優秀な助監督として数々の名監督に頼られてきた高橋正弥監督。話題の2作が6月に連続公開!
ライフラインの一つである水道を停止する仕事で、葛藤を抱える主人公を演じる『渇水』の生田斗真さん
この6月、『渇水』、『愛のこむらがえり』と2作続けて公開される髙橋正弥監督。優秀な助監督と知られていて、相米慎二、高橋伴明、市川準、宮藤官九郎監督を支えてきたことでも知られています。私も過去に根岸吉太郎監督や阪本順治監督の現場を仕切る姿を見てきました。
凄腕の助監督は監督たちが手放さないので、監督作がなかなか増えないというジンクスが囁かれたりしますが、生田斗真さん主演の『渇水』は10年越しの企画という難産の末生み出されたもの。芥川賞候補に二度なりながら、受賞に至らず、急な病で早世した河林満さんの同名の短編小説の映画化で、料金滞納者の水道を止めていく水道局員の葛藤を描いたものとなります。素晴らしい脚本があるという噂が広まる中、白石和彌監督がプロデュースを買って出た経緯もあります。
『愛のこむらがえり』の主人公夫婦を演じる磯山さやかさんと吉橋航也さん
その念願の映画化までの道のりを映画にしたような印象を受けるのが『愛のこむらがえり』。まるで髙橋監督をモデルにしたかのように、長い助監督生活の中、自作を発表する夢を失いかけた主人公が、妻の猛烈なサポートによって監督を作り上げるまでの奮闘記になっています。
ここにきて実力が世に広く知られることとなった高橋監督に映画化までの道のりを聞きました。
監督・高橋正弥(Masaya Takahashi)
1967年、秋田県出身。これまでの監督作に『RED HARP BLUES』(02)、『月と嘘と殺人』(10)など。今年、『渇水』と『愛のこむらがえり』の2作を発表し、注目を集めている。
公僕の仕事を通して見えてくる社会の問題点
──『渇水』は多くの問題を提起する作品です。生田斗真さん演じるのは料金滞納者の水道を止める水道局員ですが、彼の葛藤がひどく胸に響きました。原作は芥川賞候補に二度なりながら受賞に至らなかった河林満さんです。
芥川賞候補には、受賞できなかったことで人生に重荷を背負うような人が何人かいて、例えば1950年に芥川賞候補となった久坂葉子さんは21歳で亡くなっていますし、北海道出身の佐藤泰志さんが5回のノミネートを経て受賞できなかったことは広く知られます。
佐藤さんは『海炭市叙景』『そこのみにて光り輝く』『君の鳥は歌える』など映画化により、小説が脚光を浴びる形になりましたが、髙橋監督が映画化した河林さんも『渇水』をはじめ、他の作品に再び脚光を集めています。監督と河林さんの小説との出会いは?
「河林さんは2008年に脳出血で、57歳の若さで亡くなられたんですけど、三回忌が終わった頃の2011年に、河林さんの飲み友達だった方から、『渇水』を映画化できないだろうかというお話があり、まずは原作を読みました。河林さんは立川市の職員として水道局や図書館、児童館などで働いたんですけど、公僕としての仕事を通して社会を見つめる眼差しを持ち、それが故に優れた小説家であると思いました。
実は僕の父親も林野庁に所属する公務員だったので、河林さんとの共通点を感じました。脚本を書くにあたって、公務員の人に取材もかねていろいろ話を聞いたんですけど、大変な局面に遭遇しても、だいたい2~3年ごとに別の部署に異動となるからどこかリセットできる。でも、河林さんは仕事で遭遇した大変な局面を忘れることが出来ず、自分の心の中に咀嚼できないものとして渦巻いて、長年蓄積していったんだろうなと小説を読んで感じました」
バブル期に書かれた小説が、今の社会に生々しく届く。
岩切は母不在の中、水道停止となった幼い姉妹を、職務の枠を越えてサポートするが。
──髙橋監督が映画化に選ばれた『渇水』は水道局員が主人公ですが、やはり芥川賞候補となった『穀雨』は福祉施設の職員で、どちらも困窮する市民を助けられなかったという話です。職務の範囲を超えて助けるべきかどうか、悩む姿に考えさせられました。
「『渇水』の原作は、主人公の水道局員が水道を止めたことで、ある姉妹が命を落としてしまうという話なんですが、映像的に面白いところは他の作品も含めて色々あるんですけど、映画としてこの終わり方でいいのかと、思いました。原作通りの物語にすると一般の人々に広がらないんじゃないかと。
僕としては、この主人公は自分の仕事が間接的に人の死の原因となって、いったい、この後どうやって、どのような思いを抱えていくんだろうと気になってしまった。だったら、この姉妹を生かしていくことに置き換えられるならば、映画にする意味はあるだろうと思ったんです。
というのも、原作が発表になったのはバブル経済期の1990年ですが、僕が読んだ2011年には河林さんが描いた様々な貧困が社会問題になっていた。ならばこれからの未来を見据えて主人公も、姉妹も生き抜く物語にしました」
生田さんの普段の力強い目からちょっと力を抜いてもらった
幼い姉妹を置いて外泊を繰り返す母親に門脇麦さん。映画では彼女の背景も深く描かれる。
──主人公の岩切俊作に生田斗真さんを抜擢されたことには驚きました。生田さんはこの映画の中で、ずっと死んだ魚のような目をしているのですが、どうやってあの瞳を引き出したのでしょうか?
「生田さんは恋愛ドラマにしても、コメディにしても、何にでも長けて、役に入り込める人だと思っていました。加えて、笑顔はチャーミングなんですけど、 目の力がすごい。荒戸源次郎監督の『人間失格』を見たときから、すごくいいものを表現していたと思っていて、それで出演決定後、話をしたいとプロデューサーたちと一緒に会わせてもらい、そのとき二人のプロデューサーと僕の想いをとにかくバーっと喋ったんですね。
先ほど言った公務員だった自分の父親のことだったり、生田さんの目がいいとか。でも、岩切を演じてもらえるなら、生田さんの目の力をふだんよりちょっと抜くことを意識してもらえればいいなというディスカッションをしました。お顔の肌の色も本当は健康的な色つやなんですけど、映画を見たらみなさんわかると思いますが、今回はヘアメイクさんにも相談して、生気のない顔色の方向にもっていっているんですね。
まあ、そういう話をしただけで、おそらく生田さんとしてはもう、パチッとスイッチが入って、撮影が始まってからは役の話はもう一切せず、初めて現場に現れたときから、もう岩切がそのままそこにいるという感じでした」
磯村さんは目線で感情を送る演技力が絶妙にうまい
岩切とコンビを組む木田役の磯村勇斗さん。この作品の清涼剤的な役回り。
──すごく面白いのは、岩切と一緒にコンビを組んで水道停止の任務をしている部下役を磯村勇斗さんが演じているのですが、あえてだと思うのですが、生田さんと磯村さんを似せる方向で演出されていますよね。ただ磯村さんはまだ若くて、生田さんはもう職務に疲れていて、似ているんだけど、似て非なる年齢差もわかる。
「それは生田さんと磯村さんにも最初に説明しました。磯村さんが演じる木田って、6、7年前の岩切だと思うと。それだけで、深く説明しなくとも、二人ともスイッチが入って、掴んでくれた。
特に磯村さんは芝居のポジションを察知する能力が長けていて、カメラに映るか、映らないかというところでも、すっと前に出てくる。水道代を滞納した人たちとのやり取りで苦しい状況に陥ったときに、木田として岩切に目線で感情を送ったりするところが絶妙にうまいなと唸りました」
──磯村さんは『波紋』の荻上直子監督も非常に頼りになると絶賛されていました。
「そりゃ、いろんな映画監督に呼ばれるわけだよなと思います」
──髙橋監督は脚本家の及川章太郎さんと、原作にはない要素として、岩切が妻子をうまくいっていない状況も膨らませています。原作者の河林さんは早くに母を亡くし、ご自身の生い立ちを多くの小説に投影しているかのように、愛情の欠落をたたえるような登場人物が多く、岩切もまさにそのような人物ですよね。
「背景としてはそういった要素はありますが、映画の中で、過去の回想という形は使わずに表現することを目指しました。もちろん、河林さん自身の背景は早い段階で生田さんにお伝えしましたが、若くして親の愛に恵まれないがゆえに妻とも息子ともうまくコミュニケーションが取れず、どうしたらいいかわからないっていうのはこちらから説明しなくても、うまく出してもらえたと思います」
生田さんに負けない眼差しとして選んだ山﨑七海
幼い妹を守って、母不在の中、何とか生活を維持しようとする姉役に山﨑七海。
──映画では、岩切がどこまで助けるか大いに悩む幼い姉妹役の恵子(山﨑七海)と久美子(柚穂)がとても生きていますね。特に姉を演じた山﨑さんは、先日公開された古河原壮士監督の『なぎさ』でも、間接的な性的侵害を受ける難しい役どころを説明を受けて演じていて、今作では水道を止める岩切を射抜く眼差しの強さにたじろぎました。
「先ほども言ったようにとにかく生田さんの目の力が強いので、彼に負けない目じゃないとダメなんだと、オーディションの内容として、睨みつけるということを課題にしたんです。山﨑さんはOfficial髭男dismの『I LOVE…』のPVに出演していることを前もって知っていたんですけど、芝居の経験の有無よりも、眼差しの強さで選びました」
髙橋監督は原作のエッセンスを読み取り、姉妹のバックグランドと状況をかなり書き込んでいる。二人のダンスが作品のエッセンスに。
──門脇麦さんが母親役ですが、夫が出ていった後、生活が苦しくて、彼女はサポートしてくれる男性を探しながら生きている。で、ある時から、家に帰ってこなくなり、姉妹二人だけの生活だと知って、岩切は水道を止めなくてはならなくなります。この後のサバイバル生活の荒みを山﨑さんが非常にリアルに演じているのですが、こういう状況をどう理解してもらったんですか?
「門脇さんがお金を渡して、ある時から、家に戻らなくなるんですけど、そこまでの台本を渡して予め読んでもらったんですけど、そこから以降は何が起きるか、知らせずに、撮影していきました。母親がいなくなるという設定は、姉妹役の二人にとっては自分の家庭環境とは違う世界であったでしょうし、100パーセント理解できて演じていたかは自信がないんですけど、こういう状況になったら、どんな感情なのかなと話したときに、感受性が豊かなので、こちらの意図をくみ取って努力して演じていましたね」
母親は愛情をかけているつもりでも、他人にはそう見えない
公的な支援を受けることを拒絶する母親のプライドにも映画は言及。
──その門脇さんが演じる母親像が、これは理解して演じるのはとても難しい役だなと思いました。水ってなくちゃ生きていけないのに、水道代を払うよりも他のことを優先してしまう。まあ、私たちは各々、時として優先順位を間違って生きてしまいがちですが。
「最初にお会いしたとき、門脇さんもこの役はなかなか理解しきれない人物と話されていました。この母親は子どもたちに愛情をかけているつもりで接しているけれど、他人から見たら全くそうは見えない。そういう意味で、家庭って、それぞれ思いが違う。門脇さんが演じた母親は早く今の困窮した経済状態から抜け出したいという思いが先走っていて、その焦りから、好条件だと思った男性へと依存してしまうという風な説明を撮影前にしました。門脇さんは彼女じゃないと出来ないやり方で体現してくださったと思います」
──この脚本は重要な問題提起をはらんで、かなり早い段階から評判になっていたと聞いていますが、映画化までに10年かかったのはなぜですか?
「いろんな映画会社やプロデューサーに持っていって読んでいただくと、話としてはすごくいいけど、社会的な題材なので、ビジネスとして考えるとそこまで集客が見込めないのではという考えだったのかなと。僕に監督としての知名度と実力もなく、そこで二の足を踏むというのもあったと思います。
ただ、話を持って行った長谷川晴彦プロデューサーが、初見では理解しかねるところがあって難しいと言っていたのに、1年後、家庭を持ったことなどで心境の変化があったみたいで、白石和彌監督にこういう脚本があるので読んでもらえないかと言ってくれて、そのタイミングで長谷川さんがKADOKAWAに移籍したり、白石さんがプロデューサーに名乗り出てくれたことで映画化が決まりました」
『愛のこむらがえり』は僕自身をモデルにしているわけではありません
『愛のこむらがえり』の主人公カップルは同棲8年目。磯山さん演じる香織は、彼の渾身の映画をもう一度見たいと願っている。
──よかった! この念願の企画を成立させるまでの『渇水』の完成までの道のりをまさに映画したのが、『愛のこむらがえり』ですよね。長い間の助監督時代を経て、渾身の一作を作るまでの映画監督とそのパートナーの奮闘記ですけど、これは髙橋監督をモデルにしたものですか?
「違います(笑)。これは加藤正人さんと安倍照雄さん・三嶋龍朗さんによる脚本なんですが、加藤さんのご夫婦の話なんじゃないかなと僕は思っています。もしくは、撮影シーンの様子や内容を記録・管理する仕事の人として白鳥あかねさんというキャラクターが出てくるのですが、これは実際にスクリプターとして日本映画界を支えてきた白鳥あかねさんをそのままモデルにした人物で、僕はこのあかねさんと映画監督の白鳥信一さんの夫婦の話でもあるかと思います。うちはもっとお互いの仕事に我関せずで、ドライな関係ですね(笑)」
コロナ禍の時期、応援歌のような映画があるべきだ
香織は映画の企画実現に向けて、賛同してくれる仲間を必死で探していく。
──そうなのですか。てっきり髙橋監督の話かと。白鳥あかねさんは私も数々の現場でお世話になっている伝説的な方で、ご自身の仕事について書かれた、2015年の著書『スクリプターはストリッパーではありません』はキネマ旬報の2014年度映画本大賞・第1位を獲得した名著です。
磯山さやかさん演じる主人公は以前スクリプターとして働いていて、長年、助監督の仕事をしているパートナーの監督作を世に出すため猛烈な奮闘をする姿を『愛のこむらがえり』は描いています。今、日本の若い映画監督はみんな、自分の家の話と思うかもしれない。
「ちょうどこの脚本を読んだとき、コロナ禍に突入していて、 若い人の起業したいのに出来ないとか、自分の店を始めたばかりなのに閉めなきゃいけなくなったとか、仕事での夢が閉ざされる人の話を多く見聞きしたので、なおさら、こんな時代だから、自分のやりたいことを追いかけている人と それを応援する人の物語が自分の胸に刺さったんですね。
応援歌のような映画があるべきだと思って、加藤さんにプロデューサーとしてだけでなく、映画監督もしたいと手を挙げました」
磯山さんの笑顔があれば頑張っていける
題材的には『花束みたいな恋をした』と重なる部分も。生活の維持と夢の共存のせめぎあいが続く
──磯山さん演じる主人公がとにかく明るいキャラクターで、それがいい。
「浩平が悩んでいるのに、香織も一緒に悩み過ぎちゃうと、たぶん、お互い自滅しちゃうと思います。能天気とは言わずとも、明るいキャラクターで、あなたはこれにチャレンジしなきゃダメと言ってくれる人がいるのはいい人生なんじゃないかな。磯山さん自身、高校野球のマネージャーをやった経験があって、人を応援することを自分の人生でもやってきた人なので、この作品には必要でした。この笑顔があれば、頑張っていけるみたいな」
──『渇水』の映画化が生田斗真さん主演で一気に進んだというエピソードと重なるように、こちらでは磯山さん演じる香織が、柄本明さん演じる有名俳優に脚本を手渡ししに行って、出演を直談判するエピソードが出てきます。この設定をのんで、柄本さん自身はすんなり出演をOKされたんでしょうか?
「磯山さんのパートナーの浩平に劇団東京乾電池の吉橋航也さんを選んだことによって、だったら同じ劇団の柄本さんに出ていただきたいと。柄本さんと吉橋君の関係も演出家と演出助手だったり、劇団主宰と劇団員パートナーであったりするので。ただ、そこはうちの夫婦関係と似ていて、独立独歩みたいですけど。
実は最初の脚本では役名も柄本明になっていて、それで正式にオファーをしたら、さすがに本名では演じるのはちょっと恥ずかしいから役名を変えてほしいと言われました」
助監督時代が長い浩平役に託したものとは
え? これ、どういう状況? という事態にもこの二人は陥ります。
──劇中、浩平は助監督としての仕事のサイクルから抜け出すのに苦労しています。髙橋監督もいろんな現場で優秀な助監督過ぎて、いろんな監督が手放さないとよく聞きましたが。
「僕は根岸吉太郎監督に付くことが多かったんですが、才能があって映画監督になる人もいますけど、僕の周りは才能よりも、人とどう組んで、何を作るかがやっぱり大事な仕事なんじゃないかなって思う」
──この作品を見て、映画監督って、いかにいろんな人に支えられているのかよくわかりました。ある種、神輿のような職業なんだなと。みんなで担がないと進んでいかない。
「僕は阪本順治監督の現場にもよくついて、いろいろ勉強させてもらいましたが、何が一番勉強になったかというと、阪本さんは周りのスタッフに実によく意見を求めること。我々スタッフの意見を聞いてくれる方なので、それが演出部としての厚みや力になっていると思う。
『愛のこむらがえり』では浩平に監督としての自分の思いはすごく託していますけど、でも、自分がこうだっていうのとはまた違う。根岸吉太郎監督の場合、主人公に何を託しているのか、よくわかるんですけど、でも遺作となった『風花』で助監督としてついた相米慎二監督は主人公に何を託しているのか、いまいちつかめなかったですね(笑)」
浩平訳の吉橋航也さんは東京乾電池に所属。ご自身も演出を務めるので、助監督役はまさに適役。
──相米慎二監督に生前、主人公に自分を投影するかと質問したとき、「そんな恥ずかしいことはしない」と返ってきたことがあります(笑)。
髙橋監督は他に森田芳光監督、高橋伴明監督、市川準監督など名だたる監督の助監督をしているので、ある時期の日本映画史を語れる立場でもありますね。そもそも映画監督になりたいと思ったきっかけは何だったんですか?
「母親が映画好きで金曜ロードショーなどを熱心に見る人だったんですけど、父親の仕事で函館から1時間くらいの土地に転勤になって、それがちょうど中学生の頃で、月1回、日曜日に朝6時半に出かけて函館まで行って、地方は当時2本立てが多かったので午前中にアニメのロードショーの2本立て、午後に大人向けのロードショーの2本立てを見て、夕方帰るということをしていたんです。
世代的には『スター・ウォーズ』や『宇宙戦艦ヤマト』ですけど、個人的には角川映画の全盛期だったから、最初に見た『戦国自衛隊』にはすごい影響を受けました。『野生の証明』などを見て、ああ、映画の仕事をしたいなって、その頃から漠然と思い始めたという感じです」
──それで『渇水』がKADOKAWAで配給というのは子どもの頃の夢が一つ叶ったという印象を受けますね。
話を河林さんに戻しますが、髙橋監督が映画化したことで、河林さんの小説そのものも再び脚光を浴びています。映画化によって再生した小説家と言えば佐藤泰志さんですが、河林さんの短編で次に映像化して見たいと思う作品はありますか?
「若くして亡くなった母親について描いた『黒い水』と『海辺のひかり』は強く心に残っています。ただ、同じ作家の話を同じ映画監督が続けて撮影するというのはひとつのワンパターンにならないかな。僕はベストセラーを撮りたいとあまり思わないタイプで、本当に人が知らないものを手がけたいとも思います」
──おそらく髙橋監督に見いだされるのを待っている小説や世界は山ほどあると思うので、次の現場はぜひ、取材させてください。
『渇水』
渇いた世界に希望の雨は降るか。髙橋正弥監督が温め続けた企画を、『孤狼の血』『ひとよ』の白石和彌監督が企画プロデュース。夏休み、日照り続きで、給水制限が発令されたある町。水道停止を執行する局員が行く先々で遭遇する困窮する人々。主人公の岩切は、家に二人で取り残された幼い姉妹の停水失効後の行く末を案じるが……。
原作:河林満「渇水」(角川文庫刊)
監督:髙橋正弥
脚本:及川章太郎
音楽:向井秀徳
企画プロデュース:白石和彌
出演:生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山﨑七海、柚穂/宮藤官九郎/宮世琉弥、吉澤健、池田成志、篠原篤、柴田理恵、森下能幸、田中要次、大鶴義丹/尾野真千子
配給:KADOKAWA
2023/日本/カラー/ヨーロピアンビスタ/100分
©「渇水」製作委員会
★全国公開中
『愛のこむらがえり』
映画の街・調布を舞台に、映画制作の夢をかなえるべく奮闘するカップルの悲喜こもごもを描いたハートフルコメディ。地方公務員として働いていた佐藤香織は、地元の映画祭で見た自主映画に感動し、仕事を辞めて上京。映画関係の仕事に就いた香織は、撮影現場でその作品の監督、浩平と出会い、同棲へ。
8年の月日が流れたいま、2人は崖っぷちに追い込まれていた。そんな中、浩平が書きあげたシナリオにほれ込んだ香織は、映画化を実現させるべく奔走するが……。
監督:髙橋正弥
出演:磯山さやか、吉橋航也、柄本明、品川徹、吉行和子、浅田美代子
2023年製作/108分/G/日本
配給:プラントフィルムズエンタテインメント
©『愛のこむらがえり』フィルムパートナーズ
★6月23日(金)から全国公開
『渇水』公式サイト
『愛のこむらがえり』公式サイト
撮影/富田恵