタイプ。“子どものために”“家族のために”何かをしたり犠牲にするとかはありませんでした。本のカバー写真がそのいい例で、弟のお宮参りなのに弟はそっぽを向いて、私も死んだ目をしている。だけど父と母はベストショット(笑)。

猫沢家の一族

自分の家の話って、意外と人と共有できないですよね。モラルやルールが家によって本当にまちまちだから。現代の家族像って、社会の理想の形を押し付けられやすいせいで、一生懸命自分の一部を切り落としてその型にはまろうとする。そんな苦しみがあると思います。だけどうちは真逆。定型の型もない代わりに嘘もなかった。ちょっとは嘘をついてくれた方がよかったよ、とも思うんですけどね」

家族だから許さないといけないわけではなく、親は生きているうちにしか許すことができない

猫沢さんは弟たちに、末期がんの母を生前に“許す”よう伝えました。しかし、「すべての人が家族を許す必要はない」と言い切ります。

「うちはきょうだい同士の絆や笑えるところ、逃げ場があったからいいんです。虐待や暴力といった、笑えない経験をした人もいらっしゃると思います。内容によっては許せないし、許さなくてもいいんだと思います。家族だから許さないといけないわけではなく、親は生きているうちにしか許すことができないんです。許すことで自分が残りの人生を悔いなく生きる、自分が明るく生きるためにやることで、親のためにやるわけではありません。

猫沢エミさん

うちがギリギリのラインだと思います。これ以上何かあったら、家族とはいえ離れてもいいと思うんですよ。その人の人生だから犠牲になり続けることはないんです。うちの場合はこうだった、と私は笑い話に落とし込むことができた。もしかしたら自分の家族についても、笑っちゃうことで流すことができるかも。そんなふうに読んでくれたらいいですね」

My wellness journey

私のウェルネスを探して

猫沢エミさんの年表

1970年 福島県白河市生まれ
19歳 洗足学園大学打楽器科に入学
26歳 日本コロムビア・トライアドレーベルからシンガーソングライターとしてデビュー
27歳 テレビ番組『LOVE LOVEあいしてる』のバックバンドにコーラスとパーカッションとして参加
32歳 渡仏
36歳 『パリ季記』(地球丸)、『ウィークエンド・ア・パリ』(白夜書房)を発売
37歳 『パリ通信』(主婦の友社)を発売。帰国。フリーペーパー『BONZOUR JAPON』編集長を務める
43歳 『猫と生きる。』(辰巳出版)、『東京下町時間』(パイ インターナショナル)を発売
44歳 超実践型フランス語教室『にゃんフラ』を主宰
46歳 『フランス更紗手帖』(パイ インターナショナル)を発表
51歳 『ねこしき〜哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』(TAC出版)、『猫と生きる。 増補改訂版』(扶桑社)を発売
52歳 渡仏。『特装版 イオビエ ~イオがくれた幸せへの切符 NFTデジタル特典付き』(TAC出版 )発売
53歳(2023) 『猫沢組POSTCARDBOOK〜あなたがいてくれるなら、私は世界一幸せ。』 (TAC出版 )、『猫沢家の一族』(集英社)、『料理は子どもの遊びです』ミシェル・オリヴェ著/ 猫沢エミ訳(河出書房新社)を発売
猫沢エミさん

Staff Credit

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
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