「年収106万円の壁」にはさまざまな矛盾が
年収106万円を超えて働くと損すると言われる「年収の壁」問題。
この言葉自体が働く人を無意識に縛ってしまう元凶だと思いますが、最初だけ使うとしましょう。
現在では従業員100人を超える企業に雇用され、週20時間以上勤務している人が年収106万円(残業代などを含まない給与が月額8.8万円)を超えると、厚生年金・健康保険の加入者となり保険料負担が生じます。
それによって手取りが減り、同じ手取り額まで回復するには125万円まで稼ぐ必要があるのです。
社会保険料を負担しない「第3号被保険者」のままで働きたいと考えると、就業調整をして働く時間を減らす人が多くなるため、企業は人手不足に悩まされることに。
しかし、いま日本では働き手不足が深刻で、このような就業調整が続くと、私たちの暮らし自体が不便に陥ることになりかねません。
さらに、人手確保のためにも働き手の時給を上げると、ますます106万円に達するのが早くなってしまうことに。
とはいえ、この物価高で少しでも賃金を上げてほしいという声は多いわけで、さまざまな矛盾が生じているのが現状なのです。
政府の対策は働く人の収入を増やすこと
私たちの暮らしを維持するうえでも、第3号被保険者制度はやがて立ち行かなくなるでしょう。
とはいえ、現状ではまだ106万円を目安に働く人も多く、政府は働き手不足に対応するため「年収の壁・支援強化パッケージ」を打ち出しました。
具体的には、106万円を超えて働いても手取り額を減らさない取り組みをする企業に、働く人一人当たり50万円までの助成金を出すというもの。手取り額を減らさない取り組みとは、保険料負担相当分の賃上げをする・手当を支給するといったことです。
助成金の支給には、企業が収入の増加に取り組むことも条件となっており、働く人のモチベーションを高めることにつながると期待されています。
政府のデータで見る限り、第3号被保険者の割合は、女性全体の30%程度を占めています(令和3年3月31日時点)。
年代別にみると25~29歳では10%程度だったのが、35歳~54歳では3倍に上がります。ここから出産や子育てとの関係も想像できますが、逆に子育てが一段落すれば制限なく働きたい人が増えてくるかもしれません。
会社勤め夫の場合、55歳以降は役職定年などで給与が下がってくる時期でもあり、家計を維持するためには妻もより働く必要が出てくるでしょう。
データでも55歳以降の第3号被保険者の割合は3割を切っています。将来の年金が少なくて不安という人ほど、現役時代から厚生年金に加入するべきなのです。
マイナスイメージにとらわれず、長く働き続けるキャリアを積み上げる方が、結局はオトクではないでしょうか。
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松崎のり子 Noriko Matsuzaki
消費経済ジャーナリスト
消費経済ジャーナリスト。雑誌編集者として20年以上、貯まる家計・貯まらない家計を取材。「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。
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