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折田千鶴子

江戸文化の裏の華!『春画先生』で内野聖陽さん、柄本佑さんの“対照的な色気”がほとばしる!

  • 折田千鶴子

2023.10.16

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“春画”は人を前向きにさせてくれる芸術

多くの方がそうかもしれませんが、実は私、“春画”って“大昔に裏流通したエロ本&発禁本”というイメージを持っていました。それも完全に間違いとは言えないまでも、そのイメージを鮮やかに覆す春画の奥深さに、映画『春画先生』で衝撃を受けました! しかも“春画愛”に貫かれた各登場人物のエネルギッシュ、かつ真っ直ぐさに胸も打たれて……。 そう、人物のキャラがみな最高なんです。それも全ては役者さんたちが、何とも魅力的に演じているから。

大人の魅力×お茶目と言えば、このお2人。“春画先生”を演じた内野聖陽さん、先生を支える編集者・辻村を演じた柄本佑さんに、体当たりでインタビューいたしました! 大人のぶっちゃけトーク、是非お楽しみください。

内野聖陽(左)
神奈川県出身。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。主なドラマ出演作に大河ドラマ「風林火山」(07)、「真田丸」(16)、「臨場」(09)、「JIN-仁-」(09)、「とんび」(13)、「きのう何食べた?」(19)。映画に『臨場 劇場版』(12)、『家路』(14)、『罪の余白』(15)、『海難1890』(15)、『初恋』(19)、『ホムンクルス』(21)、『劇場版 きのう何食べた?』(21)『鋼の錬金術師』(22)など。現在、ドラマ「きのう何食べた?seazon2」が放送中。
柄本佑(右)
東京出身。『美しい夏キリシマ』(03)で映画主演デビュー。主な映画出演作に、『きみの鳥はうたえる』『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18)、『火口のふたり』(19)、『アルキメデスの大戦』(19)、『痛くない死に方』(21)、『心の傷を癒すということ-劇場版-』(21)、『ハケンアニメ!』(22)、『シン・仮面ライダー』(23)など。『花腐し』が11月10日公開予定。2024年大河ドラマ「光る君へ」がある。

まず“春画”に対して、どんなイメージを持たれていましたか。本作を経て、どのように変わりましたか?

内野「やはり“ちょっと淫靡な世界”かと思っていました。ところが本作の資料に“笑い絵”と書かれているように、見ているとほのぼのする(笑)。“生きる”ということに対して前向きになれる芸術だったのかと、目から鱗が落ちました。こんなに素晴らしい芸術――本当に高度な浮世絵の技術を使って描かれている認識がなかったので、世界各地に散り散りになってしまったなんて本当にもったいない話だと思いました」

柄本「確かに僕も、どこか淫靡で禍々しいエロ本みたいな印象がありました。今回、それをしっかり見ることが出来て、また塩田(明彦)監督が書かれたセリフを通して知ることで、前向きな気持ちで見られるものだと思ったし、個性豊かで面白い設定の絵がたくさんあることも知れて、非常に良かったです」

まさか春画が“前向きになれる芸術”とは思いませんでした!

内野「劇中で春画先生も言いますが、“春画は生きとし生けるもの、全てを肯定するものである”という捉え方がもっと浸透して欲しいですね。元来、春画って福をもたらすものとされていたそうなんです。元々は娘が嫁ぐ際に持たせたり、あるいは戦場に行く兵士に持たせたり。戦場で瀕死状態に陥っても、春画を見ると“やっぱり生きたい!”という気持ちになれたそうで。それも分かる気がしました」

本作は、無修正の浮世絵春画が映し出される史上初の商業映画ということですが、やっぱり最初は直視していいのか!?なんて戸惑いました。ところが春画先生が“ここを隠して全体を見てごらん”と示すと、背景も含めた世界観や緻密な絵の素晴らしさに驚かされて。“絡み”や局部が気になり過ぎて、自分は全く見えていなかったのか、と反省しました!

内野「春画って、まずソレを見るもの、みたいな思い込みになっているから、トリミングして周りの画や全体像を観るなんて発想にならないですよね。しかも(誇張して描かれているため)巨大ですし。だから当時は、日本人ってこんな巨大なのかと海外で騒がれたらしいですよ。日本人は恐ろしいぞ~、と(笑)」

柄本「本当ですか(笑)!?」

内野「ホントホント(笑)!! 僕も初めて知ったけれど、凄まじい民族だと噂になったらしいですよ」

『春画先生』ってこんな映画

Ⓒ2023「春画先生」製作委員会

“春画先生”と呼ばれる春画研究の第一人者・芳賀一郎(内野聖陽)は、愛する妻に先立たれて以来、世捨て人のように研究に没頭してきた。そんな芳賀が、ひょんなことで弓子(北香那)という女性と出会い、春画の見方を教えることに。芳賀の手ほどきで春画の奥深さに魅入られた弓子は、同時に彼自身にも強烈に惹かれていく。しかし芳賀が執筆する「春画大全」の完成に躍起になる編集者・辻村(柄本佑)は、芳賀を奮起させるため弓子に関係を迫る――。監督は、『月光の囁き』『さよならくちびる』『麻希のいる世界』の塩田明彦。

春画先生こと芳賀一郎は、男の身勝手さもありつつ、なんとも憎めない男性でした。

内野「脚本の読みようによっては、出会った女性(=弓子)を自分の理想像に変えていく物語だと捉えることもできますよね。でもそうなると芳賀が策士っぽく見えてしまう、それは宜しくないと塩田監督は非常に気を遣われていました。一方で、芳賀はどこか詐欺師っぽくも見える。本当の詐欺師とは、出会ったシチュエーションやハプニングを当意即妙に楽しみながら進んでいく、といった話を監督と交わしたのを覚えています」

春画先生があたふたする姿は、どこか挙動不審っぽくもあり、可愛いく可笑しかったです。

内野「芳賀は常にドキドキしているんです。例えば、弓子に和服を着せたらどんなだろうとか、亡き妻のドレスを着せ、亡き妻のバッグを持たせたら怒るかな、とか。自分が弓子に対してすることに、常にドキドキワクワクしているんです。でも、そういう気持ちをすべて裏側に隠して表面上はサラッとした態度をとりつつ、障子を閉めた瞬間に“YES!”(とガッツポーズ)みたいな感じというか……。そういうことが、挙動不審に見えたのかもしれないです」

では、“いい加減な色男”こと、辻村俊介を演じる上で何を意識されましたか?

内野「バッチリ掴んでいたよね、“いい加減な色男”(笑)。もはや地か!?ってくらいに」

柄本「その枕詞、僕が言い始めたわけじゃないですし、地じゃないです(笑)。でも最初に監督がおっしゃった“辻村はいい加減な色男です”というのは、いい一言をいただけたと思いました。春画先生も弓子も辻村も、脚本の中に既に立ち上がっている感じが強かったので、どう演じようかはほぼ考えませんでした。ただ普通の人の喋り方とは少し違うセリフ回し、言い回しだったので、それを妙に今っぽくツラツラ喋るのではなく、逆に明瞭に明確にハキハキと喋ることを意識しました

内野「確かに辻村って、“~なのかね”とか、若い割におかしな口調でしたね」

柄本「そうそう、“こんな風に7日間も愛し合ったことがあるかね”とか(笑)」

内野「学生運動の頃の学生さんが使いそうな、輪郭のはっきりした言葉ですよね」

柄本「そうなんです。加えて辻村は春画先生に師事していて、春画に魅了されている若者でもあるので、やっぱり春画先生の喋り口調にも影響されているだろうな、と。そこも少し意識しましたね」

気になる“あのシーン”の作られ方

春画先生から漏れ出すコミカルさ、その匙加減はどのように味付けしましたか。噴き出してしまうシーンもありました

内野「僕がコミカル感を分かりやすく出すのが好きではないというのもあり、あくまでも表面はサラリとやってる風を装う方向でした。監督からも、“ぶっきら棒なセリフ回し”や“抑揚をつけない”という要望が多かったです。例えば“春画とワインの夕べ”というパーティーで芳賀がスピーチするシーンでも、監督から“内野さんのサービス精神は一切いらないからね”と言われました(笑)」

柄本するとあの、“描いては動き、動いては描き”と言いながら腰を動かすシーンは?」

内野「そこも、芳賀が夢中になってスピーチしているがゆえに、ついつい当時のアパートの(亡き妻と愛し合った)あの夏の日の夕方、寝転がっていたことに意識が行っちゃったので、腰がついつい動いちゃったんです(笑)」

柄本狙ってやったわけじゃなく、真剣がゆえについ腰が動いてしまったと!?」

内野そう、春画先生という人は、そうなっちゃう人なんですよ(笑)。真剣に淡々と何かをやっていることが、イコール、コミカルな方に通じていく、という塩田さんの匙加減が春画先生のキャラクターを作ったとも言えると思います。僕も一つ、佑に聞きたいことがあるんです。あの水色のパンツは……

私も、あの青いTバックについては、絶対に聞こうと思ってました!

内野「あれは佑の提案!?(笑)」

柄本衣装さんが用意してくれていたのは、白や黒のTバックだったんです。でも自分の中でどこか、白や黒だと辻村にしてはちょっと真面目っぽ過ぎるかな、と思ったんですね。その時、すごく晴れていたので、この青い空みたいなのがいいんじゃないか、と言ってみたんです。何か“あっけらか~ん”とした空色がいいな、と」

内野「確かに辻村の能天気なキャラには、空色のTバックはピッタリでしたよね。そうか、やっぱり佑の提案だったのか! よくぞ履く勇気があったな(笑)」

柄本「色は提案しましたが、形は既に決められていたんですって(笑)!!



春画先生・弓子・辻村の奇妙な3人の関係は--

*この話題は、若干先の展開にも触れているので、鑑賞後にお読みすることをおススメします。

春画先生、弓子、そして辻村の3人の関係を、どう捉えていますか!? 非常に不思議な関係ですよね。弓子と関係を持つ辻村は、先生に尽くしているとも言えますが……。

内野「僕、辻村の“そうなんだよ。先生に会うと、みんな心のリミッターが外されちゃうんだよ”というセリフが、とても気になっていたんです。そうか、春画先生ってそういう人なのか、と。春画先生に会うと、性に対して奔放になるというか、みんなリミッターが弾け飛んじゃうんですよね。先生を好きな女性たちだけでなく、例えば辻村は男性とも関係を持ちますよね」

柄本春画の見方などを通して、先生は人生の見方にしても、ある種の新しい世界を開いてくれるんですよね。興味が湧くものに対しては、どんどん手を出していった方がいいよ、と。性に関しても一面的な見方ではなく、色んな見方があり、やってみなければ分からない、と。そういう風に視野を広げ、且つ、そこに挑む勇気さえも貰えるんだと思います。倫理感が揺さぶられてしまう。とはいえ辻村的には、やっぱり先生の「春画大全」をとにかく完成させたい、という思いが一番なんです。先生に対する尊敬が、非常に大きいと感じていました」

内野でも、どこか先生を利用して楽しく遊んでる感もあるよね

柄本確かにそういう側面もありますね(笑)。でも、必ず先生に(関係を持った女性とのことを)報告していますから」

内野芳賀と辻村は、お互い騙し合いながら生きてる面もあるようにも受け取れるし、辻村が先生に本当に傾倒してるようにも見える。その一面的じゃない、いかようにも取れるところがとても面白いんですよね

柄本ただ先生の女性をいただく時は、ちゃんと先生の許可を取ると辻村が言っているように、先生に対するリスペクトは常に非常にあるんです。先生の弟子だという意識があり、許可を求めて報告する礼儀正しさ、礼儀作法がある人間でもあるんです」

内野そういう風に見えないのが、スゴイよね(笑)。辻村が沢庵を食いながら、弓子に話しかけて尻を触るシーンもあるけれど、何が礼儀だよ、と(笑)

柄本ハハハハ(笑)!! そういう横柄なところもあるけれども、気持ちの中での礼儀正しさはあるんですよ、辻村には」

辻村から報告を聞いて悶えながらも、春画先生自身は絶対に弓子に手を出さないですよね。M気質なのか……。

内野「亡き妻のことがあるからでもありますが、多分、芳賀は喫茶店で弓子に出会った瞬間に、“あ、この子だ!”と閃いた気がしました。もちろん観客がそれぞれ自由に感じて欲しいですが……。偶発的に出会った人に春画を見せてみたら意外にいい反応を示してくれ、そして初めて弓子が芳賀の家を訪れたとき(春画について学ぶ授業料的なものはいらないと言われた)弓子が、“ダメです、そんな施しは受けられません!”と言ったあの表情を見た瞬間、“決まった~!!”と思った気がしました(笑)。また、地震が起きることによる偶発の出会い、というのが意味深で面白いんです」

柄本そう、あの出会い方がいいんですよね!」

「佑の“食べる演技”が素晴らしくて唸ったよ!」

何度目かの共演になりますが、今回もまたお互いに“さすがだな!”と感心したシーンはありましたか。今日も“地かと思った”という発言もありましたが(笑)。

柄本「僕は今回もですが、役や脚本に対して予断なく向き合う姿、その向き合い方やのめり込み方には、毎度、驚かされるんです。見ていてやっぱりスゴイなっていつも思わされて。今回のホン読み(脚本を声に出して読み合うこと)の際に、“定期的に一緒になるよな”と内野さんから言っていただいたんですが、本当に節目節目でお会いしているんですよね。最初の『風林火山』以来。だから僕はある意味、お会いする度に成長を見せなくてはと、割と緊張するんですよ」

内野「俺だってそうだよ! 俺も成長してないといけないから。今回は、佑って感覚的に役をバスッと捉える力が本当にあるんだな、と思わされたシーンがあって。例えば3人で春画探しの旅に出るシーンの中で、佑が素っ頓狂な音を出したんです。その時、監督はそれを僕が発した声と勘違いして1回NGが出たんです。そうしたら、“あ、今の佑さんの声でしたか。それならOKです”とOKカットになったことがあって」

柄本「そんなこと、ありましたっけ?」

内野「あったんですよ。別の方向で攻めてる時に、主線軸とは違う音でポンと入った方がいいって、感覚的にやっているんだな、と思って。すごい奇抜な音で入って来るんだけど、監督も“佑さんの声ならアリです”と判断される。そういう場や瞬間の捉え方がスゴイ」

柄本「まったく覚えていないですが、確かに理路整然とやってるというよりは、感覚的に近いところはあって、それをこういう取材で話していると気づくことが多いんです」

内野「僕は逆に考え過ぎちゃって、飛べなくなっちゃうことがあるんですよ。佑みたいに(感覚的に)やれちゃう方が、実はすっごい正しかったり、音の出し方としてとても豊かな演奏方法だったりするんですよね。だから佑との共演は、すごく勉強になるんですよ」

柄本「いえいえ、もちろん僕もいつもそうです」

内野「例えば、さっきの沢庵のシーンもそうなんだけれど、トーストを食いながら弓子と喫茶店で話すシーンも、なんか上手いんだよね。食べるタイミングとか、何気に計算しているでしょ?」

柄本「そうですね。実は僕、元々食べるシーンが好きなんですよ。好きというか、憧れがあって……。僕は小林桂樹さんが一番大好きな俳優なんですが、食べるシーンが本当に上手いんです」

内野「そんな着眼点で見ているんだ!これまで、そんな着眼点で語られているの、聞いたことがなかったよ!!」

柄本「例えば『江分利満氏の優雅な生活』で、お茶漬けを食いながら泣くシーンとか、『社長』シリーズで(65~70年/全33作品)でも、いつまでも結婚しない息子に、上京してきたお母ちゃんが「あんた、早く結婚しなさいよ」「そんなこと言うなよ」とか喋りながら干し芋をかじっているシーンも、もう絶妙に上手くて。それに対する憧れと尊敬がすごくあるんです」

内野「なるほど、だから、あんなに上手なのか。本作での沢庵を食べながら茶化しているシーンも、トーストも、ある種の技を感じたんですよ。すごいタイミングで食ってるな、と見ながら思って。つまり佑は感覚的だけじゃないぞ、って思ったんですよね」

予期せぬ方向へと話は広がって、なんて面白いお話を聞けてしまったのかとホクホクしてしまいました。本当に大人なお2人が春画先生と辻村を演じられたからこその軽妙さ、上品なスケベさについクスクス笑いながら、自分も「春画を学びたい~!」と思わせられてしまうのです。本当に大らかに愛も性愛も欲望、つまり人間を丸ッと讃えている、そして疾走した爽快感を覚えるような、そんな映画です。

また弓子を演じている北香那さんが、とってもいいんです。ひたむきで、真っ直ぐで、春画先生への恋心や辻村との肉体関係によって開かれ、身も心も解放されていく、まさに“開花”するような凛とした可憐な美しさが、女性が観ても思わず抱きしめたくなるほど。あ、自分もリミッターを外されてしまった!? さらに春画先生の元恋人&元妻という双子の姉妹を演じた安達祐実さんも、滅茶苦茶美しく変態っぷりを怪演しています。

今の世の中だからこそ、大らかな気持ちで人を愛する勇気と素晴らしさを胸に吸い込んでください!

『春画先生』

2023年10月13日(金)全国ロードショー

2023年/日本/144分<R15+>/配給:ハピネットファントム・スタジオ
原作・監督・脚本:塩田明彦

出演:内野聖陽 北香那 柄本佑 白川和子 安達祐実
©2023「春画先生」製作委員会

Staff Credit

撮影/菅原有希子
スタイリスト/中川原 寛(CaNN)(内野さん分)
ヘア&メイク/ 佐藤 裕子(スタジオAD)(内野さん分)
ヘア&メイク/AMANO(柄本さん分)
スタイリスト/ 坂上真一 (白山事務所)(柄本さん分)

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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